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68 大広間の喝采

 この話の後半を少し書き換えました。

 また、この続きの6000字ほどを二話に分けて公開たんですが、書き直した9000字を三話に分けて投稿しました。ややこしいことをしてすみません。

 翌日の朝、守生はアイシャアイシスの壺を抱えて、大広間へ向かった。壺の台はヘレナヘケトが収納の指輪に入れ、騎士コンビとお稽古トリオが随行する。

 

 大広間をパワースポット化してから、マリアマァトとネイサンネイトの指示で数十人の騎士たちを入場させた。両手を伸ばし、等間隔になるようにする。

 守生の前には十人ほどのスペースを確保し、待ち人が来るのを待った。

 

「シュー様! お招きありがとう存じます」

 

 王女エリスイシスが小さな手足を優雅に動かして、お付きの者たちと入場する。

 その姿に、後方に立つ騎士たちが一斉に跪いた。

 

「エリス姫、来てくださってありがとうございます」

「シュー様からチドーを習えること、とっても楽しみにしておりましたの!」


 それから王女エリスイシスは、ちらりとアイシャアイシスの壺に視線を送った。


「大事にしてくださっているのですね」

「大事にというか、僕がいろいろ助けてもらってます。貸していただきありがとうございます」

「ふふふ、それはよろしゅうございますわ」

「始まるまでもう少し時間がかかるので、アイシャさんとおしゃべりしててください」

「はい、そうさせていただきますね」

 

 エリスイシスが防音の魔道具を取り出して、アイシャアイシスと会話を始めた頃、次の待ち人がやってきた。

 騎士たちは敬礼こそしないものの、宰相と白い翼を持った貴人の姿に驚きの声を上げた。何しろこの魔力操作の講習会には、【大いなる幸いを運ぶ者】と国王への忠誠が不可欠なのだ。この国の宰相であるハルムイムホテップはともかく、各国を流浪する【不老の賢者】はどの国の王にも仕えないことで有名だった。

 そして二人とも、体のまわりがかすかに光っている。何だろうと不思議に思う者が多い中、噂に聞く【大いなる幸いを運ぶ者】の光魔法を受けたのかと数人が気づき、それが大広間に伝播していく。

 

「【稀有なる光】! 誘ってくださってありがとうございます。おもしろそうなことをやっていたのですね!」

「【黒曜の頭脳】、来てくださってありがとうございます。その後、いかがですか?」

「絶好調ですよ! おもしろい気付きを得た【聡慧の空】に付き合って研究三昧です! ……と言いたいところですが、久しぶりに『表』に出ました」

 

 最後に賢者トリスタントートが小さな声で付け足した。鉄鍋作りの方は順調ですからという言葉に、守生はうなずく。これ以上はここで話さないほうがいいだろう。いつもは静かな騎士たちが、今日は妙に騒がしい。

 

「シュー様、私にもお声がけくださりまして、ありがとうございます」

「ハルムさん! ようこそようこそ! その後、いかかがですか?」

「ええ、ええ。仕事と研究三昧です! 全然寝なくても絶好調ですよ!」

 

 その言葉に、守生は真顔になった。

 

「……いや、ヒーリングはそういうんじゃないので。ただでさえお忙しいんですから、夜は寝てください」

「はい、申し訳ない」

「いえ、差し出がましいことを申しました」

 

 父親の年に近いハルムイムホテップと、頭を下げ合う。その時、入り口の騎士が大声を上げた。 

 

「国王陛下の、おなーりー!」

 

 守生以外の全員が一斉に跪くが、カールホルスは鷹揚な態度で立つように指示した。

 そして守生にいそいそと近寄って、くるりと回転した。

 

「どうです? 光っているでしょう」

「施術した後も言いましたけど、僕にはそれが見えないんですよ……。まぁ、オーラの状態は良さそうですけど」

「自慢し甲斐のない反応ですねぇ」

「いや、僕が施術したのに、自慢されても……。まぁ、調子が良さそうで何よりです」

「フフン。お陰様で?」

 

 カールホルスが右上がりに答える。

 騎士たちは驚いた。何を話しているのかは聞き取りづらいが、高慢な態度の国王カールホルスが【大いなる幸いを運ぶ者】と親し気に話しているのだ。

 国王のその姿も薄っすらとだが光り輝いていることに、騎士たちはさらに興奮した。一時は国王と【大いなる幸い】という図式が噂されていただけに、二人の親密さを見た騎士たちはより興奮したのだった。

 

(あれー? エリス姫や宰相さんたちを参加させたら、体育会系の空気が薄まるかと思ったけど、なんかテンション高いなぁ。王様効果かな?)

