11:ある日の多難にて
投稿ラッシュ(のつもり)、第二ラウンドです。
先日の茶会の名は『北討義勇会』という若干勇ましくも
聊か不穏な名前に落ち着いた。だが無論それだけで済むはずも無い。
「セム東方公が八男、ハノーク・静玄=ゴルヤート・セム…いざ参る!」
「………」
学院では必須科目以外の授業でなければ自習が認められている。
具体的に言えば教師に対して袖の下次第で自習も特別授業も思いのままである。
逆に言えば袖の下が乏しければ「必須科目以外適当でおk」という事である。
相当に度し難いと思ったが言い換えれば金の亡者の無関心さを利用した
人目を避ける事にも使える。
そんなわけでトマ達は学院の広大な"大山の庭"でハノークと
イェルムンナの二人のかねてよりの願いをかなえてやる事となっていた。
「………」
「………」
剣と片手斧の二刀流であるハノークは通称:牛頭の構えと呼ばれる、
二本の角を前に出す永世土大王国の魔物、牛鬼のような構えに対して
トマは得物(今回は棍棒)こそ持つが自然体のままである。
「……………」
「……………」
石像のように動かないトマに対して、ハノークは少しづつ汗をかき始める。
「……なぜ、構えぬのだ」
「……ハノーク様。構えというのは防御から生まれたものなのです」
「…成程…ッ!」
ハノークは頭では納得していた。しかし自分とトマにここまで差があるとは
体と心が理解できていなかった。いや理解したくなかった。
「その胸を、借りて宜しいか?」
「ご随意に」
近くのエアメルドゥクとエンリルエニシュは何か腹の立つドヤ顔である。
イェルムンナに至っては普段の間の抜けてそうな容貌から
別人格に近い北方征伐武人モードでウズウズしていた。
「ゴアアアアアアアアアッ!」
「「ッ!?」」
「…まぁ話にならんが…来るか」
どこかでハノークを見くびっていたエアメルドゥクとエンリルエリシュは
ハノークの咆哮から彼に対する評価を変えたようだ。
ハノークはオストルチの巨人族と見まがうかのような咆哮と共に、
内包する魔力を噴出させ、素早く四肢に纏わせ飛蝗が如くトマめがけて跳躍。
「ぜぇええぇぇああああああッ!」
跳躍中に体の一部から魔力を噴射し、錐揉み回転しながら斧と剣に
それぞれ水と風の属性を纏わせて威力を高めた連撃をトマに本気で
打ち込もうとするが、
「…ん」
トマはその場から一歩だけ動いてハノークの攻撃を避ける。
「…ぬぅ! やはりか!!」
そこはハノークもわかっていたようで、攻撃を避けられたと感じたときには
素早く行動をキャンセルして着地点に着地すると同時にトマの方へ向き直り、
剣から土属性第二層魔術「石刃槍」を連射する。剣から飛び出す複数の
石の槍をメイスで軌道を逸らすだけにして避けていくトマ。
「牽制程度と…構成は好し」
「殺ーッ!!」
並みの兵士なら最初の連撃で、次の魔術なら弱将校、そして今繰り出された
斧の投擲からの組手術であれば初見に限り六割が殺せるだろう。
「流石はセム公爵。奴が甘いのはエニだけか」
トマは斧の投擲を避けず、人差し指と中指二本で白刃取りをして放る。
「なっ!?」
「そこで止まるな」
「ぶっ?!」
ハノークが驚愕した頃には彼の腹にメイスが真っ直ぐ突きこまれていた。
エンリルエニシュがやっていたら相手は貫通して死んでいたが、
そこはトマである。寸止めなのでハノークは風圧で吹き飛ぶだけだ。
ハノークはきちんと受身を取った。しかし立つ前に
彼の額にメイスがコツンと当たって勝負は決まる。
「うっ…!? は…ははは…父上ならここで次撃を掠らせられたのだが…」
「それも初見の話でしょう」
「うむ…だが投擲物を白刃取りして捨てるなど父上はやらなかったぞ…」
「まぁ、普通は横に避けますね。自爆術式なんかを仕込まれたりとかあるので」
「そうか…まずそこが問題か…いやはや…魔術すら使わせられぬとは…」
「しかしハノーク様。数瞬の判断はお見事。戦闘では初見殺しも大事です。
最強の技とは見破られぬことが基本ですから」
「トマ殿にそう言って戴けると少しだけ慰めになりますな…」
