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31:去り行く前の南方領にて

南方領編、終わりです。ごめんなさい。

 サーガラ公爵の所に厄介になってから一週間ほど過ぎた。

やはり日数が経つと、カーリーナも先日吹っ切れたせいかかなり積極的に

(とはいってもライラみたいなことはしてこないのが救いだ)攻めてくる。

武術とかそっち系は量産してしまったあの三柱の邪神候補や

本気というか狂気のハルマローシュ伯にエルムートゥス大王なんかに

くらべると如何しても物足さを感じ(同時に脳筋心に嘆き)悲しいが、

帝都での生活に比べれば全然マシなのでそれなりに南方生活を満喫していた。


「しかし…ほぼ毎日呑むのはなぁ…酔えぬ儂は茶の方が好きなんだが…」

「折角死ぬほど呑んでも死ねんまっこと羨ましか体質で

何ば罰当たりなこと言ってるんじゃ旦那トマ様ったらもう!」


 バチコンとカーリーナに背中を引っ叩かれるがトマは動じようが無い。


「のう、リーナ? さっきの呼び方に少々引っかかる物言いが無かったか?」

「うん? 私そがんこつ言ってなかとよ? 変なトマ様じゃ!」


 あっはっはと朗らかでいて豪快に笑うカーリーナを見て「裏表があるんだか

無いんだかさっぱりわからん奴らだのう…」と思うトマ。


「しっかし今日も平和じゃ! 平和すぎて逆に退屈じゃのう…

そうは思わんかトマ様?」

「平和に越したことはなかろう…」

「まぁ…まぁ…うん…こうやって二人でのんびり街を散歩するのも…

悪くなかよ…? ふふ…」


 若干スキップしてけしからん双丘をたゆんたゆん揺らして歩を進める

カーリーナが本当にけしからんと手足に力を込め頭を巡らせて

余計なところに血が通わぬよう努力するトマ。げに恐ろしきは若気である。


「……とはいえ…ここでの鍛錬は物足りんのも事実…鈍ってしまわないか

つい心配になってしまうな」


 一応皆が寝静まった夜中などに起きては前世の記憶から具現化させた

嘗ての敵の分身体と戦ったり、星の海に上がっては遠くに感知した

隕石や彗星の類などに遠慮無用の魔術をぶつけたりはしているのだが、

やはり生きた歯ごたえのある相手がほしいと思ってしまうトマ。

いっそカーリーナを調教…間違えた超強化して…何てことも考えたが、

そんな愚は犯さぬと思い立っては何度も自重するトマ。


「んー…そろそろ街も一周じゃ…ほいたら最後に港に寄って帰ろうかトマ様?」

「そうだな……うん? そういえばリーナ」

「何じゃ?」

「ここ何日もずっと儂と鍛錬だ見回りだのしておったが学校はどうしたのだ?」

「何を言うちょるか……あ、そうか…」

「何を一人で納得しておるのだ」

「トマ様は知らんかったんじゃな? 分校は春で一周年じゃけぇ。

私は今月の初めに卒業しとるばい。南方は冬が短いけぇ」

「そうだったのか…成るほどそれなら得心がいくな」


 具体的に聞けば北寄りの帝都だと冬が長いし夏は稼ぎ時で忙しいので

学院では秋から一周年となるが、逆に南方は冬が極端に短いし

秋は実りの時期であり、当然漁も忙しいので春から一周年ということだった。


「卒業試験とはどんなものだったのだ?」

「ほうじゃのう…戦術専攻は規定の魔物を期日までに討伐で、

学術専攻は卒業論文提出三本か研究成果発表の良し悪しじゃったか?

じゃっどん。帝都より規定が緩いと聞くけぇ。まぁトマ様なら余裕じゃ余裕!

