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38:ある組織と商人の不運にて

長いです。戦闘ちょっとあります。

 金の為なら何でもやるクラン「ヴァーリトゥード・バルバーロ」…

通称バーバル団の長は一枚噛んだ暗黒大陸(アーヴリクファ)の遠征でホクホク顔だった。

何しろ今回の売り物は黒鬼人(ノワールトロル)族と灰亜神族(グリエルフ)の子供ばかりだからだ。

得体の知れない異民族ないし亜人族というのは珍しさで基本高く売れる。

しかもそれが弱い部類に含まれる子供なら尚のこと好事家や変態貴族、

黒魔術師が大金積んででも欲しがるのだ。

 しかも今回は買い手が何かと金払いの良いジェルドセド教徒のパトリ派や

カトリ派の腐敗層だからアンプル金貨ないしアウグストゥス金貨で

一人頭300〜480枚は稼げるだろう。

とはいえあまり吹っ掛けると手形なんかにされたりで即金にならないので

多少は割引サービスとかは必要か? オイオイ商人みたいな

思考じゃねぇかとバーバル団団長は苦笑する。


「ウガアアアアアッ!!」

「Ymr bagnty! mt an ttnkibt g drz?!」


「ハハハ…! 元気そうだなぁおい?」


 バーバル団団長は檻の中で脱出せんと暴れる、大きいがこれでも子供だと

識別された黒鬼人族を見て、合図として指を弾く。

すると奥の暗がりから重々しい金属音混じりの足音が聞こえ、体全体から

不気味な鈍い光を放つ紋様が描かれた大きな鉄人…

いやメタリックゴーレムが現れ、格子越しに電撃を放って

暴れていた大きい方の黒鬼人族を気絶させる。


「bagnty!?」


「ハハハ! この機鋼巨人(マシジガンテ)ってのは最高だな! 良い買い物だったぜ、

“アブラカダブラ”の商人さんよ?」


「それは何より、今後とも御贔屓に…」


 バーバル団団長に“アブラカダブラ”と呼ばれた、仮面と

“ビジネススーツ”姿にドス黒いテンガロンハットを被った商人は

顔こそ分からないが、喜色を感じる返事をする。


「ん〜…しかしこうもイキが良いと、魔術師相手にしか売れなさそうだな…」


 バーバル団団長は気絶している方の黒鬼人族を見てぼやく。


「宜しければ我々が“下取り”しますよ?」

「下取りかよ…」

「ですから最新型のマシジガンテをお安く出しますよ?」

「いや、遠征帰りだっつーのこっちは(笑) …ったくつくづくあんたらは

金の亡者だなー(笑)」


「クヒヒヒヒヒヒ!!」

「ゲハハハハハハ!!」


 クヒクヒゲラゲラと下品な笑い声が響き渡る。


「ったく…金属の欠片たかがカネ儲けがそんなに楽しいもんかねぇ?」


 それを壁際でつまらなそうに眺める妙に日焼けしたやや長髪の男。

一瞬エルフかと見まがう美貌の男の背と腰には矢鱈と雑多な武器がある。

そして男の首にかけられているワーカーのタグには☆9と刻まれていた。


「bagnty…」

「Dmd… od… hymtt…ごめん、姉ちゃん…」


 訛りがあるが小さくアルヴ語で話し始めた…薄暗かったので

よくわからなかったが、檻に入れられていた二人の黒鬼人族は姉弟のようだった。

見れば大きな弟は鬼みたいな角を生やすも優しそうな顔をして、

腰巻きに(ふんどし)、体には枝分かれする赤い川にも見える

刺青みたいな模様があり、それが薄くぼんやりと発光して姉弟を照らす。


 小さな姉の方は人から見ても美人な方の顔立ちに

綺麗な赤髪ポニーテールと日本のアイヌ民族衣装を着ていた。

胸元がはだけて大きな胸が出てるのは別に乱暴されたからではなく

元々から晒しているようだった。ちなみにサラシを巻いてるので

そこまで扇情的ではないはずだ。


「バーガンディ…ゴメンよ…あたいが火消し草なんか探しに行こうなんて

言わなきゃ良かったんだ…」

「ソピア姉ちゃんは悪くないよ。悪いのはあの鉄の怪物を連れてきた奴等だ!」


 弟…バーガンディは檻の床を力一杯叩くがビクともしない。

まだ何かを話している人間達はそれを見てまたクヒクヒゲラゲラ笑い、

それを見て壁際の男はまたため息をついてから、姉弟を一瞥し

「あーあー可哀そう可哀そう」と言って鼻で笑う。


 姉…ソピアは彼等に背を向け、堪えに堪えたが我慢できずに

目尻に涙を光らせる。


「東方救世主様…どうか、どうか私達をお救いください…」


 懐に入っていた太陽と月のネックレスを出してそれを両手で握りしめ、

どうやらジェルドセド教徒であった彼女は涙を溢しながら呟いた。


> > >


 トマ達はヒロシの話にあった無期限の調査クエストを彼と合同で引き受け、

西フランカリマ西北の同盟国ベルグ王国の玄関口とも言える

東南端の街レガトへ乗り合い馬車で到着していた。


「ここがベルグ王国………はて、本当にここはベルグ王国なのか?