起き上がったハノークはトマと軽く握手して一礼する。
「ではでは~~~! 次は私が~~!!」
「イェルムンナ嬢ェ…もう少し我にも余韻をくれても良くは無いか?」
「戦場なら敗者即ち死人である。大人しく退場せよハノーク氏」
終わったと思ったからこそイェルムンナはハノークを押し退けて
トマと対峙しようとする。すでに彼女は北方征伐武人モードであった。
「では、イェルムンナ様――」
「イェルムないしエルムと呼んでくれトマ氏。その方がもっと楽しいから」
「あ゛ァ?!」
「ちょ、エニ…?」
「『我が君トマ様に馴れ馴れしいぞ娼婦が…!』」
「ライラも何か酷い事言ったよね多分?!」
「はっはっは…トマ殿は中々に慕われているな」
「ハノークはこの不穏な気配がわからないの!?」
「ぬはは…! 我とて二人の許婚に八つに裂かれそうになったことはあるさ」
「いやそれ全然笑うところじゃねえし?!」(注:エアメルドゥク)
「………」
横目で何だかやる気が削がれそうになる歓談を見やるトマ。
「余所見とは余裕で」
「うむ、まぁな」
眼前で方天戟をトマに振り下ろすイェルムンナに対して
涼しい顔で体の軸をずらすだけで避けるトマ。
「くふふッ…! 大熊白王国の蒼雷狼…上将イェスゲノフスキみたいね!」
「イェスゲノフスキが何者かは知らんが…」
狂気を孕んだ笑顔のイェルムンナは艶かしく舌なめずりをして
飛び退いたかと思えば口から火炎ブレスを吐き出してきた。
「うえッ?!」
「え?! あんな魔術あったっけ?!」
「ほう、イェルムンナ嬢…羽蛇人族の血が騒いだか」
「グクマっちゅ…?」(エンリルエリシュ)
「見た目こそその辺の魔人族と大差ないが、彼女は空をも駆ける羽蛇人の子だ。
遠くは西の果ての大陸にいるとされる世界創造の神龍が祖だとか聞くが、
まぁそれは大したことじゃないだろう…少なくともトマ殿にしてみれば」
魔人族は祖先が古の神獣や異界の魔神というのは真偽はともかく良く聞くので
確かに驚くことではないだろう。実際ハルマローシュ伯は異界の魔神が一柱
「血神王マグナ」なる吸血鬼の子孫らしいし。セム公爵の始祖に至っては
遥か太古に西側諸国の多くが信仰する各地の呼び名こそ違えど同一神物だという
「唯一至高神」と最初に戦った魔神王衆の一柱であるシェミハヤュザイらしい。
「えぅ~ッ!? 何で避けないの~ッ!?」
「っていうか兄上全然動じてないよ!?」
「お兄様ですし。別に変じゃないのでは?」
「いやいや…エンリル殿…常識的に考えたら生身で火達磨は
普通は冷静でいられんだろう」
考え事をしていたらつい避けるのを忘れてイェルムンナの火炎ブレスに
包まれていたトマ。
イェルムンナはその様子に通常モードに戻ってしまうくらい驚いていた。
「おっと。すまんすまん。別に避けなくとも良かったのでな…ほっ!」
ちょっと気が抜けた感じがする声を上げると、トマは身を包む火を
ロウソクの火でも消すかの如く消し飛ばす。
「…………………くふ! くふふふふふふふふふふふふふ!!」
「いかんな。イェルムンナ嬢の心が完全に点火してしまった」
「みたいですね…! 魔力の膨れ方が火山みたいだ…!!」
「やーですねーお下品な笑い方ぁ☆」
「『神に誅される運命の龍とはこのことか』」
男子と女子でイェルムンナの様子への感想の温度差がひどい。
ライラなんて一応は気遣って母国語だが、まるでイェルムンナが
もうすぐトマの手で死ぬみたいな言い草である。
「感謝するわ~トマ氏~! 貴方に一太刀入れられればそれだけで
イェスゲノフスキの首を今度こそッ! 獲れるッ!!」
「だから儂はイェスゲノフスキなんぞ知らんがな…」
ちなみにさっきから何度か名前が出ているイェスゲノフスキなる人物だが、
強さで言うなら四方公爵中最強と誉れ高い北方公爵でも
殺しきるには一対一の状況に持ち込み、かつ自分の手足一本を犠牲にしないと
基本的に無理な実力を持っている。そんな怪物相手に
何度も刃を交えて無事でいる(まぁトマが予想するに最後は見逃されている)
であろうイェルムンナも大概だが。
「貴方の余裕を打ち崩せれば! イェスゲノフスキの隙を突ける!
