Ⅳ:北方つながりの連中とサクヤ姫リターンズ
相変わらずシリアスが苦手な私をお許しください。
サクヤ姫から始まったハルヒト皇らとの得体の知れない気配云々を、
どうにか収集つけてから数日。トマは帝国大使補佐の仕事で昼の暇を貰ったので
日輪人が毎年死人を出しているにも関わらず食する餅…今回はミタラシなる
あまじょっぱいタレをたっぷり染み込ませ軽く炙った串モチを日輪茶と共に
昼食のシメとして美味しく食べたかったのにそれどころじゃなかった。
「大鳴帝国も厄介だと思ったけどっ?
日輪国ってそれに正しく輪をかけて奇妙すぎるわよねっ?」
「魔術抜きでああも機械化が進んでいるのには驚きましたね。我々が進めている
魔導鉄道計画が子供のお遊びに見えてしまいます」
「………」
「トマさん? 折角の団子が固ぅなってしまいますぞ?」
今現在トマはソバという日輪式の麺を食わせてくれる飯屋でシメの
ミタラシ団子を食おうとしたまま固まっている状態だ。
「…帝国よりも先に皇国との交渉を考えて良かったわっ…どうにかして
この皇国の技術を一欠片でも白銀国へ持ち帰らないとっ…ア、スミマセン。
ヒノワザケ、次ハ熱燗デ、オ代ワリクダサイ」
「アト、“えだまめ”モ山盛リ、ふたつオ願イシマス。ゆどうふモ追加デ」
「は、はいはーい! 少々お待ちくださいねぇー!」
「ちょとっ、ヴァロージャ。山盛り二皿は多すぎじゃなくてっ?」
「姫様、しかしこのエダマメは酒が進んで仕方ないのです」
「ナットウはサスガ日輪人頭オカシイと思ったけどっ…エダマメは反則よっ」
「日輪人は豆に何か恨みでもあるんでしょうかね? 豆で作ったトウフに
豆で作ったショウユソースを掛けて食らう等とは狂気を感じます」
「良いじゃないの別に、あたしは麦酒とパンも普通にやっつけちゃうわよっ」
―ムッチャムッチャ、もっきゅもっきゅ、ごっきゅごっきゅ、グビリグビリ…!
「………」
「上将どのは兎も角、白豹姫様のあの体の何処にあれだけの量が…?」
「………あれでも巨人族の血筋だから何の不思議も無かろうよ」
「いや、しかし妙なご縁ですね。親父殿…父上からはお噂は聞いてましたが、
やはり最後に聞いたのが三年前の話ですので…何と言いますか…血が滾りますな」
「そのセリフは今に限っては聞きたくなかった…」
さぁシメの団子でも食うかと思っていたトマの前にユリアとイェスゲノフスキが
ぬるりと現れ、今はテーブルを挟んで飯屋の店員たちが度肝を抜かされる量の
飯と酒を飲み食いしながら話を続ける。トマが固まっているのも知ってか知らずか
グイグイとこの有様である。ちなみにトマの隣にいるのはイクシニに似た顔と
サーガラ南方公の体格を上手に掛け合わせて妹の燃え盛るような色合いの
赤髪とはまた違った血のような深紅色の長髪が特徴的な男こと、
帝国南方公子ラクサアスラ。北方つながりではあるが
日輪皇国で遭遇するには聊か希少に過ぎる面子である。
「と、なると。そんな日輪皇国と主に輸出入ではありますが、同盟関係にある
遥か東の海向こうのアルメルリルカルナディア竜合衆国というのもまた
一筋縄ではいかない相手なのでしょうな」
「でしょうねっ。亜竜なんかとは違って本物のドラケンの合衆国だからねっ。
まぁ、合衆国なんて名乗ってるくらいだからウチの国以上に複雑っぽそうだから
どこか一つの氏族くらいは抱き込めると思ってるんだけどっ…スミマセーン。
かもなんばんヲ最後ニクダサーイ!」
「ニェット! 姫様! であればカラアーゲも!」
「シメに揚げ物とか馬鹿じゃないのっ?! 野菜を食べなさいよ野菜をっ!」
「後生です姫様! まだ酒が残ってるのですよ?!」
「酒なんてその気になれば塩でもいけるでしょっ!」
「ひ、姫様っ! そんなご無体な!」
…確かカモナンバンとやらもそれなりに脂っこい気がしたが、面倒くさいので
その突っ込みをようやく口に放り込めた団子と共に噛み砕いて飲み下したトマ。
「ハハハ…北方の者たちはやはり内に秘めた熱さが違いますなトマさん?」
「…確かに暑さは違うな」
なんかもう周りの様子もそっちのけで酒とツマミの云々で口論を始めた
ユリアとイェスゲノフスキを見ているのもどうかと思ったので
一応ラクサアスラに目配せ(何故か通じた)して卓上に自分の食った分の
代金を置いてスススーっと飯屋を後にした。
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往来にて歩きながらの喫煙は日輪皇国ではあまり良い顔をされないのだが、
