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フィリップハピの懺悔

 

 そして現在。フィリップハピへの【DNAアクティベーション】の施術を前に、守生はガタガタと震えていた。


「シュー様、そんなにお嫌でしたら、おやめになっても……」

「いや、ここはぜひ【稀有なる光】に頑張ってもらいたいですね!」


 侍女ヘレナヘケトの言葉を、賢者トリスタントートが遮る。彼と彼の仲間にとっても今回の施術は大事なことだっだ。

 

 守生ふと、護衛騎士のアベルアヌビスを見る。すかさずアベルアヌビスが、【シャンバラ・アクティベーション】した手で守生の肩を力強く抱き寄せる。

 

「ぐえっ」

「やべっ、ちょっと強すぎました?」

 

 アベルアヌビスが力を緩めたが、それでもハグを続けた。そして相棒のドムトートにも、守生を励ませと目で語る。

 ドムトートは仕方ないと言いたげにふわふわした毛の頭を掻いてから、【シャンバラ・アクティベーション】を手に描いた。その手で、守生の背中や尻をバシバシと叩く。

 

「シャンバラのー、気合いだ! 気合いだ! 気合だー!」

「ぶふっ」


 元の世界で聞いたことのあるフレーズに、守生は思わず噴き出した。

 

「シューさまー、ぼくも、ぎゅーっ!」

 

 垂れ耳のアリーアヌビスが守生の足にしがみついた。

 

「おしごと、がんばってー」

「……頑張っても、いいのかな?」

 

 守生はアベルアヌビスとのハグを解くと、しゃがんでアリーアヌビスに視線を合わせた。


「おしごとがんばったらねぇー、おかねがもらえるんだよー!」

「う、うん……確かにそうだね。後でちゃんともらうよ」

「そしたらねぇー、みんなといっしょにいられるし、おなかいっぱいたべられるのー!」

「そっか、そうだね」

「だからシューさまも、がんばってー!」


 守生は両手を伸ばし、寄って来たアリーアヌビスを抱き上げる。それからその後ろに立っていたレネーレネネトを見る。

 今から守生は、レネーレネネトとアリーアヌビスの親の仇、フィリップハピを元の姿に戻すために、施術をするのだ。

 

「……ごめん、レネーさん」

「大丈夫です。シュー様がやることに、間違いはないから」

「そういう信頼もなんか怖いんだけど……」

 

「シューさんが決めた通りにしたらいいんですよーっ。レネーが言いたいのはそういうことっす!」

「そっか」

 

 アベルアヌビスの解説に、守生は頷く。それからアリーアヌビスをレネーレネネトに渡すと、侍女ヘレナヘケトに合図した。

 全身を昆虫族化させたフィリップハピが、神妙な態度で部屋に入って来る。代わりに騎士コンビ以外の人間が退室する。

 

「お待たせしました、フィリップハピさん」

「こちらこそ罪人の身でありながら、過分なご温情を掛けてくださり、恐縮でございます……」

 

「ああ、罪を犯したという自覚があるんですね」

「はい、恥ずかしながら……」

 

 守生が思わず口に出してしまった言葉に、跪いていたフィリップハピは皮肉を言われたのだと思い、体をさらに委縮させる。 

 フィリップハピは助けられてから、息子たちに棄てられたことを知った。

 昔日の罪を自供した国王には、どうでもいい者のように扱われた。

 行き場がなく、【大いなる幸いを運ぶ者】の客人として遇されてはいる。だが昆虫族化した姿に、侍女たちの視線は冷ややかだ。

 そして、今の自分と似た、昆虫族の遺骸で埋め尽くされた微温浴室の床を見た時、自分もこういう目に遭うのではないかと恐怖した。

 大貴族としての「日常」が崩壊し、いつ殺されてもおかしくない立場にいる。たった数日のことなのに、その変化をまざまざと見せつけられた。

 

「ああ、別にそういうつもりじゃありません。以前のあなたは人を昆虫族化させることに罪悪感をお持ちでないようでしたので」

「そう、でございますね。兄に楯突く向こうが悪い、解毒剤を持っていない向こうが悪い、奴隷として買ったのだから何をしてもいい。傲慢にもそんなふうに思っておりました」

 

 守生がフィリップハピを見遣ると、俯く彼のうなじの一部が人の肌に戻っている。【ホーリーウォーター】が効いているようだ。

 だが、ここまで全身が昆虫族化したのだ。【ホーリーウォーター】だけでは無理だろうと、守生は腹を括った。今から【DNAアクティベーション】を施術するのだと。


「【DNAアクティベーション】は死と再生のワークと言われています。一度死んで生まれ変わる。今のあなたにぴったりかも知れませんね」

 

 守生の言葉に、フィリップハピの目から涙がこぼれ、大理石の床を濡らす。その異形の顔に、守生は真っ青になりながらも、立つようにうながす。

 

「では今から、【DNAアクティベーション】の施術を始めます。最初はハグをします」

 

 守生は何度も深呼吸すると、天上の光に意識を向け、自分自身と繋げた。そうすることで自分の感情を切り離し、人を超えた存在としてヒーリングを行なうことができるのだ。

 それからフィリップハピのその硬く光沢のある体をやさしく抱きしめる。

そして椅子に座らせた。


「じゃあ、頭に触れますね。そのまま前を向いていてください」


後ろから硬い頭部に触れる。怖い、気持ち悪いと思うこともなく、守生はただ無心で施術するのだった。

 

 

次からは、セシルさんたちへのDNAAや、オークションなどイベントに向けて動いていきます。兄パトリックハピは果たして。


ブクマなど、ありがとうございます! 心が折れる回数が減りました。

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