くひっ! くひひひひひひひっ!!」
トマは一瞬対峙しているイェルムンナが十二の小娘に見えなくなった。
そう思うくらいにイェルムンナからは凶戦士の気配を感じたのだ。
あれはもう正直小娘の顔じゃないし、魔力を膨れ上がらせすぎて全身に
血管とか魔力紋(強化魔術等の強バフ効果の証)が浮いているのだ。
「ヒェッ…?!」
「ちょ、ちょっと我らは防御術式展開しとこうか?」
「えー? それ本気で言ってるんですかー?」
「そう感じられる、トマ様を除く、エンリルエリシュ様だけ」
エンリルエリシュの言は実力者にのみ許されるモノである。
実際エアメルドゥクは過去に見た正殿での襲撃者を思い出したのか
顔がいつもより青いし、イェルムンナと付き合いが長いだろうハノークも
うっすら汗をかいているし、ライラもまた央国語がカタコトになっている。
「北方蛮族を貪った蛇神の一撃! 受~け~て~み~よォォォォォッ!!」
「まだまだ話にならんが…まぁこれは訓練だ。受けてやろう」
三階建ての学院の屋根よりも高いのではと思われる高さまで飛び上がった
イェルムンナは背中から魔力で出来た二対の羽毛の翼を出現させて
空中に静止するや否や、周囲に十を超える魔方陣を展開させる。
「って!? おいイェルムンナ嬢!! ここは学院の敷地内だぞ!?」
「知~る~かぁぁぁぁあああああ!!!」
「うっわ?! 完全に火が点いてるではないか!!? エアメルドゥク!
知っている魔防術式で最大のを出せ!!」
「えええ?!」
ハノークの慌てぶりにとうとう肝を潰したのか、エアメルドゥクも
わたわたともたつきつつもトマから教わった中で使える最高の防御魔術である
火雷無三属性複合魔術:第八階術式「魔王の拳を喰う壁」を発動して備える。
ちゃっかりライラもエアの防御圏に収まっっていた。
「うを!? 凄いなエアメルドゥクの! それはもしやトマ殿の?!」
「そうです!! ボクが使える"一番良いの"です!!」
エアメルドゥクを褒めるハノークも負けてはいない。彼もエアメルドゥクには
劣るが、彼以外の同期は愚か上級生も帝国将校もおいそれと使えない
水風土三属性複合第五層魔術「風水土石流河壁」で身を守る。
「皆、大げさですねー?」
「あれを見て平然と棒立ちできるお前が滅茶苦茶出鱈目なんだよエニッ!!」
「『我が君トマ様がうっかり加護を与えすぎたと言っていたが、
それはやはり紛う事なき事実だったか…流石は我が君トマ様、
ああ、主は偉大なり…!』」
「………とりあえず"大山の庭"全体に認識阻害の術をかけておくか」
「今度こそ死ねぇ! イェスゲノフスキぃぃぃぃぃぃ!!」
エアメルドゥク達の様子を一瞥したトマは、我を忘れたイェルムンナが
空中で展開させる魔方陣から多頭の大蛇を幻視させるエネルギー体を
連続発射する少し前に"大山の庭"全体に認識阻害の超能力を発現する。
「兄上ぇぇぇ?!! 防御をぉぉぉ!?!」
過去の恐怖を思い出したのか、エアメルドゥクは思わずトマに声を掛けた。
「あれで儂が怪我をするとでも思ったのかエアめ…いや、一応家族だからな…」
つい微笑んだトマは、そのまま魔力で出来た多頭の大蛇達に飲み込まれた。
一見狂戦士然としたイェルムンナだが、無駄な破壊はしない程度に
