プロローグ
人生とは、最初から不公平に設計された賭場のようなものだ。
少なくとも俺には、最初から勝てる手札など存在せず、ただ場外で空回りするだけだった。
前世? いや、ほんの数時間前まで、俺は31歳の無職、いわゆる引きこもりだった。
引きこもりになった決定的な理由? まあ、わざわざ説明するまでもないだろうが、時間は巻き戻っていく。
* * *
学生時代まで、俺はそれなりに筋肉のついたごく普通の少年だった。
あの日、体育の授業が終わって更衣室で着替える、その瞬間までは。
「それ、マジでやばくねぇか?」
不良たちが女子更衣室を盗撮しようと企んでいるのを聞き流せず、俺は思わず声を荒らげた。
「おい、お前ら。盗撮は犯罪だって分かってんだろうな?」
三人の不良は、俺の言葉を聞いて忌々しそうに眉をひそめた。
すべての元凶は、あの日の出来事から始まったのだ。
「いまさら俺たちに説教垂れてんじゃねぇよ、ククッ」
鈍い衝撃と共に、俺は女子更衣室へと放り込まれた。
さっき棍棒で殴られた脇腹が、引き裂かれるように痛む。
やはり予想通り、女子更衣室の中は一瞬にして悲鳴で満たされた。
あの日以来、俺は部屋から一歩も出なくなった。
おまけに『外の世界』に対する凄まじいトラウマまで植え付けられた。
羞恥心と自己嫌悪に苛まれた俺は、こうして引きこもり生活を始めた。
それから14年が経ち、肥満体型とは裏腹に、凄まじい速度でマウスを連打する俺は、いつも通り夜遅くまでネットゲームに没頭していた。
「あれ? 部屋の中、なんでこんなに暑いんだ? エアコン壊れたか?」
違和感を覚えた俺はエアコンに目をやった。だが、冷気は変わらず吹き出している。
「じゃあ、何が原因だ?」
パソコンの椅子に座り直し、再びゲームを起動した。奇妙なことに、PCの周辺だけがやけに熱を帯びている。
その時だった。
メラメラと、パソコンの本体から激しい炎が燃え上がった。
「お、おい、ちょっと待て……っ?!」
14年間、部屋に引きこもって恐怖という感情すら忘れていた俺だ。
いざ目の当たりにした緊急事態に、ただ慌てふためいて足をもがくことくらいしかできなかった。
「どうする、どうすればいい?!」
その瞬間、ハードディスクが熱に耐えきれず限界を迎えた。
ドカンッ————!
凄まじい轟音と共に、ゴミ溜めのような部屋の片隅が爆発する。
同時に、俺の意識は深い闇へと沈んでいった。
「う、うぅ……っ!」
ようやく目を覚ました時、真っ先に視界に飛び込んできたのは、俺を見後ろす見知らぬ男の顔と、汗に濡れた女の姿だった。
「オギャァ、オギャァ」
……何を言っているのか、さっぱり分からない。
3年後————
あれから、あっという間に3年という月日が流れた。
今ではこの世界の言葉も、ある程度は聞き取れるようになっている。
配置された文字や響きから、ここが元の世界ではないことくらいは理解できた。
そして、最も重要なことに気がついた。
この世界は、剣と魔法が存在する弱肉強食の世界。
つまり俺は、前世の記憶を持ったまま、異世界の新たな人間として生まれ変わったのだ。
だからこそ、俺は今日も心に誓う。
この世界では過去の生き方を猛省し、悔いのないよう全力で生きていく、と。




