第457話 第2決戦・オトハ&オウランvsケーラ&メロッタ
横を見ると、いつになくしかめ面をした姉が、腕をプラプラさせて準備運動している。
「オトハ、いけるか」
「私はいつでも。あなたこそ大丈夫なんですの?」
「完璧さ」
「ふーん」
……相変わらず、僕相手にはローテンションなやつだな。
だが、いつも通りのこいつが今は心強い。
本当に最後の、僕らの大決戦の相棒としてはこれ以上ないやつだ。
「ケーラ、準備は」
「大丈夫ですよメロッタ。全力で援護いたします」
「ああ、頼む」
そう言い合って笑う敵たちは、手強い。
死ぬかもしれない。二度と、彼女に会えないかも―――。
「……いや、やめとこう」
自分が負けることを想像するなんて、あの御方の側近らしくない。
全身全霊をもって、戦うだけだ。
ホルスターに入っている銃に触れ、感触が変わらないことを確認。……うん、完璧。
「よし。いくぞオトハ」
「……ええ」
「ん?」
だが、オトハの様子が少しおかしいような気がする。
具合でも悪いのか?こいつが?
毒もウィルスもアレルギーも全部無効化するやつだぞ。
「調子が悪そうだが……それで勝てると思うのか?」
ゾクッ―――と、悪寒。
「どあっぶ!」
死角から襲ってきた黒い塊をギリギリで回避、オトハも突き飛ばして無理やり避けさせた。
「おい何やってんだ!死にたいのか!?」
「し、失礼……ちょっとなんというか、言い表せない不快感というか苛立ちというか……」
「はあ?」
この非常時に何をブツブツ言ってるんだこいつは!
「《魔力封印》」
「ちょっ」
封印魔法は全力で回避だ。ナユタみたいなやばいのと違って、僕らは食らえば即魔力を制限される。
チラリとオトハを見るが、さすがにちゃんとかわしていた。
「その状態で、我々を相手にしますか?」
「っ、おいオトハ!」
「………」
本当にどうした。
何かされたのか?耐性魔法でそれはどうにかなるか?
こんな状態じゃ、勝てるものも―――!
「このまま防戦に入るつもりなら、押し切らせてもらうぞ。なにせ」
「ふふっ」
謎の金属を操るメロッタの腕に、ケーラが腕を絡ませるのが攻撃の隙間から見えた。
「休暇を貰って新婚旅行、ですものね」
「……うん。ま、まあ、そういうことだな」
ああ……そういや付き合ってるんだったか。
いや、新婚旅行ってことは結婚したのか?まあどっちでもいい。
「そりゃおめでとう。じゃあ、永遠に地獄旅行させてやるよ」
やることは変わらない。
2人まとめて倒してやる。
少し心が痛むのは、僕がクロさん曰くマトモだからか、それとも。
『わははは!愛いやつじゃのう、オウランは!』
……あいつのせい、かもな。
***
「よし」
昨日、僕はスギノキで最終決戦の準備をしていた。
必要なものを取りに行く目的もあったが、何よりの理由はもちろん、恋人の顔を見ておきたかったからだった。
「どうだ?ボタン」
「………」
「?どうした」
「声が、凛々しくてっ……かっこよ……すき……」
「え、あ、おう。ありがとう?」
……あの馬鹿姉のせいで、言動がアレになってきた気がしたが、気のせいだと思うように努力をした。
「……なあ、ボタン」
全ての準備が終わった時―――僕は、少し怖くなった。
控えているのは、死闘だ。今までも命の危機はあったが、それとは比較にならない。
だから怖かった。もし、ボタンをおいて死ぬようなことがあったらどうするか。
嬉しいことに、僕はボタンに好いてもらっている。
何もかもを失ってきたこの子に、また何かを失うような目にあってほしくない。
……だけど、明日の戦いはどうしたって避けられない。
「もし―――」
「言わんで良い」
「!」
「どーせお前のことじゃ、『もし僕が死んだら〜』とか思っとるんじゃろ。言うな言うな。ワシだって考えないようにしとるんじゃから」
「けど」
「そんなに気になるか?なら」
ぐんっと重力で浮かびながら僕の至近距離に近づいてきて。
「ワシも死ぬ。それだけじゃ」
「っ、お前」
「ワシはもう神皇ではない。今までは民のために自死など選べんかったがな。じゃがノア殿のおかげで、そしてお前のおかげで解放された。……なら、どう生き死にしようがワシの自由じゃろ」
「だからって、やめろ!お前わぶっ!?」
「ワシはもっと幸せになるべきとでも言うつもりか。断言しよう、ワシをそれに導けるのはお前だけじゃ。それ以外などどうでも良い。ゆえに、お前を失った時、ワシの希望は絶たれる」