学術はよう分からんが、武術専攻じゃったらそのまま将軍じゃろ?」

「どうなのだろうな…?(帝国立大図書院さえ読破してしまえば

中退でも構わんと言うかどうでもいいのだが)油断大敵というしわからんぞ?」

「あっはっは! またまたご冗談を!」


 ニコニコしながらバシバシと叩いてくるカーリーナ。


「…港に着くのは良いが、そろそろ中天だな。時計も若干ズレはあるが

日の三時(およそ12時)に差しておる」

「ほいたら海軍飯でも食うてから家に帰ろうけぇ?」

「海軍飯?」

「それは酒家に着いてからのお楽しみじゃ☆」


> > >


 トマは目の前で湯気を立たせる帝国では一般的に央華飯と呼ばれる。

餡かけご飯…と思わしき…どうにも食い物には見えない完字では

大から始まるアレに似た茶色の餡が掛かった飯を前に絶句する。


「…む、ぐ…(香りは複数のスパイスだの具材の香りで旨そうだが…

見た目が…見た目が…!! どうみても大b)」

「止めやトマ様! それ以上は御不浄なことを考えたらいけん!」


 と、カーリーナに目の前を銀匙で塞がれた。


「外から来た人らは皆…何故か日輪の人らは私ら以上に喜ぶんやが…

まぁ色合いが色合いじゃけぇご不浄な事を考えるんやけども。

これは昔、この辺っちゅうかこの辺から西の大王国近くまでが

帝国以前じゃった頃からさらに昔から食べられてきたパコラっちゅう

香辛料スパイスで作った餡を飯に掛けて食う伝統的な郷土料理じゃけぇ。

今は海軍がよう食うてよう作るから海軍飯って呼ばれとうがな?

どういうわけか日輪国にも咖哩カリーちゅう名前の凄かそっくりな

料理がそがん香辛料輸入せん割りに存在するっちゅう謎があるんじゃが。

まぁ愚図愚図長ったらしくなったけどな? 最初は多くがトマ様みたいに

信じられんちゅうて口にすらせんけども一遍口にして合えば、もう

絶対にまた必ず食べたくなる魔法の料理じゃけぇ!」


 そう言ってカーリーナは海軍飯、又はパコラと呼ばれる

央華飯の亜種(と思うのも嫌な物体)を銀匙ですくって食べる。


「んん~~ッ! これじゃこれじゃ! この甘塩辛の三味が奏でる旨さ!

麻婆豆腐を飯に掛けたんも悪うないが、これに比べたら天地の差があるなぁ!」

(※あくまで個人の見解です)


 その様を見るに、トマは「こんな事で恐怖などしては恥どころではない!」と

目を瞑って海軍飯を一口食べる。


「…むお?!(これは…三味どころではない! 仄かに絶妙な酸味も苦味も…

それどころか旨みもある! 渋みは流石に邪魔しそうだが…これは

ほぼ全ての味覚を刺激する一品だ! なぜあんな見た目なのかが惜しい!

あの見た目さえ無ければこれはまさに魔法の料理! 惜しい! 惜しい!)」


 目は閉じたままだがどうということはないので

そのまま海軍飯をかっこむトマ。


「んふふ…旨いじゃろ?」

「うむ…後は見た目だ、これさえ何とか出来れば儂も魔法の料理と認めたい」

「んふふ…何度も食べれば見た目なんぞ気にならんようなるけぇ」

「流石に儂はそうは思えん…しかしこれはそれでも色を意識しなければ

飯が美味しく食えるな……だが家で作ろうとはするなよ?」


 何気ない一言に匙を皿に落とすカーリーナ。


「…どうしたのだ?」

「そ、そんな…そんなの…」

「あ」


 迂闊ウカツ! トマは慌てて取り繕うとしたが、


「もう! 気が早いけぇ! もう! 何なんトマ様ったらぁ!!

どない旨くてもトマ様が嫌がる 家 庭 料 理 なんて作らんわぁ!!」


 顔を真っ赤にしてクネクネしだしたのでどうやら違う意味に捉えたらしい。


「そっちか…」


 それはそれで七面倒くさいと思ったトマである。


…。


 最後に帝国では冰淇淋ビンチーリンと呼ばれているアイスクリームを食べ、

食後には久しぶりな冷やし珈琲を飲んでゆっくりするトマとカーリーナ。

ちなみにカーリーナはアイスクリームをお代わりしている。


「そういえば思ったんだが…リーナの名の由来は」

「んにゃにゃにゃ!! もうトマ様も言うんけぇ?!

んにゃ! 断じてんにゃじゃ! 私の名前の由来はこの辺で昔から

信仰されちょる破壊と再生の神オルムネマシバーヤの神妃にして壊滅と新生の神

パルカーリニデルガヴァティーが由来じゃ! もう! ホントにもう!

トマ様でもパルカーリニデルガヴァティーの壊滅の相を見せるかんね!?」

「ハハハ…流石にそれは困るな。すまなかったリーナ」

「もう…!」


 アイスクリーム用の小さめの銀匙を咥えながら拗ねるカーリーナ。


「…ふふ(もしも何かの違いで先にカーリーナと出会っていたら…

儂はあのけしからん双子の魔丘に負けていたやもしれん…ぐ…!

