52.都会の町には鬼ばかり
池袋の真ん中に鬼が現れた。
人混みをぼんやりと歩いていたサラリーマンの身体が突如として膨張して、スーツとシャツを突き破って筋骨隆々とした鬼に変貌したのだ。
赤い体色をした鬼は身体の表面に太い血管を這わせており、目はギョロリと大きく、口は耳の下まで吊り上がっていた。明らかな異形である。
「キャアアアアアアアアアアアアアッ!」
怪物を目にした通行人の女性が悲鳴を上げた。
人々が逃げまどって、絶叫があちこちで生じる。
つい先ほどまで、そこはクリスマスイブを楽しむ人々で溢れていたのに、一瞬で地獄の風景へと変わってしまう。
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」
現れた鬼が通行人に襲いかかろうとするが……待機していた3級以下の退魔師、刀を手にした剣士が応戦する。
退魔師協会、刀桜会からそれぞれ派遣された人員である。
どちらも恭一には届かないものの、それなりの実力であるらしい。
鬼が鋭い爪を振って攻撃してくるが、どうにか戦うことができていた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「グオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「ギャオオオオオオオオオオオオオッ!」
しかし、鬼は一匹ではなかった。
逃げまどっていた人の群れの中からも鬼が次々と出現して、周りの人を襲い始めたのだ。
人々が逃げまどい、鬼が追いかけ……まるでゾンビパニックのような光景である。
「おーおー、えらい騒ぎだな。阿鼻叫喚ってやつか?」
「主様、行かなくてもよろしいのですか?」
ビルの上で戦いを見下ろしている恭一に、静がやんわりと訊ねてくる。
「もちろん、やるけどな。それにしても、俺の担当場所で騒ぎを起こすなよ。やっぱり、タダ働きとはいかない…………ん?」
スマホが震える。
画面を確認すると、事前に作っておいたグループMINEに美森からメッセージが入っていた。
『新宿に鬼が出現。応戦する』
「お?」
新宿にも出たのかと思った矢先、今度は華凛からメッセージが届く。
『いけぶくろでた』
『たたかう』
「池袋でも……?」
複数箇所での同時攻撃。
いったい、東京で何が起こっているというのだろう。
「これは……本格的に面倒臭いことになってないか……?」
「主様」
「わかっている……俺が片付けるから、適当に人を助けろ」
「承知いたしました」
非常に面倒臭いが、動かないわけにはいかない。
恭一はうんざりとした顔になりながら、ビルの屋上から飛び降りた。
「蒼雷」
地面に自由落下をしながら、まさに通行人に爪を振り下ろそうとしていた鬼に雷撃を浴びせる。
鬼の一匹が怯んだ。襲われていた通行人が逃げていく。
通行人に被害が出ないように雷撃の威力を抑えたのだが……これでは決定打にならないようだ。妖怪の強さは3級相当と思われる。
「周りに障害物がいなければ瞬殺なんだけどな……やれやれだ」
上から見下ろしたおかげで鬼の位置はハッキリとわかる。
地面につくや、恭一は脚のばねを使って一気に走り出した。
「フンッ!」
「ギャオッ!」
雷撃を浴びて怯んでいた鬼の腹部に飛び蹴りを喰らわせる。
鬼が腹を抑えて膝をつく。恭一はちょうど良い位置に来た頭部を掴んで、掌から直接電流を流す。
「死ね」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
鬼が激しく身体を痙攣させる。
脳みそに直接電流を浴びせられて、鬼は頭を電子レンジでチンされたような状態となっていた。
そのまま巨体が仰向けに倒れる。
「お?」
倒れた鬼の身体が収縮していき、裸の中年男性の姿になる。
男性は頭部に小さな角があるが、それ以外は普通の人間と変わらないように見えた。
「……本当に人間だったんだな。これが『生成り』か」
人間と見分けのつかない姿をした存在が、突如として鬼になる。
こんなものが東京のあちこちに現れたとなれば、大きな脅威だった。
「退魔師協会にせよ行政にせよ、もっと真剣に対処した方が良かったんじゃないか……?」
今さらながらそんなことを思いつつ、恭一は二体目の鬼に攻撃を仕掛けるのであった。
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