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ある世界の≪青の雷鳴≫  作者: 野生の南瓜
ボーナストラック
13/13

パルドレオ その心


「……私の思い人はな、パル――」

「パルッ!」


 背後から低い声で呼ばれる。この低く貫く声はうちのライガだ。一瞬ステレオで自分の名前を聞いた気がするがおそらく気のせいだろう。

 すくっと立ち上がって声の飛んできた方に振り向く。


「ライガちん、どうしたにゃ?」


 うちのライガが来たことで一時話が中断。

 協力すると言った以上思い人の件については先伸ばしにしからないが、今はうちのライガに感謝する。


「パル、それがな。……おや? 治癒スタッフの?

 いつもうちのパルドレオが世話になっているな」

「……あっ、いや、パルには本当にお世話になっているのはこちらだ。

 ……そのたびに私は自分の未熟さを恥じるばかりだ」

「何言ってるにゃ、ロジーナが居るからいつもうまくいってるんだにゃ」

「ほぉ、ほほぉ、ほほほぉ。

 パルが妙齢の女性を呼び捨て? ふっ、我としたことが間が悪かったか。いや、すまんな」


 そういうとうちのライガがニヤニヤしだす。やっぱり感謝なんかしない。

 ロジーナなんか顔を真っ赤にさせている。変な勘繰りをされて怒っているのだろう。

 話題を変えないと。


「いやっ! そ、それよりなんかあったんにゃっ?」

「あぁ、今討伐隊が組まれているのは知っているか?」

「リックちんが隊長にゃ? 一応はサイネちんから聞いたにゃ」


 討伐隊の話ってことは魔竜が予定と違って急接近でもしているのか?

 そのわりに切迫感がない。


「うむ。驚くなよ? 実はな……」


 ライガちんが妙に溜める。こう言うときは大抵良い方の情報だが、早く言って欲しい。

 まったく、じれったい。

 悔しいから何を言われても「ふーん、あっそ」って言ってやろうと決める。


「先生殿が討伐隊に参加しに来たぞ」


 ほら来た、先生が来たなんてそんな事で。


「ふーん、あっひょおぉぉっ!」


 思いもよらない事過ぎて「ふーん、あっそ」作戦が破れる。

 うちのライガもロジーナもびくっと一瞬身をすくませた。


「ククク、パルよ。ずいぶん斬新な喜び方だな」


 うちのライガはしてやったりみたいな顔をしている。

 えぇ、してやられましたとも。


「……え? パル、どういう事だ?」


 ロジーナが目をぱちくりさせている。

 なにか不思議な事でもあっただろうか。


「……遠いところに行って、送れない手紙も貯まったって言っただろう?」

「確かに言ったにゃー」

「……亡くなったのではなかったのか?」

「えっ?」


 あぁ、確かにそう受け取れるかな。


「いやいやいやー、先生は≪ほうき星≫にゃー。そう簡単には死なないにゃー」

「≪ほうき星≫っ!」


 ロジーナが少し後ずさりしながら驚く。

 まぁ、これも言ってなかったかな? 


「……とすると羽翼族だから、あれは言葉通りの意味かっ。言葉通りとすると相手は女性だし、憧れというのもそういうことか……

 しかし、≪ほうき星≫ってことは年齢と見た目は……」


 ロジーナがぶつぶつ言いながらライガさんの方を向く。


「ん? あぁ、未だに十八やそこらにしかみえんな」

「……そうか。音に聞く美姫だし、相手は強力すぎるなぁ」


 ロジーナがガックリ肩を落とす。

 ロジーナの思い人も先生のファンなのかな?

 ふむふむ、なかなかもののわかっている人だと言える。


「……パル、ニヤニヤふわふわして。そんなに嬉しいのか?」


 ロジーナが恨めしそうに横目でジロリとこっちを見てくる。

 ちょっと怒ってるのかな? あっ、話を中断されたからか。

 今ならロジーナから他の男の話を聞かされても、先生分で相殺されてプラスマイナスゼロだろう。


 ……たぶん。


「そりゃもう、飛び上がりたいほどにゃー。

 あっ、でも怒らないで欲しいにゃ。ロジーナの思い人の話を聞いて、その成就のためにきちんとお手伝いする事は忘れてませんにゃー。

 ささ、聞かせてくださいにゃ」


 ロジーナの恨めしそうな目がよりいっそう険しくなる。


「……よりによって今言えと言うのか?」


 ロジーナが顔を伏せながら声を震わせる。

 ライガちんもあちゃーって顔をしながら横目こっちを見る。


 あれ? 今じゃなくていつ言うの?

