45:東部フランカリマにて
色々興味深い知識はあるのだが、地学や物理学に数学の知識は少なかったので
トマは予定より早く森山座団を率いて東部フランカリマ入りをすることにした。
「まもなく王都アルフエールトの関所ですお館様」
「…ようやく最後の関門だな」
「疲れた(〇_〇)」
「同じフランカリマを冠するのに…この差って何なんだい…」
「同じ説明を何度もしなきゃならないのは辛いよ姉ちゃん…」
「何というか…? もう別物…完全なる異文化? ねぇ? リョート?」
「一応西部語でも意思の疎通は出来るが、反応同じ過ぎは考え物だなルクス…」
「トマ・マリーク。東部語って言葉の響きが厳ついです…」
「『儂は悪くないと思うが?』」
「『主様。ケルマーナは破裂音が多いので慣れない人には少々難儀なのですよ』」
「『むぅ…儂はこの響きが懐かしさを醸すので好きなのだが…』うむむ…」
珍しく普通に落ち込むトマを見てハッとするライラ。
「っ! ですがトマ・マリークが諳んじる東部語は一番威厳に満ちております!」
「…威厳か…別にそういうのは要らんのだが…まぁ、良い」
とりあえずライラを撫でてやるトマ。ライラは幸せそうだ。
「『セアもケルマーナで女王気分になれる(〇_〇)』」
「『ははは…着飾れば益々それらしくなるな?』」
「『大君と私で主君夫妻に見える?(〇_〇)』」
「『はははこやつめw十億と2000万年早いわw』」
「あう(>_<)」
幸せそうなライラを見て負けじと頑張るセアをデコピンするトマ。
「『…神皇とその神妃…あぁ…見果てぬ夢』」
「『過分な夢は身を滅ぼすぞツェツィーリア(セシール)』」
「ひんっ!?(<×> <×>)」
例によってセシールも乗ってきたのでデコペチするトマ。
「ぐぬぬ…ケルマーナの練習をしなくては…!」
「お前は別なことを勉強しろライラ」
「痛ッ…気持ちいひだだだだッ?!」
例に(略)ライラには頬ペチしたが反省どころか嬉しそうだったので抓る。
「『では次! 先ずは紹介状ないし通行証を開示せよ! 例外は認めぬ!』」
関所でトマたちの番となったようなので、トマとセシールに一応セアが
交渉役として出る。
「…ワーカーギルドの者か。ふむ、偽装は無いな。では諸君等の頭目は誰だ?」
「儂…いや、僕です。僕が頭目のトマ・ハルマローシュです」
「ふむ、通行証の人相詳細と同じだな。念のため顔を確認させろ」
「どうぞ」
トマは包帯を取って偽装した痘痕顔を晒す。順番待ちの暇を持て余した
野次馬達は各々驚愕するが、関所の兵士達は眉根を少し潜めただけで
ほとんど反応しない。良く出来た兵士だとトマは思った。
「魔術的な反応があるが?」
「そういう呪いなので」
「審議判定させてもらうぞ」
「どうぞ、あ…念のため防御魔術を…」
「案ずるな」
兵士達は自身に入念に防御魔術を掛けてからトマの偽装顔面を調べる。
「(万が一は想定してあるが…)…どうですか?」
「……………」
実際軽く呪毒も纏わせているので、兵士達はすごく真剣であった。
「………ふぅ…。伝染性は低いと思われるが…」
「この包帯にはその対策も施してます」
「確認させろ」
「どうぞ」
念のため包帯にもそれっぽいことをしておいて良かったと思うが、同時に
「前の関所からの報告書も目を通しているのに融通が利かぬ」とも思うトマ。
「うむ。時間を取らせて悪かったな。何度も聞いているだろうが、
大事な規則だから言っておく。ここでは他国の証書は参考程度だ。
ケルマーナ・フランカリマに於いては中央政府以上の政庁からの
正式な許可原本ないし相当する写し以外は原則として直接審査を受けてもらう。
辛いかもしれないが、これも双方の平和のためである。
正式な滞在許可が降りるまでは我慢してくれ。以上だ。
……コホン…ようこそケルマーナ・フランカリマへ。今日の心身疲労は