 

「人気者ですね、さすが王様」

「……あなたのそういうずれているところが、私は嫌いです」

「えっ、じゃあもう帰ります?」

「ちょっと! 宰相には人当たりがいいくせに、どうして国王である私には冷たいんですか!?」

「いやぁ、ハルムさんは苦労人って感じなので、つい応援したくなるんですよねぇ」

「私だって苦労してるんですけど!? もっと優しくしたっていいんですよ!?」

「うーん、ツン多めでデレがないとこちらも塩対応になりますよねぇ」

「ぐぬぬぬ……」

 

(僕がちょっと大人になれば丸く収まるんだろうけど、王様もこのやり取りを楽しんでるような気がするような、しないような……)

 

 そろそろ始めようかと思った時、守生の護衛を全面的に管轄しているマリアマァトが、はきはきした声で願い出る。

 

「シュー様! あと三名、シュー様にお目通りいただきたいのですが」

「もちろんです。どなたですか?」

 

 マリアマァトの指示でやって来た騎士、侍女、下男が守生の前で跪く。

 

「あなた方は……!」

 

 騎士の顔に見覚えはないが、侍女と下男は昆虫化の被害者だ。つまり、ずっと布を被っていた騎士がこの男性なのだろう。額に古傷のあるヒグマの顔をした男性だ。守生専属の料理人にもヒグマ男がいたが、彼よりずっと大きな体格をしている。

 彼らを知る第五部隊の騎士たちがざわざわとし始め、それが他部隊の者にも伝播していく。

 

「【大いなる幸いを運ぶ者】様の御力により、我ら一同、元の姿に戻ることができました。ありがとうございます」

 

 昨夜、レネーレネネトたちへ施術した後、彼らへ【エンソフィックレイキ】を施術した。

 それで解毒できると思っていなかったが、少しでも本来の体の状態に戻るようにと守生から申し出たのだ。

 比較的軽傷だった侍女と下男はそれで治ってしまい、守生はヒーリングと光の存在のサポートを舐めていたと大いに反省をした。

 

 そして顔に被害を受けた騎士には、布をかぶったまま【DNAアクティベーション】を施術したのだ。合計四時間の連続施術に、守生は崩れるように眠ってしまったのだが……。

  

「あの後、騎士の方も治ったんですね……!」

「はい! 彼らにはあの後シュー様のお部屋の真上に移動してもらいました。そして一晩『ぱわーすぽっと化』とやらの恩恵を受けさせました。 ああ、ちゃんとそれぞれの空間を衝立で分けましたし、念のために私とネイサンが交代で不寝番をしましたよ。何もなかったとしても、嫌な噂は立つものですから」

 

 マリアマァトが大きな胸を張って言った。こまごました事にも配慮してくれたようだ。

 守生の部屋の真上の部屋は、守生の部屋と同等にパワースポット化されている。カールホルスに言われて王城のあちこちをパワースポット化しているが、パワースポット化した「だけ」だ。守生が行なった【場の設定】の恩恵を受けるなら、同じ部屋が一番で、二番目は上下どちらかの空間にいることだろう。

 

「ありがとうございます、マリア隊長、ネイサン副隊長」

 

 守生の謝辞に、マリアマァトとネイサンネイトが騎士の礼で応える。

 

「この私、【不老の賢者】トリスタントートの水薬(ポーション)も役に立ったことも、称えてほしいものですね!」

「もちろんです、【黒曜の頭脳】! あなたのおかげです! とっても心強かったですし!」

「結構、結構!」

 

 守生が大真面目に答えると、トリスタントートは機嫌よく長いくちばしを縦に振った。

 

 

「三人とも良かったな!」

「まるで奇跡ですね!」

「だな! おめでとう!」

「おめでとう! 一体どうやって治ったんだ?」

 

 話の聞こえた騎士たちが、彼らに声を掛けていく。騎士は堂々とした態度で守生とトリスタントートがしてくれたことを大きな声で説明し、侍女は恥ずかしそうに俯き、下男は恐縮しているが、三人とも嬉しそうだ。


「さすが【大いなる幸い】様だ!」

「【不老の賢者】様も一役買ったそうだぞ!」

「そりゃすごい!」

「【大いなる幸い】様が来られてから――」

 

 あちこちで騎士たちが明るい声で話し出したが、マリアマァトは咎めもせず仁王立ちで頷いている。王女エリスイシスも部屋の隅で、控えめに拍手してくれている。

 トリスタントートはご機嫌でいるし、守生は恐縮し始めた。治ったのはとてもうれしいが、自分のおかげだと言われると背中がムズムズする。それに、もっと早く【エンソフィックレイキ】をしていれば、彼らを苦しめずにすんだかも知れない。

 

「で、いつ始めるんですか?」

「そうですね! 始めましょう!」


 そんな喝采ムードに切り込んだのは、国王カールホルスだ。守生はよくぞ言ってくれたと喜んで指示を出す。

 

「みなさーん、両手を広げて、前後左右の方と当たらないようにして立ってくださーい。遠くの方は、僕の仲間が手本を見せにいきまーす」

  


 騎士コンビとお稽古トリオにも手振りで、部屋に散らばって手本を見せるよう指示した。

 アリーアヌビスは守生のそば、エリスイシスの隣りに立ってもらう。十歳の少女と六歳くらいの男の子のツーショットに、守生は庇護欲をくすられた。

 

(かわいいは正義ってホントだね!)

 

「それでは、その場に立ったままー、手だけ動かしましょうー。右手をゆっくりと、胸の前まで上げまーす。大地の波動を感じながら、それをゆっくりと持ち上げるようにー」

  

「ゆっくりとー、手を前に出しまーす。息を吐きながらー、前方の……に波動を放つようにー」

 

 守生は指導しながら、ふと思った。

 午後からフィリップハピのところに行く必要がなくなったのでは、と。


(でもせっかくだし、王様と宰相さんにあのことをお願いしてから戦いに行こう。今ならトリスタンさんもいるから王様へ援護射撃してくれそうだし……)



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