45‐B:東部フランカリマ知識攻略への道のり
日を改めケルマーナ政庁から正式な滞在許可と☆8ワーカー認定証を発行して
出直してきたトマだったが、やはり件の牙城は難攻不落のようだった。
「我が国での実績も無き者は例え正式認定者だろうと駄目だ」
「では、改めて参ります」
ケルマーナ式敬礼をしてトマは東フランカリマ国立図書院の門前を後にする。
> > >
詳しく聞いてから達成した認定資格取得は強さだけだった。
(都度都度の訪問はせせこましいか)
東フランカリマ知識制覇の道は遠い。ほぼ人類圏共通のワーカーランク☆8でも
きっちり手順(強さ、誠実さ、義理堅さ等をケルマーナ貴族に認めてもらい、
後見人となってもらう事)を踏まないと東フランカリマ知識には近づけやしない。
「誠実と義理堅さ…か」
んなもん知るかと大体ぶっ壊して進んできた前世からのトマには中々に難しい。
色々と理由を付けて避けてきた騎士(貴族向け)ギルドに足を踏み入れつつ、
冷静であれと勤めて受付に歩を進めるトマ。
「…ここは騎士ギルドですが」
「重々承知しております」
沢山の苦虫を噛み潰しながら集めてきた書類を受付に渡すトマ。
全央帝国に比べれば大分マシだが、刺さる侮蔑と冷たい視線はトマの
脳筋にピクピクピキピキビキビキ青筋ネットワークを展開させる。
「……成程、見かけで判断はやはり愚かですね。ようこそ騎士ギルドへ。
トマ・ハルマローシュ殿。現在は此方を合わせて三家より依頼があります。
目を通していただき、達成可能と判断した依頼を提示してください」
受付の言葉にトマに視線を刺していた者達は鼻息等あったが多くは外していく。
(…グロスクロイツ公家…流石に敷居が高すぎる…フランメヴァッフェ騎士家…
これは家格が家格だから複数必要…と、なると消去法か…)
如何せん依頼主が貴族なのでどこの家も時間が掛かるのは必至。となると
嫌でも消去法になる。しかし三家しか無いので選択肢は無いに等しかった。
「こちらを」
「…クラプヘン子爵家ですね…そうですね、公家と比較しても貴方の求める
国家資格取得条件には最適でしょう…が、大丈夫ですか?」
「誠意と義理堅さの証明となると、教鞭は経験もありますし、外国ですが
僕も貴族の子の端くれですので…果たしてみせます…!」
ゆっくりと語気を強めて受付に述べるトマ。
「心構えは立派です。しかし貴方の経験した教鞭と此方での勝手は
貴方が想像する以上だと深く理解してください。引き返すなら今ですし、
笑いませんし笑わせません。私も貴方の誇り高さは認めざるを得ませんから」
「ありがとうございます。では、宜しくお願いいたします」
「………宜しいのですね? これが撤回の最後の機会ですよ?」
「退きません。腐った祖国とはいえ、貴族の魂までは腐ってません」
少しばかり静寂が満ちる。
「………わかりました。身命を賭してください」
「ありがとうございます(流石にこのやり取り鬱陶しくなってきたかも知れぬ)」
> > >
そんなわけでトマはクラプヘン子爵家の門を叩く。受付も同伴してくれるので、
門前払いはまず無いだろう。
「……了解した。此方へ来なさい」
「はい」
「では、ハルマローシュ殿…御武運を」
背を向けて去っていった受付に言葉ではなく敬礼で返すトマ。
…。
……。
会ってみればクラプヘン子爵は能面が如く堅そうに見えて
話してみれば中身はそうでもない人柄だった。
…今のところ顔面に筋肉が有るかどうかは疑わしいが。
「…まぁ、我が子等に会ってみれば今までの連中との違いも分かるさ」
「了解です、子爵閣下」
「我が子らは隣の部屋で君を待っている…着いて来なさい」
「了解です、子爵閣下」