そういえばスパイスには獣の心を刺激する作用があるものも多いと聞く…

集中しろ! セム公爵らを想像して萎縮させろ! 静まれ第三の儂!)」


 実際ちょっと注視する度に一点においては多少魅了される

ミーシュの美しさすら虚空の彼方へ消し去る威力を持った双子の魔丘が

下着用の胸当てがあるとはいえ揺れるのだ。些細だがけしからんほどに。


「何なんトマ様…ニコニコしながら…あれ? もしかして

私の顔に冰淇淋でも付いとるけぇ?」

「まさか…(はうあ!?)」


 顔どころかどこにも付いてなかったのだが、トマは谷間に滴った

溶けた冰淇淋の白濁液を幻視してしまった。


「くか…か…(クソがあああああああああ!! こうなれば!!!

星海の邪神どもを! あえて喰らって滅ぼしてやったあの見るもおぞましい

邪悪なる神々どもををををををををああああああああああ!!)」

「ど、どうしたんトマ様? やっぱり海軍飯で具合悪うなったんけぇ?」


 小柄なほうであるためテーブルに身を乗り出してトマの様子を見ようとする

カーリーナであったが、それは今のトマには逆効果だ。


「も、もんだいない!(ぐおおおおおおおお!! 揺れるなあああああ!!)」


 だってしょうがないじゃない。体はバリバリ思春期だもの。

と、どこかで聞いたような韻を脳内で踏んだが何の意味も無かったトマ。


「そうけぇ? ほいたらええんじゃけども」


 トマは真面目に南方領から早く出る方法を模索していた。


―カーン! カーン! カーン! カカカーン! カーン!

―カーン! カーン! カーン! カカカーン! カーン!

―カーン! カーン! カーン! カカカーン! カーン!


「む? 何だ今の合図は?」

「トマ様! 船んとこまで行くけぇ!!」


 アイスクリームを急いで食べて「んぐぅ!?」と頭を押さえたが、

パンパンと額を叩いて凌ぎ「ごちそうさん! お代はココに置くけぇ!」と

トマが出し損ねた代金を置き、あまつさえ手を掴んで走り出すカーリーナ。


「あの合図は緊急警報か?」

「言うほどでは無か! でものんびりしててもいけんやつじゃ!」

「と言うと…」

「海賊や!! 鳴らした回数三回じゃから大規模船団じゃけぇ!!」


> > >


 トマとカーリーナが待機する船の近くに来たときには、

船手前の海面が数多く水柱を上げていた。


「海賊だぁ! 迎撃急げ!!」

「魔貫砲弾に切り替わる前に追い返すんじゃあ!!」

「性懲りも無く来よってぇ!!」

「今度こそ全船轟沈じゃけぇ!! ごんくそぼけ共がぁ!!」


 遠くを見れば沖向こうに見える船団が前や横それぞれに設置された

大砲をバンバン撃ってきているのが確認できる。

そのうちトマの目視で確認できた弾丸が船にぶち当たるが、

船に掛けられた魔術障壁がそれを弾く。


「着弾! 否・魔貫砲弾!! 第一種警告!!」

「敵船団から魔導砲弾が来るぞぉ!!」

「何時もより早いぞ!?」

「アレは何処の海賊じゃ!?」

「依然としてわからん! じゃっどん前の海賊船では似ても無か!」

「黒じゃ! 船色は黒! 黒船じゃ!!」

「黒船!? 何ぞ黒く塗って…! 夜間迷彩か!?」

「そんなん知らんが!」

「ちゅうか愚図愚図せんとさぱっと船を上g」


―ボゴォォォォォォン!


