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09.『むしゃくしゃ』

読む自己で。

 2月14日――バレンタインデー。

 私はあくまで普通の気持ちのまま学校に登校した。

 だって期待しても現実は変わらない。その証拠に靴箱も、机の中も、ロッカーの中にも入っていなかったから。

 そして放課後になっても誰も渡しに来なかったし、期待しなくて良かったと心からそう思った。期待していなければ傷つくことはない、基本的に他人には期待しないというのが正しいスタンスだと考えている。


「平田、約束通り義理チョコのチロレチョコをあげるわよ、30000円分のお返しを頼むわね」

「はぁ!? 600円だろっ?」

「あははっ、あんた面白いわね!」


 あの子の言っていた気持ちが強くわかった。リア充爆発しろ、バレンタインデー消えろという気持ち、期待してなんかいなかったからべつにいいけどね!

 ……内心でツンデレしていても悲しいだけだし、私はそろそろ帰るとしよう。なにを呑気に残ってリア充たちが楽しむ様を眺めているんだって話だ。

 だから私が教室から出ようとしたときだった。


「えっ――」


 背中に衝撃が走って床面にダイブ。

 痛い……神様からのバレンタインデープレゼントがこれか、ふふふ。


「うぅ……」


 私の自慢のツルツルお肌に傷がついたらどうしてくれるんだ神様っ。


「悪いっ、大丈夫か?」

「大丈夫だよ」


 うーん、どうやらクラスメイトの男の子がぶつかってきたみたい。しっかりと謝ってくれたし、これは責めるようなことではないだろう。

 とはいえ、悲しいのは否めない。床を綺麗にできたと思えばそれでいいのかな?


「あんたなにをやっているのよ」


 私は無視を決め込み今度こそ教室から廊下へと出る。

 階段を下り、廊下を歩いて昇降口に着いたら靴に履き替え今度は外へと移動。


「さむっ!?」


 これは決してチョコを貰えなかったからとかではなく、単純に気候のせいだ。曇り模様だし、いまにも雨が降りそうな感じなわけだし。


「待ちなさい!」


 んー、幻聴が聞こえるくらいにはショックを受けているのかな? となれば、さっさと家に帰ってチロレチョコを1日で全部、食してやろうじゃないか。


「こんのっ、おバカァ!!」

「ぎゃびっ!?」


 抱きしめるのは構わないが、あまりにも力が強すぎるとなんら幸せな状態ではなくなってしまう。しかも最悪なことにこのタイミングで雨が降ってくるという、マイナスなコンボが私を迎えた。


「あんたの家に行くわよ!」


 私はなぜか彼女に抱かれたまま家で輸送された。

 これ以上濡れたら困るので、さっさと鍵を開けて中に入ることにする。

 そんなに雨脚が強かったわけじゃないから正直助かった。タオルを彼女に手渡して、私は私で自分のを拭いていく。


「はぁ……濡れてしまったわね」


 つくずくついてない。バレタインデーなんか嫌いだ! ……嫉妬乙だなぁ。


「ふぅ、タオルありがとう」


 というかどうして彼女はここにいるんだろう。なんのために? 物理攻撃及び精神攻撃を仕掛けるために? だったらきっちりと構えておかなければならない。


「あんた、髪の毛全然拭けてないわよ?」


 私の髪の毛が濡れているくらいでなんの問題があるんだか。ちょっと面倒くさいのでリビングに戻ってソファへと寝転ぶ。


「あんた、さっきから意図的に無視しているわよね?」


 さすがにバレるか。


「ねえ!」


 でもここで私が普通の態度で接するとどうせ出ていくことだろう。だったら無視を続けていたほうがいいのではないだろうか。不満をぶつければいい、それでこの子が満足できるのならそれで。

