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ジーニアス ―白銀のガントレット―  作者: 出金伝票
第4章 ジーニアス――天才とは
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黄崎と有機

 有機は生徒会室の扉を静かにスライドさせた。


「……会長、いるのか?」

「随分早かったじゃないか。君に連絡したのは正解だったな」


 スライドした扉の横で壁に寄りかかるような姿勢の黄崎が忽然と姿を現した。


「その魔法は禁止にした方が良いんじゃないか? 色々と問題の多そうなアプリに見えるけど」

「そうかな? だがこうして役に立っているんだ。要は使い方次第だろう?」

「……それで黒輪は?」

「居場所はわからない。権藤と一緒に姿を消したみたいなんだ」

「権藤?」

「そうだね……まずは僕の知っている限りのことを話そう」


 黄崎は渡り廊下で遭遇した二人組のこと。

 そして途中から乱入した権藤のこと。その魔法のことを話して聞かせた。


「会長のいう二人組は見覚えがある。魔法の形状も俺が見たのと同じだから間違いない。そうか……黒輪は俺の所為で狙われたのか……」

「……今は起きてしまったことを悔やんでいる暇はない。まずは黒輪君を助けなくては」

「わかってる。でも手がかりが少なすぎる」

「まずはあの二人組から聞き出すしかないだろうな。末端であろう彼らがどこまで知っているかは疑問だけどね」

「けど実際、黒輪はその末端に負けたんだろ? 案外色々知っているかもしれない」

「どうかな。僕の見立てでは力と人間性が釣り合っていないように見えたよ。まるで貸し与えられた力を我が物顔で使っているような」

「確かに。始業式に襲ってきたあいつらは黒輪が負けるような相手じゃない……。貸し与えられた力……か」


 有機は始業式の日のことを振り返る。その矢先、不意に有機の電話が鳴りだす。着信は武者小路からだ。有機は反射的に通話アイコンをタップしていた。


「調子はどうや? ちっとはマシになったんか?」

「めずらしいな、武者小路が俺の心配をしてくれるのか? そんな友達思いのやつとは思わなかったが」

「……アホ。思ってもらったら困るわ。ウチとお前はあくまで同志。今回は共通の敵を持っているだけにすぎん。電話したのは、事件について大幅な進展があったからあんたの耳に入れといてやろうと思っただけや」

「進展?」


 ――それは有機の中ですべてが繋がった瞬間だった。


「話はわかった。一〇〇〇ポイント所持者のアプリはその時点で改変され、『ある音波』を拾える状態になる。その状態で起動するとアプリが暴走をはじめるってことか。なら武者小路はその音波を発生させているアンテナと基地局を探ってアジトの場所をつかんでくれ。俺は別のアプローチをしてみる」

「別の? なんや、あんたもあんたでなんか掴んでるんか?」

「黒輪が権藤にさらわれた」

「……なんやと?」

「とにかく、何かわかったら連絡してくれ。それじゃ」

「ちょ、おま――」

「どうやら、思ったより話は複雑なようだね。アプリの暴走が絡んでいるのかな?」


 電話を切った有機に黄崎はまるで武者小路が話していたことさえ聞こえていたかのように言ってのけた。


「さすがだな。今の電話だけでそこまでわかるものか?」

「事故が頻繁に起こっているのは武蔵野市だからね。ニュースでも多く取り上げられている。それに学園の人間が何人も被害にあっているし、この前は学園の敷地内で事故が発生しているんだ。僕が調べていないわけがないだろう? それと今の会話で少しはね。こんな異常事態はそうそう起きるものじゃない。関係性があった方が逆に自然さ」

「成程な。事件について調べたのは、周りをほっとけない性分てやつか?」

「君に見透かされているというのは、いささか心外だな」と苦笑を浮かべる黄崎。

「黒輪からよく聞かされてるんだよ」

「……そうか。それで? これから君はどうする?」

「とりあえずはあの二人組をどうにかするしかないだろう」

「なら、早速、動くとしようじゃないか」二人が生徒会室を飛び出す。すると、

「なんだ? どうしてお前がここに居る!」

「しかも生徒会長も一緒ぶぅ」


 そこにいたのは青髪の大森と黄髪の小森。

 長身痩躯と小太りの少年が今まさに生徒会室へ向かっていたところだった。


「フン! 飛んで火にいるなんとやらだな」と大森が言う。

「夏の虫だろ? それはこっちの台詞だ。黒輪を狙うくらいなら最初から俺のところへ来いよ。筋が通らないだろ」

「うるせえ! こっちだってそうしたかったんだ。それを権藤が止めるから……」

「だからその名前はだしちゃ……ぶぅ」

「フン! いまさらだろ。もう、どうなろうと知ったこっちゃねえ!」


 大森が携帯を構えた。有機もそれに応じる。

 ただ、続く言葉は大森と小森の背後から放たれた。


「なげやりはよくないな。そんなことだと、たった一度の青春を謳歌することはできないぞ? それはとてもつまらないことだ!」

「あ、梓部長!?」

「よお、有機。最近部活に顔を出さないと思ったら、随分とファンタジックなことやってるじゃないか。そういう面白そうなことは部長のアタイも混ぜろよ」

「いや、全然面白くもないし、ファンタジックでもないんですけど……」

「まあいい。とにかくここはアタイが引き受けた。有機は先に行きな。必要なことはアタイと黄崎で聞き出しといてやる」

「でも……」

「確かに、東宝院さんの言うことも一理ある。大体の場所に見当がついているなら、そこへ向かった方が正確な場所が分かった時の対応も早いはずだ」

「そういうわけだ。わかったらさっさと行っちまいな」

「わかりました……後はよろしくお願いします」


 一礼し、駆け足で遠ざかる有機を大森は一瞥すると、振り向いて梓と向き合った。

 唇を釣り上げてニヤリと笑う梓とは対照的に、大森はその額に青筋を浮かび上がらせるほど、苛立ちを表に出していた。


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