第3話 Routine with this Slave Ship~船のお仕事~
ところで『奴隷船』と聞くと、通常乗ってる奴隷は全裸で、食事もほとんど与えられず、寝るスペースもなく、排泄物も放置、すぐに伝染病が蔓延して目的地に着く前に廃棄処分……というのを想像するだろうが、この奴隷船は全然違う。
体が弱い女などは、ハンモックで一日中寝続け、力のあるなしに関わらず、男は皆力仕事をする。まるで船員の中で最も立場が下の扱いだった。これにはある意味理由がある。
10何世紀と時代が変わった。どうせ奴隷はお金持ちにしか買えない、奴隷商人もお金持ちにしか売らない。今の時代は買い手は、男の奴隷なら「力仕事をさせたい」、女奴隷なら「身の回りの世話をさせたい」という需要と供給の内で商談が成立している。一人一人が高く売れるならば、最低限の生活も保障する……ハードルは下がりつつもあり、上がりつつもあるのだ。
この船は奴隷船などではない。ただの人身売買に利用する
「ねえカント、どうして一睡も寝られないでいられるの?」
「まあ、お前よりは年上だからじゃね」
「年上⁉︎」
「今まで何歳だと思ってたんだよ⁉︎俺はお前よりも5つ上だ‼︎」
「君みたいな博識で物知りな17歳なんて周り見てもほとんどいないよっ!」
「17歳舐めんなこのヤロー……」
「そこっ‼︎お喋りするな‼︎」
2人は最も立場が下な船員なのだ。立場をわきまえておかなければ、強烈に痛いムチが来るだろう。実際それで既にカントは背中に傷を負っている。
女であれば、品質を悪くしないようにムチよりは軽い責め苦を受ける。一日中寝ていられるので、そんなことは滅多にないが。
「あっお前思ったろ。『こんなの女尊男卑だ〜』って。逆に考えるんだ。これは自分の筋肉を強くするいい機会だって。普段運動しないんだし、どうせ1年間はここから出られないんだから、今のうちに体力つけとけ。なっ」
「言われなくても筋肉はつけるつもりだけど、唯一心配なことといえば、学校に通えないから勉強ができないことかな」
「なんだ。船員ならだーれも気にしないことを気にしてたんかお前。いいぜ、俺が教えてやるよ」
「まさか……勉強を?」
「ああ。……なんだよその『17歳が勉強教えんの?』って顔」
「いやだって……でも、僕なんかよりもずっと博識な君に物を教わるのもいいかもね。教えてよ。この世界のシステムをもっと知りたいな」
「おっじゃあ早速今夜から……」
「おい貴様ら」
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早速夕方の食事中、カントはゼロに様々な知識、教養を教えていった。それはもう熱心に算数から大学レベルの数学まで。到底17歳が知っているような知識では無かったが、それを凄まじいスピードで吸収して慣れたゼロにとって、そんなことは気にもならなかった。
軽く喧嘩のやり方まで教わった。“降りかかる火の粉は、まずは避けて、それでもダメなら払い落とせ”と、深みを感じさせる教訓を教わった。
「カント何書いてるの?えっとなになに……会議の度に聞く人を変えて……病気のことをよく調べて……カントから国語を教わるのだけはやめておこうかな」
「うるせえなわかってんだよ自分の文章力の無さくらい。通じれば何でもいいんだよ。外国人と会話するときジェスチャー使うだろ?」
「手紙から相手のジェスチャーなんて分かるわけがないんだよなぁ常識的に考えて」
こうして2人は共に仕事をして、嵐の時も助け合い、2人で大きなヘマをしつつ、2人仲良くムチで打たれ、勉強を教え教わり、時には大げんかして、それでもお互い笑って仲直りして、誰にも買い手が見つからなかったカントをゼロは腹を抱えて笑い、お互い買い手が見つからなかった時はお互い大声で笑い散らした。
船内では『あいつらいっつも一緒にいるな』『ハッピーセット』とまで言われてきた。
こうして3年後、ゼロの人生を大きく変える事件が起きた。
ゼロは15歳、カントは19歳の2031年、それは起こった。
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奴隷仲間が甲板で大きな荷物の入った樽を帆の上、見張り台に持って行こうとしていた時だった。
「おーい、重くねえのかー?手伝おうかロッド?」
「大丈夫、これしきなんてことねぇ……ぜ!……あっ!」
樽を背負っていた肩の紐が、あまりの重さに耐えきれず、切れてしまったのだ。
そのまま樽は甲板に落下しようとしていたが、不幸なことに、その下には船長のマーク・ライト・ツェペルが歩いていたのだ。
船長は意識不明、船員たちが緊急で対応を考え、結果ロッドは甲板長のムチを20回受けさせる結果を出した。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!許してください!どうかやめてください!お願いします!」
命乞いとも呼べるその叫びを甲板長は一蹴し、
「同じことを船長に言って許してくれんのかなぁ⁉︎なぁ⁉︎なぁ⁉︎」
そう言ってクヌートを振り回す。風を切る音は人間の恐怖を呼び起こし、骨が見えると言われている甲板長のムチを20発は常人には到底耐えきれない。
「うわああああああああああ!!!!ごめんなさいいいいいいいいいい!!!!」
しかしロッドが取った行動はとてもシンプル、に船から落ちることだった。逃げた。生存本能がはたらいているのかは分からないが、その泳ぐ姿は何より滑稽だった。船から身を乗り出してみんなが見るが、甲板長だけは目をつぶって見もしなかった。
「チッ………まあいい。あいつが船に戻ってきたら今度は30発お見舞いしてやろうかなぁ。なぁ⁉︎なぁ⁉︎」
奴隷の男衆はその奇妙な口調に疑問を覚えながらも30発に背筋が凍った。考え無かったことにしようか。
皆そそくさと寝室に戻ると、カントを除く全員が目を見開いた。そこにあったのはーー
ーーハンモックで寝転がっていたロッドだった。




