二人連れの異国人
「お待たせしました、フライ二つね。ロベールさん、いつも言ってるけど熱いから気を付けてね!」
「ありがとう、今朝は何も食えなかったからもう今すぐにでも齧り付きたいとこなんだけどなぁ。」
「……パンを食ってた。」
「あん?あんなちっちゃなパン一つじゃ腹の足しにもならん。もっとましな宿に移るべきだな。」
「……あと少しの辛抱だ。」
「日々を大切に生きるのが俺のモットーなの!」
クラリスは珍しく会話をしているマルセルをちらちらと盗み見た。
「どうした?マルセルが気になるの?」
「あ、はい…いえ、そうじゃなくて!」
「ははぁ、さてはこの顔に惚れたな?」
「ロ、ロベールさんってば!違いますよ!お話をされてるのが珍しいなと思って気になっただけです。」
ロベールはフライをナイフで大きく切り分けると、フォークに刺したまま湯気が立ち上るのを見ながら破顔した。
「分かってるよ、ちょっとからかっただけ。ひょっとしてマルセルがトロメリンの言葉を話せると思ってなかった?」
「えぇ。聞いたことがなかったので。」
「挨拶はしていたつもりだが?」
「あ、そういえば…そうでした。」
ぼそっと呟いたマルセルの方を見ると、真面目くさった顔をしてナイフで付け合わせの野菜を小さく切っていた。
「トロメリンでの仕事も多いからな。俺だってザール語を話せるんだぜ?」
「え?そうなんですか?」
「何だよその驚きようは?言っとくけど、マルセルのトロメリン語より俺のザール語の方が堪能だからな!」
ロベールはフライを大きく口を開けて食べると満足そうに頷いた。マルセルはそれを横目にまだ野菜をつついている。どうやらマルセルは猫舌らしいということがここ数日でクラリスが気付いたことだ。
「あの…お二人はお仕事の仲間なんですか?」
「ん?あぁ、まぁ…そういうことになるのかな。」
「どんなお仕事なんですか?トロメリンとザールを行き来してるんでしょ?」
「それは今だけだよ。俺たちは……そうだな、何て言えばいいかな?」
「……大きな会社を立ち上げているところだ。」
「大きな会社か……確かにそうだな。今はまだ小さいから大きくするために人材を探しにトロメリンへ来てるんだよ。」
「会社の人材探しに…ですか。なんだか凄いですね。」
「良かったらクラリスちゃんも──」
叔母が向こうのカウンターから手招きをしているのが目に入り、クラリスはお盆を胸に抱えると慌てて二人にお辞儀をした。
「すみません、長話をしてお食事の邪魔をしちゃいましたね。ごゆっくりどうぞ!」
くるりと二人に背を向けるとカウンターへ料理を受け取りに戻っていくクラリスを見送りながら、マルセルは黙って机の下のロベールの足を蹴飛ばした。
「いって!」
『冗談もほどほどにしておけ。妙なことをあの娘に言うな。』
『何だよ?仕事のことはうまくごまかしただろ?』
『それだけじゃない。俺はまだアイツに殺されたくない。』
『ちょっとからかっただけだろ?それにお前の顔に見惚れてた訳でもなさそうだったし。』
『それは確かに……。』
二人は周りの客に話の内容が分からないようにひっそりとザール語で会話を交わすと、再び食事に戻った。
『こっちはあと何日くらいかかる?』
『3,4日…かな?』
『そうか。』
『だから宿を……』
『そんな金はない。』
『そんな訳ないだろ?何ならお前の銅貨をかき集めろよ!』
『面倒なことは断る。』
『……ったくお前らはいつも二言目には面倒だとか言いやがって。やろうと思えば簡単にできるだけの上等な頭持ってんのにさ。』
『余計なことに頭を使いたくないだけだ。そういうことはアイツにこそ言ってやれ。』
『アイツの方こそ今まさに忙しいとこだろ?俺たちが二人ともあっちに居ないんだからな。』
『……フォローは任せたぞ?』
『ったく、誰のせいだと思ってんだよ?』
マルセルは薄紫の瞳を細めると忙しくテーブルの間をすり抜けていくクラリスの姿を目で追った。
『しょうがない。アイツがあれ程までに入れ込む娘をこの目で確かめたかったのだから…。』
ロベールはあっという間に皿を空にすると目の前にあるマルセルの皿を物欲しそうに眺めた。
『それで?あの娘を見た感想は?』
『まだ分からないが……まぁ悪くはない。』
『あぁ確かに。俺も素質はある様に思う。』
『あとは本人次第というところか。』