 激しい爆発音と共におそらく魔貫砲弾と呼ばれた砲弾のたった一撃で

安全な場所に引き上げ切れなかった船が破壊された。


「いけん!! 間に合わん船は捨てえ!」

「じゃっどん大事な漁船ぞ!?」

「無駄死にしたら船も造れんけぇ!! さぱっと諦めぇ!!」

「ごんくそがぁ!!」


 トマ達もまさか一撃で船が木っ端微塵になるとは思わなかった。

特にカーリーナの狼狽がひどかった。


「な、何ぞ一発で!? 本当ほんなこつ前の海賊船とは比べもんにならんが!?」

「…どうやら敵の撃つ魔貫砲弾なる代物は障壁を貫通と言うより

素通りする上に高性能な爆発機能を持っているようだな」


 仕方ないのでトマは飛んできた第二射の砲弾を念動力の反ベクトル作用で

そっくり真逆方向…大砲の筒の中にまで反転させた。

それによって五隻の船が見事に木っ端微塵…とまでは行かないが

中破級の損害を与えた。


「ほぇ?! 暴発!?」

「何が分からんが好機ぞ! 射撃が止んだ!! 迎撃じゃあ!!」

「こっちも魔貫砲弾の雨じゃごんくそぼけぇ!!」


 無事な大砲搭載船の水夫水兵が当たる当たらないお構いなしに撃ちまくる。

半分以上は手前に水柱を上げるだけで二割はあさっての方向だったが

三割は敵船に命中するも、何故か普通の砲弾程度の威力しか確認できない。


「どうなっとるんじゃ?!」

「こっちの魔貫砲弾が意味をなしとらんけぇ!?」

「ごんくそがぁ!! 今更近づけんし!!」

「じゃっどん魔術では遠すぎて当てられん!!」


「…まずいな」


 こちらの砲弾威力減退の原因は予測でしかないが、かなり高性能な

防御性能と魔術の賜物と見たトマ。

次々とこちらの船どころか、港の建物まで砲弾が届き始める。


「いけん!! こげんまましたら負けるどころじゃ無かよ!!」

「………敵船長め…完全勝利を確信したか」

「ほぇ!? トマ様そがん遠くまで見えとっと!? 凄か魔術ばい!

でも今は暢気に見とる場合では無か!! 流石に逃げる準備ばい!!」

「放棄するのか」

「無駄死にするんは南方兵士みなかたへごの恥じゃ!

こうなったらもう上陸させてから捨てがまり覚悟で白兵戦じゃ!!

そん為の後退じゃ!! 船はまた造ればええんじゃ!!

じゃっどん命はそうモノみたいに増やせん!! わいらは人ぞ!!!」

「そうだな……だが、一方的な滅びは好かぬ…!」


 トマは海に最も近い岸まで歩いていく。


「トマ様!! 何しとるんじゃ?! いくらトマ様でも敵の魔貫砲弾は…!!」


 などと言って絶句したカーリーナ。何故ならトマの目の前に無数の砲弾。


「ふん」


 トマは今一度反ベクトル作用で目の前と周りに飛んできた砲弾を

綺麗に逆再生が如く、だがより加速して跳ね返して

敵船団の数隻に痛打を与える。


「はぁ…?! ト、トマ様…? ま、まさか…」

「やはり加速では大した威力にはならんか…となれば…

訳の分からぬうちに滅ぼされる恐怖を連中に与えてやろう」


 トマは波動の魔術第九階術式「誘導放出微アンチパーティクル細波機構反粒子撃メーザーショット」で

敵船団全てを狙い撃った。


> > >


 時は少しだけ遡り、薩摩城堡の港からの反撃まで戻る。


「先ほどは驚かされたが、やはりあれがせめてもの意趣返しだったのだな」


 望遠鏡で港を見てほくそ笑む海賊船長らしき男は、海賊と言うよりは

しっかりした海軍将校の格好をしていた。彼らは遠き西北の果ての島にある

アーリエタニア連合王国兵の私掠船長…連合王国貴族になった海賊である。

連合王国は魔法だけでなく科学技術も目覚しく発展…いや聊か急成長が過ぎる

産業革命も超過しそうな勢いの発展を遂げているので

超長距離を従来の魔術で動かす帆船や蒸気船とは比べ物にならない…

例えるなら異界のメリケンだかムリカだかブリテンブラザーか忘れたが、

ともかく異界共通暦1980年代の合衆国第七艦隊ないし魔神機に匹敵する

能力を持った、この世界ではあまりにも文明差が開きすぎてる性能を誇る

もしかすると世界最強かもしれない最新鋭艦隊なのだ。各船の見た目が

連合王国ではそこまで珍しくない蒸気黒船型なのは、偽装の賜物である。


「しかし央華なにがし蛮族の魔貫砲弾の威力は我が連合帝国の

六世代前のモノに匹敵しますよ? 良く見積もって六世代前ですけどね?