西フランカリマから移動した気がしないのである」


 エルムートゥスがそう言ってしまうのも無理はない。と言うのも

ベルグ王国は西フランカリマと長きにわたる国交の歴史があり

北のノルスヴェ共和国との関係悪化に伴って、さらに西フランカリマとの

国交が高じた結果、元は近い語族のノルスヴェと

袂を完全に分かつ意味も兼ねて西部語と文字を導入した結果、

ベルグ王国はフランカルム語圏になり、さらには大元の兄弟国である

南の隣国ネイザ王国を差し置いて西フランカリマに同化しつつあるそうだ。


 ちなみにネイザと西フランカリマの仲は約120年停戦中な仲である。

なのでちょくちょくベルグは2国間の間に立っては八つ当たりされつつも

上手に甘い汁を吸っている……と、乗り合い馬車の運転手や

乗り合わせた行商から(記憶を)見たり聞いたりしたトマだが、

エルムートゥスに要らぬ知恵を与えたくないので何も言わない。

というかユリアが得意気に似たような三国相関図を分かりやすく語る。

そしてトマに「ほらワタシ凄いでしょっ? だから早くワタシの

従士になりなさいよっ?」とドヤる。ウザい。ウザ可愛やっぱウザい。

イェスゲノフスキは酒が飲みたいと愚痴る。あっそう。


「しかし西フランカリマのこともよく分からんと言う中で、ワーカー情報網にも

まだまだ詳しくない中でどうやって情報を集め…あぁ、基本か」

「何嬉しそうにしてんのよヴァロージャ…昨日は昨日で何杯飲んで

何人と楽しんだと思ってんのっ?」

「甕一つにジョッキ18杯にショットグラス33杯で、ミシェル君と

その友人三人くらいでしたかね。あぁ、三人中一人は男装女子でしたよ。

普通の女でも男装させるだけでああもそそるのは悪くないですね。

ちなみに姫様は姫様でおいくら稼いだんですか?」

「…四人も喰ったのね…呆れるわっ…ちなみに賭けチェスでは金貨8枚弱で

賭け札は金貨12枚銀貨7枚で麻雀とかいうやつは

ビンタっていうルールのおかげで金貨47枚、計金57の銀7よっ。

ちなみに金代わりのお酒は17杯から数えるのが面倒なので止めたわっ」

「マジかよユリアちゃん麻雀をビンタで…? やべ、後で教わろう」

「………………」


 素直にユリアの才能に驚いて教えを乞おうとするヒロシは兎も角、

正直こいつらを連れて酒場には行きたくないなと思ったトマ。


「それで、ヒロシ殿は連中の判別は可能だろうか。正直僕は

エスパニスカ訛りと言われてもエスパニスカ語が分からないので…」

「えー…トマさんの言語チートが思いのほか俺のより劣化で泣けるわ…」


 ヒロシはトマから貰った煙管で煙草を吸いながら耳を澄ませる。


「んー…標準語に聞こえる奴らばっかだな…こりゃ鑑定さん出番だな」


 ヒロシは紫煙を噴きながら行きかう人々を見やる。


「お?」


 ヒロシの目に留まったのは目の下にくまがある剣士風の

☆5なワーカーの男。目の下隈男は自然だが、それでいて人目から

避けるような器用な動きをしつつ小さな酒場に入っていった。


「トマさんや」

「見つかったのかヒロシ殿?」

「ほぼ鑑定さんのお蔭なんだが、出身地にエスパニスカ連邦共和国と出てたし

職業が剣士・盗賊・商人・黒魔術師にマフィアって…これ職業なの?

とにかく他の連中とは違う結果がポコポコあるからあるかもしれん」


 しれっと鑑定で相手の素性を看破のごとく素破抜いていくヒロシに

ついつい身構えてしまうエルムートゥスたち。


「おい、カリーファ。鑑定魔術の最短解析時間は?」

「第九層で平均12秒です」

「ちょとっ…何なのあのおにーさん…?! 3秒も掛かってなかったわよっ?」

「ともすれば最低でも第十層越え…? 人外と称される域ということか…!