当方自慢の酒場ないし居酒屋にて遂に解禁された
当方屈指の切れのよい苦みとなめらかでマイルドな味わいを持つ、絶品至高たる
ラガーを初めとする多種多様な麦酒とサクランボ火酒で癒して下さい。
料理は…フランカルム料理に慣れているであろう皆様には微妙かもしれませんが、
素朴な味わいの馬鈴薯プファンクーヒェン(パンケーキ)に
ピリツェンズッペ(マッシュルームスープ)、煮込豚や…
中部料理にオストルチ料理もありますので、ご安心ください。
最近は遥か極東の日輪皇国料理なんてのもあります。
かつてはノースジャック…いえ、アーリエタニアと肩を並べるほどの…
シャイセ(クソ)酷い…失礼しました…お粗末な料理文化でしたが…
今現在我らのケルマーナは料理文化大開花中ですので、きっと満喫できますよ」
「ご丁寧に有難うございます。毎日のお勤め、お疲れ様です」
「いや…いえ、これも仕事ですから(^ー^)b それでは良き日を」
「貴方も良い日を」
「ありがとうございます。貴方に唯一至高神の祝福を」
「ダンケシェーン(…そういえばここもジェルドセド教国家だったな…)」
自身の胸の心臓のある位置をポスンと拳で叩いて敬意を示し合うトマと門兵。
門兵は持ち場に、トマ、セシール、セアの三人は馬車に戻る。
「…お疲れ様です主様。しかし、無知は罪と言いますが…神の子たる主様に…」
「…構わんセシール。今までのに比べればあの兵士は天地の差で礼儀正しいのだ」
「長くて疲れる(〇_〇)」
「わかっているのですが、笑顔で呪いの言葉を吐かれている気がし…あっ?!」
「……そうか…あ…いや、気にするな。瑣末な事だ」
「ももも申し訳ありませんッ! ごめんなさいごめんなさいトマ様ッ!!
如何様な罰も甘受いたしますッ!!!」
ガチ泣きしそうだったのでトマはライラを軽く抱きしめて頭をポンポンする。
「ふぇぇ…!」
「泣くなライラ。僕は泣き虫なお前は見たくない」
「ひゃい…! ずびばぜんトマしゃま!」
既に涙と鼻水が酷かったので浄化魔術で綺麗にもしてやったトマ。
「僕も僕で大人気なくてすまんなライラ」
「ぞんなごどぉ…!」
まだ涙が溢れるので指で優しく拭ってやるトマ。
「セア、無粋な真似はおよしなさい(<〇> <〇>)」
「う…(〇_〇;)」
わざと瞬きせず涙を溜めようとしていたセアを友神メジェデドが如き眼力と
圧力で制するセシール。その様が何だか可笑しかったようで
ソピア姉弟とリョート兄妹はクスクス笑う。
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アルフエールトのワーカーギルドで手続きを済ませ、薦められた大人数対応の
宿で森山座団のメンバーの休息を一通り確認したトマは独り王都散策を始める。
「…これで"田舎騎士の国"…とはなぁ? 西部の連中の目は節穴か?」
道はしっかり舗装され、ゴミ等も他国と比べれば笑って許せる程度にしか無く、
行き交う人々は言動こそ浮かれ気味ではあるが整然としている。
会話の様子もトマからしてみれば礼を尽くしている様子も其処彼処に見られ、
兵士はまぁ無愛想だがそれだけ集中していると見れば好印象である。
「…僕からすれば猿が人間を笑うようなものだ」
そう零してしまうほどに東フランカリマは文明度が高く感じたトマ。
「…僕としては一番ここが過ごし易いな」
口論等は文化をよく知らない外国人目線で見ると口撃舌戦討論と感じるが、
慣れてしまえばそれが良いものだとしみじみ思える。
「…何よりも琴線を振るわせるのは…」
魔導ゴーレム技術の高さだろうか。人型のモノはまだお目にかかってないが、
馬型に人馬一体型に四輪車型といった乗用ゴーレムが
トマの…男のロマンを良い意味で刺激する。実際に人型はあるのか?