WAHAHAHAHAHAHA!!」

「そう笑ってやるな副船長、いや…戻ったらお前も船長か?」

「船長なんて大船長どころか帝国海軍中将でしょう? 何階級特進ですか?」

「HAHAHA…焦るな副船長。帰るまでが遠征だぞ?」

「HAHAHA! そうですね船長殿…? HAHAHAHAHAHAHA!」


 笑いあう船長たちの下へ酒瓶片手に既に飲んでいる伝令が来る。


「HAHAHA! 船長! 砲撃の陸地着弾確認でーす!」

「こらこら…悪いやつめ…しかもそれは私のお気に入りじゃないか」

「HAHAHA! アイムソーリー! HIGEソーリー!」

「何だHIGEとは?」

「噂のジャパンとかいう異世界国家? から来た兵器神の御使い様からの

受け売りでーす! HIGEってのはジャパン語で髭の事だそうでーす!」

「だから結局どういう意味の慣用句だよ?」

「イエッサー! 副船長! この場合はごめんなさいついでに

貴方の御髭を整えて差し上げまーすという敵兵への拷問文句だそうでーす!」

「なるほどな…剃るのは髭ごと顔の皮もということか?」

「そんな感じだったとおもいまーす!!」

「「「HAHAHAHAHAHAHA!!」」」


「………酒が入ると一気に下品になるな…これだからアーリアランド人は…

しかもアレ…うちの国の最高級品発泡生命水スカッシュアクアウィタェじゃないか…

ガッデム…! …あんな下品に飲みやがって…!!」


 傍で船長達に聞こえないよう愚痴ったのはこんな状況ではあるが

甲板掃除をさせられている連合王国ではアーリアランドより

古くからある国だが、国力差から合邦化と言う名の属国となった

スカッシュランド公国(本来は王国だった)出身の(永久)二等水兵である。


「調子に乗りやがって…今に天罰を受けるさ…いや、受けろ…!

あぁ神よ…どうかこの哀れな羊の願いをお聞き届けください…」


 二等水兵は取りあえず甲板掃除も一通り終わったので、

今度は船底にある脱出船の点検に向かうことにした…やる必要性を感じないが

やらなきゃどんな言いがかりをつけられるか…いや、やっても

言われるんだろうがやらないよりは大分マシだと信じて

可哀想なスカッシュランド出身二等水兵は船底へ向かうことにした。

多分似たようなことを考えた同輩も居るだろうから、彼らと

こっそりくすねたナナホシとジャパン語で七つ星を意味する

吸い口が見事なフィルターと化している最高級品の巻きタバコを

浄化魔術で誤魔化しながら吸いつつ愚痴りあおうという

ささやかな楽しみを胸に船底へ消えていった。


「あれ!? せ、船長! またです!! また砲弾が跳ね返って

五隻中三隻弱中破! 二隻小破!」

「何ッ!?」


 船長は望遠鏡で敵地を覗く。


「やはり手段はわからんな…」

「しかし相次いでではないようなので、即連の心配は少ないかと」

「だろうな、だとすればさっさと蹴散らして上陸し央華蛮国攻略の

橋頭堡ないし租界建立こんりゅうの1ページを飾らねばな」

「そして中将就任からの大出世の1ページを飾るんですね

わかりますHAHAHA!!!」

「やれやれ…お前はちょっと戻りついでに水を飲め…折角の大勝利に

水兵転落溺死などとケチをつけたくないからな」

「あいあいさー!」


 念のため望遠鏡で覗いたまま話を続けていた船長は、妙な者を発見した。


「……砲弾の雨の中で岸先に…あれは…西フランカリマ国の…?

いや、少し顔立ちが違うな…とすると蛮族に捕まった

馬鹿な西フランカリマ人奴隷の混血児か? 少年のようだが…

しかし妙に身なりの良い…ッ!?」


 とうとう気でもふれたかとその少年を見ていた船長は目を疑う。

少年が此方を見て邪悪に笑ったように見えたのだ。

今一度覗き直そうとした船長だったが。


「報告します! 船団が!! 我らが船以下数隻を残して…!!」

「どうしたんだ急に?」

「我らが船以下数隻を残して…砂のように消滅を…!? あっ!!

また一隻が同様に!!」


 報告に耳を疑った船長は周りを伺えば、三艦隊中九割九部無事だったはずの

その殆どの船が忽然と姿を消し、報告した兵がまた叫んだので

その方を見れば…一隻…また一隻と旗艦たる自船から遠い順に

報告どおり砂のように消え…いや、良く見ると傍目には細かいので分からないが

解析眼の魔術を併用して見れば、小さな小さな極小の爆発を起こして

それがあたかも風に吹かれて飛び散って消えていく砂のように見えるのだ。


「な、何が起こっているのですか船長!?」


 そして最後に自船だけが残った。


「ッ!?」


 妙な勘が働いた船長は、あの少年を探した。


> > >


 カーリーナ以外はトマの魔術とは知らない

他者達の焦点の合わない目をした顔を尻目にトマは感知能力で

旗艦と特定した船の船長が此方をまた見るのを待っていた。


「……さすがは海賊船長…良い勘をしている…ククク…だから特別に

貴様には見れば分かる滅びを進呈しよう」


 トマは船長が此方を確認したのをニチャリとした笑顔で応えてやった。


「と、トマ様? さっきから…敵船団が一隻残して砂みたいに消えた辺りから

他の皆の様子もおかしいんじゃが…?!」

「何…ちょっと後々の面倒を避ける為に幻術を仕掛けたのだ。

とはいえ真実を知らぬものが居ないのは儂としても寂しいし、

妙案でもあると思ったのでな? だからリーナ。儂の事を様付けするのも

やめて親しげにトマと呼んでくれ」

「ほにゃ!? な、こげな状況で何ば言いよると!?」

「あいにく儂を様付けで呼ぶのは間に合っておるし、うんざりなのだ。

一人くらいは儂の事を唯の…いやミーシュもそこだけは様付けだったな。

うむ。やはり一人くらいは儂の事をトマと呼んでくれる女子おなご

欲しいな………駄目か?」

「そ、そがんこつ…! そがんこつ後で良か!! 後なら何回でも呼ぶ!!