そして…まぁ、悪くない童顔…」


 とりあえずライラとセシールが何か自分を引き合いに張り合おうとするので

例の笑顔で制するトマ。


「おいトマさんや、何だかケツに悪寒が走ったんだが」

「ヒロシ殿は髭を生やすことをお勧めする」

「えぇー…却って間抜けに見えるから嫌なんですけど…」

「『んじゃーあのイケメソ巨漢にアッーな事されちまえばいいんじゃね?』」


 魔剣サトシの言にビクリとしてトマ越しにイェスゲノフスキを見るヒロシ。

気付いて微笑みを返すイェスゲノフスキ。


「とりま増毛の薬草集めるわ」

「それがいい」

「『だな、くそみそなんて冗談じゃねえ刃が蝕まれて腐り落ちそうだわ』」

「英語だから余計にクッソ汚い表現に聞こえるなサトシ」

「『しょーがねーじゃん。脳に直接って事は連中にも丸聞こえって知ってから

今までの事を思い出したら死にたくなるしファ☆クフ★ックファッ☆

(クソがクソがクソが)モノだわ』」

「日本語が本当に綺麗な部類なんだと痛感される今日この頃…」

「そろそろ僕らも入ろう。時間的には不自然さも軽減されただろうし」

「中にはもう居ないってオチは」

「無い。僕の感知は半径200kmまでなら確実に捕捉する」

「『トマさんチート過ぎぃ!www』」

「チートではなく悠久の時を鍛錬に費やした賜物なのだがな」


「ちょとっ! ボケとツッコミの応酬はもうお腹いっぱいよっ!」


 業を煮やしたユリアがヒロシとトマに吼えたててくる。


「んじゃ行きますか」

「さっさと締め上げて吐けるものは全て吐かせよう」

「『うわwwwあの隈さんカワイソスwwwww』」


 トマたちは目の下隈男が消えた酒場に入っていった。


> > >


 酒場では年寄なマスターが丁寧にコップを磨いていたが、

カウンターから向こうは中々に惨状である。壁には色んな傷がつき、

テーブルなどの備品は軒並みひっくり返されているか破壊されている。

ちなみに生ごみが如く酒場のゴロツキたちがあちこちで伸びているのは

言うまでもない。ちなみにマスターはマスターでゴロツキの

顔役なのだが、この惨状を生き延びるべく他人の、あくまで唯の

何も知らない年寄ボケマスターを必死で演じている真っ最中だ。


「知らねぇ! 俺は何も知らねえんだ!!」

「と、申しておりますがどうですかトマさんや」


 先程の目の下隈男を片手で持ち上げているトマに必死で知らぬ存ぜぬと

頑張るがヒロシのそんな一言が隈男の抵抗を粉砕する。


「ふう……今日の取引は夜の4時(およそ午前0時)だそうだ」

「ひぃぃ?! 本当に何も知らねえんだよ!!」

「だそうですが、どうですかトマさんや」

「別にまぁ黙っててもいいんだ。脳髄さえ無事なら幾らでも情報は取り出せる」

「げぇええ!? ま、待て!! 待ってくれ!!! 分かった全部ゲロする!!」


 隈男を放り投げるトマ。腰を強かに打ったらしく呻く隈男。


「夜の4時は間違いない! 場所は西南端の港町キルロヤルの13番倉庫だ!

後は本当に知らねえ!! 俺は幹部じゃねえし!!」


 ぐわしと隈男の頭を鷲掴みにするトマ。


「ひいいいいい!! 本当だってマジでもうこれ以上知らないってぇ!?」


 トマは隈男をカウンターに放り投げる。背中を強かに打ったのか、隈男は

「おげふ!?」と言ってそのまま気を失った。カウンターに歩み寄るトマ。

ガタガタ震えながらボケた老人のふりをして頑張るマスター。


「騒がせてすみません。これ、修理代に使ってください」


 トマはカウンター上にジャラジャラと金貨を置く。


「ほげ?! こんな?!」

「足りないですか?」

「うえっうぇ?! いんや! 大丈夫じゃ!!」

「では、すみません。お騒がせいたしました」


 トマたちは酒場を後にした。彼らの背中が見えなくなってから

ようやっと胸を撫で下ろして一息つくマスター。


「……な、何なんだあいつら…」

「あらっ? ずいぶん饒舌ねぇおじーちゃんっ?」

「うをっ!?」


 カウンターにはユリアと、イェスゲノフスキが気配を感じさせず隣にいた。

ユリアはトントンとカウンターテーブルをつつくと、つつかれた所から

ピキピキパキパキと霜が走っていき、マスターの手前でピタリと止まる。


「っ!?」

「ふふっ…すごいでしょっあのトマは? だからねぇ、おじーちゃん?」


 マスターの首筋にいつの間にかイェスゲノフスキの…巨人族には

普通のロングソードかもしれないが人間には処刑剣に多用される大剣の刃が

ひたりと当てられていた。刀身にはボンヤリと魔力紋が走っている。

ゴクリと息を呑んでしまうマスター。


「今日のことは忘れてくれるとうれしーんだけどなぁっ?」


 今度はユリアの周りもビキビキバキバキと氷漬けになっていく。


「あひゃひゃ…はて、ワシはドコ? ココはダレ?」

「うふふっ…ありがとーおじーちゃんっ」


 ユリアはマスターの顔を一撫でしてイェスゲノフスキより

一足先に酒場から出る。


「まぁ…別に何かしてくれてもそれはそれで構わんのだ。

全員一人残らずなますにしてヴァナルガンドの餌にするなりツンドラの底に

ほうり込むなりすればいいんだからな」


 にこり、と笑って剣を収めたイェスゲノフスキも酒場を後にした。

直後にマスターは膝を突いて放心し、別な常連客が来るまでそのままだった。


> > >


 夜の三時半(およそ23時)を回ったころ、西南端の港町キルロヤルの

もっとも人気の少ない不人気倉庫でもある13番倉庫に先に現れたのは

当然ながら売り元のバーバル団だ。


「おう…そこでいい。すし詰めになってる檻はそのままでいい。箱買いだそうだ」

「あのデカブツとちっこいメスガキの方はどうすんですか?」

黒鬼人ノワールトロル族の目玉だからそれなりに扱え」

「灰エルフの方はどうしますかね?」

「全員に封魔の枷と首輪して連結させて並ばせろ。灰だろうがガキエルフは

今回の主力商品だからな。多少の接触はサービスでやらせにゃあ

連中も金を吐き出さねえだろうからな」

「違ぇねえ!! ゲハハハハハ!!」


 バーバル団の連中はそんな感じで取引現場を整えていく。


「本当に良いのですか? 新型の機鋼巨人マシジガンテは?」

「だから金が無いんだって、そんなにあのデカブツの黒鬼人族が欲しいのかよ」

「それはもう…心臓の魔石からして捨てるところが無さそうなので」

「悪いが今は現金商売じゃなきゃ駄目だぜ。ところで今までのマシジガンテは

整備とか問題なかったよな?」

「大丈夫ですよ。お渡ししたマニュアル通りに動かしていらっしゃいますし、

さっと見ただけでもそこまで乱暴な運用も見受けられませんでしたから、

そのまま命令して大丈夫でしょう」

「そうかい。んじゃ…」


 バーバル団団長は“アブラカダブラ”の商人に確認するよう見てから

両手に魔力を込め、極東の国日輪フィールン皇国にいるという機動魔法戟士

“ニンジャ”が使う術印に似た手の動きをする。すると数多くのマシジガンテが

バーバル団団長と“アブラカダブラ”の商人を守るように並んだ。


「この手の動き何とかならねぇか? 指がつりそうなんだが」

「その動きが詠唱の代わりなので我慢と練習あるのみです。慣れれば

ちゃちな詠唱妨害なんてものともしない代物になるんですよ?」


 実際早すぎて何してるのかわからないハンドサインをした

“アブラカダブラ”の商人の後に別な…というか見覚えのない

型のマシジガンテが商人の横に張り付くようにふわりと降りてきた。

というか音も立てずにその場に浮いていた。


「マジかよ」

「どうです? 基本は偵察仕様ですが、付属パーツを換装することで

奇襲・殲滅・破壊工作特化に可変可能なマシジガンテ・ヴェルガミルです。

お宅が購入なさったマシジガンテ・ズレトガミルとのセットは

2×2小隊でアーリエタニア陸戦部隊の一個中隊に匹敵しますよ?」

「なんであんたはカネが無いときに見せてくるんだよ」

「欲しくないですか?」

「金はないが欲しいからそう言ってんだよ!」

「であればあの…」

「だから目玉商品だっつうの! しかも下取りじゃねえか!!

