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39:西フランカリマの日常にて

 トマは目の前で何か祈りだしちゃってる灰亜神族や黒鬼人族を含めた

異様な数の大集団を前に額を押さえていた。ちなみに普通の態度なのは

傍に立って何故か此方を微笑んで見てくるバーガンティとソピアだけだ。

ただし彼と彼女の服装が何だか先日見たときと全然違ってキッチリした

濡れがらす色と言えばいいのかそういった感じの色合いの服を着ている。


「我らが主。破壊と新生の権化…」


「東より全てを焼き払って暖かく照らす者…」


「西に沈みては全てを呑み込み、希望たねを残していく者…」


 何かがおかしいと思っていたトマは、大集団を割って現れた一団に驚愕し、

一瞬頭の中が真っ白になった。


「第一使徒……ライラ……」

狂信ライラス派…」

「今日は我ら第三使徒ソピアス派の参拝日だろ…」

「また独断専行か…」

「やはり狂信ライラス……恐れを知らないにも程がある…」


 どう見ても美しく成長し、扇情的に見えてその実狂気を感じる神官服を纏った

ライラが似たような服装の従者と共にゆっくりと此方へやってくる。


我が君トマ様トマ・マリーク…」


 どういうわけか落ち着いて考えられないトマ。先日試した

副人格(分身)召喚すらまともに機能する気配すらない。


「私も十分熟れました…そろそろ神子をこの身に」


 何故か喋ることも出来ないトマは幻術か何かを疑うのだが、どうにも

体の自由すら聞かなくて声にならぬ叫びを上げる。


「お待ちなさい第一使徒!」

「?!」


 別な方の大集団を割って現れたのは、やはり見事に(特に胸が)成長した

セシールが此方は扇情的なものはないが、至る所に友たる異界神メジェデドの

静謐にして虚無な眼そっくりなモチーフがあしらわれた神官服を纏って

やはり似たような格好の従者らと共にやって来た。


「あら…第二使徒セシール…今日はアーヴリクファ西南大調伏だったのでは…?」

「先程終えたばかりです。あと、調伏ちょうぶくではなく迷える人民への説法です。

そんな貴女こそ主様への態度として不敬不忠では?(<〇> <〇>)」


 明らかに超強(悪)化した眼力からして色々とおかしいしいし

ツッコミたいがさっきから思考すらちゃんと動いてくれない

暖かいし心がフワフワしているという一種の酩酊感に困惑するトマ。


「今度は心酔セシルス派か…」

「ライラス派よりマシだろうが…」

「結局また俺たち畏怖ソピアス派を無視するんだ…」

「肝心な時に中道畏怖ルクスス派が東方慰問巡礼でいないし…」


 笑いながら睨みあうライラとセシール。傍らにいる黒鬼人ノワールトロル族のソピアと

バーガンティ姉弟は両手を合わせ「申し訳ありません」と謝罪の意を示しながら

数歩下がっていく。正直動けない今だけは置いて行かないで欲しかったトマ。


「やはり、決着をつけねばなりませんね、第二使徒セシール」

「志は同じであっても…譲れぬ者が相反してますものね…第一使徒ライラ」


 そういって何故か二人同時にトマの膝に乗ってくる。


(ちょ…!? え゛え゛え゛え゛え゛?!)


