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第三十五話 悪魔は地獄に舞い戻る

進撃する黒逸軍。ついにあの()()が帰還した。


「俺復活ぅ〜!」


シュヴァルツ大尉とハーン曹長は前線へと舞い戻ってきたのだ


「大尉!よくご無事で!怪我はもう大丈夫なんですか?」


駆け寄ってくるバウムガルトナーに大尉は笑顔を向けた。


「なぁ〜に、俺ぐらいになるとちょいと寝ればすぐ完治だ」


「ハーン曹長も元気そうで良かった…」


「うっス」


声を細めてシュヴァルツが尋ねる。


「やつがオイラー大尉か?なにか怪しい動きをしていたか?」


「いいえ特には…諜報員らしい動きもなかったですし、敵視する必要もないですよ」


オイラー大尉のスパイ容疑は一旦晴れた。

シュヴァルツは彼女に近づいて挨拶を済ます。


「初めてだな、俺はシュヴァルツ大尉、俺の代理で中隊を指揮してくれてありがとう」


「もう役目は終えた、俺は転属する」


淡白な世辞を済まし、さっさとその場を立ち去ろうとするが、そんな彼女に駆け寄ったバウムガルトナーが引き止めた。


「オイラー大尉!もう行ってしまうんですか!」


「ああ、俺は用済みだ、この中隊にはバケモンがいるだろう、俺はいらないな」


「そうですか…」


悲しそうな顔をする少尉にそう告げたが、次はシュヴァルツがオイラーの肩を掴んだ。


「おい待て、お前が消えて少尉が悲しむなら逃さんぞ」


「なんだ?建前じゃなく本音を言え」


「…お前やけに少尉に好かれているな、お前、俺の部下に何か教えたか?」


「いや」


「嘘をつくな!あんなに人との別れを惜しむ少尉始めてみたぞ!教えろ!」


気迫あるシュヴァルツに迫られるとオイラーは目線を空に向け喋り始めた。


「そうだな…色々実践して教えたぞ。

例えば、相手の弱点を的確に突く方法とか」


「は!?弱点を的確に突く方法!?実践でか!?俺の部下になんてことしてやがる!他には!」


「地面には組み伏せるときの姿勢とか…」


「他には!?」


「相手のどこを突けばすぐに逝かせられるかとか」


「イかせ方まで!?この野郎ッ!お前逃さないぞ!この中隊に残れ!

