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第83話 リタ、魔王のカレーに涙を流す


 リタはムシャムシャがつがつと私が作ったドラゴンカレーをかきこんでいた。皿まで舐めてしまう姿は品のある食べ方ではないが、よほど腹を空かしていたのだろう。


 仕方のないことだ。

 小さなパンが一週間の食事だなどと、この街の庶民の食料事情は破綻しているのだから。

  

「魔王様……この小娘めっちゃ食いますね……」


 テーブルの上には綺麗にカレーを平らげた皿が数枚積まれていた。そしてリタは空になった皿をノゾッキーに差し出す。


「むぐむぐ、おいひい、おいひいれころカレー! もぐぁわり!」


 ノゾッキーは「人族の娘ってすげぇ……」と呟いて炊飯鍋から皿にご飯をよそい、カレールーをかけると、リタの前に置く。


 私はリタのぷっくりとふくらんだ頬を見ながら言った。


「リタ、たくさんあるから満足いくまで食べるがいい。遠慮はいらん、だがしっかりと噛んで食え。カレーは飲み物ではないのだからな」


 すると、突然リタの目から一粒、ふた粒と涙があふれ出した。ぽろぽろ、ぽろりと涙をこぼし泣き始めるリタを見て、私はノゾッキーの胸ぐらを掴んで言った。


「おいノゾッキー! お前まさかカレーに激辛スパイスを入れたのか!? リタが泣いてるじゃないか!」


「そ、そんな! セッシャはそんな嫌がらせなんてしませんよ!」


「じゃあなんでいきなりリタが泣く! お前はしょっちゅう私に嫌がらせする、嫌がらせの天才ではないかッ」


「え!? いや、その、あの! とととにかく魔王様、せ、セッシャに聞かれてもわかりません!」


「ふん……! まぁいい」


 私は焦るノゾッキーから手を離し、リタの目の前に座る。


「リタ、さっきまでお前ニコニコとカレー食べてたじゃないか。どうして泣いているのか私に話してみろ」


「……ぐすっ、ぐす……えっと……」


 私はハンカチを取り出して、リタの涙を拭いながら言った。目尻は赤く、充血していて潤んだ瞳を私に向けたリタは話しだす。


「ぐすっ……ひぐ……っ。あのね、おかあさんとおとうさんと一緒に食べたかったなぁ、って……」


「……そういうことか……そうだな、食卓は家族で囲みたいものだ。わかるぞリタ。では聞こう、お前の父と母は今はどこにいるのだ?」


「ご領主さまのところ……おかねがはらえないからそこで働かされてるの……もうしばらく会ってなくて……ぐす……」


 彼女はうつむくと、ぎゅっと唇を噛む。

 私はリタの涙を再び拭い、目を真っ直ぐに見る。


「もう泣くな。その涙はお前が父や母に会えた時までとっておけ。大丈夫だ、私がなんとかしてやる」


「え……?」


「私がこの街の悪党を一掃してやる。リタが笑って生きていける世界をくれてやろう」


「でも……そんなの無理だよ……、ご領主さまはつよい人をいっぱい召しかかえてるから……」


 すると、ノゾッキーがリタの背後に立ち、彼女の頭にぽん、と手を置いた。


「ふん、小娘。お前さっき、この方がはるか格下の輩を完膚なきまでねじ伏せた、凶悪な魔王様っぷりを見てなかったのかぁ? 人族ごときに遅れは取らないから安心しろ」


「ノゾッキー、一言余計だ。消し炭にするぞ」


「えぇっ! そ、そんなぁ。セッシャ褒めたつもりなのに……ぐすん」


 私が迫力を込めて睨むと、気圧されたノゾッキーはおずおずとして答える。私はさらに声を荒げて言った。


「お前は泣くな! うっとおしいなもう!」


 私はリタへと顔を向き直し、ゴホンと咳払いを一つして話しかける。


「とにかくだ、リタ。お前の父も母も私が救い出してやる」


「……ほんとう?」


「ウソはつかん。私を誰だと思っているのだ? 私は魔王軍の頂点にして魔王だぞ? 悪党退治など朝飯前だ」


 そう言うとリタは私をじっと見つめ、涙をためて吐き出すように言った。


「まおーさま……おねがいです、おとうさんとおかあさんを助けて……!」


 懇願するリタを見て、私は過去を振り返る。


 助ける、か……。

 少年時代、私に力がなかったから母さんも父さんも、じーちゃんも死んだ。


 誰かを救う力なんて持ち合わせていなかった。


 だが今は違う……!


 私は今や魔王軍の頂点にして魔王なのだ。

 いいだろう、リタの願いを聞き入れてやる。


 私がリタの頭をくしゃくしゃと撫でると、彼女の口から再び、先程聞いたセリフが飛び出した。


「……でも、どうして? どうして助けて……くれるの……?」


 涙ぐむ彼女に私は微笑み、告げた。



「私が魔王だからだ」





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