じゃっどん今は…!」

「うむ…今は難しいなら構わぬ…さあ、仕上げだ」


 トマは、前世で契約した異界守護神メジェデドの召喚を試みる。


「Wir können hoffen, von Göttlichkeit, von Göttlichkeit,

die Göttlichkeit der fremden Welt.

(我は願う、神性よ、神性よ、異界の神性よ)

Hoffnung ist uns gegeben, die wir schlagen dich, wir,

die dir folgen, ich war ein Freund dich,

(願うのは我、汝を負かした我、汝を従えた我、汝を友とした我、)

Mein Name ist Thomas usw, Chigae Nun wird der Name ist,

sind wir mit dir zusammenziehen Ceci ist,

(我が名はトマ、今の名こそ違えど、我は汝と契約せし者、)

Ich fremde Welt der Göttlichkeit Medjed, wir können dich schlagen,

dass du wissen, nicht folgen, die einzige Person, die einen Freund hat,

(異界の神性メデジェドよ、我は汝が知る汝を負かし、

従わせ、友とした唯一の者、)

Versprochen Worte "Mejedo, Bastet, Ra und Anubis" und

"dein richtiger Name:NaYskgrakMrikrkWa"

(約束した言葉は『メジェド、バステト、ラーアンドアヌビス』、

そして『汝の真の名:NaYskgrakMrikrkWa』)

Wenn es immer noch nicht glauben kann,

"Figur, die Wareto gleiche Leere versteckt war",

"Monster brach seine eigene Welt." …

(未だに信じられないならば『隠された姿は我と同じ虚無』、

『自らの世を壊した怪物』…)

Ich weiß es noch nicht? Wenn "essen dein Verderben ray, und ..."

(まだわからない? ならば『お前の破壊光線を食って、そして…』)

Hat mich endlich verstehen ..., mein bester Freund ... Was?

Ich wusste von vor langer Zeit?

(やっと理解してくれたか…我が親友よ…何だって?

少し前から分かっていた?)

Oh, mein Freund ... mein Verstand ... oder so.

Noch hat es nicht das, was schon vor langer Zeit vergenben. Entschuldigung.

(ああ我が友よ…我が心を…そうか。まだ許せなかったか。申し訳ない。)

Bald werden die Vorladung in ... was? Als es schon gekommen?

