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エピソード15 栞に込めた想い


『四姉妹の恋愛学園日誌』をご覧いただき、ありがとうございます。


第三章「三女・結衣編」も、いよいよ最終話となりました。


図書室での偶然の出会いから始まった、春風結衣と橘悠斗の穏やかな時間。


同じ本を読み、感想を語り合い、静かな昼休みを重ねる中で、二人の心の距離は少しずつ近づいてきました。


今回は、二人をつないできた一枚の栞が、これからの物語へと続く大切な想いを運びます。


最後まで、静かで優しい青春の一ページを見届けていただけたら嬉しいです。



 五月の柔らかな風が、桜ヶ丘学園の木々を優しく揺らしていた。


 新学期が始まって一か月余り。


 図書室は今日も静かな空気に包まれている。


 昼休み。


 春風結衣は大切そうに一枚の栞を本へ挟み、図書室へ向かっていた。


 雨の日に橘悠斗から預かった、四つ葉のクローバーが描かれた木製の栞。


 あの日から毎日、本を読むたびに使ってきた。


「今日は返そう。」


 そう決めて図書室の扉を開く。


「こんにちは。」


「こんにちは、春風さん。」


 司書の佐々木先生が穏やかに微笑む。


「橘くんなら、いつもの席よ。」


「ありがとうございます。」


 結衣は小さく会釈をし、窓際へ歩いていった。



 窓際の席では、悠斗が文庫本を読んでいた。


 結衣の足音に気付き、本を閉じて笑顔を見せる。


「こんにちは、春風先輩。」


「こんにちは。」


 二人は向かい合って座る。


 窓から吹く風が、本のページを優しく揺らした。


 しばらく静かに読書を楽しんだあと、結衣は鞄から栞を取り出した。


「橘くん。」


「はい。」


「これ。」


 木製の栞を両手で差し出す。


「大切に使わせてもらいました。」


 悠斗は栞を受け取ろうとしたが、ふと手を止めた。


「その栞。」


「本当に返してもらってもいいんですけど……。」


 少し照れくさそうに笑う。


「もし春風先輩が良ければ、そのまま使ってもらえませんか?」


 結衣は驚いた。


「え?」


「祖父が作ってくれたものだから大事なんです。」


「でも。」


「本当に大切に使ってくれる人に持っていてほしいって、祖父も言っていたので。」


 結衣は栞を見つめる。


 四つ葉のクローバー。


 何度もページを挟み、一緒に物語を読んできた小さな宝物。


「……ありがとうございます。」


 結衣は静かに頭を下げた。


「大切にします。」


 悠斗も嬉しそうに微笑んだ。



 その日の昼休み。


 二人はいつものように本の感想を語り合った。


「最近はどんな本を読んでいますか?」


 結衣が尋ねる。


「歴史小説です。」


「意外でしたか?」


「少しだけ。」


「でも、橘くんなら好きそうです。」


 二人は笑い合う。


 以前はぎこちなかった会話も、今では自然と続くようになっていた。


 好きな本。


 好きな作家。


 将来読んでみたい作品。


 話題は尽きることがない。



 チャイムが鳴る少し前。


 司書の佐々木先生がカウンターから声を掛けた。


「春風さん、橘くん。」


「来月から図書委員のお手伝いを募集するの。」


「二人とも、本が好きならどうかしら?」


 結衣は悠斗を見る。


 悠斗も結衣を見る。


 二人は同時に笑った。


「やってみたいです。」


「僕もお願いします。」


 佐々木先生は満足そうに頷いた。


「ありがとう。」


「きっと二人なら素敵な図書委員になれるわ。」



 放課後。


 結衣は図書室で借りた本を抱え、校門へ向かって歩いていた。


 すると後ろから声がする。


「春風先輩。」


 振り返ると悠斗だった。


「駅まで一緒に歩きませんか?」


 結衣は少し驚いたあと、優しく笑った。


「はい。」


 二人は並んで歩き始める。


 夕暮れの校舎。


 部活動の掛け声が遠くから聞こえてくる。


 他愛もない会話。


 本のこと。


 授業のこと。


 好きな季節のこと。


 気付けば駅までの道が、あっという間に感じられた。


「今日はありがとうございました。」


「こちらこそ。」


 結衣は少しだけ栞を握りしめる。


「この栞。」


「これからも、たくさんの本と一緒に大切にします。」


 悠斗は穏やかに頷いた。


「その栞を見るたびに、僕も今日のことを思い出せそうです。」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 改札へ向かう悠斗。


 反対方向へ歩く結衣。


 別れ際、小さく手を振り合う。


 その仕草だけで、お互いの心は温かく満たされていた。



 図書室で始まった、小さな出会い。


 同じ本を読み、同じ景色を見て、静かな昼休みを重ねてきた二人。


 一枚の栞には、「また会おう」という約束だけでなく、少しずつ育まれた信頼と優しさが込められていた。


 まだ「好き」という言葉は誰も口にしていない。


 それでも、お互いを大切に思う気持ちは、ページをめくるたびに少しずつ積み重なっている。


 こうして第三章「三女・結衣編」は静かに幕を閉じる。


 本棚に並ぶ数え切れない物語のように、結衣と悠斗の物語もまた、新しい一ページを開きながら、これからもゆっくりと続いていくのだった。



最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


第三章「三女・結衣編」は、これにて完結となります。


図書室という静かな場所で育まれた結衣と悠斗の物語は、大きな事件や劇的な展開ではなく、本を通して少しずつ信頼を深めていく、穏やかな青春恋愛として描いてきました。


一冊の本との出会い、同じ作品を読む喜び、そして一枚の栞に込められた優しさ。


そんな何気ない日常が、二人にとってかけがえのない思い出となり、新しい未来への一歩になったのではないでしょうか。


そして次章からは――


**第四章「四女・ひまり編」**が始まります。


高校へ入学したばかりの春風ひまりが、新しい友達や先輩たちとの出会いを通して、初めての恋と青春を経験していく物語です。


四姉妹の末っ子らしい明るさと元気いっぱいの姿を、ぜひ楽しみにしていただければ幸いです。


もし本作を「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、ぜひブックマークや評価、ご感想をお寄せください。


皆さまからの応援が、『四姉妹の恋愛学園日誌』の物語を紡ぎ続ける大きな励みになります。


引き続き、第四章「四女・ひまり編」もよろしくお願いいたします。


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