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室矢家で一番優しい娘

召喚儀式は終わった。

室矢重遠が気づかないうちに……。


そして、咲良マルグリットの姿もない。


5巻目で、ベル女編がどうどうの完結!

https://www.amazon.co.jp/dp/B0DFWRPK19

 都心部の中心にある明示(めいじ)法律大学のキャンパスは、商業施設のよう。


 いつも通りに1人で講義を受け、待ち伏せや毒を仕込まれないため、空間移動を織り交ぜることでランダムに移動しての食事や休憩。


 面倒だが、悠月(ゆづき)明夜音(あやね)のように護衛をゾロゾロと引き連れるよりはマシだ!


 誰にも縛られない大学生は、他人を気にしないが……。


 見下ろせば、私服で行き交う都心らしい周りと比べて幼い雰囲気の姉妹がいた。

 中央が広い吹き抜けになっている1階だ。


 何も知らずに見れば、ただのデパート。


 1人はセーラー服の女子高生で、優しい感じの黒髪ロング。

 それより身長が低い感じの少女は――


『私じゃ!』


 脳内に、室矢むろやカレナの声。


 超空間ネットワークによる通信だ。


 お前か……。


「ねーねー? 君ら、高校生?」

「俺らが案内してあげよっか?」


 女子2人が所在なげに立っていたことで、チャラ男の参戦だ。


 俺は、上を通り抜ける通路の端にある落下防止をふわりと乗り越えて、落ちた。

 ちょうど、5階の高さ。


「キャァアアアッ!?」

「ちょっと!」


 通りがかった女子大生グループが、甲高い悲鳴を上げた。


 重力に引かれつつ、斜め下にある3階の空中通路を避け、回転しながら足を下へ向ける。


 1階は試合ができるほど広く、加工されたコンクリートの地面だ。


 大学生の一期一会となっているメインストリームに両足で着地しつつ、すかさず並べた両膝を曲げつつ、体の外側へ受け流していく。


 ネコのように回転した勢いで、起き上がり人形のように立ち上がる。

 ダンッという着地音に、転がる音。


 余った勢いは、片足で円を描くことで逃がす。


 周りの唖然とした視線を感じつつ、口が半開きのチャラ男2人に告げる。


「そいつらは、俺と約束している。ナンパなら、他を当たれ」


 半開きの口で、首を縦に振るチャラ男たち。


 じりじりと後ずさり、やがて出口へ走り出した。


「あの! わ、私、どうしてもお父さんに会いたくて――」

「話は後だ……。システム上で処理をしておけ。穏便にな?」

『かしこまー♪』


 俺のスマホで、可愛らしい声が流れた。

 アプリとして常駐する美少女、カペラだ。


 我関せずのカレナに呆れつつも、女子2人と一緒に建物の外へ。



 ――都心の高級カフェ


 奥のテーブル席を占領して、ようやく落ち着いた。


 向かいに座っている女子2人を見る。


「で?」


 顔を伏せていたセーラー服の少女は、思い切ったように俺を見た。


「に、二条(にじょう)(さえ)です! 今は女子高生でして……。未来からやってきました。お母さんは、(すみれ)と申します」


 普通に考えれば、ドッキリか、ただの冗談。

 

 けれど、前例があり、カレナの説明を受けている俺は、頷いた。


「そうか……。今の菫はようやく中学生だけど、優しい雰囲気はそっくり! 納得できるよ」


 嬉しそうに微笑んだ冴は、こくりと頷いた。


「信じてもらえて、嬉しいです! 詐欺と思われるかも、と心配していました」


「カレナがいるからな……。(りょう)愛花莉(あかり)も来たし」


「愛花莉さんとは、友人です! お父さんの娘は、流派に関係なく女子会で集まっているから」


 それぞれに所属があるから、俺たちのようにはいかんか……。


 少しだけ寂しく思いつつ、安堵する。


「やっぱり……。1つの家でまとめていくのは、無理か」


 俺たちの子供ですら、距離感があるんだ。

 孫となれば、自分が学ぶ場や就職先に染まるだろう。


「……ご迷惑でしたか?」


 冴の声で、我に返った。


「そうじゃない……。俺と観光でもしたいのか? 今の母親と会うのは、あまりオススメしないが」


「お父さんと遊びたいし、お母さんの若いころに興味はありますけど……。私がカレナさんに無理を言ったのは……」


 自分のバッグを漁った冴は、年季が入った携帯ゲーム機を取り出した。


 ティーカップや皿があるテーブルに、ゴトッと置く。


 見覚えがある。

 特に、前世の久次(ひさつぐ)竜士(りゅうじ)だった頃に……。


 冴の指が伸びてきて、パチッと動かした。

 軽快な起動音で、OSが動き出す。


 中のディスクを読み込み、タイトル画面へ。


 【花月怪奇譚(かげつかいきたん)


 両手に、汗。


(まさか……)


 無言で手を伸ばし、両手で持ち直す。


 セーブデータを見る。


 律儀な性格のようで、冴の名前があった。

 そちらを間違って消さないように、他をチェックする。


 “久次竜士”


 思わずゲーム機を落としそうになるも、ギリギリで耐えた。


 ゆっくりと、テーブルに置き直す。


「冴? これは、どうやって入手した?」


 ビクッとした本人は、片手で耳にかかった黒髪を触りつつ、答える。


「えっと……。お父さんのルーツに興味があって、ネットオークションに出ていたのを落札しました。半信半疑でしたけど、値段は安かったですし」


 何てことだ。


 俺がこの世界へ来たときに、遊んでいたゲーム機も迷い込んだのか?


 悩んでいたら、カレナが宣言する。


「残念だが、もう時間だ……。冴は巻き込まれたゆえ、いったん飛ばすしかない。お主は、言うまでもないのじゃ! 前に話したことは、覚えているな?」


「ああ……」


 首肯したカレナは立ち上がり、無言で立ち去った。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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