(ではそろそろ召喚を…何? もう来ただと?)」


 召喚と言うよりは電話してるような感じの呪文を疑問で終わる前に、

トマの前の海に純白の布を被って膝下だけ露出させた巨神が音も無く現れた。

まるでそこに最初から居たようだったので波すらない。


「ひぇ!? と、ととっとトマ!? い、今何もな…」


 大分召喚に時間が掛かったので最後の海賊船から砲弾が飛んできた。

しかしそれは全てトマの前に立つ巨神…異界守護神メジェデドの前で

忽然と消える。メジェデドは布の部分だけトマの方へ回転する。

頭と思われる部分には目…それは簡素な…いや、虚無しか映さない

恐怖を超越した癒しを感じさせる両目のようなものがあった。


「間違いなくメジェデド…我が友よ…頼むから来れるなら早く来てくれ…」


 メジェデドは軽く二回ほど会釈のような動きを見せてトマを見つめる。


「では良いか?」


 トマは指を鳴らすと、消え去ったはずの船団が再び海上へ現れる。


「!?!?!?!?!?」

「安心しろ。あれは復元しただけだ。召喚に手間が掛かったから出来た…

そうか、その為か…流石は全てを見通して撃ち貫き滅する我が友メジェデド…」


 メジェデドは先ほどの会釈二回をする。


「では今から儂は周辺に嵐の幻術を掛けるので、手はずどおりに

全てを薙ぎ払ってくれ…威力は…そうだな。船は普通に、

船上の生物はチリ一つ残さず………ん?」


 トマは最後の海賊船の船尾から小船が高速で飛び出すのを確認した。


「………ふむ…そうだな、あれが離れてからでいい」


 トマがまた指を鳴らすと、今度は船団を中心に周囲の空が嵐に変わる。

もちろん幻術なので慌てているのは最後の海賊船乗員のみだ。


「………」


 カーリーナは絶句しているが、今は無視してメジェデドと話を再開するトマ。


「大分時間が掛かったな…最後の船が急速反転を始めたので頼む」


 トマの一言にメジェデドは頷いて船団に向き直り、

両目に誰がどう見ても危険なエネルギー充填を始めた。


「ふ…まぁ、頑張れ」


 トマは全速で反転前進した最後の海賊船を見送るころには、


= = =  


「急げ!! 全速だ!! 何をしている!!!」

「これが全速です!!」

「リミッターを解除しろ!!!」

「無茶です!!! エンジンが焼き切れてしまいます!!!」


 船長は望遠鏡で少年と、突如少年の前に現れた巨大な化け物を見る。


= = =


 メジェデドの両目から放たれた破壊光線が船団を一瞬で破壊し、


= = =


 船長はもう少年だけを見ることにした。


= = =


 逃げる最後の海賊船をメジェデドは少し外したと見せかけて、


「良い旅を」


= = =


「は、外れた!! おぉ、神よ!!」

「こうなれば一か八かだ! リミッターを解除し手動冷却で凌げ!

船長ぉ?! 今は私が船長だ責任は取る!!」


 もう周りの雑音もどうでも良くなった船長は、間違いなく此方を見て

邪悪から一転して慈しむような視線と笑顔を見せ何か言った少年を見ていた。

そして船長は、視界が光に包まれるその前に、この声は

届いているだろうと理解して叫んだ。


「…くたばれ! 呪われろ!! 世界の敵アースエネミーめ!!!」


= = =


 命中させ、この世から永遠にき消した。


「何を言っていたかは分からんが…どうせいずれ分かる事だ」


 トマは連合王国語はまだ知らない。だが、外部記憶に放り込んで

連合国語が分かったときに聞き直すことに決めた。


「…ありがとう。我が友よ」


 トマはメジェデドに礼をする。メジェデドは頭を横に振る。


「それはいいから心臓を寄越せ? ちょっと待ってろ。復元したものをやる」


 トマは自らの胸に手を当て、そこからあたかも引きずり出したように見える

自らの心臓の復元体をメジェデドの口と思われるところへ放った。

放り投げられたトマの復元心臓はメジェデドの顔の前辺りで消えた。

咀嚼音と嚥下する音が消えると、メジェデドは一礼して消えた。


「…何? 次はもっと良い心臓を寄越せ? いや、

復元とはいえ儂の心臓だぞ? 少なくともこの世界では

うっかり移植しただけで儂に近い存在になりかねん代物だぞ?

