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悲劇

翌日、俺は再び川の近くにまでやってきた。

邪神との連絡をしたいが……念じればいいのか。


「お、出てきたな」


邪神の事を念じると、すぐに石の上に黒電話が出現する。

やっぱり黒電話か。スマホにしてくれた方が楽なんだけど……まあ、良いか。


『はい、何のようじゃ?今儂はリョナゲーをしている途中なのじゃが』


おい、邪神が人の作ったゲームをやってるよ。


「邪神、聞きたい事がある」

『何の要件かのう?』


声だけ聞いても邪神がニヤニヤと何か含んだような笑顔をしているのが目に浮かぶ。だが、使わせてもらおうか。


「この国のシステム……いや、貴族や王族、法律の特徴なんかを教えてくれ」


昨日、人攫いDを尋問し話させたことだが、この国では法律的に人族以外の種族を人攫いたちが売ることが官民問わず黙認されているらしい。

もしや、と思って聞いてみたらこの国の上層部の腐敗に関連する事が出てくるは出てくるは、量が多すぎて大雑把に『国の上層部は腐敗している』『人族至上主義のようなシステムが構築されている』ことしか憶えてないほどだった。

それを補完するのに、邪神の視点を使わせてもらう。


『ああ、そういうことかのう。お主の昨日のあれじゃ、憶えたり情報を整理したりするのも大変だったじゃろう』

「やっぱり、見ていたのか」

『勿論じゃ、君の拷問は非常に血生臭くてとても儂好みじゃからの』


あれを行った俺が言うのも何だが、やっぱりこの邪神は趣味が悪い。でも、気に入ってくれたのならそれで良さそうだ。


『して、この帝国の話かの。お主も予想しておるかもしれんが、マルステット帝国は人族至上主義の国じゃ。故に、人族以外の種族の多くは不当な扱いを受けておる』


やはりか。


『法律の特徴としては人族が優位に立てる、若しくは負担が軽くなるような特徴をしておる。例えば、年の税率も人族以外の種族は検見法だが、人族は定免法で徴収される。軍役は人族以外の種族から優先的に徴収される、といったように人族と人族以外が区別されて定められている』

「ハンムラビ法典からやり直せ、このクソ国家」


あれだって身分差を盛り込んだものだが、これは同じ身分内で区別をつけるような内容だ。身分によって罰が変わるのはある程度は許容できるが、これは流石に許容できない。


『貴族階級はその恵まれた権利を横暴に、時には理不尽に振るっておる。他種族からは税をより多く搾取し、見目麗しい者は誰かの妻でも強奪。酷い場所だと処女税なんてものを導入し、初夜を営みすらも貴族が搾取しておる。孕めば妾にし、産んだら子供と一緒に一生を奴隷として貴族どもの世話をしなくてはならないのじゃ』