ボタンは僕の頬を潰して伸ばして遊びながら、ニカッと笑い。
「わははは、責任重大じゃな。お前の肩には、最愛の恋人の命も乗っとるわけじゃ。死ぬわけにはいかなくなったな」
「!ボタン……」
「お前は必ず、生きて帰ってくる。そう信じとるからな」
「ああ」
……その瞬間、僕は決意した。
本当はずっと懐に入れておこうと思っていたものを取り出して、ボタンの左手を取った。
「うん?なんじゃ。……ははーん、いい子いい子じゃな?良かろう、存分……に……?」
薬指に何かがはまった感触に気づいたのか、ボタンの声が止まった。
そればかりか、浮遊もとけてそのまま落下してきた。
「……その。帰ってきたら、ちゃんと言うからさ。返事はその時にしてくれ」
クロさんは言った。「『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ』と言ったやつは基本死ぬ」と。だからそういうのは全部に片がついたときにしろと。
けど無理だ。こいつを、少しでも繋ぎ止めておきたい。少しでも近づいておきたい。その気持ちが抑えられなかった。
「……ふぇ、え?」
……それでも、全部は言えないのが僕が「ヘタレ」「草食系」「アンポンタン」と散々ボロカスに言われた所以なんだろうな。
***
僕は、負けない。
ノアマリー様のためにも、そして僕のために、あいつのために。
そのために必要なのは、確固たる意思と力だ。
思い出せ、僕の原動力を。僕の出来ることを全て出し切れ。
「これが終わったら―――僕は結婚するんだ」
あえて言ってやる。
この先ノアマリー様をお支えし、あいつを守って生きていくためには、ジンクスなんてふざけたものはねじ伏せていかなきゃならない。
「さあ、始めようぜ」
持てる全てを使って、最後の仕事、果たしてやる。
そして、あいつに……!
「あそっか〜、分かりましたわ〜♡」
……ん?
「うふふふ……うふ、うふふふふふふふふ……」
「……オトハ?」
なんだ、様子がおかしいぞ。
いや、いつもおかしいけどいつにも増して。
「……?どうした」
「何やら、殺気を感じるような……?」
うん、感じる。
だってそれ、若干だけど、僕にも向けられているような……?
「オトハ、どうした。落ち着け」
「うふふふ、嫌ですわねぇ、すこぶる落ち着いてますわ〜。根拠もなくそんなこと言うとブチ殺しますわよ?」
「えっ」
いや、普段から別に口が悪くないというわけではないが。
なんだ今の。
「ただ、ちょっと気づいたんですわ。私が、この2人と対峙した時からずぅーーーっと引っかかってる苛立ちの正体に」
「お、おう?それはなんだ」
「うふふふふ、実に簡単なことでしたわ〜♡」
……笑顔が怖いって思ったの、クロさん以来だぞ。
なんだこいつ、どうし
「よく考えたら〜♡この中で〜♡愛する人と結ばれてないの〜♡私だけじゃねえかですのよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「「うおおおおおおお!?」」
「ちょ、ちょっと……!」
オトハの身体から全方位に、ドス黒い毒液が勢いよく解き放たれた!
「ちょ、おま、殺す気かぁ!」
「そんなんで死ぬわけねぇですわ愚弟!」
毒液を被った柱が、瞬く間に腐り、妙な匂いを発しながらボロボロと崩れていく。
「……今の、当たったら死んでいなかったか?」
「毒劇魔術師が相手なら当たり前では、ありますが……これは、さすがに……」
おい、敵も引いてるぞ。
「なんなんですの!お嬢様にあれっっっだけ愛と情欲を伝えまくってたというのにクロさんに取られ、挙句の果てにはなんでこんなリア充共に囲まれながら戦わなきゃならないんですの私が何したっていうんですの!?」
情欲を伝えてるからだろとか、クロさんは取ったわけじゃないだろとか、お前はやらかしてないことの方が珍しいだろとか、色々言いたいことはあったが、全て飲み込まざるをえなかった。
「あぁ〜、しばらく抱え込んでた多種多様なストレスが爆発した気分ですわ……もう決めました、もう全部ぶっ壊してやりますわ!!ナユタ先生から教わったあらゆる知識と技術を使って、ぜんぶぜぇぇぇんぶぶっ壊してやりますわぁ覚悟しろですわボケナス共ぉ!!」
……ごめん、クロさん。
言うこと聞いときゃ良かった。フラグって大事なんだな。
……ごめん、ボタン。
帰れないかもしれん。お前の親友のせいで。




