正義の矛盾(4)
今日のすべての授業が終わると秋角に先に帰ると告げ、誰よりも早く学校を出た。この待っている間、こうも学生と言う立場に鬱陶しさを抱いたことは今までなかった。何度と、授業を放ったらかして出ていきたいと思った事か。だか、それは自分の信じる正義に反すると押し留め、ここまで待った。なんとしても正義で奴らを倒す必要があるからだ。
とにかく、倉庫に向かってひたすら早歩きで向かう。
『ねえ、龍巳。近くにアウディートの気配があるんだけど』
「おい、あそこさ行くのか? よせよせ。既に警察ぁ立ち入り禁止にしてる。おめにぁ入れる訳もねえ。アウディーターの姿であろうとな」
ドラゴンの突然の一言に足を止める間もなく、横から声が聞こえてきた。それから遅れて足を停止。後ろの方に首を傾けると、ポテチの袋を持ち塀のもたれかかるように出門魔智が立っていた。その姿を見た途端、反射的に右手の爪を立てるような動作をする。
今、あったのは都合がいいのか悪いのか、さっぱりわからない。少なくとももっと早めにドラゴンが気づいて居たら……そう思いかけるが、今更だと直ぐに思い直し、次の一手を考える。とにかく、あいつに隙を見せる訳にはいかない。
が、魔智の方が早かった。奴の右手が素早く龍巳の額に突き立てられる。
「まあ、落ち着けよ。これでも食うか?」
……何で拳じゃなく薄っぺらいポテチを額に突きつけるんだよ……。
「いるか!」
ポテチを握る手を払いのけ魔智を見済ます。この際だ、昨日事を聞き出してみるか。
「それよりも、何のつもりだ? まだ厄介ごとは起こさないじゃなかったのか?」
「厄介ごと……な。確かに、倉庫ぁ吹っ飛ばした。報道されなかったども、注目は浴びたった。でもよ、仕方なかったって言ったら……どうだ?」
ただの言い訳では無そうな雰囲気が今の魔智から感じられた。
「どう、仕方がなかったと言う?」
「そうするしかなかった。俺にそうさせるほどの奴ぁ居だって事だ」
その魔智の言葉に一つのピースが嵌められた。
「例のもう一体の化物か!?」
「ああ、そうだ。おめ、ライオンと戦ったろ? そいつら自分の事エボリューターとか名乗った。アウディーターの力を応用しただと。で、その力ばら撒こうとしているのが奴、キマイラエボリューター。奴のスピードにぁ手も足も出なかった」
「エボ……リューター?」
「ドラゴンに聞いても無駄だぞ。アウディートも知らない事だ。エボリューター、どうやら奴ら人間すべてエボリューターにしたいらしい。ライオンぁその実験だとよ」
魔智から告げられる新たな事実。それには驚かされると言うよりは、予想よりもはるかに斜め上を行く現状に戸惑いしかでない。それを少しでも隠すために魔智に詰め寄る。
「お前はなぜ、そんな事を俺に教える? 何のつもりだ? 何が目的だ?」
しかし、魔智は鼻で笑うと急に龍巳の肩に手を置いてきた。
「何度も言わせるな。お前は俺の仲間だろ? 情報を分け合って当然だ。それと……」
魔智はポテチの袋の中を覗くと空と確認したのかぐしゃっと丸め、ポイッと後ろのゴミ箱に放り込む。そして、重々しそうに自分の手を眺めると強く握りしめた。
「あいつぁ間違いなく強い。俺の仲間になるならば申し分ないが、敵対するならば厄介だ。別に共闘しようとは言わない。おめにとっても奴ぁ敵だろう。おめに倒されるの祈るのもいいかもしれねえな。仲間になって共闘するならば勿論大歓迎だ。それに、奴らも仲間になって貰えるように最善は尽くすつもりだしな」
龍巳はすぐさま「断る」と言えなかった。魔智の力は凄い事はさすがに分かっている。そんな奴がそう言わすならば、甘く見るべきじゃない。
「ん? 待て。お前、そのエボリューターとかとも仲間になるつもりなのか? アウディーターじゃないんだろ、あいつらは」
「だから何だ? 力あることに変わりない。超能力者だろうが、ミュータントだろうが関係ない。俺ぁただその力結集させたいだけだ。おめだって例え相手ぁアウディーターだろうと違うだろうと、悪ならば叩くんだろ? 一緒だ」
返す言葉が無かった。まさにエボリューターなる存在を予感していた時から意識していたこと。そうだ、例え誰だろうと倒す。そんな気持ちを魔智は察しているのか不敵な笑みをこぼしながらこちらを見据えてきている。こちらも無意識に対抗するように睨み返していたが、今目の前に魔智が居ると言う事にふと疑問を抱いた。
「おい、お前、最初に出会った時もそうだが、何故俺をピンポイントで見つけられる?」
前回、今回も奴は間違いなく龍巳を待っていた。まるで、場所を分かっているかのように。ドラゴンは近くに居るかどうかしか分からないと言っていたはずだ。何故、こいつは?
しかし、そんな疑問に対し魔智は笑いをこらえるように腹を抱える。
「そりゃデビルぁ優秀なアウディートだからだ。ドラゴンはいわば落ちこぼれ、まあ、お前は優秀、それにドラゴンだって大切な仲間だ。仲間は大事にしろよ」
「仲間ね……」




