第41話 夢見た世界で
────アルトラ帝国の襲撃から、おおよそ一ヶ月が経った。夢見人になって、かなり時間が経っていた幻真はこの世を去り、とうとう、私だけが、この世界に取り残された。
対魔征討軍と協力して、戦場となった街の復旧に協力する日々を送っている。
「今日も今日とて、シャルロットは元気がないでござるな」
星華はこうやって、よく私を気にかけてくれた。対魔征討軍への入軍も時折進められたが、今の私には、そんな気力はなかった。
宿に戻り、いつも通りの食材で料理を始める。でも、自分のために作るガレットは、あの頃に比べ、何だか味気ない。
孤独な部屋で、ガレットをかじる音だけが響く。
今日もまた、多くガレットを作りすぎた。それを食べてくれる人は他にいないのに。
バケットの中に残るガレットの上に、一粒、涙が溢れる。
覚は、クライムは、ギデオンは、幻真は、この結末で満足だったのかもしれない。それでも、私は、どうしても、後悔の残る結末だった。
そんな複雑で、拭いきれない複雑な後悔と、ガレットで溢れるバケットを抱え、今日もまた、ベッドに沈む。
もし、また覚と出会えたら、そんなことばかり考えながら、ゆっくり瞳を閉じた。
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「ん……んっ……え、どこ……ここ……?」
浅い眠りから覚めたときのように、視界が揺れながら、少しずつ、鮮明になっていく。
ゆっくりと起き上がったとき、遠くから、まばゆい光を二つ放ちながら近づいてくる何かが見える。
魔獣だ……とっさに武器を取ろうとするが、手に持っていたのは、ガレットの入ったバケットだけ。
まずい……抵抗する術がないので、とっさに物陰に隠れる。
その魔獣と思われるものは、私のすぐ近くで止まり、その両サイドが、羽のようにバカっと開く。そこで私は、信じられないものを見た。
中から、人が出てきたのだ。どういうこと……あれは、魔獣じゃない……?
そんな不気味な光景が、なんとも恐ろしくって、逃げるように私は近くの建物の中へ走った。
建造物の構造も、街並みも、私の知っているものとは全く違う。人々はみな、首を折り曲げながら、変な光を浴びている。
あぁ、これは悪夢だ……そう悟った。
「あの、すいません……ここはどちらですか?」
一番危害の少なそうな、私と同じくらいの年齢の黒髪の女の子に話しかけた。
「どこって……阿南駅ですけど……何かのコスプレをされてるのですか?」
この子が話す、すべての単語が理解できなかった。
話してもあまり意味がないか……とりあえず、あたりを散策することにする。
一つ、何か金属で作られた入口のようなところがあったので、そこを通過する。そこを見張っている人がいたが、他の人とお取り込み中だったので、気づかれず通過することが出来た。
何故か周りの視線が気になるが、そのまま階段を降りてみた。
そこで空を見上げること数分間、遠くから、地響きのようなものが聞こえてくる。それがさらに私の方へ近づいてくる。
私の周りには何人か人がいるにもかかわらず、誰もそれに反応を示さない。まるで、当たり前のことかのように、各々リラックスしている。
その場でたじろいでいると、すぐにそれは私の目の前へやってきた。丁度、私に目の前で停まる。そうすると、また中から何人もの人が溢れ出る。
「何よ……これ……」
未知との遭遇に恐怖を感じながらも、それと同時に、興味も感じた。溢れ出る人の波が収まったあと、私はゆっくり、その中へ足を進めた。
中に入ってみると、全然魔獣という感じしなく、一つの建造物のようだった。しばらく中に乗っていると、ガタガタと少しずつ動き出す。
慌てて外に出ようとするも、入口は勢いよく閉ざされ、その行手を阻んだ。
仕方なく、その中で揺さぶられながら、外を眺めた。
体感したことないスピードで、この物体は突き進んでいく。初めての体験に夢中になり、何度か停まり、出口が開いたが、降りることができなかった。
でも、移動しすぎるのもよくない。そう思い、次停まれば降りようと、出入り口の前で揺さぶられた。
◆ ◆ ◆
空はもう暗く、星星が輝き始めている。
相変わらずこの田んぼ道には明かりがなく、夜空の美しさを際立たせた。
前にこの道を歩いたときは、自殺しようとしてたっけ……
でも、どうしてか、今はそんな気が一切無くなっていて、何故か一歩が力強くなった。
いや、その理由を、俺は知っている。
あの夢のお陰だ。どんな夢だったか、もうあまり覚えていないけど、いろんな人に助けられ、背中を押された夢だった。
何よりもあの夢には、いつも俺の側にいてくれるやつがいて、そいつに何度も救われた。
あの夢から目覚めたとき、すぐに正気に戻れなかったっけ。どんな夢だったか、どんな人と出会ったのか、必死に頭を駆けは知らせて考えた。
結局、全く思い出せはしなかったが、なんでだろう、何故か、あの夢だけは、『真実』だった。そんな気がする。
そんな夢を懐かしんでいる内に、いつもの駅のホームに到着した。誰もおらず、ただ虫の鳴く声が、田んぼと山から聞こえてくる。
でも、やっぱり俺は孤独だ。この駅で、こうやって一人で座っていると、そう思わされる。
あの夢が覚めたとき、少しだけモヤッとした。何かやり残したことがあるような気がして、それをまだ、俺は抱えている。
何だったか……あの、香ばしくて、パリッとした食感のあの食べもの。それが、思い出せなかった。
一人で、孤独にくれていると、阿南方面から汽車が到着する。この駅が終電だから、汽車の乗客は俺一人になる。
それがまた、いつも俺の孤独を際立たせる。
扉が俺の前で開き、人が数人だが流れてくる。
「はぁ……」
深い溜息をつき、いつもどおりその孤独な汽車に乗り込もうとした、そのとき、まだ一人、乗客がいることに気づく。
早く降りろよ……心のなかでそう呟いた。
「……覚?」
────それは、確かにそう言った。今にも泣き出しそうな、か弱い声。でも、誰よりも優しい声で。
バッと顔を上げる。
そこに立っていたのは、美しい白髪の、何か食べのもが入ったバケットを抱える、一人の少女。
その立ち姿、目、表情。全てが、あの夢が一致していく。
そして、フラッシュバックする、あの夢のような世界で築いた、短く、長い、俺達の旅路。
……どうして、忘れていたんだろう……俺はとっくに、孤独なんかじゃなかったのに……
約束、してたじゃないか……
「そっか……来てくれたんだ……シャルロット……!」
「えぇ……あの約束を、果たすために……!」
そう言って、シャルロットは、そのバケットに入ったガレットを一つ、俺に差し出す。
それは、俺が夢見た世界でガレットを差し出し、俺に寄り添ってくれたあの夜と、奇しくも、同じ光景だった。
これにて、「夢見た世界でガレットを」、完結になります!
この作品を書き進められたのは、誤字脱字にまみれたこんな作品を、ここまで読み進めてくださった皆さんのお陰に他なりません。
本当に、ありがとうございました!
終盤、少し急ぎ足のように感じられたかも知れませんが、今作品は新人賞に出そうと思っている作品で、文字数の都合上、このような終わり方になってしまいました。
まだまだですが、いつか書籍化して、皆さんに恩返しできるように頑張ります!
ぜひ感想、ポイント評価お願いします!
それでは、よい夢を!




