セシルセクメトの恋タロット1
【黒曜の頭脳】=賢者トリスタントートのこと。肉体的には四十代半ば。
サイラスオサイリス=有翼人の盗賊。肉体的には二十代半ば。守生とほぼ同じ。
その日守生は、賢者御用達の行商人セシルセクメトと向き合っていた。雌ライオンの頭をしたスレンダーな女性だ。
「なかなかタイミングが合いませんでしたね」
「申し訳ありません。私も早く受けたかったのですが、シュー様ご依頼の件を先にこなしておりました」
「僕の依頼? セシルさんにお願いしたのは鉄鍋と……」
その時セシルセクメトが守生に、防音の魔道具の使用許可を求めた。守生は了承し、騎士コンビに少し離れるよう指示を出す。
「いえ、私への依頼ではありません。シュー様がサイラスオサイリス様にご依頼なさった、奴隷を集める件です。命に関わることでしたので、そちらを最優先いたしました」
セシルセクメトが穏やかな声で説明する。セシルセクメトは、盗賊サイラスオサイリス、賢者トリスタントートなど複数人と共に、呪いにかかっている。そのため「表」に出られるのは一人だけなのだ。
「……あ! サイラスが動くと、セシルさんが出て来られないわけですね!」
「はい、その通りです。他にもトリスタントート様のご予定や、私の商売上のことなどをこなしておりました」
「三人の予定を効率よくこなす必要があるわけですか。それは大変でしたね。先程は失礼な事を言ってすみません」
「いえ、こちらが特殊なだけですから。どうかお気になさらすに」
セシルセクメトは恭しく頭を下げる。行商人というと街の商人よりも粗野なイメージがあるものだが、セシルセクメトの顧客は王都の大店から小さな村の村長、孤児院と幅が広い。貴族を相手にすることもある。
それはトリスタントート御用達の商人という肩書があるおかげであり、彼女が店を持たずに行商をするのは、解呪の手がかりを探すためだった。定住すると他の者が「表」に出づらく、セシルセクメトだけが老いることを防ぐ意味もあった。
呪われた時セシルセクメトは十代だったが、今では四十歳。九歳で呪われたトリスタントートほどではないが、スイッチたちの中では表に現れている時間が長い方だ。
守生はそのまま少し雑談してから、防音の魔道具を片付けてもらい、セシルセクメトに【DNAアクティベーション】を施術した。
問題なく施術を終えると、セシルセクメトは騎士コンビが壁を向いているのを確認してから、仲間たちと入れ替わる。イケメン羽持ちのサイラスオサイリス、トキ頭でほっそりとしたトリスタントート、眠そうな態度の猫頭の女性、そして……。
まるでテレビのチャンネルを替えるように、あるいはそれよりも素早くスイッチする。
(ん!? 今、虫っぽいヒトが見えたような? 気のせいだろ、気のせい……)
戻ったセシルセクメトに気分はどうかと尋ねる。セシルセクメトがまた魔道具を起動させてから話し出す。
「はい、サイラス様とトリスタン様との入れ替わりはスムーズですね。予想通りです。奴隷紋もすっかり消えております」
「そうですか、良かったですね。頭が痛いとか気分が悪いとかは?」
「ええ、他の者と入れ替わったので多少……」
「じゃあ、お茶をお出ししますね」
守生は部屋の外に声をかけ、ヘレナヘケトにお茶の用意を頼んだ。
「あの、シュー様」
「はい、なんでしょう?」
「シュー様は他にどういったことができるのですか?」
「そうですね、【感情コードのカッティング】、【悪意を光に変えて相手に返すワーク】、【オーラの浄化】。これらは無料オプションとしてやってますね」
「おぷしょん?」
「追加するおまけ、ですかね? いや、そんな軽いものではないか……。前の二人にも施術しましたし、セシルさんにもさせていただきますよ?」
「ありがとうございます。でも【活性化】を施術していただいて、すっきりしましたのでまたの機会にお願いいたします」
「わかりました。いつでも言ってください」
「ありがとうございます、シュー様」
「有料の施術だと他にもいくつかあるんですが、どういうことに興味がありますか? 体の不調を調えたいとか、リラックスしたいとか……」
守生はアメガワンドを使ったいくつかのヒーリングや、アロマオイル(精油)を使ったヒーリングを思い浮かべながら言った。一番のおすすめは【DNAアクティベーション】だが、トリスタントートに言ったように他にいくつかの施術もできるのだ。
「そうですね、未来を知る施術などはございますか?」
「未来。【TRUEタロット・リーディング】がありますね」
「真実、タロット、読み解く……?」
「そうですね、タロットと呼ばれるカードの束を使って、
「カード?」
「あー、パピルス紙より硬い紙で作られた、これくらいのサイズの……」
守生は手でトランプよりも少し大きめの形を示す。それから気づいて、ボディバッグから布に包んだタロットデッキを取り出す。
布を外し、絵柄をちらりと見せて説明を続ける。
「これを使ってセシルさんの質問について答えます。現状や乗り越えるべきこと、誰が助けてくれるのか、ご自身は何を考えているのか、未来はどうなるのかなどが分かります」
「自由に質問できるのですね」
セシルセクメトが意外そうに確認を入れた。
「ええ。僕とお話させていただいて、具体的に質問を決めて、タロットカードに聞きます」
「なるほど。今、受けられますか? お値段は?」
守生は値段を伝え、セシルセクメトの了承を得ると、茶器をローテーブルの端にさっと片付ける。もちろんタロットデッキはボディバッグの中に仕舞う。紛失が怖いのではない。だが触られてその人のエネルギーがカードに入ってしまわないように用心したのだ。
守生は防音の魔道具を一旦切り、あと一時間ほど施術を続けることを騎士コンビと外で待機するヘレナヘケトに告げる。この連絡も、タロットセッションをスムーズに進めるための処置だ。以前、調理場に勝手に入ってセベーロセベクたちに怒られたことがあるが、施術中やリーディング中に勝手に入室されたら、たとえ国王でもブチ切れる自信があった。そうならないために対策を立てるのは、当然のことだった。
衝立の裏でさっとタロット・リーディングのための【場の設定】をすると、ローテーブルの上に布を敷いて準備する。
そしてクライアントであるセシルセクメトを象徴するカードを一枚置く。他のカードはまとめて手に持ち、少しの間集中し、エネルギーと繋がった。TRUEタロットは、ラー・タロットとも呼ばれる。それは古代エジプトの太陽神ラーのエネルギーによるタロットだと言われているからだった。もしも悪い結果になっても太陽神ラーが軌道修正し、その人の最善の道を示してくれると言う。
「さて、何をお聞きになりたいですか?」
守生がそう言った途端、セシルセクメトがそわそわとし始めた。今までは落ち着いた大人の女性という雰囲気だったが、急に可愛らしい態度だ。
「あの、実は……」
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スランプ抜けたので、明日も夜に投稿します。