「…礼儀は程ほどで良い、暫くは我が子らの教師なのだから」
「はい、閣下……失礼します」
クラプヘン子爵の後に続いて隣の部屋へ入ったトマだったが、
「…ふん…顔は兎も角、声と背格好は間違いなく年下だな」(長男)
「ワイと一つ違いっちゅうんはホンマなん?」(次男)
「自分とも一つ違いです兄者。自分からだと一つ上ですね」(三男)
「おっすおっす~☆ 短い間だけどヨロシクね~☆」(長女)
「……ぼ、ボク別にどうでもいいよ…どうせまた三日以内だ、ろ…?」(四男)
「くっくっく…今日もワレの元にアワれなイケニエが来たか…!」(五男)
生まれ順にキチンと挨拶代わりの言と無遠慮に値踏みする視線を向けてくる…
それぞれに一癖も二癖もありそうな五男一女のクラプヘン子爵子六人には
少しばかり面食らってしまう。
「(六人とは書いてあったが…この感じだと三倍規模じゃのう…)…
お初にお目にかかります。僕はトマ・ハルマローsh…」
「それくらい知っている。書類は全て目通ししている…全部胡散臭いがな」
「兄貴wちゃんと言わせたりーやwww初手からバッサリはアカンてwww」
「胡散臭さは自分も同感ですよ兄者」
「お~お~☆ 固まってる固まってる~☆ ウケる~☆」
「ほ、ほらね…アッヒム兄さんの先制攻撃でもうわかっただ、ろ…?」
「くっくっく…そのホータイの下の顔はアワれな子ひちゅj…子羊であるわ…!」
クラプヘン子爵は自然に溜息を吐いているのを見ると、どうも今まで
こんな感じで前任者達の心を圧し折ってきているのだろうと踏んだトマ。
「疑われるのも無理はありませんね。では先ず御目汚し失礼致します」
何気にイラっとしていたトマは偽装痘痕顔を晒してみせる。
「「「「「「…ッ!?」」」」」」
「むぅ…」
これには六人の子達も度肝を抜かれたようで、各々開いた口が
キッチリ揃った広さは中々滑稽だった。
「お前達、トマ君…ハルマローシュ先生に対して無礼が過ぎるぞ」
「……ふん。我輩の戦場経験は伊達じゃない…似たような顔は何度も見てる…
大したことなど無いな」
「ホンマかいな兄貴…眉毛ピクピクしてへん?」「バルド、それは気のせいだな」
「驚きましたが、自分も兄者同様に狼狽するほどではないですね」
「ふひ~…結構なお手前で~☆」
「お、驚いたけ、ど…! も、もうボク驚かない、ぞ…!!」
「ふぇ…こ、こわk…くっくっく…! ナカナカにホネがが…ありそうだ…!」
トマにしか聞こえなかったが、クラプヘン子爵は小さく笑っていた。
相変わらず能面だったが、トマの肩に優しく手を置く子爵。
「今までの連中とは一味も二味も違う御仁だな君は。しかし期待はしないでおく。
流石に初日は今まで19人もやり過ごしているからな」
「19人ですか…(一体何人潰して来たのだこやつ等は…?)」
> > >
依頼書にも書かれていたことだが、今一度クラプヘン子爵に六人の子息女が
どんな人物であるか聞いたところ、子爵が仕事の虫になっている間に
先代子爵、各々の妻達+その祖父母らに大事に大事に甘やかされていた上、
六人全員が実力だけは何処に出しても恥ずかしくない天賦の才に満ちていたため、
まぁ世の中をペロペロprpr舐めまくりなドラ息子+お転婆ーズだそうだ。
さらに性質の悪いことに子爵と言ってもそれは今のクラプヘン子爵のことであり、
お家誕生から王配、王妃を毎度毎度輩出しまくっているので実際の家格は現大公に
戦争を挑んで圧勝できるレベルだそうで…実際先代も先々代(未だ存命)も
代々第一、第二大公と謳われる爵位持ちなので家格差もヘッタクレも
知ったことかと無双しそうな勢いであるそうな。
「故に我も腹の底では見下されている。しかし出世に感けていれば、
