1. 余命1年
全18話完結済み
毎日、1〜2話更新します。
愛憎劇、最後迄御覧下さい。
「私の余命は、あと一年ですか?!」
「娘の余命が、あと一年だと…治すことはできないのか…どんな高価な薬でも支払う、だから、娘を助けてくれ!」
「残念ですが、今の医学では…助かりません。」
父親は声を上げ泣き、娘は自分の運命を受け入れる様に手の甲を見つめた。
ウェルツ伯爵家は由緒ある家柄。
ウェルツ伯爵家には1人娘がいた。
名前はエマ。快闊で、勉強もでき婿を迎え、家を守っていこうと相手を探していた矢先である。
父親は、名医といわれる医者をほうぼうから呼び、怪しい祈祷まで手を出した。
ただ、一向によくなる気配はなく、エマの病魔は少しずつ彼女を蝕んでいくのである。
父親の前では気丈に振る舞うが、夜になると不意に襲われる恐怖で一人涙する。
「私、怖い。死にたくない。まだ好きなことも、何もやっといないのに。神様。助けて。怖い。怖いの。」
小さな小さな叫びが叶うはずもなく、エマは自分の未来を残酷にふるい落とされていく。
学ぶ未来。
家を継ぐ未来。
好きなことをする未来。
誰かと歳を重ねる未来。
そして最後まで残った望みが、
「結婚して、私の子どもを残したい。生きた証が欲しい。」だった。
✥✥✥✥
トントン。
重い拳がノックを鳴らす。
「入れ。」
ウェルツ伯爵がそれに応える。
「お父様、お話しがあります。
私、結婚をして、子どもが欲しいのです。」
青白く少しコケた頬ではあるが、決意した目でウェルツ伯爵を見つめる。
「私、1年程前、街で暴漢に襲われそうになった時、助けて頂いた衛兵様に恋をしておりました。私は、その方と結婚させて下さい。」
ウェルツ伯爵は父親としてショックだった。まさか娘に恋する相手がいたと言う事実に。
それにしてもよりによって恋した相手が平民だとは。
ウェルツ伯爵は、一瞬戸惑った。
ただ、娘の決意した姿に駄目だとは告げることができなかった。
私の愛する娘の最後の願い…叶えず失う…それだけはできそうにもなかった。
✥✥✥✥✥
私は、折れる形でエマの望みを受け入れた。
初めて会うエマの想い人は貴族が好む風貌ではなかった。
確かに女受けする甘いマスクに、鍛え上げられた肢体。ただ危うい雰囲気がある男である。
(うちの娘はなんと男を見る目がないのだ…こんな男が良いのか…普通なら、殴り飛ばしてでも娘から遠ざかるタイプだが…致し方ない。)
平民が一生掛けても手に入れられない持参金の額を提示すると喜んで応じる底の浅い男だった。
私は、この男ルーカスと契約を結んだ。
姻族関係は、エマが死亡した時に終わること。
エマとの間に子どもが生まれた場合、その子に対する権利を主張しないこと。
ウェルツ伯爵家の財産および爵位について、一切の相続権を放棄すること。
エマを思い、エマを大切にすること。
娘を失う前提で書かれた契約書を確認すると身を裂かれる思いがする。現実を突きつけられる内容を好かぬ奴と一緒に確認するのは腸が煮えくり返る思いだった。
(エマの為だ、エマの最後の願い…致し方ない。)
私は、潰れそうな筆先をどうにか操り、署名した。