理性はあるようで、多頭の大蛇をトマのみにぶつけ続ける。
しかし、トマは傷一つつかない。何かしらの防御をしているのかどうかは
エアメルドゥクたちには感知できない。
なぜなら余波を防ぐのに集中しているからだ。
「わぁー☆ お兄様ったら楽しそうー♪」
「「「………」」」
半端じゃない余波に晒されるも、そよ風に吹かれるが如くな様子で
素っ頓狂に喋ったエンリルエリシュの言葉に絶句する三人。
実際エンリルエリシュに限ってはあのくらいの攻撃の直撃でようやく
「あ、ちょっと痛いかな?」と思うのだ。
普通以上怪物未満なら程度の差はあるだろうが死を覚悟し、
そこそこの実力者は死に物狂いで防御し、かなりの実力者は手に汗を握り、
中々な実力者も気を張るし、相当な実力者も多少舌打ちをする規模だが。
度々口にされるイェスゲノフスキはあれを発動前にどうにかする実力者なのか
発動されても生き延びられる実力者なのかは彼を知らないトマに知る由もない。
「ふむ………うん………あぁ、イェルムンナ」
「!?」
「もういい」
「…ぁ…ッ!?」
あの規模の攻撃を受けているとは思えない様子でトマは、空中にいる筈の
彼女の背後に回りこみ、軽く締め落とした。普通なら締め落とす前に
肘鉄を喰らうだろうが、そこはトマ。肌に触れると同時に電気ショックを
殺さぬよう細心の注意を払いながらやってのけている。
> > >
一々"大山の庭"の荒れた箇所を復元するたびにハノークと
エアエニ兄妹とライラの四人が喧しかったが、大人の対応で返すトマ。
「………今日こそは逃がさんぞぉイェスゲノフスキぃっ! ……あ…っ//////」
飛び起きたイェルムンナが状況を理解して赤面したが、
トマは温くなったお茶を冷やしたものを彼女に与える。
「イェルムンナ様は冷静ささえあれば文句ないですね」
「そ、そ~ですか~…? えと…その~」
「イェスゲノフスキとか言う人の実力を僕は知らないのでそればかりはご勘弁を」
「ですよね~~~…」
「エニはイェルムンナお姉様だったら訓練相手しても良いと評価しますです!」
「………」
中々に上から目線だったエンリルエリシュを数秒見つめたイェルムンナは
座った状態から一瞬で距離を詰めてエンリルエリシュを投げ飛ばした。
「むにゃ!? !! 何をするんですか!!」
まぁノーダメージであるがエンリルエリシュは癇に障ったので
イェルムンナを軽く小突いてやろうとするが、イェルムンナはそれを
愛用の方天戟で受け流す。流されて勢いあまったエンリルエリシュの拳が
思いっきり地面を素手でやったとは思えないレベルで抉れる。
思わず顔が引きつったハノーク。そして渋面を浮かべたトマ。
「エニ……折角直したというのにお前という奴は…」
「にゃぁあ!? 違うんですお兄様! この女がこの女がぁ!!」
「…恐るべき膂力だな…流さねばどうなっていたか…しかし…まともに入れば…
イェスゲノフスキも殺せるかも…?」
「エアメルドゥク…お前の妹君は何なのだ?」
「あれも兄上の力です。四歳まではエニも普通の女児でした」
「トマ殿、凄まじいな…!」
驚きすぎて感覚が麻痺してきたのか、ハノークもキラキラした目で
トマを見るようになっていた。
「ハノーク様。エニに施したのは一か八かの秘術ですからね?