「主「トマ様の神子は私が先に受胎するッ!!」」


> > >


「ぬぅぅぅわああああああああーーーーーーっ?!」


 トマはベッドから飛び起きた。ああも叫びながらの起床はエンリルエリシュが

生死の境を彷徨っていた時以来の事ではないだろうか。


「んぅ…トマ様…?」


「っておおおおおおおおい!?」


 起きたライラはまぁ11歳っちゃ11歳に見えないこともない体格に戻ってたが

何故か全裸同然の格好でトマの隣に居たのだ。世が世なら事案発生である。

今の人生では数えるほどしかしたことのない絶叫を再び上げるトマ。


「うーん…」

「うるさいよぉ…」

「まだ眠いぃ…」


 その声でトマは思い出した。昨日バーバル団を大滅殺戮した後で

久しぶりの分身召喚に思った以上にエネルギーを使って消耗してしまったトマは

事後報告と言う事で、とりあえず保護したノワールトロルと灰亜神族グリエルフ

大人数の子供達と共に金に糸目を付けず大部屋で泊まれる宿を取ったのだ。


「すまない…起こしてしまったか…」


 トマは窓の外の白み始めた空を見て、ひょっとすると今生では

初めてかもしれない悪夢的な何かを見てしまったのではないかと考える。

やはり今の肉体ではあまり無理をしても良くないと考え、

人数が思ったより多かったノワールトロルやグリエルフ達の中で

話の分かる者らを代表として朝食後にでも話し合うことにした。


> > >


 ライラとセシールが傍にいるのはデフォルトみたいになっているので今更だが

テーブルを挟んでトマの前にはノワールトロル代表でソピア、バーガンティ姉弟

グリエルフの代表としてリョースヴァルト、シュルクスクル兄妹が椅子に

それぞれが程度の差はあれ恐怖交じりの緊張した面持ちで座っている。


「そこまで怯えられると此方も此方でやりにくいんだが……いや、それが普通か」

「「「「………」」」」


 トマは各々に用意したが誰も口をつけようとしないので先に茶を啜った。

まぁその行動すら固唾を飲んで見守られるので飲み辛い。


「……ところで、お前たちはノワールトロルだのグリエルフだの呼ばれていたが、

お前たちは自分たちの種族を何と呼んでいるんだ?」


 ビクリとした四人のうち、最初に答えたのはソピア。


「あたい…いや、あたくし達は…自分らを火炎神属黒岩人ムスッペリンドヴェルグって呼んでます…

長いので大体は黒岩人ドヴェルグだ…ですっ!」

「いえ、アンタ…いや貴方様が我々をどう呼ぼうと別段構いませんが…!

覚えておいて頂ければ非常に喜びます!」


 バーガンティはトマより1m近く大きいのだが、今は全くそう見えない。

今も小声で「姉ちゃん大丈夫? 俺間違ってない?」「バカ! 声が大きい!」と

頭を下げたままだが姉弟の微笑ましいやり取りをしている。


「なるほど…ドヴェルグか。覚えておくよ」


「あ、ありがとうございますっ」ッス!!」


 さっきから頭を上げずにそんな調子だったので、次のグリエルフ代表二人に

微妙に話しかけ辛いと思ったトマ。


「ええと……? その…あーしたちは真闇亜神族デックアールヴって読んでます」

「ですが、貴方様が気に入らなければグリエルフなりで結構です…」


 聞こうか逡巡している間に、今度は灰エルフ代表の妹シュルクスクルが答え、

兄のリョースヴァルトが追従してきた。


「別に気に入らんとは思ってないが…まぁ、エルフには違いないのだろうから…」

「寿命とか…? 使える属性の才能とか色々差はあるけど…

まぁあーし達から見れば人間も肌の色以外区別つきませんし…そんなものかと?」

「ルクス…! もうちょっと丁寧に言えないのか?」

「でもリョート…? トマさんはそんなに気にしてないっぽいよ?」

「おま…! だから最後まで長にも怒られるんだよ全く…!」


 トマは改めて四人に茶を勧めつつ話を続ける。


「それでだな…お前たちの今後についてなんだが…」


 トマのその一言に椅子から降りて五体投地…つまり土下寝をするソピア。


「この身ならば如何様にお使いしてもらって構いませんので! だから同族の

身の安全を保障して戴けないでしょうか! 終末の四騎士長ファンドキャトリエムナール様!」


「あん…?」


 開始早々妙な事を言うのでトマとリョースヴァルトさえもがポカーンとする。


「『終末の四騎士長ファンドキャトリエムナール…? 東方救世主も含めた断罪の四騎士をご存じとは…

え、と…? ソピアさんでしたか?』」


 聞いたことのある言葉に反応してセシールはソピアに話しかける。


「『ウィ(はい)! ソウデス! ワタシそぴあデス!』」


 どうやらソピアはジェルドセド教徒だからなのか、西部語フランカルムを少し喋れるようだ。


「『ではソピアさん…先の言に加え、そこまでなさったのですから…貴方もまた

主様の第三使徒となって主様と共に歩むと捉えて宜しかったですか?』」

「『ウィ! ウィ! ウィ! ソレデス! ソレデオネガイシマス!

