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ジーニアス ―白銀のガントレット―  作者: 出金伝票
第4章 ジーニアス――天才とは
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エピローグ――天才が虐げられ、努力と根性論が闊歩する今の世界をあなたはどう思いますか?

「天才が虐げられ、努力と根性論が闊歩する今の世界をあなたはどう思う?」


 霞が関。通信省大臣室。

 瑠華は自分の前に立つ一人の少年にそんなことを聞いていた。

 瑠華は他の人間にもこの質問をしたことがある。

 ただ、天才と呼ばれる人種にするのはこれが初めてだった。


「うーん、どうも思いませんね」


 答えはあっさりとしたものだった。

 今の若者特有の無関心とは、また少し違う様にも感じる。

 その答えには何か明確な理由がある様に瑠華は思った。

 だから、聞いた。


「それはこの世界に興味がないってこと?」


 瑠華の続く質問に少年は少し困ったような顔をしつつも、別段悩む様子もなく言葉を紡ぐ。


「興味というかなんというか……。俺はこの世界しか知りませんから。確かに辛い目にあうことは多々あります。でもそれって生きていれば誰しもが経験することだと思うんです。もちろん形は違うと思いますけど」

「でも、こんな世界じゃなければ、革命前の世界なら、あなたはいじめにあうことも、謂れのない誹謗中傷にさらされることもなかったはずよ。そんな世界を望んだりはしないの?」

「……思わなかったことが無いって言ったら嘘になります。でも、それは黒輪に出逢う前までのことです。もう昔のことですよ。それに俺には手本になる人が目の前にいますから」

「えっ?」

「あの日、権藤に言われたんです。革命前の時代を知らないからお前は綺麗事が言えるんだ、って。確かにそうかもしれないって思いました。でも、それでも、権藤が間違っているって言い切れたのは、あなたという人が、瑠華さんがいたからだ」

「私が?」

「革命が起こってもまっすぐに生きる瑠華さんという手本がいたから、俺は道を間違えなくてすむんです」

「無灯君……」

「ははっ……本人を前にして言うのは少し照れますね」


 黒髪を抑え込む形で巻かれた青いバンダナをなでながら少年は恥ずかしそうに笑う。

 瑠華も少し気恥ずかしくなって話題を変えた。


「そういえば魔法のこと、使えなくなったって聞いたけど、不便じゃない?」

「え? ああ、それなら別に全部使えなくなったわけじゃありませんから。使えなくなったのは『閃光の右腕』という魔法だけです。アップロードするっていうことはそういうことですから……」

 有機は権藤との戦いの最終局面、『閃光の右腕』を古い『2020モデル』から『2035モデル』へアップグレードした。有機が今まで旧式を使っていたのは、最新版へアップグレードするのに大量のポイントを使用するからだった。

 無論、それだけ性能も飛躍的に上昇するのだが、手持ちのポイントが少ない有機には不可能なことだった。

 ただ、そんな有機が、あの局面でアップグレードを可能にしていたのは……。


「アプリ『借金王ボロウ・キング』。ポイントの前借りをするためのポイント無使用のソフトウェアよね。現時点で確定している次回支給分のDKポイントを先に取得する代わりに支給日に倍のポイントを返済しなければいけない、はっきり言って破綻しているソフトだわ。そんなものを使う人間がいるなんて考えもしなかった」

「その言い方はひどいじゃないですか。管理者として支給されるポイントは閃光の右腕の維持ポイントに全部消えているんです。だからそうでもしないとアップグレードするポイントが足りなかったんですよ」

「でも、使ったところで足りる自信があったの? 一五年分のアップロードよ?」

「それなら、コツコツ貯めていたポイントと臨時収入がありましたから……」

「臨時収入?」

「DKポイントは努力や根性以外にも評価の基準がありますよね?」

「それって……」


 この世界の価値観を構成する要素。

 努力・根性。


 そして『友情』


 ――青木は有機の忠告を無視したことを悔やんでいた。

 そして辛く当たってしまったことを謝りたかった。

 だが、怪我は思いのほか深刻で会いに行くこともできない。

 行けたとしてもどう謝っていいか青木には整理がつかなかった。

 そこで青木が取った行動こそが友情による他者へのDKポイントの申請だった。


「青木が言ってたんですよ。臨時ボーナスを楽しみにしてろって。最初はなんのことかわからなかったんですけど、会社に勤めているわけでもない俺たちがそう呼ぶことのできるものってDKポイントくらいしかないじゃないですか。本来は第三者に委ねる部分も多いし、審査の厳しい部分ですけどね、青木を助けてくれた人ならって思って」

「どういうこと?」

「青木を助けてくれたっていう白人の男に心当たりがあるんです。もしかしたら大臣のお知り合いかもしれませんね」

「ふふっ! そんなに都合のいいことがあるはずないじゃない」

「そうですよね。まあとにかく青木のおかげで俺はあの場でのアップロードが可能だったってことです。――確かにあの魔法にはこれまでたくさん助けてもらいました。俺を支えてくれました。けど、それより大事なことがあるって思ったんです」

