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10.『ネチネチ口撃』

読む自己で。

「あんたもそう思わない? 誰かに必要とされたいって」

「うん、それはまあね、不必要な存在として扱われるのは悲しいし」


 同じ世界にいて、同じ空間にいるからなおさらそう思う。

 わいわいと盛り上がる周りを見て「いいな~」と羨むだけでは寂しい。どうせなら私もその輪に加わって一緒に仲良くしたい。

 なんだ、麗ちゃんの考えていることは正に私にも当てはまることだ。仮にもし彼女や麗子に無視されたら? そんなことが起きたら悲しすぎて、でもなにも言えなくて泣き寝入りするしかできなくなるだろう。

 ビンタの強さ=思いの強さというわけではないだろうが、彼女は碓かに昨日傷ついていたということになる。


「ごめん麗ちゃん」


 当たり前のように言葉を吐き出すことができた。強制力がなければ謝ろうとしていなかった自分としては、それが少し意外なようにも思える。


「……あたしだって……ごめん」

「うん」

「明日さ、初音の家に行ってもいい?」

「体調は?」

「大丈夫」

「お母さんも会いたいって言ってたし、うん」


 突っ立ったままなのもアホらしいので、ベッドの端に座らせてもらう。そのままの流れで彼女の左手をきゅっと握った。


「ほんとはあんまり良くないんでしょ? だって熱いよ?」

「そうでもないわ、今まで布団の中に手を入れていたからでしょうね」

「それでも5分以上はもう出してたよ? むりしちゃだめだよ」

「……あんたのせいじゃない、雨に濡れたのも精神的に参ったのも」

「だからこう言ってるんじゃん」


 きちんと布団をかけて、でも手は離さずに握ったままにしておく。というかわかりやすく顔が赤いので、熱が出てるのは明白ではあったが。


「ほらほら、寝ないと」

「……寝たらあんたに襲われそうだからいやよ」

「襲わないって、そこまで見境ない女じゃないから」


 病人の寝姿に見惚れてたけど! だからって襲うわけがない、私が手を伸ばしたらその魅力がなくなってしまう。いまだってこんなこと言われちゃってるし。


「いいこー」

「な、撫でるんじゃねえわよ……」

「寝てくれたらやめるよー」

「……寝られないわよ」


 彼女は片方の腕で目元を覆いつつ、なぜかそんなことを呟いた。いままでずっと寝ていたからだろうか? それならそれで仕方ないが。


「寝すぎたから?」

「……黙りなさい」

「えぇ!?」

「……あんたも寝なさいよ、それなら大丈夫だから」

「うん、なら寝ようかな」


 彼女を無理やり端へと寄せて、私も図々しく布団の中に入った。

 温かいというより暑くすら感じるくらいで、けれど彼女の匂いがこもってて……なんか落ち着くというか、なんというか……。


「麗ちゃんのにおいが強いなぁ」

「ばっ……そ、そりゃ、あたしの布団だもの。……ねえ、く、臭くないわよね?」

「うん、臭くなんかないよ? 私、麗ちゃんのにおい好きだなあ」

「……寝るわ」

「うん、おやすみ」


 温かさと暖かさで眠たくなってきた。

 このまま流れに身を任せて、少しだけ休むことにしよう。




「初音」

「ん……え……あ、麗ちゃん、おはよ」

「あんた寝すぎよ、もう0時超えているわよ?」

「えっ!? あ……ほんとだ……お母さんに連絡してないのに」


 自分のスマホを取り出して連絡しようとしたら、彼女が私の手ごと握って、


「……大丈夫よ、あたしがしておいたもの」

「え? ど、どうやって?」


 そんな変なことを言い出した。

 お母さんにまだ会わせたことないし交換もしたことないはずなんだけど、もしかして見たとかかな? でもまあ、連絡してくれただけありがたいと思う。


「……細かいことは気にしなくていいのよ」

「そっか、ありがと」


 私としてはいまそれよりも、月明かりに照らされた彼女の髪がキラキラ輝いていてドキドキしているため落ち着かない。こちらを見つめる赤色の瞳を間近で見つめていたら変な気分になりそうだからやめることにした。


「ふぁ……でも寝過ぎちゃったね、これからどうしようか」

「1階に行くわよ、お腹すいたから」

「うん、わかった」


 あ、だけど手を離したくないな……まだ彼女のぬくもりに包まれていたい。


「ちょっと、動きなさいよ」

「やだ……」

「動かないと襲うわよ?」

「いいよ?」


 彼女は私に布団ドンをしてきたものの、


「はぁ、早く1階に行くわよ」


 すぐに呆れたような表情になり、そんなつれないことを口にした。

 手も無理やり私から離し、勝手にベッドから下りて部屋から出ていってしまう。

 

