Ⅴ:アルメルリルカルナディア竜族と真に不釣合いな日輪の鉄巨人兵
あれから数日経って、血相変えた聖撃雷王爵領の使いが
「お願いですから早く帝国へお戻りください公主様方!」と来て
色々言いたげだったが渋々帝国へと戻っていったメイユィンシン姉妹を見送って、
結局聞けずじまいだったサクヤ姫の用事を聞きに行くべく、
だが全く乗り気じゃないトマは日輪皇宮こと「日の輪の宮」へと足を運ぶ。
隣に完方薬を噛み砕いたりしているいつもより蒼白なハルマローシュ伯が居たが
原因は自分にあるので何も言えねぇ言えやしねぇトマ。
「…半世紀くらい寿命が縮まった気がするぞ、我公子トマ…」
「申し訳ない義父上…」
お前も飲んでおくか? とハルマローシュ伯に完方薬を勧められたので
少しだけいただく事にしたトマ。
「…鬼神が出るか、蛇神が出るか…」
「縁起でもないことを言うな我公子…」
「ごめん、義父さん…」
なんとなく門前払いされないかなぁと思って皇宮を訪ねるが、
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
と、やけにアッサリ通されてしまったのでそれはそれで
なんとなく完方薬のお代わりを貰おうかと思ったトマ。
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皇宮の最奥…即ち御所まで案内されれば、当然だがそこには
ハルヒト皇とミユ皇后にサクヤ皇女が各々の玉座に座して待っていた。
「やぁ、トマ君。恙無きや?」
「始めましてトマ殿……我が君と娘のサクヤが色々とご面倒をおかけしましたね」
「ミユ…面倒とは何ですか面倒とは」
「日輪皇の立場も忘れて唯の駄目な父親の振る舞いを為さった貴方が言いますか」
「……いや、それはですね…? そもそも…!!?」
とても穏やかな笑顔のはずなのだが、尋常じゃない迫力のミユ皇后は
ハルヒト皇の唇に指を当ててそれ以上喋るなと制した。
「……この度は御所へお招きいただき、真に有り難き幸せにございます」
「…そして数々のご無礼をこの場にて陳謝いたします」
日輪国では土下座が一番の謝意を示すと聞いたのでそうしようとした
トマとハルマローシュ伯だったが、
「良いのですよお二人とも。我が君の余りにも大人気ない応対もありましたから
全ては水に流しましょう?」
と、凄まじい癒しのオーラを放つ大母神然とした笑顔のミユ皇后が制した。
「…真に、真に忝うございまする」
「…日輪の深き御心に感謝いたします」
「そう肩肘を張らずとも良いのですよお二人とも」
もしかすると皇国の真の支配者は皇后陛下なのではないのかと思うトマだが、
不躾な事だと忘れることにした。
「…さて、今回あなた方を呼んだのは他でもない我が愛娘サクヤの願いを
是非も糞も無い問答無y…!? …オホン。遂行してもらう為です」
皇にあるまじき言を飛ばしかけたが、ミユ皇后の例の迫力の笑顔で制されて
言い直したハルヒト皇にどんな顔をすれば良いのかと悩むトマ。
隣の義父上が死にそうな顔だったので気休めの回復魔法をかけるのは忘れない。
「……お父様。後は此方が申しますので宜しいですか?」
「…………わかりました。サクヤのお好きになさい」
下郎にお前が声をかけるなんてとんでもない! と言いたそうな顔をした
ハルヒト皇だったが、ミユ皇后がやっぱり例の顔だったので
少し引きつったが笑顔で任せることにしたようだ。
「先日も言いましたが、大した用事では無いのです。お二人には
此方と共に日輪国の新しくも古からの如き盟友の仲である
アルメルリルカルナディア竜合衆国との懇親会に随行していただきますぞえ」
「よ、宜しいのですか? 我ら帝国はその竜合衆国との交流は一切無いのですが」
「だからこそですハルマローシュ伯爵。日輪国と全央帝国の仲を思えば
今が機と思ったのですぞえ?」
「そ、そういうことであれば私からは何も…!」
『……それで、本音は?』
『今度こそ其方の度肝抜いてやるから覚悟するのですぞえ!』
『……何か、安心したよ』
『うにゅにゅ…! 平然としてられるのも今のうちなのですぞ!!』
そっとハルヒト皇らを一瞥するが、ハルヒト皇は目を合わせることすらないし
ミユ皇后はにっこりと微笑むだけだったので、多分この念話は傍受されてない
…と、そういうことにしておいたトマ。
「ふふ…サクヤがこんなに生き生きとしているのは久しぶりですね」
「うにゅ…! ち、ちなうんですお母様! 此方は別に…!」
「はいはい、そういうことにしておきますよ」
「うにゅぬ…!」
「………」
何かハルヒト皇が凄い真顔でこっちを見てくるが気づいてないフリをするトマ。
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あくる日の午前…件の竜合衆国との懇親会の会場は竜合衆国領内にある
トリニティ・クー竜卿領本島とのことなので、トマ達は
そこへ向かうことになったのだが…
「こ、この船は…(どう見ても2X世紀の邪悪払盾艦ではないか…!?
