9話
ハードディスクは砕けない
「たっだいま〜、うん? 自分ら何しよるん?」
喫茶店のドアが開き、明るい声の獣人 (ワーキャットだ)の女性がドタドタと入ってきた。
「新人なので掃除してます」
「そんな慣習ないけどな? いや、進んでやるんやったらええことやけど」
ドワーフが斧でホークフォークを示した。
「ははあん?」
ワーキャットは状況を把握したようだ。
「な、なによ?」
「やっと後輩ができて喜びの新人いびりってことやな。
スタンプ3個の鉄等級さん?」
「スタンプ3個!?」
俺とマリアのスタンプは1個だ。
ホークフォークの少女は、俺やマリアとそう変わらない、駆け出しもいいところだった。
「呆れた。下手に出て損したぜ」
「あっ、掃除は続けてくれるとありがたいわ〜」
「ケ、ケトラ、帰ってくるのが少し早いのではなくて?」
ケトラと呼ばれたワーキャットはうなずいた。
「うん、新人さんが来るってゆうから書類仕事をまとめて終わらせてきた。
まあ正解やったってことやな〜」
「……ま、まあわたくしの言ったことは、大筋では間違っていませんのよ。
ただお世話になるのではいけない、まず行動してしかるのちに……」
「新人さんたち、魔法教えたるわ〜」
「わたくしの話を遮らないでいただきたいですわ!」
「魔法教わりたいです」
「教わりたいです」
「あっでも自己紹介が先やな。
うちの名前はケトラ。変な言葉遣いやけど気にせんといてな」
実際問題、この関西弁はどう解釈したらいいのだろう。
さすがにメトシェラに関西地方はないと思うし……。
「佐々木瀬人です」
「マリア・マグダレナです」
とりあえず俺たちは自己紹介しなおした。
「僕の名前はマルコ。
君たちと同じ鉄等級だよ」
ホルピットが自己紹介してくれた。
一人称が僕だから男性だろうか。それとも……?
「……バーソロミュー。よろしく」
ドワーフがぼそりと言った。
「ほら、スザンナ」
ケトラがホークフォークの少女を急かす。
「分かりましたわよ!
わたくしの名はスザンナ。
あなたがたの少し先輩ですわ」
「少しな」
「……少しなのは、認めますけれど」
「そしてもう一人!」
ケトラが言うと、背後の毛布がゆらゆらうごめき、鱗の肌を持った女の人が出てきた。
いわゆる人魚だ。
「ふあ〜あ。よく寝た〜。
あ、寝てたけど話は聞いてたよ」
女性は眉を下げて笑った。
「わたしはリディア。よろしくね、かわいい新人さん」