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エピソード6 エースと新入部員


第二章「次女・葵編」をご覧いただき、ありがとうございます。


この章では、四姉妹の次女・春風葵を主人公に、女子バスケットボール部を舞台とした青春と恋愛を描いていきます。


バスケットボール一筋だった葵が、新入部員との出会いをきっかけに少しずつ変わっていく心の動きにも注目していただけると嬉しいです。


それでは、第二章の始まりとなる「エピソード6 エースと新入部員」をお楽しみください。



 新緑が校庭を鮮やかに彩る五月。


 私立桜ヶ丘学園体育館には、今日もバスケットボールが床を弾む音が響いていた。


「ナイスパス!」


「切り替え、切り替え!」


 女子バスケットボール部。


 県大会優勝を目標に掲げる強豪校であり、その中心に立つのが二年生の春風葵だった。


 長い黒髪をポニーテールに結び、素早いドリブルから繰り出される鋭いドライブ。


「もう一本!」


 キャプテンの声に応え、葵はゴール下へ飛び込む。


 ディフェンス二人をかわし、レイアップシュート。


 ボールはリングへ吸い込まれた。


「ナイス!」


 チームメイトたちから拍手が起こる。


「さすが葵先輩!」


 一年生たちの憧れの視線が集まる。


 しかし本人は額の汗を拭きながら首を振った。


「まだまだだよ。」


「もっと速く動ける。」


 誰よりも自分に厳しい。


 それが春風葵という選手だった。



 練習が終わる頃。


 顧問の森田先生が体育館へ入ってきた。


「みんな、少し集まって。」


 部員たちが円になる。


「今日から新入部員が正式に入部する。」


 体育館入口から、一人の男子生徒が姿を見せた。


「え?」


「男子?」


 部員たちがざわつく。


「マネージャー希望だ。」


 先生の言葉に安心したような笑いが起こる。


「一年の神崎蒼真です。」


 背は高く、爽やかな笑顔が印象的だった。


「中学では男子バスケットボール部でした。」


「怪我で選手は続けられませんが、今度は支える立場として頑張りたいと思います。」


 深々と頭を下げる。


「よろしくお願いします!」


 元気な声が体育館へ響いた。


 部員たちから拍手が送られる。



 その日の練習後。


 蒼真は黙々とモップを掛けていた。


「そこまで一人でやらなくても。」


 葵が声を掛ける。


「いえ。」


 蒼真は笑う。


「まだ何もできませんから。」


「できることをやりたいんです。」


 その言葉に、葵は少し驚いた。


「一年生なのにしっかりしてる。」


「そんなことないですよ。」


 照れ笑いを浮かべる蒼真。


 葵はモップを一本持ち上げた。


「半分、一緒にやろう。」


「え?」


「一人より二人の方が早いでしょ。」


「ありがとうございます。」


 二人は並んで体育館を掃除し始めた。


 夕日が床へ映り込み、体育館全体が優しいオレンジ色に包まれる。



「春風先輩。」


「ん?」


「先輩って、いつからバスケ始めたんですか?」


「小学一年生。」


「そんなに!」


「お父さんに連れて行ってもらったのが最初。」


 懐かしそうに笑う葵。


「気付いたら好きになってた。」


 蒼真は静かに頷いた。


「好きだから続けられるんですね。」


「蒼真くんは?」


「僕も小学生からです。」


「でも、中学三年の最後の大会で膝を怪我して。」


 一瞬だけ表情が曇る。


「医者から激しい運動は難しいって。」


 体育館に静かな空気が流れた。


「だから選手は諦めました。」


「でも。」


 顔を上げる。


「バスケは嫌いになれませんでした。」


 その笑顔を見た葵は胸が少し締めつけられた。


「そうだったんだ……。」


「だから今度は、みんなを支えたいんです。」



 翌日。


 朝練習。


 蒼真は誰よりも早く体育館へ来ていた。


 ボールを並べ、空気圧を確認し、給水ボトルを用意する。


「おはようございます!」


 元気な挨拶が響く。


「おはよう。」


 葵は思わず笑顔になる。


「早いね。」


「昨日、先輩たちが気持ちよく練習できるようにしたいと思って。」


「だから少し早起きしました。」


 その一言だけで十分だった。


 誰かのために動ける人。


 そんな蒼真の姿を見て、葵は自然と信頼を抱き始めていた。



 練習後。


 校舎へ戻る途中。


 校庭の木々を風が揺らしていた。


「春風先輩。」


「はい?」


「県大会、優勝してください。」


 真っ直ぐな瞳。


 応援だけではない、本気の願いが込められていた。


 葵は少し照れながら笑う。


「もちろん。」


「優勝してみせる。」


「約束。」


 蒼真は嬉しそうに頷いた。


「応援しています。」


 その笑顔を見た瞬間、葵の胸はほんの少しだけ高鳴った。


 それが恋なのか、それとも信頼なのか。


 まだ自分でも分からない。


 しかし、一人の新入部員との出会いは、バスケットボールだけだった毎日に、小さな変化を運び始めていた。


 次女・春風葵の青春は、新しい仲間との出会いとともに、静かに動き始めるのだった。



最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


第二章の幕開けとなる「エピソード6 エースと新入部員」では、バスケットボール部のエース・春風葵と、新入部員の神崎蒼真との出会いを描きました。


まだ恋と呼べる関係ではありませんが、お互いを尊敬し、少しずつ信頼を深めていく第一歩となるエピソードです。


この先の第二章では、県大会へ向けた練習や試合、仲間との絆、そして葵自身が初めて向き合う「恋心」が少しずつ描かれていきます。


もし本作を「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、ブックマークや評価、ご感想をいただけると、とても励みになります。


引き続き、『四姉妹の恋愛学園日誌』をよろしくお願いいたします。


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