ん? そうじゃなくてエイジングハートだと? …次は用意しておく。

ではな………………やれやれ…人物の価値より心臓の旨さを

優先しろとは…儂は肉屋じゃないんだぞ…」


 ちなみに絶句していたカーリーナにはトマが何か赤いものを

メジェデドに放り投げたようにしか見えないしましてや

心臓だとは思っていないし思う余裕など無い。


「さて……もう良いか…」


 トマが指を鳴らすと、カーリーナ以外の人々がぽつぽつと正気に戻る。


「な…何が…?」

「さっぱりわからんが…海坊主みたいなんが…」

「突然の嵐の間違いじゃろ?」

「阿呆! 地震じゃ! その後に時化と津波じゃ!!」

「オルムネマシバーヤ様の使いだ!! 俺はオルムネマシバーヤ様を信じる!」

「何が分からんが海上を見い!! 敵海賊船団がおらんぞ!!」

「確か嵐で何隻かが沈んで…」

「ほうじゃほうじゃ! 何にしてもそんで沈まんかった残りが逃げたんじゃ!!」

「やはり自然の力にはまだまだ人は無力じゃけぇ!!」

「ほいたらちっくとでも負けん新しい船作りを考えんとな!!」

「先に犠牲者ん回収と葬式ぞ!!」

「南方公閣下に連絡じゃ!!」

「急げ急げ!!」


 慌しく動き出した水夫達を尻目に、トマはまだ固まったまま動かない

カーリーナに救世主の治癒術クーアレンエアレーザーを施す。


「んひいいいあああ!?」


 かつてのライラほどの状態を一瞬で治す回復神術は余剰回復分が

どうなったかは失念していたトマは慌ててカーリーナの状態を見る。


「……多少神経が高ぶっているようだが、問題なさそうだな」

「…んば…」

「ん?」

「何ばしょっとね!?」


 カーリーナはトマのあごを擦るように殴る。


「何を…をっ!?」


 何ともないと高を括っていたトマ。それが脳を揺らす一撃だと

知ったので即座に反ベクトル作用で揺れを中和した。


「……やはり何か副作用があったか? リーナ」

「……な…なんも無か…あった気もしたが…トマ…どん…の…うぅ!!」


 カーリーナは青ざめてトマから後ずさる。


「あぁ、状態安定したからフラッシュバックしたか」

「…ふら…?」

「恐怖が再燃したと言うことだ」


 一瞬で距離を詰めたトマはカーリーナの頭の上に手を置く。


 カーリーナは動こうとして、逆に反射的に止まった。


「なぁ、リーナ…どうしてお前に儂の事を気軽に

トマと呼んでいいと言ったかわかるか?」


 カーリーナは動かない。動けない。動きたくない。


「お前は儂と一緒になりたいのだろう?」


 カーリーナはポロポロと涙を流した。


「だが、もう嫌だろう? 怖いだろう? 助けようと思えば

お前の知人を全て助けられたのに放置した儂が、

そして何の躊躇も無く敵を殺し人々を惑わしたこの儂が、好きか?」


 カーリーナは歯をカチカチ鳴らして震えだす。


「儂を愛するということは、儂に心身共に近づくと言うことだ。

つまりは人をやめることだ。心を狂わせるということだ。

お前がお前でなくなるということだ。それでもお前は儂を愛せるのか?

だとすればもうお前はもうお前じゃない何かだ。だが違うだろう?」


 カーリーナは下唇を噛んで何度も首を縦に振る。

 カーリーナが見たトマは感情など感じられない張り付いた笑みだ。

 カーリーナが見たトマの瞳には虚無でそこには何も映っていない。


「(もう、これくらいにしよう…)では、最後だ。

リーナ、いやカーリーナ・炎花・サーモスンレン。

お前は儂をどう思う。素直に答えよ。嘘は無駄だ。

儂は触れた相手の心が読める。今、嘘は死だ。

…………………………では、答えよ」


「あ…う…あ……」

「ああ…うん…そうだ、それで良い」

「あ…!?」


 トマは朗らかな笑顔で、先ほどの気配が嘘のように消えて、

彼はカーリーナの涙を父親が愛する娘にするかのように拭う。


「儂の事は忘れろ。リーナ。儂はお前がこの世界で最初に好きになった

女の子じゃなくて良かったと心から思う。もしそうであれば…

儂はお前を…」


 トマは抱きしめようとして、応えようとしてしまった彼女の額に

軽く口付けをして優しく突き放す。


「あとは何とでもしなさい…儂を憎んでも構いません…それで構いません。

愛するよりは憎みなさい…憎むよりは忘れなさい…全てはまやかし…

全てはまぼろし…そう思いなさい…さようなら、リーナ…

儂のいとしかったリーナ…醜く歪んだ形で愛しかけた…

愚かな儂のリーナ…許しは請わぬ…儂は…大罪人よ…」


「あぁ…!!」


 トマは手を伸ばしたリーナを一瞥さえせず振り返ってそのまま歩き去った。


 後ろから幼子のように泣き喚き、それに気づいた近くの水夫が

彼女に近寄り…トマを呼ぶ声が聞こえたが…聞こえていない振りをして

トマは…走り去った。走っているトマの顔を見た者は多くがこう答えた。

「何かを振り切ろうと必死になっている顔だった」と。


> > >


 トマは南方領首都:薩摩城堡から少し離れた街道を歩いている。

歩きながら精神世界に飛んでいた。


<><><><><><><><><><><><><><><><><><>

「気持ち悪ッ! 今のワシ、超気持ち悪ッ!」

「黙れ前の儂…そんなことは万も承知だ!」

「いやでも…あれほんと気持ち悪いぞ…外道過ぎるようであれやりすぎたかな?

なんとかアフターケアもかねたなんか頑張るか? とかが見え見えで

総合して超気持ち悪いわ」

「うるさい」

「いやー…念のために心を分岐されといて良かったわ…あれは稀に見る

気持ち悪さじゃ…マジ今のワシ気持ち悪ッ」

<><><><><><><><><><><><><><><><><><>


 戻ってきたトマは呟く。


「だからといって…記憶改竄をリーナにまでは出来んだろうが…

色々滅茶苦茶であったが…ああいうのはちゃんと本心で

伝えるべきだと見聞きしたのだ…」


 その後、トマはこのまま帝都に帰るべきかどうするか考えつつ、

とりあえず街道なりに歩いていくことにした。


32:に続く

どうしよう…自分じゃ何ともいえない…

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