 はっ! そういう事か。


 察しの良い自分はここで気がついた。


 そうか、なるほど。


 悔しいけど、それなら納得もできる。

 こっそりロジーナが出すであろう答えを耳打ちする。


「わかったにゃ。ロジーナの思い人はライガちんだったんだにゃ?

 ライガちんの味の好みならばっちりミーに任せてくれてオッケーにゃ。季節ごとの旬を生かしたレシピまで作ってあげれるから大船に乗ったつもりで……ブベッ」


 ロジーナが耳打ちする自分の手を払い除けて。殴られる。グーで。


「バカっ! 違うにゃ! 今日初めて話したような人が思い人なわけないにゃっ!」

「えっ?」

「私が思い人なのは……。うぅっ! もうっ! 知らないにゃっ!」


 ロジーナの前蹴りが腰に炸裂する。


「ブチュ」


 そのまま壁にキスをした。


「バカっ! パルのバカっ!」


 そういってロジーナは怒りながら治癒室に戻る。


「ほほぉ、スナップの効いた突きに、なかなか腰の入った良い蹴りだ」


 うちのライガは冷静にそんな事を評する。


「むう、何が不味かったのかにゃー」


 壁から離れると頭をポリポリ掻く。


「ククク、パルもリックの事をバカにできんな。しかし、パルよ。汝もあのロジーナの事は結構気に入っているのであろう?」

「……さすがにお見通しかにゃ」

「いつも飄々とやっていたパルがあそこまで見事にボロボロなのだからな。

 ククク。先生殿の時以来、いやそれ以上か。

 ロジーナはギルドで見かけた印象や今日始めに話した印象から察するに、普段あそこまで感情的になるタイプでもないのだろう?」

「そうだにゃぁ」

「ならそれだけ真剣なのだ」

「妬けるにゃぁ……」


 ロジーナをそれだけ真剣にさせている思い人か……。

 ガクーンと肩をおとして椅子に座る。

 胸の辺りをモヤモヤしたものがのし掛かる。

 先生分は一瞬で使いきられて気分は超マイナス。


「パル、重症だな?」

「にゃー?」


 顔をあげず声だけで返事をする。

 もう自分の心のHPはゼロだ。


「……パル、汝は今すぐ先生殿に会いたいか?」


 ギシリと椅子が唸ると、うちのライガが隣に座りに座る。


「会いたいにゃ、会いたいけど、今はロジーナと話をしたいにゃー。でもどうしたらいいかにゃー?」

「ふっ、そうか。……なら、ごめんなさいからだな」

「それでいけるかにゃぁ?」

「たまには我の言うことも聞いてみろ。悪くはならないと思うぞ。

 じゃあ我は先にエントランスに戻る。先生殿にパルの事はもう少し待っていてくれって伝えておこう」

「了解にゃー」


 立ちあがって行く頼もしい兄貴分の背中を見送る。


 よしっ、ごめんなさいからか。




 治癒室の扉をトントントンとノックをする。

 扉が少しだけ開くとロジーナがそこから覗き込んで見上げる。表情は限りなく不機嫌だ。少しだけ目が赤い。


「さっきはごめんなさいにゃっ」


 すかさず頭を下げて謝ると、扉がパタンと閉まる。


 えー?


