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戦慄のアウディート  作者: 亥BAR
第二章 戦いの狼煙
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戦いの狼煙(6)

 気が付いたとき、既に後ろにいたデビルは魔智に向かっていた。魔智に入っていくように消えていくデビル。何かやばいと言う事と、逃げ道が出来たチャンスだと言う事を同時に悟る。とにかく自分だけでも逃げ出そうと、魔智の方に振り向きもせず、駆け出した。


 が、同時に背中にとてつもない悪寒が走った。まるで背中にとてつもない闇を抱えたようなその感覚。刹那、目の前の視界が漆黒に包まれると腹に強烈な衝撃が走り込んだ。


 地面に叩きつけられる様に転倒。視界が一気に回転していく。だが、咄嗟の判断で寝転がったままでいるのはまずいと考え、まるでかき回されたような感覚に陥っている脳をフル回転させる。そのまま踏ん張りを利かせ、態勢をギリギリ立て直した。


 そして、気が付いたときには不思議と腹にあった衝撃による痛みが無くなっていた。思わず腹をさすり、衝撃が走ったところを確かめるが異常はない。


「アウディートに寄生された者ぁ回復力格段に上がる。宿主の生存確率ば上げるためだ」


 その言葉が耳に流れ、咄嗟に声の方向に目を向けた。そして同時に視界に移り込んできたのは出門魔智とか言う男ではなかった。漆黒の闇包まれたようなオーラの奥にいるのは、顔こそ、肌色に近い黒、人間のようではあるが、皮膚は真っ黒。コウモリのような翼に、まがまがしい角を持つ。顔つきが魔智のとは違い、一瞬分からなかったが、恐らくこいつは紛れもない魔智なのだろう。


 この化物が……アウディーター……。奴の姿に見覚えがあった。


「お前、岩手のコスプレイヤーか…………」

「ふっ、コスプレ……ね。そういや、そんな風に報道されたったな」


 予想が当たってしまった……。いや、本当はうすうす勘づいてはいた、何となく既に分かっていたのかもしれない。でも、そう思いたくない一心がそうでない事を願ったが。


「それよりもどうだ、この姿は? まさに選ばれた存在。さあ、おめも力ば解放しろ」


「言っただろ! 断る!」


 またこちらに向けられてくる、こんどはまがまがしい黒い手を一蹴する一言で跳ね返す。その途端、空気が張り詰めたような気がしたが、やがて魔智が化物姿で不敵な笑みを浮かべる。次の瞬間には魔智の右手が突き出され、それに伴い闇の暴風が吹き荒れた。


 体が完全に宙に浮き数メートル先に飛ばされる。腰から地面に強打し、激痛が伴うも、やがて圧倒的回復力で痛みは消えていく。だが、アウディーターと言う物が本当に化物だと言う事は十分理解できた。人間業じゃないと言う事を。


「どうする? 力。使うよね? そう決意すれば直ぐに力は解放できるよ」

「断ると言っただろ」


 断じて力を使う気に等なれない。人間を超えた力、それは他人にしたら恐怖の対象でしかない。それがどう向かってくのかは想像に難くない。中途半端な法律が、中途半端な正義がそうさせると考えていたからだ。自分の人生が危うくなる事など出来る訳がない。危険人物として牢獄に監禁。いや、人知れず抹殺されるか。前例がない以上何が起こるか。


「おめ、選ばれながら力ば使う気ねえのか……。ならば、所詮そこらの力無き人間と同じ。そんな物、次の時代にゃぁ必要ない。力無き者すべて力ある物によって、消え去れ!」


 気が付いた時、既に魔智の腕が自分の頭の真上まで来ていた。闇が蠢くその右手が今にも狩らんと襲ってくる。だが、何一つ動けなかった。何が起こっているのかですら分からなかった。


 やがて、奴の拳が地面にまで衝撃が走り、アスファルトにヒビを走らせる。地面さえ、少し揺れた気がした。だが、自分はそこにいなかった。数メートル離れた先から化物を眺めている。


 一体何が起こったのか一瞬分からなかったが、しばらくするとドラゴンに抱えられ攻撃を回避していたことを理解した。


「ドラゴン……、お前」


 声を掛けようとはしたが、ドラゴンは無言で抱えていた龍巳をおろし、赤い髪を振る。


「宿主に死なれては困るのよ」


 そう言うとドラゴンはしばらく魔智を眺めていたがこちらに振り返った。


「龍巳。このままだと殺されるよ、あいつに。それでも力を使わないつもり?」

「そんな事をしたら……、いつっ!?」

「どうしたの!?」


 体重を支えようとした時、激痛が走った。恐らくさっきの攻撃がよけきれなかったのだろう。足の部分に切り傷が出来ていた。だが、それすらかさぶたも作らず目の前で再生していく。本当にこの回復スピードは人間じゃない。それを見て既に、自分も化物だなと思ってしまった。


「おい、お前。その力で罪なき人々に危害を…………、殺すつもりか?」


 己の拳に自然と力が入っていく。物静かに魔智を見る龍巳の心にある、悪に対抗する意思が湧き出て止まらない。あの魔智とか言う男が悪魔以上に悪魔に見えてさえいる。

 こんな化物の力を使って悪に成り下がろうとする奴はただの……悪党。


「人目に付けば、直ぐに警察が動く。お前が思うほど簡単にはいかないぞ。今の世界でお前が力を使うのはほとんど無理だ」


「馬鹿言うな。警察? 知ったこっちゃない。今の俺は警察如きに止められん! 拳銃持った人間が何人いようと一瞬で無と化す。もう、俺ぁ最強なんだ。力がある物こそ次の時代を作る。それ以外はすべて消し去る。必要などない。力こそすべてだ! 俺がこの力で世界を変える」


 芝居がかったように両手を広げてアピールする魔智。そしてその体からあふれるオーラはまさにその力とやらを象徴する闇。そんな姿を見て頑なに決心するしかなかった。自然と引きつったような笑みをこぼしていたが、それも確信に変わるのが自分でも分かる。


「そうか……、そうか……。分かったぜ。俺のすべきことが……」

「た、龍巳……?」


 ドラゴンも不思議がる中、ゆっくり立ち上がる。


「お前の意見……、一部なら賛成するよ。俺もこの力で世界を変える」


 拳を握りしめ己の意思を固める。魔智もそれに対し「ならば、共に……」と近づきながら腕を差し出してきたが、拳を緩めた手の甲でそれをはじき返した。

 パァンと言う乾いた音が路地裏に響き渡り、殺気だった目で魔智を見据える。

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