いつか取り返しのつかない大失態を招くのは目に見えている…故にトマ君。
君の戦歴を信じたい。彼らに遠慮なく強者…殿上、雲上、天上存在に対する
畏怖の念を抱けるよう教育してくれ…が、直接的な暴力は駄目だ…
それをやっては父上と祖父上に妻達とその祖父母達の四方八方責めとなり…
……私の胃と心と尊厳と魂が今度こそ完全に死に絶える…困難を極める注文だが、
やり遂げてくれた暁には散々の責め苦で知った人の心の壊し方等を用いて
仮に同僚先輩後輩諸々の障害を粉砕してでも君の事を全力で支援する…!」
初めて表情を動かしたクラプヘン子爵に思わずピクリとしてしまったトマ。
よく見れば彼の瞳は薄っすら潤んでいる気がする。泣けることを
体が思い出そうとしているのかもしれない。
「頼んだぞ…」
「畏まりました! お任せください、子爵閣下…!」
トマは随分と久しぶりに使命感に燃えたようだ。
> > >
要するに物理的な痛痒を与えなければ良いのだ! と、
クラプヘン子爵の遺志(勝手に殺すな)から脳筋思考(※誤字にあらず…
ワンパターン+ワンパン+アンポンタン合体語)で判断したトマは、
翌日の無難な授業からの午後…彼らに「一度は皆さんの実力を知らなければ」…と、
六人+いやこれ過剰すぎじゃねえか? という規模の護衛軍や専属侍従達を
伴って東フランカリマ領内にある……いや、だから、これ、やりすぎじゃねえか?
…という貸切状態になっている練兵場に連れて来たのだ。
どうやらトマ同様六人の実力諸々をしっかり把握していない前任者達も
彼らの実力を見定めて穴を突いてやろうと試みたが…こんな状態になり、
しかも彼らが先に述べられた通りの実力者であるという事実で13人が
まぁ見事に色々とブッ潰された…と、親切な護衛さんから聞いたトマ。
「ふん…早くも底が知れたな(´、ゝ`)」
「あーwこらアカンwホンマにアカンてwww」
「さて、トマ先生はどれ程ですかね? 楽しみですよ( ̄ー+ ̄)」
「む~ん~★ せんせ~は~☆8ランクだってさ~★ 楽しみ~★(o´ω`o)」
「そ、そういえば…前の☆7の人は…平均6分…だったか、な…?( ̄w ̄)」
「くぅ~くっくっくッ…! セイゼイ楽しませてくれたまえ…!(* ̄ー ̄*)」
トマは六人の今までの余裕からくる勇ましい(?)表情には好感を覚えたが、
会った時から六人全員の潜在魔力をジックリタップリガッツリ探っていた為、
六人全員の全ての魔力を合わせても…ハンデ無しでの通常エンリルエリシュを
【255】の基本値とすれば、一戦交えて把握している分のエルムートゥスを
【240】…イェルムンナ【120】…メイユィンシン【160】…として計算すると…
残念なことにハノーク【80】を少々超える程度である。一対一で見れば…
トマの脳内修羅界での話だが、全員ハノークの二手以降から順に殺されて終わる。
この順番はまぁあくまで潜在全魔力だけで見ているので長男からではないが、
まぁ全員(仮想では)殺されるのでどうでもいいと思ったトマ。
「それでは、皆さん…得物の準備は良いですか?」
「愚問だな」
「アカンわー…トマセンセーマジでアカンわーwww」
「当たり前ですが、自分は手心は加えませんよ」
「ふっふっふ~☆ あたしはいつでもいいよ~☆」
「べ、別にやめても大丈夫です、よ? ぼ、ボク両方で嫌だから…イジメは、ね」
「くぅ~くくくくくッ! シュヤクはサイゴをカザるのが基本…!」
長男から名前と得物を順に…アッヒムは騎乗双剣と呼ばれる
簡単に言えば手漕ぎ板をそのまま凶器化した形状の武器。
次男バルドゥルはまぁ物語の主人公にありがちな片手剣二刀流。三男の
