朱雀と青龍
「お前が私のことをどう思っていようがーー私は、お前が嫌いだわ。多分、一生ずっと」
母様とよく似た赤い翼をはためかせながら、叔母は私に背を向けた。
「お前が私から奪った姉様との時間も、姉様自身も……もう二度と、私の元には戻らないのだもの」
それだけ言い捨てると、叔母は振り返ることなく去って行った。
その背中を見つめながら、本当に愛の形は色々だと実感する。
叔母も、父様も、私も、母様を愛した。
けれど、そこに全く同じ想いは存在しない。
それぞれが、異なるそれぞれの複雑な感情を抱えながら、ただ母様を想ったのだ。
叔母は、これからも、主人に従順に従い、娘の朱麗を愛でながら、その裏で秘かに母様との思い出の品を一人で眺め、母様のことを想い続けるのだろう。
その感情に、正しいも間違っているもない。
ただ自らの感情の任せるがままに、叔母は母様をこれからも愛し、母様を奪った私と父様を憎み続けるのだろう。
「やっぱり……私は貴女が好きですよ。叔母様」
貴女の迷いのない愛のあり方が、とても潔いと思うから。
「翠玉。……叔母上との面会は、どうだった?」
後宮にやっと来るなり、心配そうにそう尋ねた王に、微笑みかける。
「大変有意義な時間でした。……藍清。取り次ぎ頂きまして、ありがとうございます」
「なら、よかった。玄武には止められたが……やはり、一度ちゃんと顔を合わせておくべきだと思ったんだ」
藍清は小さく笑って、目を伏せた。
「たとえ憎まれていても……育ててもらった相手は、やはり特別だから」
……藍清もまた、叔母に父様を重ねているのだろう。
そう思ったら何だかたまらない気持ちになって、そっと藍清の手を握りしめながら、その胸に身を預けた。
「翠玉?」
「藍清。……愛してます」
胸に湧き上がるままの感情を、ただ告げる。
「昨日も今日も……そして、明日からもずっと」
様々な愛の形があるこの世界で、私だけの愛を、この人に捧げ続けたいと思う。
正しいとか、間違っているとか、そんなことを無意味に考えることなく。
ただ、感じるままの想いを、真っ直ぐにこの人に渡し続けたい。
唐突な私の言葉に、藍清は驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうに微笑みながら、私の背中に手を回した。
「ああ。私もそなたを愛している。……昨日よりも、今日。今日より明日。想いは増していくばかりだ」
【青龍】は【朱雀】と出会い、愛し合う。
運命が私達に定めた約定は、ただそれだけで。
この先に待ち受けている未来は、誰も分からない。
絶対的「正しさ」も、絶対的「間違い」もない世界で、私達はこれから、どう生きるのだろう。
運命は、この先私達にどのような試練を与えるのだろう。
分からない。ーーだが、それで良いと思う。
人生は誰にも分からない。
だからこそ、悩み苦しみながら、必死で前に進んでいくのだ。
いつか終わりが来る日まで、私はただ、悔いのないように、想いを伝え続けよう。
他の誰のものでもない、私だけの愛を示し続けよう。
ーー羽のない朱雀に、同じように愛を与え続けてくれる、私の愛しい青龍に。