 しかしそこで私を見下ろしていた彼女の目から涙が零れて、慌てて体を起こしたら頬に鋭い衝撃――いくら無視してたからって叩かなくてもいいと思うけど……。


「最低っ!」


 彼女と同じくらい痛みから涙がボロボロと零れた。一切躊躇なく遠慮なく真っ直ぐ振るえばそりゃ痛みだって相当なものになる。

 なにをやっているんだろうバレンタインデーに、やっぱりいいイベントなんかじゃない、嫌悪感しか抱かない。

 これがプレゼントならそんなのはいらない。涙がプレゼントでもいらない。


「なん、でっ、無視、するのよっ!」


 なんでだっけ? ああ、私を彼女が最低認定したからだ。そもそも私は今日彼女をここに招いたわけじゃない。招かれざる客、そんな子に気を遣う必要があるのかとどうかと問われれば、NOと答える。

 嘘つきやろうといたくないなら去ればいい。迷惑をかけないようにって言い返さずいてあげているじゃないか。それでどうして叩かれた挙げ句、逆ギレされなくちゃいけないんだ。

 だから私は、未だにボロボロと涙を流している彼女の腕を掴んで玄関まで連れて行く。帰ればいいんだとわからせるために、選択肢を与えるために。

 そしたらもう1回、ビンタのプレゼントである。これでチョコ2回分にならないだろうか? なったらなったで複雑だなそれは。


「……もう帰る!」


 私は最後までなにも言わずに彼女を見送って、玄関が閉じられた瞬間にわーんわーんと情けなく声を出して泣いた。痛かった、いろいろなところが。

 そうでなくても顔面ダイブしたし、折れそうになるくらいの強さで抱きしめられるし、雨で濡れるし、頬は2度も叩かれるしで、自業自得なのかもしれないが、結局そのほとんどは彼女と関わっていたからだ。

 なんで距離を作るって思考にならないんだろう。美人さんだから自分の思い通りにならないがむかつくからなかな? でもさ、無理して泣いていたら話にならないわけで、なんとも不器用というか……彼女は彼女で実に生きづらそうだ。


「ただいまー……え? わっ、ど、どうしたの?」

「……今年も1個すら貰えなかったから……涙が出てきたんだ」

「そっか……でも、じゃじゃーん! 今年は60個買ってきたよー?」


 いまさらな話ではあるが、私は女なのに母から貰うってどういうことだろう。

 チロレチョコがたくさん入った袋をこちらに見せつつ楽しそうにしている母を見たら、痛みが少し吹き飛んだ。


「初音ちゃん、さっき嘘ついたよね?」

「あー……んっ!? ごほごほっ!」

「あ、ごめん!」

「……んん……はぁ、い、いきなりなんで?」

「だって初音ちゃんの頬、赤いからさ」


 あ、まあ全力振りかぶりではあったから赤くもなるか。


「お母さんに話してくれる?」

「うーん……うん」


 今日起きたことを全て説明すると、母は「んー、そっかあ」と呟いた。


「無視しちゃったのは良くないね」

「うん……」

「明日、謝らないとね」


 謝ることなのかなこれは。謝れと言うなら謝るけれど。


「ね、麗ちゃんを連れて来てくれない?」

「え……無理じゃないかな」

「お願いっ! そしたらもっと美味しいごはんを作ってあげるから!」

「だってさ、お母さんは家に全然いないし」

「リビングのソファに張り付いているからさ! 明日、連れてきてね!」

「えぇ!? い、いきなりすぎだよぉ……」


 あんな出来事があった翌日に相手の家へと行きたいと思う人間はいない。……純粋に私がいづらいし、多分だけど今日ので麗子の素晴らしさに気づけただろうし、できることなら避けていきたいものだが。

