第5話(鏡を見てから言いましょう)
突然売られてしまった喧嘩。
だが少し待って欲しいと思う。
ここでお前のような、うんたらかんたらガー……と言うのはもっと筋肉ムキムキの、そこそこ年のいった男の人が物語の定番だと思うのだ。
けれど目の前の彼は、どう考えても言われる側だ。
しかもどことなく目を輝かせているのと、周りの人達が微笑ましそうに見ているのだが……これは……。
「まさかようやく自分と同じくらいの人間が来るから言えると、喜び勇んでいらっしゃったとか?」
「! 何故気づいた!」
「いえ……嬉しそうだったので」
「く……だが、ここは絶対に言ってやろうと決めていたんだ」
「つまり?」
「ここはお嬢ちゃんのような子が来るような場所ではない。帰ってミルクでも飲んでいるんだな!」
「鏡を見てから言いましょう」
僕は真顔で彼に向かってそう告げた。
後ろの方でお酒などを飲んで様子を見ていたらしい冒険者達が、噴出して笑っている。
それに目の前の猫耳な彼は顔を真っ赤にして、
「この……僕の方がどう考えても男らしいというのに、表に出ろ。どちらが男らしいか、決めようじゃないか」
「いいだろう、その勝負……ふがっ」
そこで僕は後ろから手を伸ばされて、何者かに口をふさがれた。
誰だと僕が思っていると嘆息するように、
「タクミ、こんなのの相手をしていてどうする。目立っているぞ」
「う……」
僕は呻く事しか出来なかった。
僕はそもそもこの世界の人間ではないのだ。
そして繁殖的な意味で、色々と考える部分もあるので危険な気がする。
目立たないに越したことはない。と、そこで、
「おい、僕達の戦いを邪魔するな」
「……俺達は忙しい。すまないが後にしてくれないか」
「なんだと!」
怒りっぽい子だなと僕が思っていると、そこで新たなる人物の声がした。
「メル、あれほどマタタビ酒を飲んでは駄目だといったでしょう」
「! レイト、どうしてここに!」
「貴方の事だからここにいるかと思って見に来たのですよ。私の手を煩わせないでください……と言いたい所ですが、いい人物を見つけられたので今回ばかりはお手柄ですね」
「うにゃ。……と、というか僕の頭をなぜるなぁああああ」
怒ったように言う猫耳少年メル。
そしてそんな彼をなぜる黒髪に、茶色い羽根の飾り? のついた、背の高い柔和な雰囲気の男レイト。
そのレイトの視線の先にはカイルがいて、なんとなくカイルは苦虫をつぶしたような顔をしている。
と、カイルが深々とため息をついてから、
「タクミのギルドカードを登録したら、少しは話をしてやる」
「……まあいいでしょう、それでも譲歩ですしね」
「……ほら行くぞ、タクミ」
そこで僕はカイルに手を引かれてしまう。
先ほど喧嘩を売ってきた猫耳少年のメルが何かを叫んでいたが、こうして僕はギルドカードを作りに行ったのだった。
紙に必要事項を記入していると、カイルが一枚の紙を取り出した。
「偽造の戸籍だ」
「……ありがとうございます」
緊急事態だったので、ありがたく僕はそれを頂戴した。
でもカイルは一体何者なんだろうと僕は思ってしまったのはいいとして。
その書類のおかげで意外にもあっさりと、僕はギルドカードを作れた。
そして能力測定用の小さな手のひらに乗るようなプレートがあり、これが僕の能力の幾つかを魔法的に調べているらしい。
そのプレートにはひものようなものがついていて、そのプレートから伸びた紐は受付の人の前にある立体映像のようなものが現れる箱につながっている。
立体映像にはそれぞれ魔力などの項目があり、その項目ごとに数字が現在測定中なのか目まぐるしく数字が変わっている。
もっとも、確定した数字はここからでは小さく良く読み取れないが。
とはいえ、確認している受付の人が、えっと驚きの声を上げていた。
もしやお約束的な意味で期待したいのだけれど、どうだろう?
そう思いつつその測定の場所を横に、流れ作業のごとく移動して測定してもらっていき、最後に、特殊能力を僕は測定する。
今度は丸い球状のそれに触れると、中には何か文字が浮かんできて……。
「“鑑定スキル”?」
この世界の文字で、そう書かれていたのだった。
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