ダカラ! ダカラ、ドウカ…皆の命、助ケテクダサイ…!』」

「………」


 結局ソピアはそのままセシールに第三使徒認定された。その際トマに対して

何度も何度も頭を下げるのがトマには何だか微妙な気分だった。止めようとも

思ったのだが、代案が浮かばなかったのだから止めようが無かった。

物事を否定する場合は代案や折衷案と言ったものが必須だ。

ただ否定するなら畜生や虫でもできるのだから。


「ぐぬ…まぁ、永遠に面倒を見るわけでもないしな…仕方ないか…

じゃあ次はお前たち灰エルフの意見を聞きたいんだけど」


 灰エルフたちは少しビクつくのは相変わらずだったが、大きく分けて三つ…

“アーヴリクファの故郷に帰りたい”派、“一応は同族である他エルフを信じて

ここよりはマシであろうオストルチ大王国に落ち延びたい”派、

そして“このままトマの庇護の下で暮らしたほうが良いんじゃないか”派が

1:1:8の比率で何か揉めていた。多数決? 何それおいしいの? である。

トマとしては頑張って二割を占める側に落ち着いて戴きたいのだが…。


「全く…だからお前たちは幼いんだ…! 100年先を見ていない!」


 実は子供と言っても殆どの灰エルフ達がエルマヴィも驚く100年超えの

年月を生きていて、しかもそれが8割の派を構成する。結局灰エルフ達の会議は

八割側の数の暴力(笑)によって押さえ込まれ、何が「折角だから」なのかは

知らないが、ソピア同様にシュルクスクルが第四使徒となって

灰エルフの子供達もドヴェルグの子供たち同様にトマの庇護下に入る事になった。


 ひょんなことから大所帯となってしまったが、定住する気もない。さりとて

大人数でウロウロするのは何かと大変なので、トマは大枚をはたいて

キャラバンセットをこしらえることにした。とはいえパーティやクランを

作るのは面倒なので申請はしない。が、無名の団体というのは

何処だろうと不審を買いやすいので名目としての団体は必要だろうから仕方なく

行商隊として商業ギルドへ登録することとなった。まぁ商業ギルドは

ワーカーギルドと違って定期的に依頼を引き受けるなどの事は

しなくてもいいのだが、逆に更新料が都度都度かかるので…結局トマが

こなすことになるワーカーの依頼数が増すのでやはり面倒だと感じた。

しかし結成した行商隊「森山座団フォレモンコンポルトゥール」の行商としての運営は、頼んでないが

セシール、ソピア、ルクス他が上手いことやってくれるみたいなので、

トマの生活にそこまでの変化はない。


 強いて言うなら多少は商人っぽく振る舞ったりしなければ

色々とまずいだろうと言うことで、バーガンティを始めドヴェルグ達の数人が

鍛冶を行えるということで、人間相手の防具商売のための参考として

恥ずかしくも適当に作った魔合金手甲『ディスジルベリオン』を見せたのだが…


「こ、これは…妖精蒼銅アールヴキプファーに…木目波紋鋼ダマスカス…ミスリルはともかく…

飛行金属オリハルコンの折込式…!? た、多重構造…?!」

「やはり急ごしらえ品だからその手の者には容易く見破られてしまうか」

「急ごしらえ?! 容易く!?」


 ちょっと目が血走ったバーガンティはトマに掴み掛ったが、ハッとして

深く謝罪の意を示した。


「何か気に障るようなことを言ったのならば謝るよ」

「いや…! いえ、良いんですよ…でも…これほどの業物を…貴方は

急ごしらえでお作りになってしまうのですね…?」


 バーガンティは肩を落とす。


「ふむ…であれば、僕の拙い武具作成知識でよければくれてやろう。

あまり質の悪い防具を売って悪目立ちするのも面白くないし」


 そう軽く言ってトマは浮き上がってバーガンティの頭に手を置き、

普段は外部記憶に残してある「魔金属工業武具製品」の知識を

ゆっくり本人の脳内で湧くように転写した。


 手を置かれた段階でビクビクしていたバーガンティの震えは喜色からくる

震えに切り替わっていき、目も喜びのあまりに血走っていく。


「うぉぉ…! うおぉぉおおおぉおぉおおお!? これは!? これは?!

す、凄い! 凄過ぎる! 正に神の叡智!!」


 あ、と思った時にはバーガンティは多くの鍛冶スキル持ちを引っ張って

当面の生活用に借りていた長屋の横に、自らの魔術を用いた土と岩で

あっという間に鍛冶工房を作り上げてしまい、日夜寝食も惜しんで

オラオラオラオラァ! と商売用の防具やアクセサリーを作りまくる。

その出来が市井の既製品と本当に同じ原材料で作ったのか疑問に思えるほどの

とてつもないハイスペック品しか無かったので。一々色々指図するのも

面倒くさいからといって安易に知識を与えなきゃよかったと後悔するが、

何を今更である。


 ちなみに他のメンバーのうち、エルムートゥスとカリーファは帰った。

何でも全央帝国との東部係争地が不穏であるとの一報が届いたんだとかで、

先日の件で色々根掘り葉掘り聞きたそうな感じだったが、さすがに

大王が自国の不穏に何もしないわけにも行かないので帰路を急いだ。

とりあえず一つの面倒が消えたことを喜び、今度こそ彼とは二度と会うまいと

トマは何となく勝利の美酒的な感じでワインを啜り、もう少し落ち着いてきたら

ようやく西フランカリマの知識制覇に動けそうであるとも考えた。


40:に続く

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