エピソード12 同じ本を借りる君
昼休みのチャイムが鳴る。
教室から次々と生徒たちが廊下へ飛び出していく中、春風結衣は今日も一冊の文庫本を抱えて図書室へ向かっていた。
昨日借りた恋愛小説は、一晩で読み終えてしまった。
続きが気になって、朝から落ち着かなかったのだ。
「こんにちは。」
図書室の扉を開けると、静かな空気が結衣を優しく迎えてくれる。
「こんにちは、春風さん。」
司書の佐々木先生が笑顔で迎えた。
「昨日の本、もう読み終わったの?」
「はい。とても面白くて、気付いたら最後まで読んでいました。」
「相変わらず読むのが早いわね。」
結衣は少し照れたように笑い、新刊コーナーへ足を運んだ。
そこには昨日の続編が並んでいる。
「よかった……まだ残ってる。」
そう思って本へ手を伸ばした、その瞬間――。
「あっ。」
また同じタイミングで、もう一つの手が伸びてきた。
二人は思わず顔を見合わせる。
「また一緒ですね。」
結衣がくすりと笑う。
「本当に。」
橘悠斗も苦笑した。
「昨日と同じ展開ですね。」
二人は思わず笑い合った。
◇
「このシリーズ、好きなんですか?」
結衣が尋ねる。
「はい。」
悠斗は頷いた。
「中学生の頃からずっと読んでいます。」
「私もです。」
「主人公の成長が好きで。」
「分かります。」
悠斗の表情が明るくなる。
「あと登場人物がみんな優しいですよね。」
「そうなんです。」
「嫌な人があまり出てこないから、読んでいて安心できます。」
二人は本の話になると、自然と言葉が増えていった。
◇
「それなら。」
佐々木先生が二人へ近付いてきた。
「この本もおすすめよ。」
先生が差し出したのは、同じ作者の短編集だった。
「ありがとうございます。」
二人は同時に頭を下げる。
「息ぴったりね。」
先生が微笑むと、結衣と悠斗は顔を見合わせて少し照れた。
◇
二人は窓際の席へ座り、本を開いた。
ページをめくる音だけが静かに響く。
時折、どちらかが小さく笑う。
「その場面、面白いですよね。」
「えっ?」
「今、同じところを読んでました?」
「たぶん。」
二人は思わず笑った。
同じ本を読んでいる。
同じところで笑う。
それだけなのに、なんだか嬉しい。
◇
昼休みも終わりに近付いた頃。
結衣は本を閉じた。
「橘くん。」
「はい。」
「もしよかったら……。」
少しだけ言葉に迷う。
「読み終わったら感想を話しませんか?」
悠斗は目を丸くした。
「もちろんです。」
「僕も話したいと思っていました。」
結衣はほっとしたように微笑む。
「よかった。」
「じゃあ約束ですね。」
「はい。」
二人は笑顔で頷き合った。
◇
放課後。
結衣は借りた本を大切そうに鞄へ入れる。
教室の窓から見える校庭では、運動部の元気な掛け声が響いていた。
一方の悠斗も、自分の教室で借りた本を眺めていた。
「同じ本を借りるなんて、本当に偶然なのかな。」
そう呟いて笑う。
偶然が二度続けば、それは少しだけ特別な縁のようにも思える。
◇
翌日の昼休み。
結衣が図書室へ入ると、悠斗はすでに窓際の席で本を読んでいた。
結衣に気付くと、静かに手を振る。
結衣も笑顔で小さく手を振り返す。
言葉はまだ少ない。
けれど、その短い挨拶だけで心が少し温かくなる。
図書室には今日も静かな時間が流れていた。
同じ本を借りる。
同じ物語に心を動かされる。
そして、その感想を語り合う約束を交わした二人。
少しずつ積み重なっていく昼休みの時間は、本棚に並ぶ物語のように、一ページずつ静かに新しい思い出を書き加えていくのだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




