第459話 第2決戦・オトハ&オウランvsケーラ&メロッタ3
「……失礼いたしましたわ」
オトハはさっきまでの理不尽すぎる激昂はどこへやら、真剣な顔付きで周囲に毒を生成して……いや、真面目なのはいいけど、あれだけ色々ぶっぱなしておいて、急に真面目になられるのもなんか腹立つなおい。
「ノアマリー・ティアライト様の側近が1人、オトハ―――その覚悟と決意、何より強さに敬意を表し、全力でお相手いたしましょう」
「……正気に戻ったなら何よりだよ」
「何言ってますの?私はずっと正気ですわ」
「そうか。さっきまでの凶行が狂ってたことにしてやってる弟の気遣いを汲め馬鹿野郎」
まあ、いい。この2人に勝つには、僕らの協力は不可欠だ。相手が連携で来る以上、こっちもそれに応戦する。
「じゃ……殺し合いましょうか」
「ええ。望むところです」
さて……頭を整理しよう。
相手は金属魔術師と封印魔術師。封印魔法には攻撃の手段は少ないが、金属魔術師がこの中で頭1つ抜けて強いから、大きなハンデにはならない。
相手の魔力量自体は、おそらくこちらと大して変わらない。ケーラがある程度多いくらいか?
一見相手が優位に思えるが、僕らの場合、そこに1つの要素が加わる。
相性だ。
オトハの毒劇魔法は、メロッタの生成・運用するあらゆる金属を、操作不能になるまで破壊できる。これ以上相性がいい魔法はない。
さらに僕は、耐性魔法によってケーラの封印に耐性を得ることで、封印による被害をカバー出来る。
そう、互い互いに相性が最高だから、この程度の力量差は覆せるはずだ。
……だが、それは向こうも同じこと。今の考えを逆にするとどうだ。
オトハの毒性は封印されることで無力化する。
僕の耐性は金属操作による圧倒的な質量攻撃を続けられると、解けた瞬間を狙われる。もっと言えば、金属で出来ている弾丸は使えないから、僕の銃も効果半減。
つまり耐性は封印に、封印は毒劇に、毒劇は金属に、金属は耐性に強い。
……動けない。
このまま2対2のバトルになれば、僕らの勝機は4割といったところか。
僕がケーラ、オトハがメロッタを相手にする1対1になれば、勝率は8割を超える。
その代わり相手が逆になれば、一気に1割近くまで下がるだろう。
だからこそ、今は敵が動き出すのを待つ。オトハと離れないように立ち回り、あわよくばケーラを分断する。
……だがその考えは甘かった。
「来ないか。それならば!」
ケーラが地に手をついた瞬間、足元から黒いモヤが―――違う、砂鉄か!
「オウラン!」
「分かってる!」
即座に耐性を付与する……が、耐性魔法は自分への負の影響を軽減するのみ。エネルギー自体は消しきれない。
「クソッ!」
近くの柱まで吹き飛ばされた。
さらにそこに、巨大な剣と無数の砂鉄による連撃!
「う、おっ!」
《無敵化》を使うか?いや、あれは本当の切り札だ。5分しか使えない以上、使いどころを誤れば死ぬ。
まだ分断というほどではないが、このまま金属で物理的に壁を作られたら終わりだ。
「ふー……」
砂鉄で僅かに傷ついていく身体、その痛みを無視しつつ、リボルバーの引き金を引いた。
「!」
狙うのは、オトハを抑えようとしているケーラの方だ。
案の定、メロッタは弾丸を停止させようとする。だが、この弾丸と銃は僕が改造した特別製。射程距離を犠牲に、限界まで回転数を上げてある。
「ぐっ!」
いかに卓越した金属魔術師といえど、毎秒9000回転する超速の弾丸を止めるには集中が必要だ。やはり砂鉄を維持することは出来ないか。
「オトハ!」
「ええ!」
緩んだ砂鉄の隙間に飛び込んで脱出、僕の摩擦耐性を下げてスライディングで滑って離脱。
弾丸を止め切ったメロッタ相手に、瞬時に調合された多種多様な毒が飛ぶ。
「《毒封印》!」
そりゃ防がれるよな。想定済みだ。
魔力温存のため、封印対象を毒のみに絞ることもな。
―――ズガンッ!