今のトマは少しでも気を紛れさせたかったのだ。
「まぁ“いつかの未来の神魔ザドゥルオウス”って伝説は眉唾だけどねっ?」
「あーそーですか」
「でも、あの“血染めの要塞卿ギヨームが実はゲオルギー・ナミオカなる
日本人族かも”って言う話は信じてもいいかもしれないけどねっ?」
「あーそーですか」
「ちょとっ!! 人の話はちゃんと聞きなさいよっ」
「いや、姫様…」
「日輪美少年百人貫きとかクソミソな阿呆を抜かしたヴァロージャは黙りなさい」
そういえばユリアがここまで冷たい視線でイェスゲノフスキを睨んだのは
初めて見たような気がしたトマ。
「…サーセン…」
「こんなイェスゲノフスキ大白銀王国上将…イェルムンナが見ていたら…
果たしてどんな顔をするのやら…」
「…笑ってくれて構わんよ」
「はははははははは(乾笑)」
「…ウォトカを…ウォトカをくれ…」
「(゜A゜;)………」
ここまで落ち込んだイェスゲノフスキはラクサアスラも初見だったようで、
開いた口が全く塞がりそうにない。
「………む?」
ふと、妙な視線を感じた気がしたので辺りを伺うトマ。
明らかに日輪人ではない外国人連中が流暢な日輪語で喧しくしてるので
奇異の目はそこかしこにあるのは今更だが、それとは違う探るような視線に
少々不愉快なものを感じたのでトマは感知能力の精度を上げる。
「……えぇー…」
トマは思わず脱力感のある声を出してしまう。何故ならトマの感知した
探るような視線の正体が先日のサクヤ姫だからだ。
わざと視線は合わせないようにしているが、現在彼女は今のところトマと
極々一部の上位感知能力者にしか見破れない隠蔽魔術にて姿を気配ごと隠して
あまつさえ近くの屋根の上からトマを『じぃぃぃーっ』と見ていた。
『…何をしておられるのですか、サクヤ内親王殿下』
『みゃぅ!?』
屋根の上すら見ていないはずのトマがいきなり念話で話しかけてきたのに
大層驚いたようで、サクヤ姫は屋根から転げ落ちそうになっている。
『う、うにゅぅぅぅ! またしてもっ!!』
『サクヤ殿下。あまり儂を"おぶしゃれざんすな"で、ございますよ』
『ぐにゅぅ…!』
直接見ているわけじゃないが、サクヤ姫が凄く悔しそうな顔をしているのが
わかってしまって自分が凄く大人気なく思えてしまうトマ。
『ちなみに殿下。もしや勝手に皇宮から抜け出してはおりませんか?』
『それが何か!? 此方とて其方程の化外…失礼しました。
其方ほどの者が相手でなければ逃げ隠れること造作も無し! ですぞえ!』
『…ちなみにですが、儂はやろうと思えばハルヒト皇にも念話を飛ばせますよ』
「にゃぐ…!?」
名前から連想させられる桜色の髪の毛を若干逆立てて顔面蒼白になるサクヤ姫。
『殿下。隠蔽が解けかかってますよ? これはもしかするとハルヒト皇が
殿下の居場所を察知したやもしれませぬな?』
『う、うにゅにゅぬぬぬ…!』
ウメボシを食ったかのような酸っぱそうな顔でトマを睨もうか、
いや今はそんな場合では無いのでは…? と迷うサクヤ姫。
『…とりあえず。何か用事が有るのなら大使館でお聞きしますので、
殿下は一先ずお戻りください』
『……くぬっ…!』
トマの提案に渋々応じたサクヤ姫はこの間の日和言葉の呪文でもう一度
自分に隠蔽を掛けなおしてその場から姿を消した。それを確認したトマは、
ラクサアスラはともかくこの北方の招かれざる(トマ主観)白銀王国の客人らを
どうやって撒こうか考えることにした。
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一応トマは仕事の昼休憩だと言ってみれば「あぁ、知ってたわっ?」と
返されたのでちょっとピキッと来たが「…そんな怒らなくたっていいじゃないっ」
と、凄く珍しくしおらしい反応を返してきたので妙な脱力を覚えたトマは
「用があるなら正式に大使館で手続きを踏んでくれ」と返し一瞥もせず
ラクサアスラと共に大使館へ戻ってきた。
「トマさん? あんな対応で大丈夫がかですか?」
「そこは彼女のしおらしい反応を信じるしかあるまい」
「…そういえば、大使館には妹がおると聞いとったが…」
「ラクサアスラはリーナとは仲が悪かったりするのか?」
「んにゃ…そがんこつは無かとですが…顔を合わすのが数年ぶりなもんで」
「あぁ…まぁ、それは僕も似たようなことをつい最近…うっ…頭が」
「トマさんこそ妹殿と仲が悪かと?」
「いや、むしろ…逆すぎて…うっ…駄目だ思い出してしまいそうだ…!」
