第四十三話 煉獄の炉
天蓋のない高級車に乗って開けた平原にやってきた総統が参謀総長と部長とともに降車する。
「おお!これが…!ついに完成したのか!!よくやった!我が空軍は国の誇りだ」
「ありがとうございます」
総統は心底興奮が抑えられないと言った調子だった。
「兵器部長、説明したまえ」
「はい、我が帝国が一切の科学力を挙げて完成させた『報復兵器』その第一号、名付けてV1。陸軍に対抗して実験を重ねついに実戦デビューです。6年、積年の恨みを込めて発射する飛行爆弾です」
平原にずらりと並べられた迷彩柄を施されたカタパルト式発射台にミサイル兵器が載せられている光景に思わず圧巻されていた。
「これを敵都へ打ち込むのです。この場所だけで千発…他の基地に配備されたものを含めると現在一万発は超えます」
「それは素敵だ、全部見て回りたいが今は気持ちを抑えよう。すぐに撃てるか?」
「ええ、敵機一機飛んでこないいい天気です。問題なく飛べるでしょう」
「空軍参謀総長、この前のハイフェンブルグ空襲の報復をするぞ。空軍の矜持を傷つけた罪の重さとその代償を教えてやろう」
「了解、すぐに撃たせます」
兵士たちが慌ただしく発射台に乗って安全の確認を済まし、続々と発射台を離れていった。
ただ一人、総統のみを残して。
ヘルダーリンは並列に並んだ発射台の真ん前に台を設置し、マイクも置かれたそこに立った。
「閣下!危ないですよ!」
「構わん!それよりこの勇姿を撮影し新聞に載せろ!」
「フィーア…ドライ…ツヴァイ…アインス…」
放送によるカウントが迫る。
総統は兵器に背を向けて敵国の方へと向いた。
「少し早いが…我々からのクリスマスプレゼントだ。ご賞味あれ」
「ヌルッ!!」
総統が指を弾くとともにカウントがゼロになると同時に続々と点火され射出されるV1の大群が空へ向かい敵国へと飛行していく爆弾たち。
「V1!問題なく発射しました!!」
「次弾準備に取りかかれッ!奴らを死ぬまで殺してやろうじゃないか!」
その一方、北ナ連邦の首都シムトカフでは司令部に謎の攻撃の報告が入っていた。
「民間防衛部隊より伝達!南方面より高度800メートルで飛来する飛翔体を確認!首都へ向け飛んで言っています!!
数は一万とも!形状から敵戦闘機と思われます!」
「一万…ッ!?馬鹿な…!そんな破天荒な部隊がいるものか!」
「落ち着いてください経理部長、ここ最高司令部を仕切るのは僕、コチェグラです、混乱を招く言動は謹んでください。すぐに航空隊を飛ばして飛翔体の確認を報告させてください」
同席していたコチェグラの命令を受けた航空隊はすぐさまLa-5の部隊を編成し、飛翔体の確認へ向かった。
「こちら第59戦闘航空隊一番機…!飛翔体を目視確認!現在対象と時速600キロで並走中!」
「並走…?やはり敵戦闘機ですか?」
「いいえ無人機です!…主翼と尾翼…そしてジェットエンジンが取り付けられています!おそらく爆弾かと思われます!」
「爆弾だと?それにジェットエンジン…間違いない、黒逸の新兵器か?航空隊はその爆弾の迎撃を、兵器部長、すぐに資料から一致する兵器を探してください」
「は、はい」
「手が空いているものは首都の守備隊ヘ連絡、高射砲の用意を、厳戒態勢を敷き市民の避難を」
無線の報告にコチェグラは冷静に指示を出した。
「クソ…!数が多すぎる埒が明かねぇ…それにどんどん追いつけなくなっている」
「そりゃあそうさ、こいつらは一直線に飛んでいるだけだが、俺たちゃあ照準を合わせるために上下左右しているんだ。追いつけなくもなる。一回退避だ、あとは高射砲塔の奴らに任せる」
航空隊が離脱するとちょうど飛翔体の群れは高射砲の射程内に我が物で侵入してきた。
「来たぞォーーッ!!撃ち落とせェーーーッ!!」
52-K 85mm高射砲を使って空を覆い尽くす飛翔体を迎撃していく。
「結果が出ました!結果は…現在確認できているどの既知の黒逸兵器とも一致しません、つまり…」
「新型の兵器というわけですね。
…開発を許してしまったのは紅旗軍の不覚…ですが今はできることをしましょう」
「こちら高射砲兵部隊ッ!!ダメです!数が多すぎます!!」
「仕方がない、持ち場を離れることがないように、僕たちも司令部で君たちに指示を送り続けます。一発も着弾させないという気概で頑張ってください」
「は、はい!」
無線がブツリと切れた途端、次第にぶぅんという耳障りな爆音が空から聞こえてきた。
窓から空を覗くと、空を覆い尽くす爆弾の大群が悠々と飛んでくる
迎撃する砲撃とエンジン音、そして空襲警報が混ざり合って首都シムトカフは異様な雰囲気に包まれた。