「!?つうっ!」
「ケーラ!」
続けざまに撃ったのは、ナユタに教わって手内職で作った、特性のゴム弾。しかも金属を一切含めてない特別製だ。
さっきの弾丸は、回避と同時にブラフ。わざと止めにくい弾丸を使うことで、僕の金属魔法への対策があの弾だと思い込ませる。
案の定、同じように止めようとしたメロッタの金属操作は効果をなさず、そのラグの隙に、ゴム弾はケーラの右肩に命中した。
「非殺傷弾だが、痛いだろ!」
金属魔術師は、自分で生成した、或いは1度でも視認した金属を操る。逆に言えば、既にシリンダーに装填済みの弾を今この瞬間に操ることはできない。
銃自体も、必要な金属素材を全て内側に含め、見えないように作ってある。
対メロッタを想定して準備しておいた甲斐があったな。
「さあ、次はどっちかな!」
既に中に入っている弾の順番は僕しか知らない。
金属操作で操れるか否か分からない以上、メロッタは弾丸の直接操作ではなく、別の金属で壁を作るしかなくなる。
これでいい。大技で派手に吹っ飛ばすみたいな技がない僕なら、相手の選択肢を少しずつ奪っていくのが最適な戦い方だ。
それは相手も同じ。毒封印が空間に対して展開された今、オトハが相手を確実に殺すためには、接触した状態で封印の内側に直接ぶち込むしかなくなった。
……この戦い、先に相手の手札を消すか、有利な1対1に持ち込んだ方が勝つ。
「オトハ、頼む」
「後悔してもしりませんわよ?」
「いいから早く」
次なる一手のため、腕をまくってオトハに向ける。
ため息の音とほぼ同時に、チクリと痛みが走った。
「う……お……」
「じゃあ私も」
な、なんだこれ。世界が虹色に見える。
普段は聞こえないような音や匂いを感じて気持ち悪い、服の毛羽立ちがチクチクする!
……だが、想定内だ。この程度は。
「なにをし―――!?」
自分でも信じられないほどの速度で銃が引き抜けた。
自分の身体なのに自分のものじゃないような、フルオートで動いているような感覚を覚えるのとほぼ同時に、銃を撃っていた。片方は通常の、もう片方はゴム弾。
辛うじて砂鉄で止めたメロッタに、凄まじい速度でオトハが迫る。
「《封護壁》!」
ケーラによって阻まれる。互い互いを守られるのはやっぱり厄介だな。
「なんだ、今の速度は……!?」
だが、今なら届く。
さっきオトハに打ってもらったのは、ナユタがオトハに教えた7つのオーバースペックな劇毒《Sシリーズ》の1つ《S-6》。
ナユタがルシアスの超人体質を解析して生み出した、いわばドーピング薬だ。
ルシアスの常軌を逸した力の根源である「魔力の超人化」を、少しの間なら誰でも実現出来る。
『……まあ、本家本元の10%程度のものだけどね』
『ナユタ先生でもそれが限界なんですの?』
『そもそも、異常密度の魔力が常に循環しているにも関わらず、平然としてるルシアスがおかしいんだ。あの魔力が常人に宿りでもしたら、その瞬間身体が爆発四散してお陀仏だよ。これでも大分無理をしてる』
ズキンッ、と頭の片側が痛む。
ナユタ曰く、注入状態の限界稼働時間は10分。それ以上は一生もののハンデが身体につくらしい。
……毒劇魔法の副次効果で、副作用の影響を受けないオトハ以外はな。嫌な格差だ。
まあとにかく、今の僕らはあのえげつない超人の10分の1を宿してるってことだ。
覚醒前のルシアスにも及ばないが、それでも常人離れした動き、それこそ今までのオトハのドーピングなんて可愛く見えるほどのもの。
「ラウンド2だな」
自分の力だけで、自分の必殺技でドンパチなんて、僕ら以外の天才たちに任せるさ。
僕らは汚かろうが、卑怯だろうが、あらゆる手段を使って勝ってやる。
ノアマリー様のため。そして、僕を待ってくれているあの子のためにな。