ったくもうマジでがめつい奴らだな…!」


 まだコショコショ続けているバーバル団団長と“アブラカダブラ”商人を見て

欠伸をしている☆9ワーカーの日焼け男。


「いやいや…呑気に見てねぇで助け舟とか考えてくれよ百鬼殺しのアルギズ…」

「カネの話とか正直どうでもいいんだけど?」

「いや、お前もこっちがカネ払って雇ってんじゃん…」


 肩をコキコキ鳴らして日焼け男ことアルギズは音もなく

マシジガンテ・ヴェルガミルを一体一刀両断で切り倒す。


「あらぁ!?」

「ちょ、アルギズおま…?!」

「ズレトガミルとかいう陸戦仕様に比べると耐久力がゴミだな」


 つまらなそうに切り倒したマシジガンテ・ヴェルガミルを一瞥しようとして、

アルギズは先ほど一刀両断に切り倒したはずのマシジガンテ・ヴェルガミルが

腕と一体化した銃の銃口が額に押し当てられていることを知った。


「クヒヒ…どうです? 超再生機構術式システマリヴァイヴエメスという最新魔導科学マギテクノロジーの賜物ですよ」

「おもしれえじゃん…!」

「バカ! やめてくれ! お前が本気出すと次は洒落にならん!!

後々で憲兵ザコどもを切るだけの雑務がお前の本意なのかアルギズ?!」

「ちぇっ…」


 アルギズとしても雑魚散らしはやりたくない。単なる群れよりやはり凶悪な

一匹、一頭、一体…そして一人と戦いたいのだ。


「だってさぁ…この取引普通に終わりそうじゃん」

「いや、何騒動前提で話してんの? それが普通なんだよ!

ただ人身売買ってのは義憤に駆られた正義の味方気取りの

どうしようもない脳筋連中バカどもが釣られやすいからお前を雇ったんだよ!

それくらいはわかった上じゃなかったのか?!」

「そういやぁ…そうだったけ?」

「…あーもうわかった!! アルギズ! お前は外で…」


―ドゴォォォォォン!!

―なんだ!? 何がおヴェっ!?

―て、敵だっ!! 敵が!!

―なんだよこの反応はぁ!?


 どうも倉庫の正面から襲撃があったようで、奥で叫び声を聞いた

バーバル団団長、アブラカダブラ商人、アルギズはそれぞれ違う表情を見せる。

もちろんアルギズは間違いなく喜色満面だ。


「んじゃ、ちょっくら殺してきてやっから☆」

「………どうせ止めても行くんだろ」

「あたりまえー☆」


 アルギズは二人の前から消えた。


> > >


 時間は少しだけ遡って、夜の三時(22時)の13番倉庫より2kmほど離れた

キルロヤル沿岸の岩場に息を潜めて暗視と望遠鏡で倉庫の様子を伺うヒロシ。


「今のところ人の動きはないな、野良犬がその辺マーキングしてるくらいだわ」

「人間の身で魔術なしの暗視とは…ヒロシ殿は本当に人間族であるか?」

「エルム殿、ヒロシ殿は人間族ではく日本人族なのですよ」

「なるほど、普通の人間族ではなかったのか」

「いやいやいや…そこで納得されても何か釈然としないんですけど」

「『と、実年齢還暦オーバーのヒロシさんが言っておりますw』」

「黙れサトシ! テメーに至っては数百年生きた知的魔剣インテルソードじゃねえか!!」

「そういえば、この…魔剣サトシも日本人族だと言ってなかったか?」

「そういえばそんなこと言ってた気がするわっ。つまり日本人族って

そもそもが人に似た超人外生命体なんでしょっ? 別な日本人族に

出会う機会があったら囲い込みたいわっ!」


 ユリアの一言に何とも言えない気持ちになって膝を突くヒロシ。


現実世界ちきゅうでも“日本人って何なんだ?!”ってネット上で

話題になってたけど…直で言われる側に回ったら結構くるな…」

「『安心しろヒロシwここじゃ日本人はそれが普通なんだぜwww』」

「転移者転生者もれなくチートが付いてくるの…ねぇパト☆ッシュ?

僕すごく眠いんだ…」

「『わんわんおwwwベルジャンが記念石像にポカーンwww』」


 ここからはトマたちには理解できない日本人族の掛け合いが数分続くので割愛。


「……む、あれは…馬車であるな?」


 ほぼ素の視力で約2km先にある13番倉庫に馬車が来たのを発見するのは

エルムートゥスである。カリーファも「確認しました」と一言。


「もともとが暗黒大陸アーヴリクファを起源とするだけあって…天然の暗視に超視力か…」

「それでいて川・海戦と船上戦経験も豊富っ…陸戦だらけのワタシたちが

圧倒的に不利ねっ…砂嵐と吹雪って砂と雪以外は似たようなものかしらっ…?