 少し中で会話をしているような気配がすると、また扉が開いた。


「ささ、どうぞどうぞ。中でじっくりとロジーナと話をして下さいな」


 今度はクロエさんがニコニコしながら扉を開けて招きいれてくれた。


 中に入るとリリーが作業をしながら時折ニヤニヤしながらこっちをみる。

 プラナはまだぐっすりだ。

 ロジーナはいなかった。


「えっと、ロジーナは……?」

「ふふふ、“ロジーナ”、ね。ロジーナは奥の準備室に居ますわ」

「あっ、わかりましたにゃ」

「パルドレオさん、こっちまで声が聞こえてましたわよ」

「えっ!」


 当たり前だ、この部屋とさっきの場所は扉一枚ですぐ繋がっている。


「どっ、どこまで?」

「さぁー? 相棒と言ったり、お互いの名前を呼びあうところなんかは聞こえなかった気はしますけど」


 それは全部聞こえていたんだな……。

 というより、聞いてたのか?

 自分としたことが油断していた。


「あんまり、ロジーナを泣かさないで下さいね」

「うぐっ、泣いてましたかにゃ……」

「涙ぐむくらいですけどね。さ、行ってくださいな」


 クロエさんに促されるままに準備室に足を進める。

 今度は扉もないからまさしく筒抜けだろうが言ってる場合でもない。


 

 準備室の奥ではロジーナが腕と足を組んでそっぽを向いて座っていた。


「……何で来たんだ?」

「ロジーナにあやまりにきたにゃ。ごめんなさいっ」

「……違う、パルの憧れの先生が待っているんだろう? なんでこっちに来たんだ?」

「それは、今は先生と会うよりもロジーナと仲直りする方が大事だからにゃ」

「……そうか、私の方が、か。……よし、じゃあそこに座ってくれ」


 促されるままに座る。

 ロジーナは少しだけ顔を綻ばすと、こっちを向き直して少しだけ上目づかいになる。


「……パル、私が怒っている理由がわかってしまったのか?」

「えっ? いや、本当のところを言うと全然今でもわからないにゃ」


 ロジーナは一回だけ安堵のような息を吐くと普通に向き合った。


「……そうか。でも、なんで理由もわからないのに私にあやまりに来るんだ?」

「そりゃあ、相棒と宣言した日にいきなりけんか別れなんてシャレになって無いからにゃ」

「……ふぅん。そうだな、それは今後の施術に影響が出るかもしれないもんな」

「むっ、別に仕事の上での話だけじゃないつもりにゃ。

 相棒と言ったからには、どんなことでもロジーナの望む事はこの身の及ぶ限りつもり助けるにゃ」


 ロジーナの目を真っすぐ見据えながら言うと、ロジーナが目をぎこちなくそらすが口は綻んでいる。


「そ、そうかにゃ。ちょ、ちょっと私もいじわるを言ったにゃ。……あ、うん、いいんだ」

「ロジーナ、何が怒らせたのかよかったら聞かせてもらってもいいかにゃ?」

「……いや、それはダメだ。後、私の思い人の事も一旦保留にしよう」


 一旦保留か。ありがたいような、死刑執行が延びただけのような複雑な気分だ。


「えっと、まだ怒ってるからかにゃ?」

「え? ……いや、怒ってはない ……あっ、いやいや、まだ怒っているぞ」


 一瞬にこりと笑って怒って無いと言ったのに、すぐさま頭を振って腕を組んで見せて怒ってるとそっぽを向く。


「えぇっ! じゃあどうやったら許してもらえるにゃ?」

「……そうだな、じゃあ二点だ。まず、絶対がこれだ。討伐隊に行っても生きて帰ってこい。もし死んだら絶対に許さない。死んでも許さない」 


 死んだのに死んでも許さないって不思議だが、それじゃあ死んだら永遠に許してもらえない。

 もとよりこっちも死ぬ気はないためこくりと頷いた。


「二点目は?」

「……二点目は、魔竜が無事討伐されたら私は四日後が休暇だ。もし、時間が開けれるなら買い物に付き合ってくれないか? そこでパルの話をもっと聞きたいしな」


 それは和解の条件にもなって無いような条件だ。自分もロジーナともっと話したいしむしろご褒美?