クリストハルトは無難であり堅実といえない事も無い両手槍。長女のタビタは
年頃には不釣合いな大きさの巨大メイス型の魔法杖。四男のダーフィトは
この世界では未だ独創的であろう二丁魔動拳銃。末っ子五男エーレンフリートは…
どうやらトマと同じで無手ないしガントレットで戦う闘拳スタイルのようだ。
「おや、エーレンフリート君。奇遇ですね…僕も闘拳スタイルなんですよ」
「くっくっく…それはそれは…スゴくスゴくすごぉぉぉく楽しみである…!」
表面上トマは平静アルカイックスマイルだが…内心では「…相手の魔力を
ロクに計りもしておらぬと見える…これはひどい」と思っている。
「では、誰から始めましょうか? やはり順番でアッヒム様ですか?」
「ふん…いつも通りでは面白みも経験も足りんな…クリスト、初陣を譲る」
「ありがとうございます天の兄者…山の兄者も宜しいのですか?」
「かまへんかまへんwワイはいつも安定の二番やからなwww」
「くっくっく…ならば三番手はこのワレ…」
「だめ~☆ エーレンフリートは一番のオチビなんだから安全最優先~☆」
「え…?! ひ…ひどいよぉ、おねぇちゃあぁん!? ……ヌハッ!?
く、くくく…! ま、まぁジアイも大事よ…!」
「え、エーレンフリート…ぼ、ボクが最後で良い、よ…?」
「え、良いのダーフ兄ちゃん!? …ヅァッ!? く、くかかかかッ!!
感謝くらいしてやらんこともないぞ師兄ぃ…!」
「そ、その呼び方…死刑に聞こえるから…やめて、ね…?」
「を!? おぅ…?! い、以後気をつけてやろうぞ四の兄…!」
「え、エーレンフリート…もう普通で良いんだ、ぞ…?」
「やだよ! そんなのカッコワルいじゃん!」
欠伸が出そうだったトマは軽く深呼吸して口火を切る。
「…では、初戦はクリストハルト君単独で良いんですね?」
「良いですねトマ先生…同じ事を言ってくれたのは先生で七人目ですけれども」
「そうですか、七番目とは縁起が良いですね」
「そうですね。七番目な先生は演義も良いですよ」
「それはどうもありがとうございます」
トマは何時ぞやの試合用手甲を装着して自然体となる。
「っと…そういえばお互いの勝利条件を明確にしていませんでしたね?
条件はどうしますかクリストハルト君?」
「それは三人目ですねトマ先生」
「おや、またしても縁起が良い数字を…」
「…ケルマーナでは第三は不吉に繋がる事が基本ですけれども」
「あぁ…そうらしいですね。まぁ僕の祖国や周辺国では3は良い数字扱いですよ」
「…所変われば何とやら…ですか先生」
「そういうものですねクリストハルト君」
「そういうものですかトマ先生」
「ははは…」
「アハハ……では所変われば何とやらに因んで先生が決めて良いですよ」
ようやく閑話休題かと内心で溜息を吐くトマ。
「では…クラプヘン伯爵から聞いておられるかと思いますが、僕は皆さんに
直接攻撃することは厳禁とされておりますので、僕の勝利条件は
挑 戦 者 が 降 参 の 意 思 な い し
戦 闘 不 能 を 示 す ことで…挑戦者の皆さんの勝利条件は
僕 に 一 撃 で も 当 て ら れ た ら …で良いですか?」
昨日から舐められまくってて既に心は青筋ワールドワイドウェブな脳筋が
ついついガチ見下しの意思を示すと、六人のドラ息子&お転婆娘ーズの
表情もピキリと固まった。
「一撃決着で良しとした人は貴方が初めてですよトマ先生…!」
「おぉ、初物とは縁起が良い」
クリストハルトの顔面が綺麗に半分だけ引きつった。
「もしや先生ぇ…?! どんな数字でも縁起良いとか…? 言いますかァ…!?」
「ええ、僕にとって 全 て の 数 字 は 縁 起 が 良 い ですよ…?