そしてその時のバウムガルトナー少尉の話を詳しく教えろ!!このこのこのッ!!」


激しく揺さぶられるオイラーは結局、駐在する部隊に残りシュヴァルツに丁寧に説明した。


「…なんだ、格闘術の特訓の話か、びっくりさせやがって…」


シュヴァルツとオイラーは撃破されたティーガー戦車の車体の残骸に座って話し込む。

眼の前には小鳥と戯れるバウムガルトナーとハーンが見えていた。


「一体何を想像したんだ?」


「うるさいな!言い方に悪意があるんだよ!したこともないこと言いやがって」


「そんなこともないぞ」


「えっ?」


初めて触れられるオイラーの過去が話される。


「ここじゃあ無秩序だけが秩序だ、俺が生きやすくなるためだったらなんでも利用する、大尉になれたのにもこういう考えのおかげだ」


「…そうかよ、お前も色々(すさ)んでいるんだな」


オイラーの過去に何があったのか、さすがのシュヴァルツでも予測がついた。

おそらく、長い長い戦争で身も心もやつれて感情が希薄になったのだろうと。


「シュヴァルツ、お前少尉に好かれているんだな。

特訓しているときも一緒にいるときもお前の話しかしなかったぞ」


「そりゃあ嬉しいね。俺も少尉のことが好きだから相思相愛だな」


「たがそれがなんの役に立つ?」


「あ?」


ぶっきらぼうなオイラーの言い方にシュヴァルツは眉をひそめる。


「必ずどこかで誰かが常に死んでいく、戦場で友情だとか、相思相愛だとか…そんなもの持ったって悲しくなるだけだ、お前の少尉ヘのソレは一体なんの役に立つんだ?」


セリフの意味を説明されシュヴァルツは少し表情を緩ませた。

青い青い空には綿菓子のような雲が悠々と流れていく。


「なんの役に立つ?それは愚問と言うもんだぜ。

遊園地で風船をねだる子供に『風船がなんの役に立つ』なんていうのか?」


「…言わない」


「だろ!?なんの役にも立たないが、持っているだけで幸せなんだ、それがたとえいつかしぼんでなくなってしまう風船でもな。


役立つだけが物の価値じゃないのさ。

今日は、命日までの最初の一日。無駄に生きようぜ」


シュヴァルツからでた想定外の言葉にオイラーな胸を打たれた。


「無駄に生きる…考えたこともなかったな。


戦争は突き詰めれば徹底的な効率重視だ、その効率の前には個人の人命も感情も事情も排されてやがて尊厳も排される、戦略に何一つ必要ないからな。 

『だから俺は狂った』


…お前が羨ましい、憧れに値する。俺の理想像として申し分ないほどに」


その時だけ、いつも表情が張り付いたように変わらないオイラーの顔が少し寂しそうに見えた。


「お前に夢はないのか?」


「あったさ、昔は戦場から早々に離れて田舎でゆったり過ごしたいと願っていた。だが俺は地獄に望まれて生まれてきた女だ。

祖国のために、反結束党の両親でさえ殺してきた。俺にはなにもない、英雄に憧れた凡人のなり損ないだ」


「際立って愛国的というのも考えモンだな、そのおかげで戦場では有能なんだろうが」


「愛国ではない、国内で無駄な敵を作りたくなかっただけだ。

反面、お前は無能すぎて後方任務を命じられそうだったのに、目が覚めたら柄にもないこと言うし前線で活躍するしで大忙し。


敗将はすっかり死んだな」


シュヴァルツはその言葉で一瞬驚いたが、すぐにまたいつもの勇ましい顔つきに戻る。


「俺はまだやらなきゃいけないことがたくさん残っている」


「どんぐらいだ?」


「さぁね?ただ言えるのはこの戦争で使われた弾薬の全数を数えたほうが早く数え終わるぜ」


「そうか、本当に羨ましいなお前」


シュヴァルツは戦車から飛び降りるとくるりと背を向けて言う。


「じゃあな他の部隊でも元気でな」


「シュヴァルツ、この中隊にいてもいいか?

お前ともう少し過ごしたくなった」


せっかくかっこよく別れを切り出したのに、オイラーはこの中隊に残る(むね)を示した。

シュヴァルツはそれに嫌な顔一つせず近寄ってオイラーに手を差し伸べる。


「いいぜ。俺と来る覚悟ができたならな」


「シュヴァルツ、告白に似た言葉を使わせてもらうが、俺はお前の語る夢が大好きだ。

今夢ができた。俺の夢は、お前の夢を見届けることだ」


顔は全然笑っていなかったが、おそらく心情では安心しているのだろう。

オイラーはシュヴァルツの手を取って足元に気をつけながら戦車から降りた。


その後、シュヴァルツたちは進撃を続けた。


道中、街を流れる小川で遊んだり、兵員たちと食事したりしてオイラーは次第に中隊に馴染んでいった。


夜が来ると装甲された輸送車、Sd Kfz 251の兵員室で10人ぐらいの兵士が小銃と足を抱えて眠る。

シュヴァルツの両隣にはオイラーとバウムガルトナーがすやすやと寝ている。


夜が明けると移動開始だ。


朝がくると一人の歩兵が台車を押して輸送車に近づいてきた。


「この車両にロケット砲を取り付けるから手伝ってくれ」


「ロケット砲?」


まだ寝ぼけ眼のシュヴァルツが見たのは鉄の骨組みと長方形の枠組みだった。


「昨晩届いた『ヴルフラーメン40』だ」


「ヴルフラーメン40…ベースプレートに枠をつけて車輌の側面に装着して運用する支援兵器か」


「ラーメンだなんて美味しそうな名前っスね」


「うまいぞ〜、俺は毎日食ってたぜ、カップだけどよ」


シュヴァルツたちは兵員室に立ち運ばれてきたベースプレートをセッティングしてフレームを3基ずつ車輌の側面に配置した。


「あとはここに砲弾を入れて撃ちたいときに操縦手が撃つ、大聖堂の砲撃にでも使ってくれ」


「大聖堂…そうか。俺たちはもう作戦の最終局面まで来ているんだな。

最後に街の中央にある大聖堂で抵抗を続ける敵兵を降伏させるための最後の戦いってわけだ」


「長かったですね〜…」


兵員室でシュヴァルツ含めた四人が待機していると伝令が入る。


「大隊指揮官アーデルハイド少佐より命令!中隊、前進せよとのこと!」


伝令を聞くと休憩していた中隊の兵士たちは続々と列を成す輸送車ヘ乗り込んでいく。


「よーしッ!武装は完璧だ!第54歩兵中隊の威信とやらを見せるべく進撃しろ!

せっかく奴らは聖堂にいるんだ、生存を神に祈らせてやれー!」


シュヴァルツの一言で兵士は拳を突き上げて雄叫びをし、輸送車はエンジンを(ふか)して前進するのであった。

評価、ブクマ、感想などいただけると大変励みになります…!ぜひ…!╰(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)╯




【補足】


この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。


登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨

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