破壊と裏切り⑥
「いるじゃないか、代表者! ここに!」
僕は、指で自分を指した。
ああ! とコルーパも思わず大声になる。
「うるさいぞお前達」門番が喋り続ける僕たちを怒鳴った。「お呼びがかかったぞ」
僕らは牢から連れ出され、一人の真っ黒なドリグランに手錠でつながれてひたすら歩かされた。さまざまな機器を片目で見ながら、イスとケースがある部屋にたどり着いた。小さな部屋で、大きなモニターが三つ。僕はイスに座らされ、コルーパはケースに入れられた。
ドリグランが僕の方をガッチリと掴んで離さない。手も自動で施錠された。石の力を使う。けれども何の変化もない。
「無駄だよ」いかにも博士といった風貌のサイザンフ星人が言う。「石の力では壊せない」
僕はコルーパを見る。コルーパは軽く頷くと言った。
「ならこれはどうだ!」
コルーパは白い液体になると、ケースから出てきた。犬の姿に戻り、跳ねるようにサイザンフ星人がいじっていた機械の上に乗り、するすると機械に吸い込まれるように入った。その瞬間、僕の手の施錠が外れた。
「ナイス、コルーパ!」
僕はドリグランを蹴り飛ばすと、ポケットから原石の欠片を取り出した。それを右手で握りつぶすと、石が体の中にすっと入ってきた。力がみなぎっている。
ドリグランが起き上がると同時に僕に向かってきた。屈んで避け、アッパーの様に拳を上に向かって突き上げる形で殴った。ドリグランは、天井に張り巡らされた精密機械の様なものにぶつかった。機械はバチバチと火花を上げ、ドリグランの体がブルブルと震えた。そのまま床に落ちて動かなくなった。
「一時的に機能が停止してるだけだ」コルーパが言った。「急ごう。タウチーのところに行けば何か分かるかも知れない」
僕は頷くと、サイザンフ星人の元へ瞬時に移動し、胸ぐらを掴んだ。
「タウチーはどこにいる」
「ち、中央制御室だ」
サイザンフ星人が震えながら答えた。
「それはどこだ」
「し、知らないね」
そういうと、サイザンフ星人は手元にあった赤いボタンを押した。部屋が赤く点滅し始め、緊急音が鳴り始めた。
「急げ!」
コルーパが大声で言いながら走り出した。僕はサイザンフ星人を離すと、部屋の外に飛び出した。外では、大量のサイザンフ星人が待ち構えていた。
「ターゲットを確認。拘束せよ」中央にいたサイザンフ星人が銃を構える。
僕は走りながら石の力を使って、サイザンフ星人の軍勢を吹き飛ばした。
「中央制御室はどこなんだ!」
僕は叫ぶ。
「知るか、そんなこと!」
コルーパが鮮やかにサイザンフ星人を飛び越え、廊下を走った。
サイザンフ星人を撒きながらたどり着いた先は二人の門番がいる部屋だった。
「怪しいな」コルーパが言う。
「うん、怪しい」
僕らは静かに近寄ると、首の後ろをどんと手のひらで殴った。二人の門番は、音もなく倒れた。
「よし、入ろう」
ドアの手前にあったボタンを押す。ドアが開いて、薄暗い部屋が見えた。僕らはその部屋に入ると、石の力で明かりをつけた。
そこには、椅子に座った青い顔をした魚みたいな宇宙人がいた。そのわきにドリグランが二体いる。ドリグランは、僕らを見ると、戦闘態勢にはいった。
「お前達は……」
魚みたいな顔をした宇宙人がいいかけたその時、片方のドリグランが黒い液体になって、僕に襲いかかってきた。コルーパが僕の前に飛び出し、白い液体になってドリグランとぶつかり合った。僕は、屈んでコルーパ達の下をくぐり、スライディングしてドリグランの足を蹴った。ドリグランは、右足で僕の蹴りを受け止めると、左足で僕を蹴り飛ばした。
