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幕間/フィリップハピの青い息子

「カールホルスからの情報」でチラッと回想があった箇所の詳細です。読まなくても本筋に支障はありません。

 

 時間は数日前に(さかのぼ)り、フィリップハピとのお茶会の翌日のこと。

 

 大広間では、騎士たちの手のひらからキラキラと白い光が噴き出ていた。

 もしも守生にそれが見えたなら、ゆるい、プチかめ〇め波のようだと思ったことだろう。

 

 息を吸いながら地上のエネルギーを引き出し、息を吐きながら前方へ放つ。

 騎士たちは真剣な顔で熱心に守生の説明を聞き、動きを真似る。

 呼吸音と衣擦れ、サンダルが大理石の床に擦れるかすかな音の中、その日五回目の講習でついに、守生の声が枯れた。


「アー、みなさん、大体分かってきましたね。アー、ここからは、講師が変わります。講師たちの動きは完璧なので、よく見ながらやってください。僕は後ろからみなさんの動きをチェックします。ドム、アベル、ウーナさん、レネーさん。そのままでいいから、よろしく」

 

 そもそもチドーの指導において、個人的な指摘はしない。「こういう動きをしている人がいるので、こういう風にしてください」と全体に伝えるだけだ。

 その説明で本人が気づけば良し、気づかないのならば仕方ない、また説明した時に気づくだろう。そんな風に自主性を重んじるやり方なのだ。守生は異世界でもそれを踏襲している。


 騎士たちの間に、【大いなる幸い】様の点検だと緊張が走った。守生はちょっと休憩したいだけなのにおかしなことになったぞと内心困惑した。

 困惑したのは、騎士コンビとお稽古コンビもだ。突然講師だと言われても、下級騎士と奴隷がやれるとは思えなかった。

 

「アベル、どォするよ?」

「やるしかないんじゃないすか? シューさん、声枯れちゃってるし。毎晩自分で自分に【えんそふぃー】してるみたいだけど、もう限界なんすよ」

「……じゃあ、どっちが前に立つゥ?」

「オレ、やるっす」

 

 そう言ってアベルアヌビスは灰色の眼でパチンとウィンクした。魔眼の魅惑(チャーム)を使えば、反発を抑えられるだろうと言いたいのだ。

 

「じゃあ、いきまーすっ。シュー様みたいにうまく説明はできないけど、そこは勘弁してほしいっすー!」

 

 アベルアヌビスの率直な物言いに、大半の騎士たちはドッと笑った。

 一方で、その変更を良しとしない者も声が上げる。

 

「待て! 私は【幸い】様から習いたいのだ! お前のような騎士見習いに教わるつもりはないぞ!」

 

 大広間の後ろに回った守生が声の主を探すと、フィリップハピの息子だった。講習直前に紹介されたが、けばけばしい青い翼を持った大柄な四十代の男だ。遠目からでもよく目立つ。

 

「控えなさい! その【大いなる幸い】様が決定なさったことだぞ!?」

 

 父親であるフィリップハピが諫めるが、息子は父親を無視して、アベルアヌビスを睨みつける。

 

「おいおい、お貴族様。アベルアヌビスが気に入らないってのか?」

 

 一人の下級騎士が茶化すように言った。アベルアヌビスの先輩騎士の一人で、ダミアンと呼ばれている男だった。

 普段なら貴族相手に言えないことだが、この大広間での講習は身分差がないとされている。国王でさえアベルアヌビスたちの多少の無礼を受け流すし、【大いなる幸い】様は身分を笠に着る者がお嫌いだと、騎士コンビを通じて騎士団員に共有されているからだ。

 ダミアンを応援するかのように、他の騎士も声を上げる。


「アベルは【大いなる幸い】様の護衛騎士だぞ?」

「チドーだって一番上手い!」

「手足が長いからよく見えるし」

「耳も長いぞー!」

「誰かぁ、ドムトートも上手いって言ってやれよー!」

「ドムも上手いぞ! ちっさいけどな!」

「よっ、賢者の弟子!」

「宰相閣下の懐刀!」

「ウーナちゃん、かわいいぞー!」

「レネーちゃんもいい動きだぞ!」

 

 騎士団たちが囃し立てる中、フィリップハピの息子が怒鳴る。フィリップハピは息子を抑え込もうとして、逆に床へ転がされている。

 

「うるさい! 俺を誰だと思っている!? 元大臣パトリックハピの甥で、大貴族フィリップハピの長男だぞ!」

「それがどうした!」

「大貴族様は床で寝てるぞ!」

「父親を粗末に扱っていいのか?」

「こっちは【大いなる幸い】様のご寵愛者たちだぞ!?」

「引っ込めー!」

 

 黙って見守っていた守生が、まずいと思って声を上げようとした時、ぐいと手首を捕まえられた。


(誰!?)


 騎士コンビ以外にも護衛はいるのにと振り返ると、宰相ハルムイムホテップだった。

 

「これは良い機会です。もう少しばかりご静観を」

「ですが……」

 

 その時、けばけばしい青の翼の男が風魔法を騎士に向かって放つ。寵愛者であるアベルアヌビスではなく、騎士だから手荒くしても大丈夫だと思ったのだろうか。

 

「あっ!」

 

 放った瞬間、男はその魔力によって拘束された。黒い霧によって手足を縛られ、口と目を塞がれる。

 

「もしかして、誓約の魔道具が発動しました?」

「ええ。シュー様の派閥の者に具体的な悪意を示せば、それに応じて対応してくれますので。かなりの悪意だったようですね」

「便利すぎて怖いっ!」

「ええ、ですから相手に契約書を書かせて血判を押させるのが難しいのですよ。まぁ、このように誓約した者を派閥の者だと認める作用もありますので、騎士団同士の諍いが減ったと聞いています。チドーに参加しなくても誓約書を先に書く下級騎士も多いとか」

 

 平和っていいですよねとハルムイムホテップが微笑む。ハルムイムホテップ自身、貴族出身とはいえ出自では苦労しているので、身分が低い者の立場を分かっているのだろう。


「彼らの防波堤になれるのならうれしいですけど。闇魔法っぽいのが気になりますね」

 

 守生はガリガリと頭を掻くのだった。

 

 

  ◆


 そして現在。

 

 

明日も夜九時頃に更新します

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