連鎖(ミリス視点)
「ふわぁ……」
眠っちゃった……のかな。
私はボロボロになったベッドから起き上がり、降りる。
目に映るのは、ボロボロになった室内。生気が宿っておらず、何年もそのままに放置されたようにも見える。
裸足で歩き、家の中を見て回る。
台所を見る。クシャトの姿はない。
道具置き場を見る。ルーザンの姿はない。
ルナの部屋を見る。ルナの姿はない。
穏やかで、幸せなか暮らしがそこにはあったのに、その全てが失われてしまった。
「ルナ、どこにいるの?」
最愛の妹の名前を呼ぶ。しかし、家の中から答えは返ってこない。
それだけではない。日が昇っているのなら、もう何人か外に出ていても何も変ではないのに、それが聞こえない。
扉を開け、何時ものように外を見る。
「……え?」
そこには、凄惨な殺人劇があった。
広場にはグーおじさん、ミズハおばさん、オルトおじさんたちが倒れていた。地面には黒く変色した血が広がっている。
「おじさん、おばさん!」
慌ててグーおじさんたちに駆け寄る。汚れる事も気にする余裕もなく膝を地面につき、おじさんたちに触れる。
冷たい。肌からは人の温かみが全て消え去っていた。おじさんたちの手には果物を切るときに使うナイフが握られ、その刃は赤黒く染まっていた。
ひゅう、と風の音が鳴る。ぎぃ、と前にある家の扉が風に煽られて中が見える。
「ミューズおねえちゃん?」
家の奥で項垂れているミューズおねえちゃんに駆け寄る。自分の予想を否定するために。
「……あ、」
けど、だめだった。
ミューズおねえちゃんは首元に大きな傷が出来ていた。しかも、手に血で黒く変色した包丁を握っていた。
ふと、脳裏に閃光のような予測が過ぎった。それは、私が予想できる中で最も最悪のものだった。
ミューズおねえちゃんの家を飛び出し、他の家の扉を手をかける。
ナリタおねえちゃん、サルドおじさん……首に包丁を刺して重なるように死んでいた。
グリューくん、メーラちゃん、ビクおばさん……グリューくんとメーラちゃんはベッドの中で心臓に包丁が突き立てられ、ビクおばさんは首を吊っていた。
ザナおばさん、グッドズおじさん……互いに抱きしめ、互いに背中にナイフと包丁を突き立てている。
ナルミおねえちゃん、マハーバおにいちゃん……ナルミおねえちゃんは自身の喉にナイフを突き立て、マハーバおにいちゃんは包丁だ首の付け根を切り裂いていた。
「……ああ」
腹を引き裂いて息絶えたナビィおねえさんを見て、私は扉を閉じる。
「みんな、死んじゃった」
血に汚れた手を見て、私は息を吐く。
大人たちは生き残っていた子供を殺し、自身も自分で自分の命を奪った。
ルナの姿がないのは、誰かに連れされたからだろう。そうでなければ、この村の惨状を私に知らせることが出来ていたはずだ。多分、昨日から村の近くに来ていた人攫いたちだろう。
「……私一人、か」
村長さんから「頭が良い」と言われていたことが恨めしい。同い年のグリューくんたちなら、泣くだけで良かった。泣いて、泣いて、泣いて、その果てに野垂れ死にするだけだった。
でも、私は違う。自分の中で渦巻いてるこの感情を理解している。村長が教えてくれた文字の中にあった。
「憎悪」と。
認識をした瞬間、私の中を渦巻く憎しみと怒りが薪となり、漆黒の炎がより一層轟々と燃え上がる。
許さない。逞しかったお父さんを殺した兵士たちを。
許さない。優しかったお母さんを連れ去った代官を。
許さない。家族同然のみんなを自殺に追い込んだこの国を。
許さない。ルナをどこかに連れ去った人攫いを。
例え私が悪魔に堕ち、死後に地獄の業火に永遠を焚かれようとも、私はこの憎悪に突き動く抹殺の使徒になってやる。
「……みんなを、埋めないと」
そう呟き、私は自分の家に戻る。父さんの部屋に入り、床に落ちていたスコップを手に持つ。
死した人間を土に還すことで、新たな命となり、土地の実りへと昇華される。逆に、還さなければ人は肉体を失ってもこの世に未練を残して永遠に彷徨い続けることになる。
力を込め、私は広場の土を掘り起こしていく。十分くらい作業をしていると、適度な穴を掘ることができた。
穴の中にグーおじさんを引っ張って中に入れる。穴から出て祈りを捧げると新しい穴を掘り始める。
い、意外とキツい。このスコップだって大人で、男性だった父さんの物。その上、本来はこの作業は大人の男性が数人で行う作業だ。私一人でやるものではない。
「っ!」
掌から激痛が走る。私は咄嗟にシャベルを離し、掌を見る。
掌は、マメが潰れたのか赤黒い血が滲み出ていた。
「くっ……!」
歯を食いしばり、持ち手を握る。掌から強烈な痛みで脳を痺れさせる。それを我慢し、掘っていく。
新しく出来た穴にミズハおばさんを降ろし、穴から出る。絶え絶えの息に、頬を伝い汗が地面を濡らす。
これをあと28人か。でも、やらないと……。みんなが、新しい命になって蘇る事ができない。それをできるのは、私だけだから……!
その後、手の皮に痛みを感じながら全員分の穴を作り、中にみんなの亡き骸を入れていく。途中で疲れて転んだり、みんなの死体を見て吐いたりしたけど、みんなを入れる事はできた。
「バイバイ……みんな」
そして、別れの言葉を穴で眠るみんなに伝えながら、その上から丁寧に土を入れていく。倉庫の中に残されていた木の杭をみんなの墓に突き刺す。
全員を埋葬し終えると、手を清潔な布で包んで縛り、膝をついて手を組み、瞼を閉じる。
「森の神よ。新たな贄が貴方様の方に向かいまいした。貴方様の実りとなり、新たな命を産み落としてください」
そして、許さないで下さい。私はこれより罪を重ねます。
立ち上がり、みんなの墓標に背を向けて私は赤い太陽に向けて歩き始める。
お母さん、ルナ、私を許さないで。もう、昔のようにみんなで仲良く暮らす事はできない。私は、一生を罪の鎖で縛られながら生きていくから。




