魔智の仲間(4)
実際、バイトをやっていると、ライオンの事など微塵たりとも考える暇が無かった。思いふけりかけたりはしたが、仕事の手がおろそかになってしまうだけだった。
午後五時辺りを過ぎ、残業も終わりバイトを上がる。
『じゃあ、そろそろ行く?』
『何!?』
デビルの急な一言に思わず足を止めた。
『まさか!?』
『少し前にあのアウディートに似た不思議な力を感知した。バイト中だから黙ってた』
『なるほど……、よし、早速、そごさ行くベ。どごだ?』
『隣町、理戸市』
『了解。詳しい道案内よろしく』
そして、デビルの案内の元バスに乗り、ここ麻布田市を抜け、麻布田を中心に立月市と反対に位置するともいえる理戸市に入る。基本的にこの三つの市はあんまり町並みの雰囲気は変わらない。この近くでは警察本部のある倉里市だけは、ここよりもさらに都会と言った雰囲気があるだろう。尤も、魔智の地元からすれば、どこだろうと大都会である事に変わりはないが。
理戸市。少し街から外れた所にある今は使われていなさそうな倉庫の前まで来た。何と言うか、人を寄せ付けない雰囲気が漂っているそれは、中に人がいるとは到底思えない。
『本当にここなのか?』
『この中から気配を感じる。まあ、隠れ家にはもってこい。誰かさんはビルの屋上を好むようだけど、ずっと人に見られにくい。何しろ、わざわざ飛んでいく必要もないから』
デビルから何か皮肉を言われた気がしたが、ひとまず置いとく。まずは中を覗いてみようと、窓が目に入ってきたので音をたてないように近づいてみる。
『気配からは恐らく二体。一体はライオン』
『じゃあ、もう一体はデビルが言った奴か?』
『確証はないけど』
とにかく、この中にいる奴があの奴らってことらしい。ならばもういくら推測を立てても無駄だ。後は直接この目で見るだけ、そう思い窓からこっそり中を覗く。
と、同時にすぐ驚きの余り顔をひっこめてしまった。
壁を背にさっき目に入ってきた物を脳内再生し、恐ろしさの余り目を見張らせる。埃が窓に張り付いており、見えにくさはあったが確かに見えた。
一体は確かにあのライオンだった。だが、もう一体だ。顔は同じようなライオンの顔で間違いないが、ヤギのような角もついている。強靭な胴体を持ち、鋭く光る爪。さらには、足が草食動物のような蹄。そして鱗が纏った尻尾。あれは……、まさに……。
「化……物……」
『今の魔智が言える事ではないけど……、あと、声出てる』
「え!?」
「そこにいるのは誰です!」
倉庫の中から聞こえてくる声に思わず口を塞いだ。声が聞こえていたのか? 何て鋭い耳をしていやがる!? アウディーターになれば五感が確かに良くなるが、それと同等かそれ以上の感覚をこいつら持っていやがるのか。ただ、一つ言える事は雰囲気が少しアウディーターと違うと言う事。本当に何者なのか。
『もう、直接会うしかないだろうな』
内側の力に意識すると、どんどん力が湧いていき、体が発光し始める。同時に五感が一気に冴えていく感じがしみわたり、光がやがて闇へと変わり腕が黒い皮膚へと変化する。
一度、落ち着かせるように目を閉じるとデビルアウディーターの姿で近くにあったドアを開けながらゆっくり足を倉庫に踏み入れた。
「よう!」
一応、ドアを閉めると改めて化物の前に対峙する。普通、いきなり入ってくる奴が悪魔のような姿をしていれば驚く、騒ぐ、失神が必然の反応だろうが、目の前の奴らは決してそのような反応を示さない。ただ、黙ってこちらを見据えている。
デビルから聞いた話によるとアウディーターは変化後も顔部分は宿主の種族に近い顔つきになるらしい。だが、こいつらは明らかに人間離れした獣の顔。元の種族がライオンだとか? そんな馬鹿な。アウディートは知的生命体にしか寄生しないとか言っていた。やはり、アウディーターとは別物なのか?
「どうやら、アウディーターのようですね。初めまして、わたしはキマイラエボリューターと言います。どうぞ、お見知りおきを」
随分あっさり自己紹介してきた。なるほど、キマイラ……な。しかし……、
『エボリューターって何だべ?』
『知らない』
すがすがしい程きっぱり言われた。このままでは埒が明かない。どうあがいてもこの目の前のライオンとキマイラが何なのか見当もつかないと悟り、しょうがなく口を開く。
「アウディーターの事ぁ知っているみたいだが、エボリューターってのぁ何なんだ?」
すると、目の前の化物らは獣の眼でこちらをじっと睨んできた。特にキマイラの横にいるライオンは荒い鼻息を立てて肩を上下させている。今にも襲いかねない姿勢。戦闘すら辞さないつもりで、臨戦態勢を取るが、キマイラは手を挙げてライオンを制した。
「わたしたちはアウディートの力を別の方向に使っただけですよ。新たな力は複数の人間に与えることが出来る。それがエボリューター。新たな力を持つ人種です」
「な!? 随分とあっさり……」
だが、その答えには驚きと同時に納得も言った。デビルの言っていた通り、本当にアウディートの力を応用した奴らしい。なるほど、やはり同じく力を持つ者と言う訳だ。アウディーターとは別物だが、同じ選ばれた人間。そう考えると不思議と笑みがこぼれた。