間違いなく日本人族…下手をすれば地球人族が関わってるな…!?)」
「な、何だこの巨大な鉄鋼艦は…?! というかこれは艦なのか…?」
「にゅふふ…! 驚くのはこれだけじゃないのですぞえ! …まぁ、
竜合衆国にもお披露目する分があるので全部はまだ見せられないのが
残念ですが…にゅふふふふ…!」
『…一つ聞くがサクヤ殿下。この艦は元々は日輪国の技術では無いだろう?』
『にゅな!? …な、なんななんの話ですぞ!?』
『やはりか…これはヒロシ殿に伝えておかねばならんな…』
『なななな…!? …ぐにゅぬぬ…ッ!』
さっきまでのドヤ顔は完全に無くしたサクヤ姫は動揺を隠せないようだが、
正直もうそっちはどうでもよくなっていたトマ。
「…質量からして並大抵の魔力ではどうやっても…」
「安心してください義父さん…これは日輪国の技術ではないです」
「あぁ…何だ日輪国のじゃな………いやいやいやいや待て待て待てトマ?!
だとしたらこの船はまさか…!?」
「大鳴帝国のモノでも無いです。明らかに趣味趣向が違いますから」
「であれば何処の…!?」
「義父上…その点に関しては僕も未だ結論を出せないのでお答え致しかねます」
「な、何と…!」
早々に混乱に苛まれるハルマローシュ伯だが、一旦放置することにしたトマ。
「…にゅぅ…」
「くっ…おいたわしや姫様…我等にもっと実力があれば…!」
「菅清…気持ちは分かるが抑えるのだ…!」
「しかし胤清…!」
「先日のお前の太刀をあっさり指先で白刃取りされたのを忘れたか…!?」
「…ぐぬぬッ…かくなるうえは命を削る禁術を用いてでも…!」
「…それで何とかなるなら私がもうやっている…!」
「…何だと…!?」
落ち込むサクヤ姫はともかくあの時の付き人共が喧しいがこれも放置するトマ。
「…殿下。やはり僕らは同道しないほうが宜しいかと」
「ッ!? そんな無ざm…おぶしゃれざんすな!」
「そんなつもりで申したわけではないのですが…」
「………もういいのです…早く乗るのですぞ…」
考えてみれば未だ10歳の少女相手に大人気なさ過ぎると思ったので、
次に見せてくるだろうモノには嘘でも驚くべきかと考えるトマ。
「いかん…完方薬の残りが心もとない…!」
「外国の霊薬で良ければ如何ですか義父さん?」
「…うむ。気付けになるならこの際何でもいい」
エリクシルを気付け薬代わりとは相当だと思ったが、ハルマローシュ伯の
立場になって考えてみれば致し方ないのだということにしたトマ。
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何となく酒も渡したらハルマローシュ伯は殆ど飲み干して客室で
泥のように眠ったため、世話役に任せてトマはどう見ても地球のイージス艦だが
日輪国の軍艦「ひのわもりびと」の甲板で潮風と共に煙管を喫していた。
「…まぁ、我侭無限会社の存在を考えたら…
これはこれで釣り合いが取れるのか…?」
近いうちに行わねばならぬカルオックとの決戦を思えばこのイージス艦を
この世界にもたらした他の日本人族との関係も整理しなければと、
トマは少しばかり思案に耽る。
「……そんなに煙草を喫してばかりでは体に毒ですぞえ」
「…お気遣いは無用です殿下。たかが毒煙で僕の肺は穢れたりはしませんよ」
「…サクヤで良いですぞ。其方に対して日輪皇女の立場は無意味に感じます故」
「流石にそれは………いや、今は他人の目も無いから良いか」
「にゅぅ…」
「…サクヤ。世界はお前が思っているより広い。例えば竜合衆国の隣には
海魔族の神星水帝国があるのは知っているか?」
「無論ですぞ。彼の国と我が皇国は一応の国交がありますぞ」
「………日輪国は油断ならないな」
「…そこに驚くのは解せないですぞ」
「…ふぅ…ならば言っておく。僕は海魔族の遠い遠い親戚に少し因縁があってな。
海魔族の連中には少しばかり苦手意識があるんだ」
「…そうなのですか? 其方にはそんなもの微塵も無い気がしていたのですぞ?」
「…苦手なモノが無い者はそれを自覚できぬ愚者だけだ。帝国…いや、
とある遠い国には"敵を知り、己を知れば百戦して危うからず"という言葉もある」
「似たようなことは葦旭先生から聞いたことがありますぞえ」
「ならばこれ以上は言わなくても大丈夫か…サクヤは立派だな」
「トマに褒められても嫌味にしか聞こえませぬぞ」
「………それは、済まなかったな」
トマはサクヤ姫の前なので煙管を咥えるのをやめ、
ちょっと気が乗らないが干し烏賊を齧る事にした。
「…トマは沢山の国々を渡り歩いたと聞きましたが、どうなのですぞ?」
「…文化の違いはあれど、人間というのは何処もあまり変わらないと思ったよ」
「そうなのですぞ?」
「相変わらず度し難い者もいるし、救われて然るべき者も相変わらない」
「にゅー…う…?」
―でも、それで良いんじゃないかな?