「ばか……」


 もういい、ここは私の領域であり、あの子の物ではなくなったわけだ。私はゴロゴロゴロリととにかく温かさを味わって、適当に目を閉じる。

 長く寝すぎたはずなのにすぐ眠気が訪れるのが不思議だと感じつつ寝ようとして

けれどそれは叶わなかった。


「初音さん、あなたなにをやっているのかしら」

「ひゃっ!? ご、ごめんなさいっ」


 いきなり声をかけられたら誰でも驚く。しかもそれがこのベッドの所有者じゃなければなおさらのことだ。


「別にいいけれど、姉のベッドに寝転がられるのは少し複雑ね。これはもう前みたいに罰を与えなければ駄目かしら」

「ば、罰って……抱きしめ?」

「ええ」


 麗子はベッドに上がってきてなぜかそのまま布団の中に入ってきた。「温かいわね」なんて呑気に口にしてから私をギュッと抱きしめてくる。

 麗ちゃんのにおいと麗子のにおいに包まれた私は、簡単に言えばやばい状況まで追い込まれることになってしまった。


「ねえ、どうして麗にばかり優しくするの?」

「そ、そんなことはないんじゃないかなあ」

「その割にはあなた、麗とばかりいるわよね?」

「つ、連れてきたのはあなたですよ?」


 勝手に来て怒る姉と、勝手に連れてきて怒る妹。

 綺麗というのはなんとも複雑で特殊な性格をしているんだろう。


「さっきまでなにをしていたの?」

「え? んと……寝てた!」

「それだけ?」

「手をつないだかな」


 布団ドンをしてくれたことは黙っておく。

 そういえば麗はどうしたんだろうか。戻ってこないけど倒れてるとかそういうのじゃないよね? そうでなくても心配だし、麗子に抱きしめられている場合ではないと思うんだけど。


「麗子、麗ちゃんが心配だから今日は許して?」

「大丈夫よ、だってそこにいるもの」


 あ……碓かにこちらを睨んできている彼女が入り口に立っていた。


「初音、1階に行くって言ったわよね?」

「えと……ごめん」

「はぁ……まあいいわ」

「え、ちょ……」


 またあのサンドイッチ状態に。

 麗子も抱きしめるのはやめてくれたからあまり問題ない気がするけど、逃げ場がないというのはなんとも複雑な気持ちなのは否めない。


「もっとそっちに寄りなさいよ」

「麗子」

「ええ」


 彼女が調子悪くなってしまうのは嫌なので、私たちはなるべく端のほうへ寄ることにした。でもなんだろうか、この心地良さは。


「麗子、あとでごはんを作ってくれない?」

「いいわよ? 初音さんもお腹が空いただろうし」

「人のベッドでぐーすかぐーすか、正直うるさくて寝れなかったわ」

「あ、あはは……ごめんよ~」

「……でも、あんたがいてくれると落ち着くのよね。麗子以外にこんなことを思うのは初めてのことだけど、どうしてかしら?」

「地味だからじゃない? 自分で言うのも悲しいけど」


 気を遣わなくて済む存在、多少の喧嘩ぐらいではなくならない関係――自分が文句を言わないとか、すぐに離れないとか、そういう自惚れはしていないけれど、なるべくこの子たちのためにと動いているつもりだ。

 だからそれを少しでも感じ取ってくれているのなら本望というもの。……やりかたがヘタクソすぎてすぐに喧嘩に発展してしまうのは、難点としか言いようがないけども。


「あ、麗子ってみんなにチョコあげたの?」

「いえ、今年はあげなかったわ、麗には渡したけれど」

「へぇ、ふふふ、つまり麗ちゃんだけが特別ってことだよね?」

「特別と言えばそうだけれど、今年は単純にやる気が起きなかったのよね」

「そうなんだ……楽しみにしていた子だっていただろうに、可哀そうだな~」


 麗は満くんにチロレ渡してたし、案外約束を大事にする子らしいとわかった。

 てか、ナチュラルに私は切り捨てられているじゃないか! いやまあ、期待はしてなかったから全然大丈夫だけどね!

 

「あんた、麗子から欲しかったの?」

「そんなことないべさ」

「下手くそね。まあいいわ、麗子ごはん!」

「ええ、行きましょうか」


 今度は私もきっちり付いていく。

 できるまでの間、自由にしていいということだったので、ソファに座ってのんびりぼうっと過ごすことに

 ちなみに、銀髪むすめさんは椅子に座って金髪むすめさんを眺めていた。

 これは私の存在が邪魔なのでは? いまからでも家に帰って母を叩き起こして夜ごはんを作ってもらえばいい気がする。

 暗闇が怖いとかっていう可愛いヒロイン属性は全然ないし、私は静かに、それはもう気づかれなくらいの気配の薄さでリビングを出ることに。

 よっしゃっ、バレてない! こちとら何年もぼっち生活を続けてきているんだ、他者に気づかれないままその場から逃げるなんて余裕!


「初音さん、危ないから帰るのはやめなさい」

「ひぃ!? ば、バレてたの?」


 ちゃんとリビングを出る前にふたりを確認したのに、相変わらず麗ちゃんは麗子をガン見しているなとか考えて面白くなったのに、なのにどうして廊下に麗子がいるんだ。いやまあ、向こう側からも廊下に出られるのはわかっていたが……。


「どうしていきなり帰ろうとしたの?」

「えと、ふたりの邪魔をしたくないかなと」

「あなたは深く考えすぎるところがあるわね。いいのよ、そんなこと考えなくて」

「でもさ、私を口実に麗ちゃんのベッドに寝たかったんでしょ?」

「いえ、だっていつでも寝られるじゃない。あなたが転んでいたから、ああしたまでのことよ。あ、ちなみに麗はもうごはんを食べているわよ? あなた、少し行動するのが遅いのではないかしら?」


 引き止めに来たと言うよりは、ネチネチ口撃を仕掛けるために来たと言われても信じられるぞこの結果は。


「初音さん」

「はぃ……」


 本人がこう言うなら私が無理して帰る必要もないだろう。

 お腹も空いたし、美味しいごはんを食べさせてもらうことにしよう。

金髪娘もいいんだけどね。

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