警察の驚愕(7)
「この一枚に何があるって言うんですか?」
百々宮の意図がつかめず、自分の席に座りながらそんな質問をしてみるが、百々宮はスルーして画像を見続ける。そして、ゆっくり画像の一点を指さした。
「これよ。何かがフレームインしたみたいね。“たった一コマ”だけど」
「これは!?」
思わず下ろしかけた腰を浮き上がらせた。そのまま慌ててプロジェクターの画面に飛び込む。指さすその先にはうっすらと映る影。何なのか見当もつかない。
「UFO?」
「ま、まあ、そうと言えなくもないけどね……。あの現場にいた時、ライオンが消えた時だ。確かにライオンが炎に囲まれながら消えたように見えはしたが、わたしは何かがあの空間を通り過ぎていった気がしたのよ。
勿論、ほとんど直感に近かったが確かに感じたわ。それが恐らくこれよ。この影は前のコマにも後ろのコマにも映っていない。この一コマのみ。とんでもないスピードの物だと言える。恐らくハイスピードカメラでも使わないと捉えられないわね」
百々宮はそう言っているが将平にはこの一つの影からそこまで推測できるとは思えない。この人の眼には一体何が見えていると言うのだろうか。
「で、でも、それが消えたライオンと何の関係があるのです?」
「こいつがハイスピードで抱え込んで逃げたのだろう。実際、ライオンが消えた瞬間はこの影が通る前後。コマ一枚にしか映らないのだから消えて見えて当然というわけだ」
「そ、そんな速い化物がまだ居ると言うのですか?」
「化物と断定できる要素はないがたぶん、奴らと同等かそれ以上の化物だろうね」
「な!?」
あのレッドとライオンの化物ですらとてつもないスピードに圧倒されていたのに、それをはるかに上回る、と言うか肉眼視できないレベルのスピードを持つ化物が存在する。正直、絶望以外の感情が湧いてこない。話を聞いていた高井本部長と、他の刑事たちも口を挟むことなく、この映像をただ黙って見ているだけだった。
「百々宮先輩、資料持ってきました!」
話があらかた終わった頃に、百々宮が頼んでいた資料が届く。
「来たか……。ご苦労様」
そう言って資料を受け取ると百々宮はすぐさまペラペラめくり始める。
「資料、貰ってくるの一苦労だったんですよ。何故だ? とか色々聞かれて頑なに渡してもらえず。化物事件と関係があるかもって言って、初めて検討されたんですから」
「だろうな」
資料を持って来た人が愚痴を言い始めたが一言で終わらせる百々宮。そして、「やっぱり」と言いながら資料をパタンと机に置き、付属されていたデータをパソコンに通してプロジェクターに映し出そうとしながら説明しだした。
「公には立神がただ逃走したとなっているが実際はそうじゃない。恐らく不安がられる要素があるから秘密裏にしたかったのだろう。資料を提供するのに渋る意味も分かる」
「どういうことですか?」
そう質問したがまるで映像を先に見ろとでもいうように黙々とデータを流す準備を続ける百々宮。本部長高井はそんな百々宮をただ黙って見続けるので、同じように待つ。
「よし、たぶんこれね」
そうして映像が流れた。そこに移っているのは留置場の個室に一人うずくまっている立神魁の姿。一見変わった様子はなく、逃走すると言った様子も見受けられない。そんな状態がしばらく続くのかと思いきや、その直後。とてつもない音がした。
カメラさえ少し揺れるほど、個室内に埃が一気に舞う。その後が驚愕の出来事だった。いつの間にか部屋の壁が破壊され穴が空き、一瞬の間に立神の姿が消えたのだ。
それを見終えると百々宮は直ぐに別のカメラに切り替え、次々と映像を流していく。しかし、何も映ってはいない。百々宮は慌てて資料をも一度見渡し始めた。
「どうやら立神が何らかの方法で爆薬を所持していて、爆破して逃走したと言う事になっているね。しかし、監視カメラに立神の姿は見えず、更には爆薬を持ち込ませたと言った所から、信頼性を失うし、色々腑に落ちない点もあったため情報を公にしなかった」
「で、でも、これが一体、化物と何の関係が?」
百々宮は将平の質問に資料から目を話しこちらをちらりと見たが、直ぐにパソコンの前に座るといくつかの映像をコマ送りにし始めた。
「どうやら、この事件を担当した刑事の眼は節穴だったようね」
そして、次々と映像をある一コマで止め始めた。そこに共通して映っているのは影。とてつもないスピードなのか思いっきりぶれているが、この影はまさにあれと似ている。
「本部長、もう気づいたでしょう? コマ一枚にしか映らないこのハイスピードの影。最早、これとライオンを抱えていった影は同一の物としか考えられません」
高井はその結果に黙って頷くと立神がいた個室の映像に目を向けた。
「なぜ、この資料にまでたどり着けたんだ?」
「簡単ですよ。ライオンがレッドに対して「やっと見つけた」と言いました。ライオンはレッドの事を知っている。何より、復讐心みたいなものが見受けられました。だとすれば、レッドと対峙し、屈辱を与えられた人間は立神魁。こうしか繋がりませんからね」
「なるほど……、てっことは……、ライオンの正体は……」
「恐らく、立神魁でしょうね」
百々宮のその発言に先まで色々言い合っていた本部内が一気に静まり返った。まさか、こうも早く化物の正体が一つ掴んでしまったからだ、この百々宮と言う人は。
高井は「そうか」と言うと、急に起立し、大きく宣言した。
「百々宮の功績により、化物の正体に大きな一歩を掴んだ。これより、あの新たな化物をライオンと呼び小隊の可能性として立神魁をあげ、レッドと共に危険生物として捕獲の布石を積み上げていく。さらに、新たに別の化物の存在も確認することを同時進行だ」
「それと、もう一体、化物はいます」
百々宮がそう言い付け足すと高井が大きく頷いた。
「黒い化物、“ブラック”も対象に入れる」




