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フィリップハピの処遇

 アリーアヌビスの対応を騎士コンビに任せたヘレナヘケトが、守生のそばでささやく。

 

「シュー様、少しご相談したいことがございます」

「はい、なんでしょう?」

「フィリップハピのことなのですが、本日完全に戻ったそうです」

「それはよかったです!」


 万感の思いを込めて守生は言った。

 毒により、昆虫族化していた大貴族フィリップハピ。守生と国王に忠誠を誓っていたため助けたが、虫嫌いの守生には辛い仕事だった。ここにいるみんなが励ましてくれなければ、逃げ出していただろう。

 

「それで、どう扱うかに苦慮しておりまして……」

「え? 家に返せばいいだけでは?」

「いえ、息子に家を乗っ取られておりますし、何より息子が懐いている自分の兄が怖いそうで……」

「お兄さんに誘拐されて毒を飲まされたわけですもんね……。地下牢に入れられていたみたいですし」

「本人もシュー様の元で働きたい、住む部屋はシュー様のおそばならどこでもいいと申しております」

「と言われても……」

 

 元は大貴族なのだ。二階にある使用人の共同部屋に入れるわけにもいかないだろう。フィリップハピがどう思うかはともかく、今まで守生に尽くしてくれた人たちに要らぬ迷惑がかかる。

 

「はい、敵対していた人間ですから、シュー様のおそばに置くなどとんでもないことでございます」

「また寵愛がどうのと言われても困りますしね……」

 

 守生がしているのはただの贔屓だが、どちらにせよフィリップハピを贔屓したくはない。サイラスオサイリスやトリスタントートならうまく使ってくれるかもしれないが、ここ数日彼らからの連絡はなかった。

 

「うーん、フィリップさんって、事務仕事とかできるんでしょうか?」

「歴史ある貴族家の出身ですし、一通りのことはできるかと存じます」

「じゃあ、セベーロさんたちのことを任せようかな」

「っ、毒使いを調理場に近づけるなど……!」

「契約書で縛ってますし、毒は取り上げたんですから害はないと思いますけど? それに本人も懲りたでしょうし」

「ですが、シュー様ご重用のセベーロセベクたちにわざわざ近づけるのは……。他の者にも示しが付きません!」

「そうですか?」

「はい。セベーロセベクたちは今や、金の卵です」

「卵……」

 

 守生は魔鳥ミーナミンの卵の味を思い出した。濃厚で鶏の卵よりも大きいのだ。

 

「は?」

「ああ、通訳の魔道具の比喩表現か。……いえ、何でもありません」

「ですから、技能奴隷とはいえセベーロセベクたちに取り入りたい者は大勢おります。それに調理法を盗まれでもしたら大損害でございます」

「でも一応フィリップハピさんは僕と王様の派閥……和平派になったんですよね? 今更お兄さんの方へ寝返ることもないでしょう?」

 

 

 

 その後、フィリップハピ、料理長セベーロセベク、副料理人クリスクヌム、騎士団第五部隊長マリアマァト隊長、副部隊長ネイサンネイトを交えて話し合いが行われた。


 フィリップハピは読み書き計算ができるとのことだったので、守生の要望である料理人のマネージャー役に納まった。そして念のため、浄化魔法が使える騎士にフィリップハピを見張らせることにした。


「調理場ですし、衛生管理は大事ですから」

「いいでしょう。人員は第五部隊が用意いたします」

 

 マリアマァトがその豊かな胸をドンと叩いて引き受ける。

 

 そしてフィリップハピには、食材のコスト管理と料理人たちへの算数の教育指導を依頼する。

 

「付きっきりで大変かもしれませんが、上手くやってください」

「ご期待に添えるよう、粉骨砕身いたします」

「ええええー!」

 

 その決定に動揺したのは料理人側だ。彼らは王城料理人という立場を生かして、高級食材や調味料を使い続けてきた。高い小麦粉も文官と下級騎士食堂の料理人を巻き込んで、試作を繰り返してきたのだ。違法ギリギリの行為を繰り返してきた彼らは、守生の前に平伏した。

 

「セベーロさん、クリスさん、顔を上げて下さい。美味しい食材で美味しい料理を作れるのはある意味、当然ですよ。決められた予算と材料の中でいかにいいパフォーマンスをするかです! 僕はあなた方の力を信じています! あと、豆は安いですから大丈夫です!」

 

 守生の見当違いな熱弁に、二人はがっくりと肩を落とす。

 

「……かしこまりましたー」

「……了解した」


「それと、計算を勉強する時間を取ってくださいね」

「それは困る!」

「料理の研究がありましてー」

 

 料理人二人はごねたが、ヘレナヘケトの睨みとマリアマァトの笑みに、逃げられないと判断して白旗を上げたのだった。

 

 以降、フィリップハピの熱心な調査により調理場のコスト削減と豆料理のレパートリーは増え、守生は喜んだ。予算の麺で、国王と宰相も喜んだ。

 ただし、下級騎士食堂は試作品の試食頻度は減り、一時期の混雑は落ち着いた。

 しかし料理人とフィリップハピが過ごす時間が長くなると、フィリップハピが料理人たちの才能に気づいた。そして試作のための予算を与えるように守生や守生の派閥の者に働きかけることになる。落ちぶれたとはいえフィリップハピの伝手は多い。そのため守生だけでなくカールホルスの近くの人間も巻き込んで、セベーロセベクたちの名が上がるのだった。

 

 一方、騎士団ではまたしても浄化魔法使いが引き立てられたことにより、噂が噂を呼んで騎士団の応募者の中には浄化魔法や低級水魔法しか使えないひょろりとした体格の者たちが増えることになる。

 

ブクマと評価ありがとうございます;;

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