生 活 に 必 要 不 可 欠 な 数 字 に 悪 だ の 善 だ の
決 め 付 け る な ん て 愚 の 骨 頂 で す か ら ね ?」
クリストハルトの両目がじゅわりと充血した。見守るクラプヘン子爵は
小刻みに震えている。笑いを堪えているのか既に大爆笑なのか普通に
親心と貴族のプライドが雌雄を決さんとしているのかは不明だ。
「そ、そろそろォ…? 始めませんかァ…?」
「そうですね。そろそろ始めましょうか。で は 、ど こ か ら で も
お 好 き な よ う に お 好 き な と き に … … … …
………本気で襲い掛かって来い、長子の予備の予備小僧」
「調子ィ乗ってんじゃねェぞアバタ野郎がァァァァァァアッ!」
自分なりに隠していたのであろう本性と魔力を開放して
本当に襲い掛かってくるクリストハルト。
「…ふむ、本気を引き出してこれか…ハァ…┐(-。ー;)┌」
クリストハルトはクラプヘン子爵が「止せッ!!」と叫んだが聞くはずもなく、
本当にトマの心臓を貫くべく必殺の一突きを放ったが…
「メイユィンシン公主殿下の六色螺旋撃…に比べる事自体が間違いか」
とボヤいたトマの指先でピタリと止められ、槍をそのままトマの後ろに
美しい放物線を描いて落下するクリストハルト。
「…ゴふッ!? …な…んd…「Geh schlafen(眠りなさい)」…カッ…?!」
何が起きたか把握する間も無くトマによって眠らされるクリストハルト。
「はい。クリストハルト君は戦闘不能ということで、僕の勝ちですね」
クリストハルトを除く五人の子爵子は沈黙、その他大勢は様々な色の声を上げ、
最初の試合は終わった。
…。
何だか凄く気持ちよさそうに眠るクリストハルトを尻目に、バルドゥルは
お笑い成分ゼロの顔でトマを見据えて得物を構える。
「ようやるわートマセンセー…ワイはホンマに吃驚仰天やで?」
「僕は全く笑いを入れてこない貴方に驚き桃の木山椒の木ですよ」
「それクソおもんないわトマセンセー…ちゅーかさっきもやけど、トマ先生…
何で全然構えへんの?」
「あー…それ聞きます? 同じ事を昔から何回も言ってるんですけどねー?」
「なんやそれ、フリなん?」
「そうですね…同じ事を言うのはオモロナインですけど…
…構えって防御ヤン? 最初から守りに入ルンってオモロナインチャウ?」
「やめぇや、ワイの真似すんの…正直たまに自分でもムカツクんや」
「オカンに毒されたッチューヤツ?」
「…やめぇ言うとるやろセンセー」
「…そうですね。確かにこれは 全 然 面 白 く な い 」
「…どういう意味だオイ」
トマは心の温度が上がっているが、バルドゥルは逆に冷えていく。
「正直な話、その訛りを聞いていると…僕の知っている気風の良い人たちの
愛すべきお国言葉の劣化コピーみたいで詰まらないのに詰まってくるんですよ」
「…そうかよ。じゃあ体に詰まったクソ出すの手伝ってやるよ先公」
トマにとっては何処が着火点かは不明だが、色々と冷え切ったバルドゥルは
トマをバラバラにしてやろうと分身を現出させて襲い掛かってくる。
「「「「「…死ねよ、アンタ」」」」」
「残念ですがルールがルールなので不可能ですよ」
並みの将なら成す術なく浴びる魔力飛刃込みの斬撃雨がトマに降ってくる。
「眠りの魔術はあくまで眠りに誘うわけだから良いが…
さて…どうしたものか…考えても殆どが直接な気がする…」
等とブツクサ言いながらバルドゥルの攻撃を全て余裕で避けまくるトマ。
「い「い「加「減「死」ん」ど」け」や!」
「だ「か「ら「不「可」能」で」す」よ!」
意味は無い気がするが、トマも分身を出して攻撃に回避し始める。
「……ん? そういえば…あぁ…直接といっても本人じゃなければ良いのか?」
回避に飽きてきたらしく、全ての攻撃を片手間の魔盾で防ぎながら
思案し始めたは結論を出したようで、トマは不意に動きを止めると
瞬時に警戒したバルドゥルもつい動きを止めて構えてしまう。
「おいテメー…! 直接やるんか!?」
「まさか、ちゃんと防御してくださいね? 避けれるならそれもアリで」
「舐めんn…!?」
今までの動きから相当なチャージ攻撃を予想して回避…いや、
やはり防御が早いと踏んで構えたまま身を固めて
吹っ飛びに備えるバルドゥルだが、バキィィィンと音がしたかと思えば、
粉々に吹っ飛んだのは彼の得物だけ。
「は…?」
「はい、おしまい」
「うっ」
トマはバルドゥルにデコピンをした。
「あくまで試合ですので、今回は僕の勝ちですね」
「ばっ…!」
「まさか、こんな猫騙しみたいなのも攻撃扱いになるんですか? 試合なのに?
