第2話 Awakening〜覚醒〜
「ここは……」
ゼロが起きた場所はハンモックの上。周りを見ると、自分の他にも同世代の男女が寝ていることに気付く。どうやら夜まで気絶していたらしい。
「手首が痛くない……」
お腹のあたりに奇妙な痛みを感じていた。しかし不思議と手首は痛く無かった。だがすぐに彼は自分の手首にある模様に気がついた。
「なんだ……?これ……」
朝はこんな模様は無かった。この船の人が焼き付けたのだろうか?しかし、薄暗くて見えないが、周りで寝ている子たちにそんな模様は確認できなかった。
「ああ、やっと起きたのか白髪少年」
「僕は白髪じゃない、銀髪だ……君誰?」
「大変だったんだぞ、お前をこの高いハンモックに乗っけるの。朝船出して連れてこられたと思ったら気絶してるじゃん?夜まで重労働させられた挙句ここに戻って来てもまだ寝てるじゃん。ウンウン魘されて、それで今、夜中の2時だぜ?どんだけ酷いことあったんだよ全く」
そう言われている間でもゼロの頭の中では、彼の名前は?ここはどこだ?重労働?夜中の2時なのになんでまだ寝てないの?と疑問が次々沸いてくる。
そんな質問が来ると予測してたかのように彼は答え始めた。
「俺はカント。将来の目標は建国だ。これからしばらくよろしくな。ゼロ」
「なんで僕の名前知ってるの?」
「お前を連れてきた男の持ってる奴隷契約書に書いてあっただけだよ」
奴隷。自分は奴隷として売られ、二度と普通の生活に戻れないのか。朝のことを思い出しつつ混乱しかけていた。
「ここは俺らと同じ奴隷たちの就寝室。夜の12:00まで船で働いた後は、朝の5:00に起きて始業だ。睡眠時間は5時間しかないから、遅寝早起きになっちまうがな。まあ、今日のお前はずっと寝てたからもう睡眠はいらなそうだがなぁ」
「……うん」
「そうクヨクヨすんなって。終わった事は忘れて、将来のこと考えようぜ?俺みたいに」
「次って……僕はこれから奴隷として一生を過ごすっていうのに、次もなにもないよ」
「聞いたことだけが真実なのか?」
「え?」
「自分で確かめたこともないのに、まるでそれが真実であると信じ込む。籠の中に自分を閉じ込めてさぁ」
自分と同じ年頃の子が何を言ってるんだろうと思いながら、真実を知りたいと思っても何もできないのだから、今この状況を色々聞いてみることにした。
「ねえ君…」
「カントって呼んでくれ。イヌマエル・カント。これからよろしくなっ」
「う、うん……よろしくね。」
「さてと、この船の中で俺たちがやる事は主に船の掃除だ。このクソでかい船を毎日雑巾掛けしなきゃいけねえ。それから甲板の見張り、ここで働いて3年未満のやつは、積み荷下ろしから、停泊中の見張りまで。サボったり、奴隷としてここの船員の機嫌を損ねたりしたら鞭打ちの刑だ。甲板長の鞭打ちはマジで肉が裂けて骨が見えるようになるから、気をつけろ」
「う、うん……重労働は嫌だけど、ムチはもっとやだな」
1を聞いたら10返ってくるとよく言われることだが、この様子だとカントは相当長い時間ここで経験していることが安易に予想できる。
それから、夜のこんな時間にまで起きていることについて聞いても、理由は答えてくれなかった。手首の模様も見たことがないそうだ。もしかすると遺伝病と何か関係があるのかもしれない。話して何かデメリットがある訳でもないので話すことにした。
「実は僕はある種の遺伝病にかかっていたんだってお母さんが言ってた。今は痛くないけど、つい前までは手首のあたりがヒリヒリして痛かっ…」
「おい、その遺伝病って手首って言ったか?何歳から発症した?」
「……?えっと、親が3歳の頃だって…」
「フフッ……」
カントが突然吹きだした。その目は今まで探してきたものをようやく探し当てたような、そんな目だった。
「こいつが……セーレンさん、見つけたよ。探してた男の子」
「ん?何か言った?」
「いやあ別に。その模様はなぁゼロ、異能力がお前の両腕に現れたって証拠だよ」
「……?何のこと?」
「それがどんな能力かは知らねえが、お前は目覚めたんだ。覚醒したんだおめでとう」
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カントによると、異能力とは他者と比べて異質な能力、他とは違う個人の特異性のことを言うらしい。ただしこの世の全員が持っているわけじゃなく、主に遺伝、ごくごく稀に贈与、外部からの心理的圧力、所有者の精神的、肉体的成長による発現が考えられるらしい。
呼び名は様々だが、彼ら異能力者はお互いのことを『能力者』と呼んでいるらしい。とは言えども、この世界が変わるまでは1億人に1人の割合でしかいなかったらしい。
そう。変わるまでは。その話は、また後でにしよう。
あまりたくさん哲学を入れると後々読みにくくなる恐れがあるので控えめにしようと考えています。今はまだ。(作者より)