天井まで体が浮いた僕は、天井に手をつき、くるりと反対向きになってドリグランに向かって拳を固めた。石の力を使って拳の中から炎を作り出し、ドリグランに向かって投げつけた。炎に包まれたドリグランは苦しもがいて倒れ込んだ。
コルーパは、依然液体となってドリグランと格闘していた。液体のまま、床に大きな針を作り出したり、燃えたりして激しい戦いが続けられていた。もの凄い速さで液体同士の戦いが繰り広げられている。
僕は燃えていたドリグランを見た。体が焦げて煙を上げている。が、みるみるうちに焦げ跡が消えて、元の姿に戻った。
「コルーパどうすればいいんだ!」
「わからない!」
素早く移動、攻撃を繰り返す液体から返事が返ってきた。
「奴の弱点は、電気だ!」急に魚みたいな顔をした宇宙人が言った。「一時的に機能が停止する!」
わかったと僕は頷いて、飛び上がってくるドリグランに向かって行った。ドリグランの背中に手をついて、前回りをする形でついでに感電させた。僕が床に着地すると、ドリグランはブルブルと痙攣しているが動く気配はなかった。
コルーパも、瞬時に犬の姿に戻り、体に電気を帯びせて黒い液体にぶつかった。液体は元の人のようなドリグランの形に戻り、動かなくなった。
「あんた、誰?」
僕は魚宇宙人に尋ねた。
「タウチーだ」代わりにコルーパが答えた。「なんで監視されてたんだ」
「私は用無しのようだ」タウチーが答える。「惑星併合に同意し、署名を済ませドリグランを開発したとたん、私は拘束されドリグランに監視されていた」
「あんたがドリグランに命令を出してたんじゃないの?」
「違う」タウチーは僕の質問にすぐに答えた。「もとはその予定だった。いつの間にか、命令は聞かなくなり、さらには通信を遮断し独立して動き出すものもいた。我々はジャックポントと呼ぶ。ドグラクスの古い言葉で、恐怖を表すんだ」
「そいつはどこにいるんだ」
「バンバルジの側近の誰かだ」タウチーは声を低くして言った。「バンバルジは命令を出さずにドリグラン自体に考えさせる事で行動を早くしようとした」
コルーパが僕を見る。だが、目は暗く沈んでいる。
「お前達にもう一つ言わなきゃいけない」タウチーが指を一本立てた。「バンバルジは直に地球人奴隷化計画を開始する。大量のドリグランが送り込まれ、地球は文化を失うと同時に死ぬ」
奴隷化計画という言葉に、母さんと父さんや、学校の元クラスメイトの顔が浮かぶ。
「私は生きていても何の価値もない。奴を止められない」タウチーが悲しそうにいった。「お前達を地球に送り返そう」
「どうやって?」
「転送装置がある」
タウチーが指を指したその先には、巨大なカプセルのようなものがあった。
僕らはそのカプセルに入った。
タウチーが機械をごちゃごちゃといじった後、カプセルのふたを閉めた。その時、部屋のドアが開いて、たくさんの銃を持ったサイザンフ星人が現れた。
「宇宙外交官および、宇宙外交官補佐確認。最高司令官タウチーも確認した」
中央のサイザンフ星人が、頭につけたマイクに言う。その次にマイクの向こうから聞こえた小さな声は聞き取れた。
『射殺しろ』
「了解」
サイザンフ星人が一斉に銃を構えた。スパン! という鋭い銃声がなった。カプセルのふたは崩れ、背中から銃撃を受けたタウチーは倒れた。体が転送ボタンにのしかかり、ボタンが押された。
僕たちは地球に送り返されたのだ。
かなりだれております。
テスト週間で執筆活動を中止していたので、そろそろ続きを書いていこうと思います。
TOKUGAWAそろそろ解禁