うっへぇ……だが、そうなると、ミリスが俺を危険と承知で森に入れた理由も出てくるな。

代官というのは基本的に貴族階級に属する連中だ。そんな奴らの事だ、まだ10代にも満たない子供でも欲情したら強引に奪う事も可能なのだろう。

ミリスはそれを危惧したから、俺を森に入れた。賢い娘だな、本当に。


「貴族階級には他種族はいないのか?」

『基本的にはおらんな。騎士爵には何人かおるようじゃが、基本的には大貴族の子飼いじゃな』

「まぁ、そんなものか。国の上層部の腐敗はどれだけだ?』

『うむ、皇帝一族も中々に狂っておるのじゃが、周りが極めて腐敗しておる。教会と通じている者、他の大貴族たちと通じている者、魔法ギルドに通じている者、様々じゃ』

「派閥争いが酷そうだな」


面倒なことに巻き込まれないか心配だが、今は必要ないか。


「とりあえず、今日はここらへんで切らせてもらう」

『うむ。用心するのじゃぞ。人間の闇は儂をも凌駕し魅了するのじゃから』

「ああ、分かってる」


何せ、こっちも闇を保有している側の人間だからな。

黒電話を切り、森の中を駆け抜ける。

村には代官が来ていると行っていたし、少しぐらい様子を見てもいいか。まぁ、バレたら村人ごと皆殺しにすればいいし。

村の近くにまで来て、適当な大きさの木に登る。

距離は少しあるけど、一応村の様子は見れるし声も集中すれば聞こえるからここらへんでいいか。

さて、村ではどんな会話がされているのだろうか。


『おい、これだけしかないのか!』

『す、すみません!今年は冷害が酷く、作物の実りも良くないのです!』


おお、ちょうど良い修羅場に遭遇したな。

村の中央にある広場で、馬に乗ったデブが傲慢にも喚き散らし、村長と思われる人間が土下座をしている。馬を取り囲み、デブを護衛しているのであろう兵士たちは嘲笑を浮かべてる。

うっへぇ……弱い者いじめの現場だよ、あれ。他の人たちは流石に家の中に引きこもっているようだし、本音を言えば関わりたくないと言ったところか。


『他に隠している食べ物はないか!』

『も、もうその日暮らしていくだけの物や来年に植える種しかありません……』

『そいつを奪え!』

『ご、ご無体な!それを取られては明日の食事、来年に植える種はどうすれば、』

『黙れ、この兎が!』

『がっ!?』


兵士の一人が村長の体を蹴り飛ばす。


『貴様ら兎が生かされているのは、ただの愛玩動物として飼われているだけだ。そのような家畜が、貴族である代官様に逆らったのだ、死ぬ覚悟は出来ているな!』


そう言って、兵士は剣を引き抜き村長の首を刎ねる。宙を舞い、地面に落ちる首を俺はしっかりと目に焼き付ける。

マジかよ……。こいつら、そんな下らない理由で人を殺しやがったぞ。イカれてる。


『奪い尽くせ!何一つとして残すな!』

『分かりました、代官様!』


代官の号令と共に兵士たちが家々に押し入り始める。

家々から、悲鳴や嘆願の声が嫌でも聞こえてくる。


『やめて下さい!それを取られたら明日からどう生きれば……!』

『そこらへんの草でも食っていきろ。家畜風情が人間と同じ扱いを受けれると思うな!』


抵抗する男は兵士に斬り殺され、兵士たちの手によって穀物の類いは根こそぎ奪われていく。

次第に穀物を略奪し終えた兵士たちは家々を笑いながら壊していく。火を付ける事は無かったが、女だろうと手を上げ、子供ですら剣で突き刺していく。

中には、年頃の娘に手を出して凌辱を始める者もいる。代官も俺の父親を殺し、クシャトに手を出している。行為の最中、クシャトの絶望に満ちた表情が俺の目に色濃く写る。


「つまらんな」


それら全てを一蹴する。

つまらない、実につまらない。これなら三文芝居の方が遥かに面白いものになるだろう。

だが、手を出さない。手を出せば確実により一層の悲劇が産み落とされるからだ。俺は殺人鬼であっても、殺戮者ではないからな。


『兵士達、撤収するぞ』

「終わったか」


10分ぐらいが経過した頃、代官の号令と共に兵士たちが一斉に集まりそれぞれの戦利品を手に持つ。その中には、縄で手を縛られたクシャトの姿がある。

ああ、邪神が言っていた通りの現実が俺の目には写っているのか。


『お母さん……お母さん!!』


泣き叫び、飛び出そうとしているミリスを生き残った村人たちが取り押さえている。ミリスは聡い子供だ。連れて行かれたらどうなるか、分かっているのだろう。


『……ミリス、ルナを頼むね』


そう言って、クシャトはミリスに優しく微笑むと兵士たちに引っ張られて連れられていく。

代官たちが村から出ていくのを見届けると、俺は木の上から降りる。

悲劇という名前の劇は終わりを迎えた。なら、もう見ている理由がない。


「……ミリスはどんな決断をするのだろうか、少し楽しみだ」


優しい母親、逞しい父親、可愛い妹、顔見知りしかいない小さな村。ミリスはこれまで、人の良い面ばかりを見てきた。だが、これでミリスは人の闇の側面を見てしまった。


彼女がそれでも人の善性を信じるのか、または俺のように悪性に魅入られるのか。それは楽しみなところである。

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