似てるんなら勝ち目は多少濃くなるかもしれないけどっ…駄目、やっぱ論外よっ」

「敵の敵は味方理論で南北間同盟なども結ぶのは悪くないでしょうな」

「少なくとも後ろの北方諸国併呑で背後を気にせずにいけるかもしれないわっ」

「………」


 まぁトマとしては知ったことではないのだが、仮にも全央帝国民の目の前で

堂々とそんなことを語り合うこの大白銀王国の姫と上将は本当に

いい性格をしているなとトマは思った。


「……はー…随分と集まったもんだ…」


 掛け合いを終えたヒロシも監視に参加して呟く。


「何だかんだで東南北の入り口から少しずつ入ってきているのが小賢しいな。

それでいてちゃんと自然に合流したように動かしているのが…」


「「「「………」」」」


 ハッとしてトマが見たとき、エルムートゥス、カリーファ、イェスゲノフスキ、

ユリアの四人がトマを胡乱気に見ていた。


「……と、推測するくらいの足並みだなぁ…なんて?」


 そんなトマにヒロシは噴いた。魔剣サトシもどうやったのか謎だが噴いた。


「な、何がおかしいのだヒロシ殿!!」

「トマさんや…今更すぎるwww」

「『隈男発見の時にポロッと零してる時点でもうwww』」

「え」


 腕を組むイェスゲノフスキとエルムートゥスにユリア。


「やはり、トマ君は強力な感知魔術を使えるんだな」

「うむ。気配を感じて驚かそうと思って動いた時には既に視線が合ってたりと

恐ろしい勘だと思ってはいたが、その感知魔術の強力さがあれば納得であるな」

「しかもっ…俯瞰で見れるなんてっ…! ねえトマ!? この際だから

ワタシと赤ちゃん作らない?! 大丈夫よっ、ちゃんと産める体だからっ!!

ワタシは超強い王族を遺せるしトマは初物を堪能できるウィンウィンでしょっ?」

「ぶっ!?」

「姫様…」


 こんな時に何を言うんだこの幼女おうじょはと思った。

同じ15とはとても思えぬちんまいぷにっ娘な体のくせに…! などと考え、

いやだから今そんなことはどうでもいいだろう! と懊悩するトマ。


「不潔ですね。これだからパトリ派っ娘は駄目なんですよ(<〇> <〇>)」

「第二使徒セシール。その意見に同意しましょう(<〇> <〇>)」

「やめろその目で僕を見るなっていうか何で僕を見るんだ!?」


 我が友メジェデドを冒涜されてるようで不愉快だったトマは煙管に火を点ける。


「と、言うか! あの馬車で最後のようだぞ!!」


 どうせ今更なので話題戻しにトマは13番倉庫を指させば、他のよりは

豪勢な作りになっている最後に到着した馬車からバーバル団団長と、

ビジネススーツとテンガロンハットと仮面な姿の男、そしてやたらに

日焼けしてるせいで夜の間は保護色みたいになってるものの

背中や腰の過剰装備が存在を隠させない男がそれぞれ降りてきた。


「ボスっぽいのと…スーツ姿…は?! スーツ姿!?」

「どうしたのだヒロシ殿」

「トマさんや…あのバーバル団とかいう連中には日本人族が関わってるかも。

どう見てもこの世界に不釣り合いなビジネススーツだったし」

「ふむ…(確かに、あのバーバル団団長や武器まみれ男に比べると…

逆に不釣り合いなくらいに洗練された意匠だ)」

「むむ……確かに異質であるな、その例の“びじねすすーつ”とやらは…

出会った時と場所と場合が違っていれば一着欲しいくらいであるが…」

「とりあえずバーバル団連中は揃ったようだが…肝心の取引相手が来てないな」

「当たり前でしょっ、まだ夜の三時半よっ? 教会の連中なんて

カトリ派もパトリ派もましてプロテ派すらも程度に差はあれ

時間にキッチリしてるやつの方が少ないわっ! 毎週の祝日なんか

朝からって言ってるのに昼過ぎまで始まらないなんてザラじゃないのっ!」

「………一人一人が神に仕える身だというのに…なんという怠惰でしょうか…」

「思い当るところがあるのですね、第二使徒セシール」

「はい、そうなのです第一使徒ライラ…マルタンも早起きしても定刻に

動くのは三回に一回でした…はぁ」


 はて、襲撃前の空気ってこんな和やかだったかのう…?

とトマは思ったが、取引相手が現れるのが遅いのは何故だろうと思っていた時。


―ドゴォォォォォン!!

―なんだ!? 何がおヴェっ!?

―て、敵だっ!! 敵が!!

―なんだよこの反応はぁ!?