それで決めた勝ち負けって面白いんですか?」
「ぐっ…! …………はー………アホらし…せやな。これは試合や…
ホンマモンやったらワイ死んでるっちゅーのは十分な話やで…
せやから大人しゅう降参したるわトマ先生」
「降参して頂き、ありがとうございました。これで間違いなく僕の勝ちです」
「…?! …ハッ…おもろいやんけ…!」
トマの本当の意味での勝利宣言にハッとして顔が怒気に満ちそうになるが、
考えてみれば試合だからこその面白い展開にフッと笑ってから
まだ眠っているクリストハルトに何か面白いコトしたろと
ニヤニヤしながら観戦席に戻るバルドゥル。
> > >
すぐ次は長女タビタとトマの試合になるはずだったが、先の試合後に
即行でバルドゥルがクリストハルトの顔面に腹筋崩壊必須だが
色々と表現に困るレベルな落書きをやらかした為、小休止を挟んでから
タビタVSトマの試合に臨むこととなる。
「山の兄者…この屈辱…死んでも忘れませんよ」
「別にええやんけwこんなん我が家あるあるやんwww」
「くふっくふっくふっっくっく…まだお腹痛いよぅw」
「エーレンフリートォ…!」
「ひぃっ!? 助けてダーフ兄ちゃん!!」
「ぼ、ボクを盾にしない、で…!」
「……((((‐_‐))))」
「何やwアッヒムwwwオヤジみたいに震えてどないしたんwww?」
「……何でも無いのだがな((((‐へ‐))))」
「ヒャッハwww口が笑い堪えてるんバレバレやwww」
「……んゴパッ((((‐д‐))))」
「wwwwwwwwwwwwwww」
クラプヘン家外野が凄まじく賑やかなのだが、トマにはサッパリである。
「オトコって時々わかんないな~☆ せんせ~もそ~思わな~い?」
「それ、僕に聞くんですか…タビタさん?」
「あたしのコトはタビーとかビータで良いよせんせ~☆」
「いや、僕とタビタさんは教師と生徒ですからそこは…」
「だ~か~ら~☆ 遠~慮せ~ずにッ☆」
「親しき仲にも礼儀ありと言いますよね」
「もぉ~☆ トマ先~生の~ご~遠慮…サンッ☆☆☆」
ボッゴォォォォオン!! さっきまでトマが居た場所が爆発する。
「「「「「!?」」」」」
「は…? 何や、いつの間に始めとったんや!?」
「あのさ~バルド兄~☆ あたしが準備できた段階で~試、合、開、始だぞっ☆」
「まぁ、最初の試合でそう言いましたし…というか嫡男の皆さんは
さっきから自分達の領域しか見てないじゃないですか」
「そ~そ☆ こっちが加速と膂力駆使して頑張ってんのに見向きもしないとかふざけんなよって何度言いたくなったかわからない中でちょっとでも先生の隙を伺って一撃必殺してやろうってやってんのにマジでそういうトコ最悪だからあんた等何時まで経っても彼女も出来ないし友達だって出来ないんだろうが!」
タビタの語調が安定しなかったのはその度に加減速魔術含めた付与魔法と
棍棒術等を駆使してトマに一撃を入れんと奮闘していたせいだ。
言うまでもないがトマはそれを防御すらせず避け続けて会話していたのだ。
「しかし勝利条件に注目していたのは素晴らしいですよタビタさん」
「そ~ね☆ スコシカンガエレバボウギョダロウガイチゲキハイチゲキダシ?