一応一言ラクサアスラに断りを入れて煙管に火を付け、
一気に中身を吸い尽くして半端じゃない紫煙を吐くトマ。
「………妹殿と何があったとですか?」
「…血縁関係云々を無視しても兄妹の常識的に考えて色々危ないk…うっ…!」
「良か! もう良かトマさん! そがん苦しそうに語られては俺も困る!」
トマの様子から何かを察したラクサアスラはそれ以上追及するのをやめた。
「色々意味は違うだろうが、いったん離れた家族との顔合わせには
色々複雑なモノを覚えるという意味ではラクサアスラに共感できるが…」
「良か! じゃからそがん事はもう良か!」
何ともいえない空気に包まれたトマとラクサアスラは
「とりあえず茶で一服でもどうか」ということで大使館の境内に入ったのだが、
「あわわわわわ…!」
「もう一度、もう一度だけ聞いてあげるのです。
貴方はさっきエニの大好きなお兄様を何と呼びましたか?」
「拙か! 流石にそがん真似は拙かよエニちゃん!」
「ん。でも大君に対してあの言い様はちょっと駄目だと思う(〇_〇)」
「そうですね。トマ・マリークへの無礼にも程があるので軽く捻って良いですね」
「いやその考えはおかしいってレベルじゃないとあたいは思う!」
「………主様は気にしないでしょうけど、ですが流石に…目に余りますね」
「え、と…? セシール…? とりま、落ち着けカフェオレ飲もう…?」
「にっへっへ…こいつぁ傑作だな」
「お姉様…意地が悪うございますよ」
今にも気絶しそうなくらいに怯えているサクヤ姫とトマとはまた違う意味で怖い
張り付いた笑顔のエンリルエリシュらが視界に入ってゲンナリした。
「失念しておったわ…」
トマは自分の額をべチンと引っぱたく。
「リーナ…思った以上に苦労しとるんか…」
「え、兄さん…?!」
「久しぶり、じゃけぇ…リーナ…何ぞ、頑張っとるけぇ?」
「ええとこに来よったな兄さん! ちっくと知恵を貸してくれん?!」
「こがん状況で俺に出来る事は無かとよ…」
「なんば情けのぅ事言うがか! 南方男児の名が泣くばい!」
「俺はこういうのは本当つ無理じゃけぇ…こらいやったもし」
「貴様それでも薩摩防人の長子かぁ!!? ごんくそぼけぇ!!」
「べふぁ!? こらいやったもし! そがん所が相変わらず母殿みたいじゃぁ!」
「どういう意味じゃあごんくそ兄貴がぁ!!」
「痛いイタイ! こらいやったもし! 折角伸ばした髪を引っ張らんでぇ?!」
状況そっちのけで何故か無抵抗なラクサアスラをどやしまくるカーリーナ。
「エニ」
「あ! お兄様ッ! 聞いてください! この子がお兄様の事を…!」
「Geben Sie einen tiefen Schlaf als das Meer!(汝に深淵より深き眠りを!)」
「ひにぃんッ…!?」
普通だったら永遠の眠りどころじゃないが、エンリルエリシュなので
これぐらいにしないと不意打ち一発では眠らないのでそうするしかなかったトマ。
「…んぁ…っ」
「…度し難い…ソピア、ルクス。エニを頼む」
「あ、はい…ただいま…」
「あれ…? 何か…エニちゃん凄く幸せそう…?」
受け止めた際に変な声を出すので色々と複雑な気分になったが、
気を取り直してソピアとルクスに眠りに落ちたエンリルエリシュを預け、
まだ青白い顔で呆然としているサクヤ姫に歩み寄ったトマ。
「…うちの義妹が大変失礼致しました殿下…」
「あ…えと…そのぅ……!? …うにゅぅ…」
どうしていいかわからない顔をしているサクヤ姫の頭をつい撫でてしまうトマ。
「………う、うううううう羨まし怪しから…!」
「第一使徒ライラ。邪心を隠す努力くらいはすべきかと」
「………なーん…だとぉー…?」
「お、お姉様…? 気持ちはわかりますがその、お顔が…!?」
何か他の面子も喧しい様相を見せているが見なかったことにしたトマ。
というか今自分がしていることに今更気づいて「あっ」と表情を固くする。
「ひ、他人のことを言えぬ真似を…!」
「………き、気にしてないのですぞえ」
蒼白だった顔から随分と血色の良い顔に戻っていたサクヤ姫は
ぷいっとトマから視線を逸らす。
「……重ね重ね無礼を承知ですが、殿下は何の御用でこちらへ…?」
「…そこまで大した用事は無いのですぞえ」
何かを言いたそうなサクヤ姫だったが、そっちよりも立ったまま
気絶しているらしいハルマローシュ伯を発見してしまったトマ。
「…義父上…申し訳ない…」
初めて見たハルマローシュ伯の笑顔で白目の表情は
暫くの間トマの脳裏から離れることは無かったそうな。
Ⅴ:に続く




