↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/85

第七十五話 誰が為の葬礼法

黒逸第三帝国の首相官邸にて執務作業をしていたヘルダーリン総統は来訪してきたベッケンバウアー総司令官の報告を聞いていた。


「最近何やら帝都の雰囲気がきな臭くなってきました。反結束党勢力が民衆を扇動し反旗を翻そうとしているように感じられます。秘密警察を動員して弾圧、処刑に当たらせていますがいかんせん数が…」


総統はペンを置き背もたれによりかかるように椅子に座りなおす。その目は笑っていなかった。


「お前に軍の権限の殆どを与えても仕事を完遂できないのか、最高司令である私の腰巾着だと罵られても仕方ないぞ」


「そ、それは…」


「まぁいい。それで?」


「はい、ここ数日で急に増えてきたのです。それも市民だけではなく軍人からもです。このままでは暴動になりかねない状況かと……」


「…………」


ヘルダーリンは目を瞑り思案する。そして目を開きベッケンバウアーを見据えて言った。


「わかった、軍の治安維持権限の一部を私に移すことを認めよう。ただし、あくまで臨時だ。それが終わればすぐに元の体制に戻すからな」


「はっ!ありがとうございます!!…ということは?」


「ああそうだ。私が直接指揮をとる。これは決定事項だ」


「わかりました。では早速私に指示を」


「待て。まだ話は終わっていない」


「えっ!?」


「実は先ほど首相官邸に帝国貴族の娘が面会を求めてきてね。部下に話を聞かせてみたのだが、どうにも胡散臭いのだ。恐らくは反結束党の一派だろう」


「そんなまさか」


「そいつは今、首都にいるらしい。そこでお前にはそいつを監視してほしいんだ。何かあれば報告しろ。それと念のためだがその娘の身辺調査も行ってくれ。お前の判断で自由に始末してくれ、処理は私がしておこう」


「了解しました。では失礼します」


敬礼をし、退室していくベッケンバウアーを見送った後、総統は再び机に向かう。


「『黒い聖歌隊』…探りを入れてきたな…何をする気だ」


そう呟いたヘルダーリンの目からは不安のようなものを感じられた。


その頃、首都中心部にあるホテルの一室で黒い聖歌隊の一人である少女が紅茶を飲みながら優雅に過ごしていた。


「この紅茶美味しいわベック。あんたも飲めば?」


「いや断る。私はコーヒー派なんだ」


「へーそうなんだ。んで、なんで私たちはホテルにいるのよ」


「監視の目を逃れるためだ、お前の起こしたいざこざで私の団体が目をつけられたことだろう。しばらくはここに潜伏しよう。それにしても結束党もなかなかやるじゃないか、嗅ぎ回る能力はさすがだよ」


その時、部屋の窓の下を見ると路上にいくつかの乗用車が停車した。現れたのはベッケンバウアーだ。彼女は部下を連れてぞろぞろとホテルに入っていく。


その様子を見た二人は顔を見合わせる。


「ベッケンバウアー総司令官だわ」


「ああ間違いないな。クラウスナー、お前は爪痕を残し過ぎだ」


「うっさいわね、しょうがないじゃん」


「まあいい。あの女に捕まるわけにはいかない。逃げるぞ」


ベックとクラウスナーは素早く荷物をまとめると部屋を出て廊下を走る。エレベーターに飛び乗り一階に到着しエントランスを抜けようとした時だった。


目の前に立ちふさがったのはベッケンバウアーだ。


「待てェー!これより、このホテルからの退出は認めん!入口を通るのであれば莫大な通行料を徴収する!それが嫌であれば大人しくするんだ!わかったな!!」


「くそっ、やはり来たか……!」


「おお?その顔は…」


ベッケンバウアーはベックと目が合うとニタァっと口角を上げた。


「貴様は確かルイーズ・テオドール・ベック元参謀総長じゃないか?こんな瀟洒(しょうしゃ)な宿屋に泊まってるとは驚いた」


「うるさい、お前のせいで軍を追われたんだ。お前こそ何してるんだよ」


「ウチは高貴で優秀だからなぁ、総統に命令されて反結束党勢力を駆逐して回っている。そして貴様らを見つけたという訳だ。聞くところによると貴様もその手合らしいじゃないか、ちょっとお話聞かせてもらうぞ」


