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22 ドムトートの作戦

 サウナ風呂で汗をかきながら、守生は思案する。俯いて黙り込んでいる守生に、ドムトートとアベルアヌビスの騎士コンビが声を掛けた。

 

「シュー、どうした?」

「シューさん、気分悪いっすか?」

「いやぁ、さっき二人に鰹の包み焼きを食べてもらったけど、夕飯にまた魚が出たらどうしようって思ってさ」

「なんで喰えなくなったんだァ? 昨日の晩は喜んでただろォ?」

「うーん、そうなんだけど。やっぱり仲間の命を奪ってまで食事をするのってどうなのって思って。他の方法があるのに」 

「仲間? 魚がってことだよなァ?」

「そう。魚とは意思疎通できないけど、それぞれ役目を持って地球に、つまり同じ星に生まれて来た仲間なんだ」

「ふーん?」

「シュー、それってもしかして、昼食の時に給仕してくれた侍女サンと関係あったりするかァ? あの人の顔を見てから、シューの様子がおかしくなったよなァ?」


 ドムトートの指摘に、守生は頭を掻いた。ドムトートはいつも気だるげな態度だが、守生をよく見ている。

 

「そんなに分かりやすかった?」

「俺にはなァ」

「さっき給仕してくれたのって、ハンナハトメヒトさんすよね」

「お前、よく覚えてたなァ」

「だってマリー隊長が不審なヤツを見つけたらぶっ倒せって言ってたから! みんなの顔と名前、バッチリっす!」

 

「あ、分かったァ。あの侍女サンが魚人族だったから、魚を食べられなくなったとかァ?」

「えっ!?、ハンナさんは魚人族だけど、魚じゃないですよ? それって、さっきのドムさんの悪口に似てないっすか?」

 

 人が嫌がることは言っちゃだめっすよー? とアベルアヌビスが不思議そうに言った。

 

「えっ!? いや、そんなつもりはないよ!」

「蒸し返すなよなァ。つーか、似てるから申し訳なくて魚を喰えねェってことだろ? 悪口じゃねーだろォ」

「でもハンナさんが聞いたら、嫌な気にならないっすか?」

「んー、どうとも思わないんじゃねーか? 俺が猿に似てるから猿を喰わねーって言われても、だからァ? って感じだけどな」


 騎士コンビの会話を聞きながら、守生は頭を抱えた。自分が滑稽なことをしているように思えてきたのだ。

 けれど、食べたくないという気持ちがなくなったわけではない。

  

「まァ、喰いたくねェもんを喰わねェって言うのも、貴人の特権じゃねーの?」

 

 スラム育ちから騎士になったドムトートの、身分社会に染まった言葉に守生は撃沈した。

 

「わがままで、すみません……」

 

 居たたまれなくなった守生は、座っていた長椅子の上で土下座する。そのまま小さくなって頭を抱えた。


「シュー!? 何してんのォ!?」

「シューさんっ! 頭、頭上げてっ!」

  

 この世界に来てまだ四日。守生に貴人としての自覚はない

 

「オレ、風呂に入ってこんなに冷や汗かいたの初めてっす!」

「俺もォ」

「えーと、驚かせてごめんね?」

「分かってねェだろ……」

「分かってないっすねー」

 

 体を洗い、二人の体が充分に温まってから、三人で冷浴室に移る。

 

「訓練場にも行くなって言われたし、運動のために泳ぐ?」

「いいっすね! ヘレナヘケトさんも部屋の移動があるからごゆっくりって言ってたし!

「あー、運動するのは賛成だが、あとで時間をもらいてェ」

「何するんすか、ドムさんっ!」

「とにかく、泳ぐぜェ!」

 

 わくわくしているアベルアヌビスを振り切って、ドムトートが勢いよく浴槽に飛び込んだ。アベルアヌビスもそれに続く。

 ドムトートは犬掻き泳ぎで、アベルアヌビスは平泳ぎだ。湯浴み着の前がはだけないようにしているのだが、長い手足を大きく動かしていてなかなか速い。


「二人とも速いねー!」

「食うもんない時は海で獲ってたんでーっ!」

「いや、この街に住む人間なら誰でも泳げるからァ」

 

(そういや古代オリンピックの競技種目に水泳がなかったのは、泳げて当たり前だったからって聞いたような? 本当なのかな)

 

 守生は二人の泳ぎを眺めながら、おいちにーさんし、と掛け声を心の中で唱えながら準備体操をする。

 それから水に浸かり、横泳ぎを始めた。片腕だけ伸ばして耳を付け、片腕と足で泳ぐ。推進力がなくなった反対側を向いて同じように行なう。クロールのようにスピードは出ないが、疲れにくい泳ぎ方だ。泳いでいると火照りが取れて、気持ちいい。

 あとは泳ぎをクロールに変えて、浴槽の端から端まで一気に泳ぐ。


「シューさん、速いっすねっ!」

「どういう泳ぎ方してんだァ?」

 

 アベルアヌビスとドムトートに泳ぎを見せると、あっという間に習得してしまった。息継ぎの仕方まで完璧だ。楽しいのか、合間に笑い声まで聞こえてくる。

 

(運動チートめ!)