 と、13番倉庫正面が爆撃と共にメタリックゴーレムの集団に襲われる。

その数は実に300体超。一応は人型、飛行型に獣型、ドラゴンを模した型と

バーバル団を襲うにしても聊か過剰戦力である。


 特に過剰戦力と思えるのは一見するとバーバル団団員達の決死の一撃で

簡単に斬壊などされたりしたはずのメタリックゴーレムなのだが、

次の瞬間には高速逆再生のように元通りになって団員たちの決死の一撃が

その魂の器ごと無に帰するのだ。


「何なのであるか…あれは」

「ゴーレムは…大破ないし体の何処かにある真理核エメトコアを破壊されたら…」

「ちょと…直すにしたってあんな高速修復は聞いたことないわよっ?!」

「10体かそこらであれば初見でもどうにかできるとは思いますが…

ああいった手合いは何を仕込んでるかわかったもんじゃないですね姫様。

自爆攻撃術式なんか組み込まれていたら数が数なので厄介ですよ」


 少し眺めてしまった一同だったが、最初にハッとしたのはエルムートゥス。


「こ、こうしてはおられぬ! 攫われた者たちを助けに行かねば!!」

「お待ちくださいエルム様!! 相手が未知すぎます!!」

「放せッ! カリーファ!! 余の命が聞けぬのか!!」

「いかにエルム様であっても未知なるうえにあの数相手に四方八方から

仕掛けられては戦闘にすらなりません!!」

「ヴァロージャ、どう思うっ?」

「やはり倒そうと思えば今の戦力も大体しか把握できておりませんし、

乱戦の中下手に動いては意識の外からの攻撃に晒されましょう…

最低でも半壊は必至ですね。散らされる奴隷たちが勿体ないかもしれませんが、

あのゴーレム集団が人さらい業を引き継げるとは思いませんし、

ここは静観に徹するべきかと」


 実際イェスゲノフスキはまじめに一人頭で引き受けられる未知の

高速再生可能なゴーレム兵は最大で20体が限界と考えていたので、

6人で120抑えても、残りの180超の波状攻撃は抑えきれないと見ていた。


「くっ…だがこのまま手を拱いているなど…いちオストルチ武人として…!」


 悔しそうに歯噛みするエルムートゥスを見て、煙草を吸い終えたトマは

軽くため息をつく。


「ふぅ………セシール」

「はい! なんでしょうか主様」

「今から僕のすることに驚くなよ?」

「主様が成される奇跡を目の当たりにして驚かないとは…凄まじい試練を…」

「やれやれ第二使徒セシール…そんな調子では今後…」

「黙れ、ライラ…それにこれからやることはお前にも初見だ」

「え…?」


 トマはライラとセシールを少し放してから呪文を唱える。

一切の魔力を感じないというのに、トマの周りの空間が

異様に歪んでいるさまを見てしまった者たちは絶句した。


「Die stellvertretende Persönlichkeit Start-up …

D=8(Speer Reiter), B=011(Artillerie), S=5(Manie Schwert)

Manifestierung … verschiedener Zustand Einstellung …

Alter Ego Prozess der Beschwörung, ohne anomale …

(副人格を起動…D=8(槍騎兵)、B=011(砲兵)、S=5(剣狂)

顕現…各種状態、調整…分身の召喚プロセス、全て異常なし…)