「わかった、絶対開けとくにゃ。どこでも付いていくにゃ」

「……ふふ、どこに行こうかな。高いところに連れて行って奢ってもらうのもありだな?」

「ん? 出させてもらうにゃ」

「えっ? ……あ、いや。今のは冗談だ。自分の分くらい自分で出す」

「遠慮することないにゃ、ロジーナとのお出かけは全部出させてもらうにゃ。せめてものお詫びにゃ?」

「……え? でも、それは悪い」

「気にしないで欲しいにゃ、これでもAランク冒険者だからにゃ。それに誰にだって奢るわけじゃないからにゃ、ロジーナにだけだからちょっとくらいは問題ないにゃ」

「……そっか、私にだけか。そこまで言われたらもう許すしかないな。

 ……あっ、でも今許してパルに死なれたら困る。うー」


 真剣に悩むロジーナ。

 別にそんなので死んだりはしないと思うけども。


「……うーん、やっぱり許さない」

「そっかぁ、許されないなら絶対に死ねないにゃぁ」

「……だけど、私もあやまる。ごめんなさい」

「ロジーナが悪い所なんて何にもないにゃ」

「……けど、私は殴ったりした。たしか、こっちの頬だったな」


 そういって、ロジーナの手が左ほほに触れてくる。

 柔らかくて少しだけひんやりとしたが、火照る自分の頬にはちょうど良かった。


「……少し、熱を持ってるな。やはり私が殴ったからか」

「いや、たぶん違うにゃ。

 ……あっ、たぶんそうかもしれないにゃ。だからそのまま手をしばらく当てててもらえるかにゃ?

 ロジーナの手が少しひんやりしてて気持ちいいからにゃ」

「……そうか、そうだな。私のせいなら私がこうして冷やさないといけないな」


 二人ともそのまま黙ってしまう。

 ドキドキドキドキと自分の鼓動がうるさい。

 頬は一向に冷める気配がなくて、どんどんロジーナの手の温度をあげていっている。


「……パル、少し目をつぶってくれないか?」

「え? どうしてにゃ?」

「……どうしてもだ。

 ……ごめんなさいのおまじないみたいなもんだ」

「わ、わかったにゃ」


 ロジーナに言われるがままに目を閉じる。

 右頬にもひやりとした手が添えられた。


「……あー、もしかすると、こっちもなぐったかもしれないなー。こっちもひやさないとなー」


 いかにも棒読みな感じでロジーナが言うと、少しずつロジーナの吐息が近づいて気がする。


 あれ? これはだいぶ顔が近い?


 胸の鼓動を大きくしながら待つ。目を隠されているせいか、その他の感覚が研ぎ澄まされるようだ。

 ドキドキ。

 ドキドキ。

 ドキドキ。

 ドキドキ……。

 互いの心臓の音が重なり合って奏でる四重奏……

 四重奏?


「ロ、ロジーナ」

「にゃっ! ……なんだ? 目を開けちゃだめだぞ」


 ロジーナがかなり近いところから返事をする。


「いや、開けないけど。あからさまに入口近辺から気配がするにゃ」

「え? ……はっ! クロエチーフ! リリー!」


 ガタッというと二人は入口から離れたようだ。

 ロジーナも両手を離して飛び退いた。自分も目を開ける。


「あ、あはは。ミーはそろそろエントランスに行くにゃ。先生のこともあるけど、ライガちんのフォローに入らないとにゃ」

「……そっ、そうだなっ!」


 明後日の方を向きながら立ち上がって行こうとすると、ロジーナが服の裾を引っ張って止める。


「……絶対に、絶対に死ぬなよ? 私のところに戻ってきてくれよ?」


 ロジーナは裾を握る力を少し強める。


「――うん、必ずにゃ」


 自分はそのまま背中越しに答えた。


「……そうか、なら行ってきてくれ」


 ロジーナが裾から手を離すと、背中をポンっと押し出してくれる。

 それはごくごく小さな力だけど、自分の中でとても大きな力に増幅されるのがわかる。


「いってきますにゃっ!」


 この討伐するにせよ、時間稼ぎをするにせよ。目標はひとつだ。

 自分は自分の守りたいもののためにエントランスに向かった。

おまけ終了です。


ライガ編は今のところやるつもりはないです。


駄文乱文なこの話を最後まで読んでいただきありがとうございました。

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