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戦慄のアウディート  作者: 亥BAR
第九章 正義の葛藤
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正義の葛藤(9)

 ***


 龍巳は化物姿で山の中に着地。しばらく頭を冷やそうと一息ついている時だった。


「随分と荒れていましたね。わたしを探していたのですか?」


 奴だ。いつの間にかに後ろを取っていたのだ。その正体は見なくても分かる故、後ろを振り向くことはなく、ただ警戒心だけ強める。


「分かっていたらなぜ俺の前に出てきた? ついさっき、わざわざ出てくる奴などそうそういないとやっと悟ることが出来たんだけどな」

「では、そのそうそういない奴の一人なのでしょう」


 そんな答えに鼻で笑うとキマイラの方に体を向けた。


「じゃ、わざわざ出てきて何の用だ? さっさとやるか?」


 右手を横に振り払い炎の爪を形成。


「いや、今日は特に戦う気はありませんよ。ただ、ライオンとの決着も一度つきましたし、良ければ共に人類の進化を見たくはないですか、と誘いに来たのです。あなたは力をメキメキ上げています。そんな存在を消すには勿体ない。むしろ、次の時代に必要な存在」


 そう言ってキマイラは手を差し伸べてくるが、それを爪で振り払った。


「ご丁寧にどうも。だが、組む気はねえよ。お前の目的は人類の進化とか言っているが、要は化物を増やすって事だろ? 冗談じゃない! もうたくさんだ! 化物は俺一人で充分なんだよ! これ以上増やされてたまるか!!」


 爪を再び構え戦闘態勢に入る。ここを戦場にできたのは都合がいい。周りは木に囲まれ、キマイラお得意のスピードは出しづらい状況にある。木に引火しないよう注意さえすればこっちの方が有利になるはずだ。


 地面を蹴り上げ、一瞬の間に間合いを詰める。そして爪の連続攻撃を繰り出した。キマイラは後退しながら避けようとするが、やはり、素早く一気に後ろに下がることが出来ない故、こっちが押しつつある。その勢いのまま追いつめた。


 後ろは大木、横は草木。逃げ場はないと爪を大きく振りかぶり確実に一撃を当てようと振り下ろした。キマイラは周りを確認し遅れて上へと飛びあがる。その時、微かではあるがキマイラの左足に一撃をくらわすことが出来た。


 飛びあがったキマイラは着地の枝を見極めたらしく、しなやかに着地。その降り方、足の動きに注目し次の行動を予測。右に飛び降りる、そう確信しキマイラの着地地点へと先回りした。だが、キマイラはまさかの態勢を崩すとそのまま地面に落下した。


「なに!?」


 慌てて視線を修正。標的をもう一度捉えなおす。キマイラは地面に不自然な着地をしており、態勢を崩している。今なおチャンス、そう思い再び爪を繰り出した。

だが、キマイラは流石だ。瞬時に態勢を整えるとこの狭い範囲の中、瞬時に隙間を見つけその間を通るように跳躍。攻撃は見事によけられる。


「くっそ、ちょこまかと」


 だが、キマイラはそこまでだった。なんと、その跳躍し着地するとき、またもや態勢を崩したのだ。本当に見るからに情けないように崩れ落ちるキマイラ。そして、キマイラは……、左足を抑え込み始める。その足は実に痛々しく膨れ上がっていた。


『なんだ、あいつ。怪我しているのか? まさか、さっき掠った一撃で? いや、それはない。前回の戦闘で負傷したのか? しかし、再生は?』

『再生力が人間のままか、上がっても微々たるものじゃない? 少なくともアウディーターほどではないってところね。あいつはアウディーターでもない。不思議じゃないよ』

『てことは、前回の戦闘で負傷したところに俺の一撃が合わさり、負傷を大きくしたと言う訳か。こいつはチャンスだな。負傷者だろうが容赦しない。追い込んでやる』


 奴の足は動かなそうだ。この一撃は簡単にあてられる。そう思って突っ込んだのだが、その時、キマイラの獣顔が不吉に笑った気がした。


「舐めて貰っては困りますね。こんな負傷程度でこの差は埋まりませんよ」


 そう言われ、気づいたときにはパアンとでもいう乾いた音と共に足払いをされていた。

 体勢を崩し、地面に崩れこむと右手首が何かに締め上げられる。遅れて目でよく見るとそれは蛇。いや、正しくはキマイラの尻尾だった。


「な!? 嘘だろ!?」


 気付いたときには体ごと持ち上げられ、木に激突。今度はその蛇に引き寄せられ、キマイラの目の前に。さらにキマイラの拳が顎に命中。何とか態勢を保とうと地面に爪を突き立て、もう一度立ち上がろうと模索するが、蛇の尻尾は鞭のように撓り赤い鱗に襲った。


 忽ち体は跳ね上げられ、地面を転がるように吹き飛ばされ仰臥。せめて空中に逃れることが出来れば、空中戦に持ち込めば勝機がある。そう考え、起き上がると翼を大きく広げたのだが、その時、感じた事のない痛みが走った。

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