あれは次やったとしても百人中九十九と五割人が死ぬのでご勘弁を」
「ハハハ。トマ殿またまたご謙遜を」
「いや、ハノーク。兄上は冗談は極稀に言うけど謙遜はしないからね?」
「…真か?」
「真です」
「皆さん少しばかり茶でも飲みませんか」
いつの間にか茶を淹れていたトマはイェルムンナ以外全員に茶を配る。
「これは忝い」
「茶の用意は従者の務めですから」
「兄上…言ってくれればボクが…」
「お兄様、エニはお砂糖を一匙入れてほしいです♪」
「承知いたしました………っとライラ。火傷しない様に冷ましながら飲め」
「一滴一滴大切に頂戴いたします我が君トマ様」
「「「「「ふぅ…」」」」」
実際は微妙に間隔があるが、一息つくトマ達…
「…決めました~! 私~トマ様の子を産みます~!!」
「パゥ!?」(注:トマ)
「はぶゥ熱ちゃい!?!」(注:エアメルドゥク)
「ぶどぅは!?」(注:ハノーク)
「ぷふーーーーーッ!?」(注:エンリルエリシュ)
「ぶべぬらべっちゃ?!」(注:ライラ)
唐突なイェルムンナの爆弾発言にトマとハノークは鼻から茶を噴出し、
エアメルドゥクはかつての父ハルマローシュ伯そっくりに湯飲みを取り落として
足に茶をぶちまけて飛び上がり、綺麗な毒霧を噴出したエンリルエリシュと
どっちかというと爆弾発言を聞いた後に湯飲みを地面に
奇声とともに叩き付けたライラ。
「ちょ、おま…儂の子ぉ? いきなり何を言い出すのだ?!」
「私、よ~く考えたんです。一族の宿敵たるイェスゲノフスキは
忌々しい唯一至高神の加護を複数持つ巨人族の末裔ですから~
真面目に殺しつくそうと考えたら結構な時間…え~と、
130年くらい掛かりそうなんですよ~? なので~流石にそこまで
時間を掛けるんだったら~強い血を合わせて~私とトマ様とその子供という~
三神一体的な作戦を講じたほうが~
迅速確実にできるんじゃないかと~考えたんですよ~?」
「すまぬ儂にはお前に付き合う時間なd」
トマの腕に両腕を絡めてくるイェルムンナ。あえて何も語るまいと思っていたが、
イェルムンナはライラばりに発育が良い、良過ぎる。本当にこいつ11歳なのかと
思うレベルで年頃の娘みたいな上等な肉付きなのだ。
「ぐわーっ!?」
いかんせんトマは肉体が14歳。ただでさえその若さに引きずられることが
あるというのに、そんなことをされたら大変なのである。
「イェルムンナ嬢…気が早すぎるだろう」
「そ、そうですハノーク様の言うとおr」
「子を産むならあと二年は待たれい」
「ちょ、おま…!?」
トマが前世の何処かで見た結婚の最低下限年齢は男女共に18歳以上だったが、
あれはこの世界より大分大分文明が進んだ世界のことだ。
いかに魔人族が長命種とはいえ、命が軽い世界なせいか全央帝国での
男女の結婚の最低下限年齢は男女14歳(しかも数え年)である。
だからハノークの言ったことは常識的なのだが、トマ的にはアウトである。
「てぃやーーーーッ!」
「ぬっ?!」
「あにゃっ!?」
エンリルエリシュは手加減無用の一撃をイェルムンナに加えようとするが、
素早く方天戟で受け流したかと思えばその勢いでエンリルエリシュを攻撃する。
「痛ぁ!? えぇ!? 何でぇ?!」
「……半端ではない防御力ね~…」
極東の日輪皇国では“合気”と呼ばれる他者の力をそのまま相手に返す
ある種では究極の迎撃術なのだが、それを以ってしてもそこまで痛そうには
見えないエンリルエリシュを見て後半は通常モードに戻ってしまったイェルムンナ。
「ハハハ…イェルムンナ侯爵令嬢…ボクは貴方を
ずぇっったいに義姉上なんて呼びたくないですけども?!」
「エア! お前くらいは冷静であって欲しかったぞ!!」
「『トマ様どいてそのクソビッチ殺せない』」
「ライラ…!? くっ…Geh schlafen!(眠れ!)」
「んきゅうッ?!」
完全に目がイッてたライラはこの状況では致し方ないので眠らせたトマ。
眠りの魔術を喰らった割には凄まじく嬉しそうなのが何か嫌だった。
「ハッハッハ…やはりトマ殿も我と同じ修羅場を潜っているのですな」
「これが修羅場?! 違う修羅場というのはもっとこう血煙が吹き荒れる…!」
全央帝国民としては良識的な側であるハノークなのだが、
トマからしてみれば全央帝国そのものが色々と非常識なので
善意で慰めの言葉を掛けているのだろうが、何かすごくムカついたトマだった。
12:に続く
今日は第三ラウンドで終わるかもしれない…継続率6割とか…(´;ω;`)