逆に言えば~☆ サッキノシアイと~か☆ コウゲキッテ言い張れば
アタシノ勝ちは勝ちダシ? ソコをちゃんと言質取っちゃえばどんな魔法も全部攻撃って扱いにできるって考えて言ってみればホラモウアタシノショウリ確定みたいなもんじゃ~ん~☆」
「いやぁ…自分の未熟さが情けないですね」
「ね~トマ先生…? あたしが勝ったからってそれで終わりじゃないんだからさ?
降参してよ~ねぇ~ねぇ~?」
「ハハハ御冗談を…(しかし参ったな…何をしても下手を打てば反則負け…
このままタビタの体力が尽き果てるまで遊んでやってもいいが…
彼女が其処に気付いてないと判断するのは悪手…時間差攻撃等と言われてみろ…
何だかんだでこの六人は境遇と日ごろの行い故に喧嘩しつつも即団結できる…
多数決など取られれば実質味方ゼロな儂の勝ち目が…ええい長考が過ぎるわ!)」
普段からそこまで頭を使ってるようで使っていない脳筋なので
考えれば考えるほど色々とダメな方向にループし始めていく。
「うりゃっ☆」
「…!」
そして思考に集中すればそれだけ目の前の相手への意識が外れる。
そこを見逃すほどタビタは甘くない娘だ。意識の外からの攻撃は
如何にトマとはいえ完璧には対応できない。
「惜しいなぁ~☆ 考えてるようで頭空っぽでやったのに~☆」
「ははは…むしろ無意識でやってくれる方が此方も楽で良いですよ
(攻撃に値しない攻撃とは何ぞや? ああ…儂の脳筋!
自らの防御行為すら封じられ…ん?)」
トマはタビタから空間転移魔術で距離を取る。
「うぇっ!?」
フッとトマが消えて現れた事に戸惑うが、瞬く間にタビタは
無詠唱魔術連撃をしてくる。しかしその魔法が届く前に
トマは自らの前に障壁を展開して防御する。
「うっわ~…まだまだ色々隠してたんだね~トマせんせ~☆
せんせ~って見た目もそうだけど~ホントに人間種なの~?」
少しでもトマの意識を崩す言を述べつつ不意の魔術攻撃を忘れないタビタ。
「僕は孤児ですので、もしかするとそうかもしれませんね」
「え~…そこは否定してよトマせんせ~☆
折角…トマ先生のこと…ちょっと良いかなって思ったんだから…あっ///」
「ッ!?」
ふと零して顔を赤くするタビタにビックゥゥゥンとしてしまう
肉体は年相応、いやそれ以上に青春モリモリ触るな危険なトマ。
前世はもう色々と枯れ果てていたが、新たな肉体と共に心もムクムクモヤモヤと
引っ張られているのだ。トマは前世でエグい物を見慣れまくったせいか、
今生で見る美しいモノたちへの反作用的な何かがすぐ現れてしまう。
「…ッ!」
「はっ!?」
僅かな時間だったがトマは違う意味でタビタに意識を向けてしまった。
故に気付いたときにはタビタが眼前に迫り、両手をトマに絡みつかせようと…
「時空凍結ッ!」
咄嗟に今まで必要性を感じなかったので当然碌に試さなかった
一時的な時間停止魔術を何の準備も無く無詠唱でやってしまった結果…
トマの思考以外の全ての時間が凍結した。
45-C:に続く
素直に分割できない自分に…