現れ出でよ我が分身! まずは千鑓機ランサーエル!」


 トマが叫んだ時、何処とも知れぬ空の果てから超巨大なアンカー

若干無理矢理にくっつけたような様相の機械鑓マシンランスに乗って

相当な高度と速度で降りてきたにもかかわらずふわりと着地するのは

妙に長い髪に怪しい輝きのプロテクタースーツ姿のトマの顔をした『何か』だ。


「「「「「「「!?」」」」」」」


 それはそうだ、驚かない方がおかしい。同じ顔をした者が空から音もなく

降ってくるという光景だ。驚かない方がおかしいのだ。


「やあ、主人格」


「声も!?」

「というか軽やかに喋った!?」

「あれはトマ様でこれもトマ様で…ほぇぇぇ!?」

「第一使徒ライラ。おおおおおお落ち着いて見定めればばばばばば……

真実はわわわわ…揺らぎませんんんよよよよ……((((;<〇> <〇>川))))」

「ちょとっ?! 何!? 実は双子とかそういうやつだったのっ!?」

「なん…だと…?!」

「余は…余の眼は確かにアレもトマ殿であると認識を…まさか…幻術かっ!?」


「うるさいな…虚空静寂化ハイエンドサイレンス…」


「「「「「「「?!」」」」」」」


 トマは煩い集団の方に一切の音を許さない防音魔術をかけた。

自分たちの声どころか一切の物音を出せないことに狼狽を隠せない七人。


「超ヤバ強い分身て…マジかよ」

「『ナオとまサンノちーとハ天然物ダソウデス』」

「おいサトシ大丈夫か、何かお前機械みたいだぞ」


 日本人族のボケとツッコミ(?)を背景に

トマは話しかけてきた分身と会話する。


「やあ、主人格」

「やあ、副人格D=8デーアハト…寝ていたところをすまんな」

「いいんだよ主人格。僕は副人格。君が僕らを統括するのだから…で、

僕は何をすればいいんだい?」

「それについては後二体召喚してからだ。その間は立ったまま寝ていていいぞ」

「うん。そうするよ主人格」


 D=8と呼ばれた分身体は本当に機械鑓に寄りかかって立ったまま眠り始める。


「次だ…砲滅機スレートブラスター!」


 次にトマが叫ぶとトマの数m先の空間が扉が空くように開かれ、

その先の暗黒空間から未知なる金属パーツやら人体パーツやらが

ヒュンヒュンと飛んできてガチャンガチャンと合体ロボみたいに

若干勿体つけてるようにも見えないこともない合体集合を繰り返し、

エルムートゥスとイェスゲノフスキの中間くらいの…2.7mくらいだが

横幅はその二人分以上ある黒光りなロボットみたいなのが完成した。

自力で体の動きを確かめた後、顔の部分がホログラムになっているようで、

そこにトマと同じ顔がブンッ! と浮かぶ。


「「「「「「「…!?!?」」」」」」」


「お呼びか、主人格」

「そうだ、B=011ベーオエルフ

「殲滅対象送信を願う」

「少し待て、もう一体が揃ってからだ」

「では、その間に予想戦闘区域の殲滅シュミレーションをVRにて試行する」


 B=011と呼ばれたゴリマッチョサイボーグな分身体は直立姿勢で静止し

ホログラム画面に得体の知れない文字数列を羅列させていく。


「最後は…刀剣征機ソーディアン!」


 最後と叫んだトマの影からぞるりぞるりと暗黒の不定形物体が

這い出したかと思えばその物体がネキャニキャネチャニチャと

気持ち悪い音を立てて変形し、トマと同じ顔で格好は普通っぽい

(と言っても、派手な暗黒歌舞伎武人風)ようだが、全身を

あの時の日焼け男なんか笑えるレベルで余すことなく刀剣だらけで

物理的に持ちきれなかった数十数本は周りに浮いて漂う始末である。


「「「「「「「…!?!?!?」」」」」」」

「うわー…見事に何も聞こえねえが何を言いたいのかはわかるわ」

「『SAN値がゴリゴリゴリゴリメッキョメキョと削れてくよなw』」


「おっ? 斬るんですかぃ? 主人格?」

「うむ、斬るのだS=5ゼスフュンフ。だが説明を聞いてからにしてくれ」


 トマは目の前に立つ三体の分身体を軽く見て、特に異常は無さそうだと判断して

柏手を打つ。すると立ち漕ぎしていたD=8と何かを計算していたB=011が

自分以外の他の二体を見て軽く挨拶しあう。


「今回お前たちを呼んだのは簡単だ。未知の敵性体数百体との戦闘なので

今現在は無用な消耗を避けるために呼んだ」


 トマは未だどうにか交戦を続けている13番倉庫を指差す。


「うん。つまり僕らがあの戦場で死ねばいいんだね」

「端的に言ってしまえばそうだが、いきなり自爆する必要はないぞ」

「主人格。敵性体情報を可能な限り提示してくれ」


 トマはB=011に触れる。何気にD=8、S=5も彼に触れている。


「了解した。のわーるとろる、ぐりえるふ以外は全て殲滅対象と決定する」

「ふむふむぅ…まずはあの黒金っちを斬滅すりゃあいいんですねぇ」

「うん。とてもわかりやすいね主人格。いきなり自爆は本当に不要みたいだ」


「では、各機…出撃せよ」


「うん」

「承知」

「あいよぉ」


 トマの分身体三体は13番倉庫へ飛んで行った。


> > >


 アルギズは笑っていた。全身に少しずつ傷やダメージが蓄積していたが、

それでも彼は笑っていた。楽しくて楽しくて仕方ないのだ。


「っはははははあ!! 殺しきれない敵とかさぁ!!」


 突き出される黒金の暴力を弾き、その隙間を縫うように一撃を加え、

マシジガンテが本当に停止するまで何度も無数の破壊と再生を繰り返される。


「これだよ! 人外の世界…! あはははは! 人外の大海原!!」


 最初は余裕だった回避や防御も、倒した先からほぼすべてが

次から次へと起き上ってくるマシジガンテたちに普通は絶望するものだが、

アルギズは絶望どころか心の底から喜びが湧いていた。

ワーカーでも人外の領域とされる☆9になってから数年。

見える敵の多くは格下とすら呼びたくない有象無象だらけ。

☆10はいるのかいないのかわからない。噂じゃ暗黒大陸に

全員向かったきり帰ってこないとか。あっさりいなくなるなら☆10って何だ?