「断る」


「そう言うと思ったぜ。おい貴様ら!こいつらを捕らえろ!多少手荒にしてもいいぞ」


ベッケンバウアーの指示で後ろから現れたのは屈強な兵士たちだ。彼らは銃を構えてじりじりと距離を詰めてくる。ベックとクラウスナーはすぐに戦闘態勢に入る。


「ちっ、めんどくさいな」


「ねぇベック、あんたって戦える?」


「当然だ。私はこれでも元軍人だぞ。だがここには市民もいる、あまり派手なことはできないな」


「なら答えは簡単…」


「「(逃亡…ッ!!)」」 


二人はサングラスをかけるとポケットから閃光弾のピンを抜き取る。そして床に叩きつけた。同時に眩い光が辺りを包み込む。


「ぐあっ!?」


「目がッ!」


二人は素早く入口を抜けて外に飛び出す。外に出てすぐ脇道に入り込み息を整えた。


「ふぅ、危なかったわね」


「ああ。今ので完全にマークされたな」


「でも好都合よ、党も秘密警察も私達の動向ばかりを追うから暗殺に向かうシュヴァルツには気が付かない。私たちが囮になればあいつは安全に首都に入れるってことね」


「そうだな、作戦が完了するまでは大人しくしておこう」


その時帝都上空を爆撃機編隊が飛んでいく。ハインケルHe111だ。

彼らはおそらくヴェールカナン地方へと飛んで行き敵軍を攻撃するのだろう。


「(シュヴァルツ…うまくやってくれよ)」


場所は移り変わりバウムガルトナーとリーブフントの二人がヴェールカナン地方の戦場で泥濘(でいねい)を掘って塹壕を掘っていた。


「あー腰が痛い…」


「しかし、ここら辺はまだマシだぞ。他の場所はもっと酷いらしいからな」


そう言っては溜息をつく。アーデルハイト少佐は二人を塹壕の上から覗くようにそう言った。


「少佐もお手伝いお願いしますよ〜」


「私は君たちの為にここにいる。敵が攻めてきたときに真っ先に視認してそれを伝える。それに真っ先に狙われるのは塹壕の外にいる私のような人間だ。命を賭してここにいるのだから我慢してくれ」


携帯用スコップを用いて二人はひたすらに土を掘り返している。


「交代しますよ!」と、その声と共に二人の部下である兵士たちが交代し、二人はその場に座り込む。


「ふぅ……やっとね」


「よく頑張ったな、よ〜し、今働いていた兵士たちには飯の時間だ!」


そう言っては少佐が鍋を持ってくる。そして、それを地面に置き蓋を開ける。中には肉や野菜などの細切れが入ったスープが入っていた。


「おお!これはご馳走ですね!!」


「ああ、私の手作りだ。美味しくできているといいのだが……」


そう言いながら彼女は料理を休憩する兵士たちに配る。


「うん、とても美味しいです!」


「そうかそれは良かった」


それっきり会話は途絶えた。三人はシュヴァルツがいないとこうも静かになるのかと思うほどに静寂に包まれていた。


「……少佐、シュヴァルツ大尉のことなのですが」 


「心配か?」


「ええ、彼女は我々の指揮官でありますからね」


「そうだな、あいつなら大丈夫だと思うが……まぁ心配だな」


「でしょう?あの人いつも無茶ばっかりしてますもん」


「でも、彼が女一番戦果をあげているだろう?信じようじゃないか。あいつの強さを」


もうすぐ年が明ける。思えばこの数カ月間、ずっと不潔で居心地の悪い戦場に身を置いていたのだなと思った。だが、不思議と辛くはない。


それもこれも全部シュヴァルツのおかげだった。


「(思えば大尉と出会ったことで私は変わり始めた。今までの自分からは想像できないような行動を沢山した)」


そう思うだけで顔が熱くなる。そして、それといなくなったことで同時に胸が苦しくなった。

リーブフントはそんな彼女を優しく撫でてあげた。


その時、一人の兵士が塹壕を渡って伝令を伝えに来た。


「アーデルハイト少佐ッ!左翼部から伝令です!敵が旧国境を越えました!! その数は推定1万以上とのことです!!」


「わかった、ありがとう」


すると兵士は敬礼をしてその場を去った。


「ついに来たな」


「ああ、総員に通達しろ。我々はこれより敵を迎え撃つ準備をする。我々大隊は装甲部隊と協力して敵の攻撃地点へ向いそこで敵を叩く」


「了解しました」


そう言うと兵士たちは急いで塹壕出て、前線へと向かっていった。


「さて、私も行かないとな」


彼女は立ち上がり歩き始める。その後ろ姿は勇ましく、どこか頼り甲斐があった。


まるであの怪物だ。


兵士たちは装甲兵員輸送車Sd kfz 251に乗り込んで塹壕に掛けられた板の橋を渡り、次々と最前線へと向かう。


先頭を走る装甲車にはアーデルハイト少佐が乗っていた。彼女の後ろにはリーブフントとバウムガルトナー、そして彼女の部下たちが小銃を抱えて乗っている。


「敵が来るぞ」


そう言っては車内に緊張が走る。すると前方から敵の集団が見えた。


「撃てぇ!!」


車載機関銃の音が鳴り響き、銃弾が次々と放たれていく。


「怯むな!全速で突き進んで支援しに行くぞ!」


そう言ってはさらに前に進んでいった。


敵は戦車と共に歩兵が突撃してきていた。彼らは銃を構えながらゆっくりと前進してくる。


くそっ!数が多すぎる!人海に飲まれるぞ!」


「おい!あれなんだ!」


黒逸兵の一人が叫ぶ。視線の先には数輌の重戦車が迫る。その異形の形状に兵士たちは混乱した。


一つの主砲塔を囲むように副主砲塔が4つ、そのうちの2つの主砲塔には銃塔も配置されている。

多砲塔重戦車T-35だった。


「何だ!?あんなの見たことないぞ!」


「いいから撃て!」


「ダメだ!間に合わない!」


彼らの機銃掃射によって兵士たちは倒れていった。しかし、それでも止まらず彼らは叫びながら突っ込んできた。


「くそったれ!!このままじゃ押し切られるぞ!」


状況は絶望的だ。その時、地獄にいた彼らに一筋の光が射し込んだ。極楽浄土の紫雲の雲間から垂れた蜘蛛の糸のように。

評価、ブクマ、感想などいただけると大変励みになります…!ぜひ…!╰(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)╯




【補足】


この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。


登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。