あるとすればどれ程洗練されたモノなのか? 想像するだけで楽しかったトマ。
「"古は機士の国ドゥルーシ、今は正騎士の国と謳われるケルマーナ"…」
途中で見かけた吟遊詩人が歌っていた一文を諳んじるトマ。
ふと、麦酒の事を思い出してお国柄がお国柄だからどうなのかと思ったが
昼間から酒場も居酒屋も開いているようなので、程々に賑わっている店舗に
遠慮がちに入ってみるトマ。遠耳に聞いた喉越しと味わいは捨てがたかったか。
「らっしゃい…ん? 子、供…? は立ち入り厳禁だぞ?」
「すみません。これ、身分証です」
顔面包帯なので歯切れは悪いがちゃんと対応する店主に
ギルドから発行してもらった身分証(仮)を見せるトマ。
「あぁ…形は微妙でも16か。見ない顔…だな?」
「すみません。こんな顔で」
「いや、ワーカー何だからあんたのナリは仕方ないさ。身分証も
仮とはいえケルマーナ政庁の押印もあるし…んで、何を呑む?」
「ラガーを下さい」
「稼いでんだな兄ちゃん。ちょっと待ってろよ……ほい、お待ちどおさん」
「おぉ…」
待ってろと言って数秒後には綺麗な泡立ちのビール入りジョッキを出してくる。
仕事の速さに感心してしまうトマ。
「これでも俺はビーアマイスターの端くれだ。ビーアには妥協しねえ。おら、
さっさと呑め温くなっちまうぞ」
「いただきます」
トマは麦酒を煽る。ビールは舐めるものじゃない、一気飲みするものだと
笑いながら店主が言うのでその通りにしてみれば、確かにそう思えた。
「ツマミいるか? オススメは腸詰…なんて言わねえぞ?
そこも妥協するのは間違ってるからな…今日は乾酪(チーズ)だ。
ベルンラントの良いの入ったからよ。あとはシュニッツェル(カツレツ)だ」
頼んでいないが即ラガーのお代わりを出してきた店主はそう言ってきた。
「あぁ…コートレット(カツレツ)…では両方下さい」
「あん…? お前さんフランカルムの出か?」
「厳密に言えば違うのですが…半分はフランカルムの血が入ってますよ」
「シュニッツェルをコートレットと即座に分かるのが引っかかったからな」
「恐れ入ります」
西に比べると肉の下味が濃い目だが、ソースが掛かってないのを考えれば…
何よりビールとの相性は塩気と油が強めのほうが素直で良い。
ちゃんと食べるならソース有だが、酒に合わせるならこっちの方がいい。
無論トマの主観だ。
「良い呑みっぷりだな兄ちゃん…ったく俺も飲みたくなっちまうわ」
とか言いつつ自分のビールをすでに引っ掛けている店主はご愛嬌か。
トマは軽く笑いながらキルシュヴァッサーを注文した。釣られ笑いかは不明だが
同様に笑った店主が「"ブドウ銃"で勝負するか?」とふざけてきたので、
笑い合って普通に乾杯した。
酔えなくても酒は良いと改めて思うトマだった。
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寄り道もそこそこにトマは本来の目的である東フランカリマ知識制覇の歩を
薦めんとするが…
「規則だ」
「ですよね」
と、まぁこれまでの比ではない遠き道の一歩だった。
45‐B:に続く
次回45-B:なんて無駄に夢想を溢れさせた結果ですよ…