と思ってからはアルギズは裏世界に身を置くようになった。裏世界は

わかりやすいワーカーの☆評価も無いし、多くがそれなりの実力で

うぬぼれているから戦ってみるまではどこまで強いかわからない。

だから、最近は本当に退屈だった。戦った瞬間に雑魚だとわかる日々が続いて、

正直まじめに暗黒大陸渡航も考えた。そんな時、そんな時何の気なしに受けた

つまらない人さらいの護衛で面白いものマシジガンテを見つけた。


「いいね! 言葉を交わせないのが残念だ!!」


 獣型の一体を十文字に切った。これで何回目だったか忘れたが、

ようやく獣型はそのまま停止する。余韻を感じる暇はない。もう目の前に

飛行型が両手から閃光を出す。話に聞いた銃撃というやつは最初こそ驚いたが、

要するに長距離死角から狙撃されない限りは直進する音のない矢と大差はない。

下に転がるマシジガンテの破片などを使って盾にしてしまえば

飛行型の銃撃は単なる音頭だ。


「勝ちたいなぁ! こういう奴らに勝ちたいなぁ!」


 飛行型を吹き飛ばすように一刀両断し、飛びかかってくる一応は人型の

マシジガンテの両足を切断し、そいつを盾に次の黒金の猛攻を防ぐ。

体力が若干不安だが、いざとなれば薬で限界を超えるのみ。

とにかくアルギズは勝てるか否かのギリギリを見ていた。


「うん。一回でいいかな」


「!?」


 ぞわりと悪寒が走ったので飛びのけば、そこを何かが高速で通り抜ける。

避けられなかったマシジガンテ達は恐ろしくひしゃげたり潰れたり

貫通したりしていたが、何体かはまた元通りに直って自らを粉砕した敵を探す。


「やぁ、耳なしエルフさん」

「ッ!?」


 後ろから悪寒と共に声がしたが、飛ぼうとしたらさらに悪寒が走ったので

素早く振り向いて本能的に防御姿勢をとるアルギズ。


「そう。受けようとしたんだ」

「……な、何だ…あんた…?!」


 アルギズは目の前にいた馬鹿でかい錨をくっつけたとしか思えない

乱暴な作りのバトルランスの異装で異様な長髪男に怖気が止まらない。

童顔と体のバランスが合ってないとかそういうのはオマケだ。

この男からはマシジガンテより無機質なはずなのに、妙なところで

血の通っているというチグハグな不気味さを感じるのだ。


「僕はね…デーアハトって呼ばれてるんだ」


 デーアハトと名乗った男の死角からマシジガンテが飛んで…

来たと思った時にはそこには何もなかった。他にも数体が飛びかかってくるが、

皆彼に届いたと思った時にはそこに何もないのだ。

アルギズは顔面から汗が噴き出た。見えないのだ。このデーアハトの動きが。


「ごめんね。君も殲滅対象だから、このゴーレムたちと消えてくれるかな」

「…ぁっ?!」


 声を出し切る前にアルギズは消えた。デーアハトは彼の居たところに

バトルランスを向けた姿勢で止まっていた。


「…? 聞こえなかったよ」


 まぁ、いいかとデーアハトは鑓を持って歩く。彼の歩く先にいたマシジガンテは

突然いなくなったように消える。彼に飛びかかったマシジガンテもまた

突然いなくなったように消える。時々デーアハトが鑓を振るったような

動きを見せるが。その際に風も衝撃も何もおきない。


> > >


 アブラカダブラの商人は後ろでマシジガンテに串刺しにされてピクピクしている

バーバル団団長を一瞥する。


「いやいや…黙ってあの個体を下取りさせてくれれば新型の素晴らしさを

もっと早く知れたのにねぇ…いやぁ、可哀そう可哀そう…?」


 バーバル団団長はもう息がないので何も答えない。


「データもいいですねぇ。新型も耐久性は考慮に値しないですから

当分はこのままで運用しても良いでしょう。問題はコスパですけどねぇ」


 誰に聞かせてるわけでもないがしゃべるのをやめない商人。


= = =


 13番倉庫上空にB=011は佇んでいた。


「目標を識別…」


 ホログラムの顔部分がまた得体のしれない文字数列に切り替わる。

体の方は体の方でガトリング、ミサイルランチャー、ビームキャノンと

思われる兵装がガシャコンガシャコンと目まぐるしく動いている。


= = =


 商人はふと思い出したように床を見る。


「そうそう、そろそろお迎えに行ってあげませんとね。素体と

最新型隊長機が私を呼んでる気がしますし…☆」


= = =


 B=011は13番倉庫のスキャンを終了する。


「仕様兵装…ナノミサイルランチャー選択」


 B=011の体から小さな穴が無数に空いた銃身が大量に出てくる。


「目標補足…………全敵熱源ロックオン終了…発射五秒前…」


= = =


 商人はふと窓から外を眺める。すると周りはおかしいほどに静かで、


「え…?」


 マシジガンテの残骸の山を眠そうな顔をした馬鹿でかい鑓持ちの男が

のたのたとこちらへ向かって進んでくるのだ。


= = =


「発射」


 B=011の全身から出た極小の蜂の巣みたいな銃身が火を噴くと、

彼の全身が発光したみたいに見える。


= = =


「え…今度はなn」


 上空で何かが光ったと思って見上げた商人だったが、

全身に無数の小さな穴が開いたと思った瞬間真っ青な炎に包まれて

叫ぶ間もなく焼ききられたので彼の中で何が光ったのかは

永遠に確認できないままだ。


> > >


 ソピアとバーガンティが異変に気付いたのは、目の前で見張っていた

バーバル団の団員たちがいきなり青い炎に包まれて消えてからだ。


「姉ちゃん!?」

「あたいに聞かないでよ!!」


 どうも他のところでも同様のことが起きているらしく、

別な檻に入れられている灰色エルフや仲間たちも騒ぎ立てる。


「オオオオオオオオオオオン…!」


 だがその騒ぎはすぐに鎮静化される。彼らの檻が置かれている部屋に

天井から何かが降りてきたのだ。


「て、鉄の怪物…!?」

「でも…形がおかしいよ姉ちゃん!!」


 それは他の物とは更に一線を画したマシジガンテ…さしずめクモ男と

言っていい様相をしたマシジガンテである。名称は知っている商人が

既に塵以下に成り果てたのでわからないが、間違いなく他のマシジガンテとは

別物だ。光魔術が封じられた魔石が壁にあるので、薄暗いが部屋は見通しがきく。

そんな中で燃える炎の様な赤色のボディのクモ男型マシジガンテは

状況が状況と相まって一層不気味に見える。


「せっかく見張りもいなくなったのに…どうやって逃げりゃいいんだ…」


 ソピアが項垂れたとき、どこからともなくカランコロンと聞こえてくる。

最初は何の音かわからなかったが、聞いていくうちにそのカランコロンは

足音だとわかった。


「おやぁ? 出遅れたと思ったらまぁだ一体残ってたんだぁねぇ。

あ、こいつぁツイてるねぇ」


 妙な足音をさせて来た男…S=5にソピアは釘付けになった。

服装は静寂と暗黒を象徴するような濡れ烏色のゆったりした服を着て、

しかし全身余すところなく装備された刀剣の類と、男の周りに浮いている

数十本の刀剣が彼女の理解を超えた。


「オオオオオオオオオン!!」


 闖入者に対して攻撃を加えんとしたクモ男型マシジガンテだったが、

その攻撃を加えようとした腕がそっくりそのまま切り落とされてたことに

気付くのが遅かった。


「あらぁ? そんな簡単に斬れっちまうのかぃ?」


 S=5が残念そうな顔をした時、クモ男型マシジガンテは元通りになった腕で

S=5を叩き潰そうと攻撃を繰り出してくる。

しかしその攻撃は届かない。S=5に当たった瞬間彼のその場所は

暗黒の不定形体に変わってその衝撃を吸収してしまうのだ。

クモ男型マシジガンテにはS=5が壊れない真の理由は理解できない。

そういう機構が入っていないので、目標が壊れるまでずっと殴打を繰り返す。


「うーん……とぉ?」


 攻撃を受けながらS=5はクモ男マシジガンテを観察している。


「あ、ここですかぃ?」


 S=5は背中にあった刀剣の中の適当な一本を、殴打の雨を受けつつ

右肩から左の腰までを袈裟懸け振り下ろすと。ピィィィィンと

妙に小気味いい音と共にクモ男型マシジガンテは一刀両断され、動かなくなる。


「ははぁ、要するに移動式のコアが超回復をやってたってぇワケですかぃ」


 他にも何かをぶつぶつ言いながら檻の格子を綺麗な人間大の四角形に切って

中に入れられていた黒鬼人族や灰亜神族の子供たちが呆然としつつも

続々と出てくる。もちろんそこにはソピアとバーガンティもいた。


「………あ、あなたは一体…?」


 誰も何も言わなかった、いや言う気にならなかったようなので

ソピアは勇気を出してS=5に声をかけた。


「あっしですかぃ? あっしのこたぁ…そうさねぇ…とりあえず外に

出てからで良いですかねぇ?」


 そう応えてS=5はカランコロンと音をさせつつ檻の部屋から出て行った。

少し呆然としていたが、ソピア達はぞろぞろと彼の後を追った。


39:に続く


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