―良いのだろうか?
―だって、私達は神様じゃないんだよ?
微妙に首を傾げるサクヤを前に、トマはずっとずっと昔、誰かに
同じようなことを言った気がするが、それが何時で誰だったかは出てこなかった。
「…こちらでしたか姫様。まもなくクー竜卿領本島に到着しますので…お支度を」
同じ格好をしているのでどっちがスガキヨでタネキヨかは知らないが、
あの時の付き人がサクヤ姫を迎えに来たのでトマは一礼して
ハルマローシュ伯の様子を見に行くことにした。
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初めて見るアルメルリルカルナディア竜合衆国の面々はどう見ても
屈強なドラゴンだったが、彼らの服装がどうにも気になってしまうトマ。
「……いきなりで失礼ですが、その服はもしかして…」
「モシカしなくてもビジネススーツだけどそれがドウカシタノカー?」
「…すみません…似たような格好をした連中とひと悶着あったもので」
トマが微妙な顔をしているのを見たスーツ姿のドラゴンは「オゥライト!」と
拍手を打ってスマイル(?)を浮かべた。
「アー、成るほどネー。そうだろうネー。この服って元々ノースジャック…
じゃネーや今はアーリエタニアか? ともかくそこが発祥でサ?
ほんでもってミー達のご先祖が連中の先祖と色々あったんだヨー?
アーリエタニアはファッ☆ンだけどスーツは悪くネーからサ?
でもユーがホーリィシ☆トってんならとりまソーリーしとく?」
「………」
竜合衆国のドラゴンたちが喋る日輪語は聞いていて何か耳に障るので
トマは早々に先に挨拶した際に読み取った竜鳴語での会話に切り替える。
「『いや、別にそこまで不快というわけじゃない。ただ少し気になったので』」
「『ほー? お前上手いな? ヒノワの連中特有の訛りが全く無いじゃんよ?』」
「『思ったんだが、少しばかりカジュアルすぎないか?』」
「『いや、今日って竜輪の懇親会だろ? そういうクソフォーマルなのは
要所要所でマジOKじゃね?』」
「『…やはり"クソ"が出てきたな』」
「『えー…? あー…でもまーしょーがないんじゃね? そもそも俺らの
ドラグリッシュってノースジャック…じゃねぇ炎意語に
古竜語をミックスしてっから所々下品なんだよ。何しろ俺らの古い先祖は
古代アーリエタニアに不愉快極まりない隷属を強いられる前まで殺し殺されな
バーサーカーライフだったからさー? 名残が消しきれないんだよねー?』」
「『それで良いのか竜合衆国?』」
「『大丈夫だ、問題ない。公的な場での下品な言葉遣いは厳しくしてるから』」
他所の国の話なのでそれ以上は突っ込むのをやめたトマ。
それよりも一番突っ込みたいのが「ひのわもりびと」に随伴していた
さらに大きな戦艦から出てきたどう見ても巨大ロボ数体である。
「………」
「……最初は俺も言葉を失ったぜ?」
「…言っておくがアレは日輪国のモノじゃないぞ」
「マジで?」
「あんな不釣合いなモノが日輪国のモノなら危険度も大鳴帝国を凌駕するぞ」
「オゥ、ガーシ。なら安心…できねぇわ!」
あの巨大ロボらへの突っ込みは近い未来のヒロシたちに任せることにしたトマ。
最後に突っ込むことにしたのはさっきから自分とフレンドリーに会話している
このスーツ姿のドラゴンが竜合衆国副大統領であるということだった。
Ⅵ:に続く
だってしょうがないじゃない。トマさんも十二分にイレギュラーだもの。