「それは何?」

「秘密です」


 有機はいじわるく笑う。


「なによそれ」


 それを見た瑠華は不服そうに頬を膨らませて抗議する。

 それは大臣としてではなく、同年代の友人と話しているときの様な親しみやすさと柔らかさがあった。


「はははっ! まあ、魔法はポイントをもう一度貯めて取り戻しますよ」


 そう言って有機は踵を返すと大臣室を後にする。

 ダウングレード版が配信されていない現状では最新版を取得しなければならない。

 実際に魔法を取り戻すことが出来るのは何年も先のことになるだろう。

 それでも有機は清々しいほどの笑顔を見せた。

 魔法よりも大切なものがある。

 その笑顔は暗にそれを告げていた。


「事後報告は終わりデスカ?」


 閉じた扉の隣に人影が現れる。

 瑠華のまばたきの瞬間に今までそこに居なかったはずの人間がまるで手品のイリュージョンのように。 有機がシャルと呼んだ一人の白人がそこにいた。


「ええ……終ったわ。さすがね。同じ部屋の中に居て存在全てを消し去るなんて」

「元は裏の仕事を請け負っていましたカラネ。まあ、今もそうですケド。でも、ユウキはすごいデスネ、まさかあそこまで勘付かれているナンテ」

「ええ……。彼は天才としてそのセンスをどんどん伸ばしている」

「なにか、心配してマス?」

「……ドレイクがこの世に産み落とした価値観は酷く曖昧なものなのよ。

 何をもって天才と決めつけるかは人それぞれ違う。

 だからこそ、ドラゴンライダーと呼ばれる天才至上主義者たちも生み出してしまう。

 彼の周りの人たちが今はまだ無灯君を人として見てくれていても、いつか、その途方もない才能に彼のことを『天才』と認めざるを得ない状況がやってきてしまったら……。

 彼は今回の権藤と同じ境遇を経験することになるかもしれない。それが私は怖い。とてもね」

「大丈夫デスヨ。ユウキも言っていたデショ? ルカが手本となれば彼は間違えたりしまセンヨ」


 ニコリとほほ笑むシャルに瑠華は謙遜したように肩をすくめて溜息をこぼした。


「ふふ、そうね……私も頑張らなくちゃ」



◇◆◇◆◇



「遅いぞ! 有機!」


 部室棟 文芸部部室に快活な梓の声が響く。

 扉を開いた有機の前には残りの四人の文芸部メンバーと騎衛瑠が椅子に腰かけていた。


「やあ、有機。お邪魔してるよ」


 騎衛瑠が元気よく梓に続いた。今日は普段通りの男の格好をしている。


「……」


 武者小路はあいかわらず読書にふけっていた。

 いつも通りの風景。日常。

 穏やかな時の流れに有機の顔が自然とほころぶ。


「何がそんなに嬉しいの?」


 絵依が有機の隣に寄り添い顔を覗き込んだ。


「これが俺の守りたいものなんだなって、そう……思ったんだ」

「……ふふっ!」絵依。

「あっはっは!」梓。

「がっはっはっは!」皇。

「…………くっく」武者小路。

「ちょっ! なんだよ! なんで笑うんだよ!」


 突然のことに有機は驚く。

 笑われることを言ったつもりなど全くなかった。

 そしてその理由をなぜか騎衛瑠が得意げに話し出した。


「だってさ、ほんと物語の主人公みたいなこと言うからおかしくてさ。ぷぷぷ!」

「なっ!」

「あっはっはっは! いや、良いと思うぞ。有機の言ったことは間違っていない」


 梓は笑いながらもそう言って有機を擁護する。それに皇が続いた。


「ただな、有機の言ったことは、もうみんなわかってることなんだよ。それをあらたまって言うもんだからおかしくてな。がっはっはっは!」

「ちくしょう……てか、騎衛瑠! お前、馴染み過ぎだろ! なんでいるんだよ」

「えっ? だってクラスじゃ女子がめんどくさいから……」

「またそれか!」

「あっ! そういえばせんべいがありますよ?」


「それはもういい!」

「それはもういいです」

「それはもうええ!」


 有機と絵依と武者小路が声を揃えるので梓は言うタイミングを失った。

 事情を知らない皇一人が何のことかわからず取り残されている。


 一方、部室棟の廊下では……。


「フン。ほんとに行くのかよ……」

「大森が行くって言ったんだぶぅ。いまさら何を言い出すぶぅ?」

「だってよお……」

「私も一緒にいくからさ。一緒に謝ろ?」

「中森さん、口調が元に戻ってますけど、良いんですか?」

「良いの。大事なのは中身なのよン! ふふっ」

「フン! そうですね」


 三人は歩く。

 その先から聞こえる笑い声は優しくて温かくて、

 数分後には彼らもきっとその輪に加わるのだろう。


〈了〉


ここまで読んでいただきありがとうございました。


このまま続けるか、新作になるかはわかりませんが、

次回、文芸部VS生徒会。火花散る聖央学園球技大会編。「ジーニアス2――多数派の翼」

でお会い出来ればと思っていたり、いなかったり。


今作は登場人物が無駄に多かったので、人物紹介もつけたいなと、思っています。そのうち。

あとはストーリーを変えない範囲で一章は少し手を加えるかもしれません。


ではまた。

レビュー、感想など受け付けてます。

よろしくお願いしますー。

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