「衝撃に備えろッ!!着弾するぞッ!」
士官たちは机の下や地面に伏して頭をかばい衝撃に備える。
しばらくすると、爆弾のエンジン音がピタッとやんで聞こえなくなった。
「…?何だ…?音がしなくなったぞ…?」
「もしかして…守備隊が全部迎撃してくれたのかッ!?」
「そんなわけがない!だったら砲撃もやんでいるはずだ!」
慌てる士官たち。事実その通り、砲撃は依然として聞こえてくる。
「どういうことだ?音だけが消えたのか?」
コチェグラが顔をあげようとした瞬間、司令部近くに小さな落下音と共に着弾した。
衝撃でガラス片が内側に吹っ飛び、石の破片が飛んでくる。
一瞬にして司令室に瓦礫が飛び込み砂煙で視界が奪われた。
次々と大量の新型爆弾が街を襲う。
駅を、広場を、美術館を、道路を、民家を、軍事施設を。
衝撃で街の地面は吹っ飛び、瓦礫と共に黒煙が舞い上がる。
発生した火災は民家を焼き尽くしながら移動し、広がっていき辺りを業火で焼き尽くす。
地下駅の構内に避難した人々も真上に着弾した爆弾により天井が崩れ、絶え間なく崩れてくる瓦礫に押しつぶされ、金切り声を上げながら息絶えていく。街は逃げ惑う人々で溢れ、路上にはむりやり千切ったような人体の一部や焼死体、血溜まりで溢れるがそれでも容赦なく空から一方的に爆弾は降り注いでくる。
一瞬にして街は炉の中かと錯覚するほどの光景に成り果てた。
そんな惨劇から数日後。
コチェグラ総司令官は施設の廊下を部下とともに歩いていた。
「こちらです、総司令。これが昨日、航空隊が迎撃して落とした新型爆弾の鹵獲品です。一番保存状態がいいんですよ、なにせ不発弾でしたから」
「…スペックは?もう解析したのですか?」
「はい、カタパルト式の発射機によって発射された長距離攻撃兵器です」
「そんなことはどうでもいいのです。本体性能のお話を聞かせてください」
「…この新型爆弾は尾翼の燃焼型のジェットエンジンによって飛行します。飛行距離によって機首のプロペラの回転させ、一定の回転数をすぎるとエンジンは停止、内蔵された制御装置がこの機体、つまり爆弾を急降下させ地面に突入させるという代物です。
構造は極めて単純、大量生産が可能です。
弾頭の重量は850kg、兵器としては画期的ですよね、自律飛行しないのが唯一の救いです。首都へと命中は確認できたところで4608発、一万と報告されていた新型爆弾は途中で外れて郊外の平原で残骸として発見されています」
「なるほど、面白い。昨日の突然エンジン音が止んだのはエンジンが停止したから…エンジンが鳴り止んだ瞬間、必ず起こる爆発を待つあの恐ろしさ…まさに悪魔の兵器だ」
「対応できる兵器を開発できるほどの力は今の北ナ連には……」
「黙りなさい、やればできますよ、でも能ある鷹は爪を隠すのです。
なので兵器の開発をせずにはひとまず阻塞気球を浮かべておいてください、今できるのはそれだけです」
「(…言い訳が苦しい)」
その日、コチェグラ総司令官は首都近郊の邸宅のバルコニーでとある人物と会談を行っていた。
「総書記、あなたが昨日したことといえば千人の死人を生み出したに過ぎません、黒逸を牽制しなければ北ナ連はやられる一方ですよ。何か手を講じなければ…」
「いやじゃあ〜、わしは自分が食えりゃあ満足じゃ、面倒なことはしたくない」
対面の席に座り一切れのケーキを頬張っていたのはリュドミーラ・フォーミチナ・ココーシナ。
この国の最高指導者であり、軍の最高司令官であり、党の総書記であった。
茶髪のストレートのロングヘアで目は赤色。
北ナ連の帽章と党旗の刺繍が天張りに入った制帽と総書記専用の白い軍服に装飾の施されたエポレット、飾緒や礼装ベルトをつけて礼服として着ており、赤いラインが入った白いプリーツスカートと同色のハイソックス、革靴ブーツを履いている。
軍服には祖国労働勲章、祖国挺身勲章、祖国英雄勲章を身に着けていて見た目からすでに偉そうだ。
19歳目前だというのに身長が146cmしかないから驚きだ。この小さな少女が党と国土を統べる総書記なのだ。
軍の総司令官と総書記が対面で座り合う。これから話されるのはどう黒逸を牽制していくかという密談なのだ。
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【補足】
この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。
登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨




