51.俺の担当箇所に来るんじゃねえ
こうして……2級退魔師である三人、3級退魔師である二人が鬼哭衆との戦いに参戦することが決定した。
具体的な依頼であったが……今夜から明日にかけて動くであろう鬼哭衆のメンバーの殺害と、彼らが海外で入手したという『呪具』の確保が仕事内容である。
「さて……どう動いたものかな」
東京、池袋駅前にて。
恭一は適当なビルの上に立って、大勢の人が行き交う雑多とした街並みを見下ろした。
眼下では無数の人々がクリスマスムードに浮かれて歩き回っている。
冬休みの学生が遊びまわり、カップルが腕を組んでデートをして、営業中のサラリーマンが辟易した様子でそれを眺め、献血カーには人が並んで、ケーキ屋やおもちゃ屋の前ではサンタクロースが客寄せをしていた。
「クリスマスにまで労働とは、俺は三千世界で一等賞の働き者だな」
自嘲するように、恭一が吐き捨てた。
すでに打ち合わせは終わっている。五人の退魔師は別々の場所に配置されていた。
恭一の担当は池袋周辺。この地域に鬼哭衆が現れた場合、恭一が対処することになる。
「まったく……頼むから、別の場所に出てきてくれよ。それなら、何もしないで一億円が手に入るんだからよ」
「おそらく、それは無理かと存じます。主様」
「静」
恭一の背後に静が現れる。
着物姿の美女がたおやかな口調で恭一に語りかける。
「主様は稀代のトラブルメーカーです。主様がここにいて、何も起こらないわけがありません」
「言うようになったじゃねえか……まあ、間違ってると言えないのが泣きたくなるけどな」
式神の言葉に冷笑して、恭一は忌々しそうに人混みに視線を戻す。
「このまま、パチンコでもして帰りたいところだけどな……そうもいかねえかな」
「主様はどう思われますか、華凛さまの依頼について」
「…………」
恭一は喫茶店で説明された、依頼の詳細について思い出す。
今回の敵は生きながらにして鬼となった徒党……『鬼哭衆』の討伐。
そして……鬼哭衆の目的は、とある呪具を使用した彼らの首領の復活である。
昭和末期、東京で刀桜会と鬼哭衆が衝突した。
その際、当時の『鬼斬り役』によって鬼哭衆の首領が討たれ、残党は散り散りになって海外に逃れたそうだ。
海外に逃れた鬼哭衆はどうにか戦力を結集させて組織を再興し、首領復活のための方法を模索した。
そして……彼らはヨーロッパの地で見つけたらしい。悲願を成し遂げるための呪具を。
「『ユダの十字架』……でしたね」
「そうらしいな……知らんけど」
華凛はその呪具をそう呼んでいた。
ユダの十字架。
それはいくつかの条件をクリアすることで、死者を甦らせることができる呪具だった。
条件の一つ目は十二月二十四日、クリスマスであること。
キリストの復活になぞらえているのかもしれないが、復活祭はイースターなのでまるで無関係なのかもしれない。
二つ目は、その人間が死んだ場所で儀式を行うこと。
かつて、鬼哭衆の首領が死んだのは東京。詳細な場所は不明であるらしい。
そして、最後の条件が千人の人間の生き血を捧げること。
血は二十四時間以内に人間の身体から抜いたものでなければならない。
それらの条件をクリアすることで、人を生き返らせることができる。
地獄に落ちた人間の魂でさえ、閻魔大王やサタンの手から取り戻して地上に呼び戻すことができるそうだ。
「千人が虐殺されるとなれば、大事件ではないですか。退魔師協会は何をしているのでしょう?」
「仕事をしてないわけじゃないと思うぜ。あっちこっちに退魔師が待機しているみたいだからな」
池袋周辺にも、複数の退魔師の気配を感じる。
おそらく、千人の生き血を確保できる人口密度の高い場所には、それぞれ自分達以外にも退魔師が派遣されているはず。
「とはいえ……2級以上の退魔師は俺と美森、華凛の三人しか確保できなかったそうだからな。援軍は期待しない方が良いだろう」
刀桜会とかいう組織も動いているそうだが、会ったこともない連中に期待するつもりはなかった。
敵が出たら潰す。出なかったら、濡れ手に粟で一億円獲得。
ただ、それだけのことである。
「まあ、都心で人通りの多い場所は池袋だけじゃないからな。美森達がいる新宿が襲われる可能性のほうが……」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「高い…………と、思ったんだけどな」
女性の高い悲鳴が開園のベルのように響いていく。
眼下の雑踏が逃げ惑う人々の混乱に変わって、血色の赤に染まる。
「敵です、主様」
「見えてるよ……やれやれだ」
池袋の駅前。
突如として、そこに真っ赤な血管を肌の上に這わせた鬼が出現したのである。
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