 

 守生はなんだか悔しくなって、潜水とバタフライもやって見せる。子どもの頃に少しだけ水泳教室に通っていたので、速さはともかくいろいろな泳ぎ方を知っているのだ。

 

「シューさん、すげーっ」

「まぁね。でも、泳がずにただ水の中を歩くだけでも楽しいよ」

「そうなんすか?」

「うん。大勢で泳いだら大きな流れができるし。泳がずに漂うだけでも楽しめるよ。そのうちアリーくんも誘って」

「だめっす!」

「え?」

「ま、まだ慣れてないから! 誘っても来ないっす、よー」

「そうだね、また誤解されるのも悲しいし」

「そうっす!」


 話を聞いていたドムトートが、冷浴槽に水魔法を掛ける。

 だが、水が多すぎてうまくいかない。

 桶を取ってきてやってみれば、小さな渦が回り続けている。


「おー! できてる!」

「ちいせェけどな。後は練習次第だなァ」

「ドムさん、楽しみにしてるっす!」

「へぇへぇ」

 

 アベルアヌビスがまた泳ぎに行ったあと、守生はドムトートに頼みごとをした。

 

「この渦って左回りだけど、右回りにできる?」

「へァ? ……まぁ、できんじゃねーのォ」

 

 ドトートは少し困惑しつつも、水魔法を掛け直した。だがうまくいかないようで、何度かやり直す。


「できたァ!」

 

 今度は守生の希望通り、時計回りの渦だ。

 

「おー! ありがとう! いいね、いいね!」

「なんでそんなことにこだわるんだ? 確かに水を流すと右回りになるけどよ。そんなこと気にしたこともねェぜ?」

「んー、こっちの向きが好きなんだよ。ヒーラーとして」

「ふーん?」

 

 

 

「満足したっすー!」

 

 プールから上がって首を振り、水気を切っているアベルアヌビスを見ながら、ドムトートがぼやいた。

 あんまり成長してねェなァ、と。

 

「え? 何が? アベルのこと?」

「ちょっとォ! 今、ドムよりアベルの方が大きいのにって思っただろ!?」

「あ、顔に出てた? あはは。……で、何が成長してないの?」

 

 守生もなんとなく声をひそめる。

 

「アベルのやつも、部隊長と同じくらいとまでは言わねェが、もうちょっと育てばと思ってよォ」

 

 ドムトートが深刻そうな表情のまま、首を振る。

 

「マリア隊長さんと同じくらい?」


(アベルの方が隊長さんより背が高いのに? 落ち着きとか、精神的なものを言ってるのかな?)

 

「まぁ、アベルもゆっくり成長してるわけだし」

「ふーん。シューがそういうなら俺に文句はねェよ」

「うん?」

 

 

アベルアヌビスが守生たちの方へ戻ってくると、ドムトートが口を開いた。

 

「んじゃ、これからの行動だけどォ」

「行動?」

「シューはもう魚を食べたくないんだろォ? で、ずっと言ってるのに豆はあんまり出てこねェ。料理人が使いたくねェのか、調理方法がわからねェのか。その辺の相談をするための行動だ」

「あ、うん。あと、食材や味付けについても話し合いたいな」

「ヨッシャ。ヘレナヘケト嬢は引っ越し作業の指揮を取ってる。調理場に行くなら今がチャンスだなァ」

「え、ちょっと待って! 人払いしてから動かないと不味いんじゃないの!?」

「物は考えようだろォ。予定にない行動をした方が、相手側への攪乱になる」

「そう、なのかな? いや、調理場がどこにあるか分からないから何とも言えないけど」

 

 守生が首を傾げると、黙って聞いていたアベルアヌビスがのんびりした口調で言った。

  

「確かに、ここから風呂係の使う通路を使って行った方が、調理場に近いっすねー」

「大きな水脈が集中してるとかで、水場が多いんだよ。俺たち水魔法使いにとっては、パワースポットってやつだなァ」

「なるほど」

 

 水脈があるところに水の魔石を置くと水を引き出しやすいという話をヘレナヘケトから聞いたばかりだ。

 古代からの叡智とはまた違うが、こういった知識を得るのもおもしろいなと、守生は呑気に思った。

 

「じゃ、着替えたらすぐ出発すんぜ。ヘレナヘケト嬢には風呂係に伝言残しておけばいい」

「うん……大丈夫かな?」


「だってシューさん、行きたいんっすよね?」

「黙って俺らについて来い!」

 

 二人にそう言われて、頼もしさを感じてしまう守生だった。

 

 

明日水曜日20時更新は、できるか分かりません。できなかったら木曜日になります。

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