 とはいえ、美味しいごはんを食べられるならそれに越したことはない。喧嘩別れしたまま関係の消滅、という流れは避けたいし……。


「一応、頑張ってみるよ」

「うん、よろしくね! さてっと、ごはんを作ってきます!」


 なあに、ただ謝罪をすればいいんだ。仮に麗が「行きたくない!」と言ったところで、謝罪をさせてもらった時点で勝ちなわけだから。




「謝罪をさせてもらったら勝ちとか考えていた私のバカァ……」


 満くんに聞いて麗のクラスに何度も行ってみたのだが毎回いなくて、会えないまま放課後を迎えてしまった。


「ハツ、麗と会えたか?」

「いや……会えなかった」

「ふーん」


 ふーんて……他人事でいいよね彼は、一生懸命になられても困るけどさ。


「お、今日は麗子の方から来たぞ?」

「え、あ、ほんとだ」


 綺麗だけどもう2月ということもあって、残っているクラスメイトがざわつくということもなく、ただただ静かに麗子がこちらへと向かって歩いてくるところだった。……でも、いまは麗子に会いたくない、責められるかもしれないから。


「初音さん」

「はい……」

「昨日はごめんなさい、姉が自由にしてしまったのよね?」

「いえ、無視した私も悪かったし……」

「実は今日、姉は風邪で休んでいるのよ」

「えっ!? あぁ……そうだったんだ……」


 そりゃ会えないわけだ。というか私も彼女のクラスメイトに事情を聞けば良かったのに、廊下からただぼけっと眺めることしかできなかったのはアホすぎる。


「あなたさえ良ければ、家に来ない?」

「……悪化させても悪いし……」

「来ておいた方がいいわよ、拗れたまま時間が経つのが1番問題だわ」

「……うん、じゃあ」


 それで彼女たちの家に着いたんだけど。


「ふたり暮らしなのに大きい家だね」


 大きすぎるということはないが、ふたりしか住んでいないのに私の家と同じくらいの一軒家だったのだ。


「ま、両親も住んでいたわけだし、おかしなことでもないでしょう?」

「うん、そっか。あ、それで……」

「ええ、付いてきて」


『麗の部屋☆』と可愛く書かれた板がかけられている部屋の扉を麗子がノックし、返事がないためそのまま彼女が扉を開けた。

 入らせてもらうと、奥に設置してあるベッドの上に綺麗なお姫様が眠っていた。あれだ、静かにしているとすごく綺麗で、私はそのまま見惚れてしまう。が、


「……なんでそんな子を連れてきたのよ」


 1度口を開けばこんなものだ。私はグッと逃げたくなる気持ちを抑えて、麗子が事情を説明してくれる様をこれまた呆然と眺めた。


「ふん……話してくれなかったくせに……」

「初音さん、私は部屋に戻るわね」

「えっ? じゃ、じゃあ私も帰る!」

「この距離ができた状態のままいられるのならともかく、嫌だと思うならしっかりと向き合ってあげなさい。今日は無視なんてせずにね」


 最初からこれが目的だったのかな? というか、彼女を家に連れてくって約束をしてたんだけどな、これでは無理だし頑張る意味もない気がする。


「帰りなさいよ」

「……あなたが言うなら、帰るよ」

「バカ初音ぇ!」

「ああもうっ、どうしたらいいの? 帰ってほしいのか、ほしくないのかはっきりしてよ!」

「……帰ってほしくない」

「……麗ちゃんって面倒くさい」

「あんただって、面倒くさいわよ」


 ツンデレ=可愛いじゃないぞ。軽度ならともかくとして、度がすぎるとただただ質の悪い存在になってしまう。せっかく綺麗なんだから、言動や態度を改めたほうがいい。


「麗ちゃん」

「なによ?」

「昨日、麗子に説明したんだね」

「……だってむしゃくしゃしたんだもの、無視されるのって辛いのよ……必要とされたいのあたしは」

「麗子は?」

「身内にじゃなくて、他の子に……」


 学校に行けばみんなが求めてくれるはずだけど、考えても私は麗ではないんだしわからないことか。

 いろいろ抱えていることはわかる。が、だからって全力ビンタをするのは逆効果だと思うんだけどな。

喧嘩→仲直りのワンパターンしか書けない……。


実際に妹or弟が優秀だったら、姉or兄は大変よね。

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