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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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14/72

【羽無し】と朱雀

「……私が、ですか………」


 やはり、彼は内心では昼間の不敬な態度に憤っているのだろうか。

 血の気が引き、唇が震えた。

 恐らく、彼は既に他の鳥人の娘達の舞を見ている。きちんと鳥人らしく羽があり、毎日練習を重ねている彼女達の舞を。  

 それなのに、その後に羽が無い私の拙い舞を要求するだなんて、残酷だと思った。

 この人は、私を晒し者にしたいのだろうか。

 優しい人だと、思っていたのに。

 この人に賭けようと……人を信じてみようと、そう思ったのに。


「ーーっ恐れながら、我が王! 彼女の顔色を、ご覧下さいっ」


 王の隣にいた碧髪の青年が、突然声を挙げた。


「招かれていなかった宴に、突然呼び出され、心の準備も無いままに突然舞を披露しろと言うのは、あまりにも酷ではありませんか? しかも、彼女は鳥人でありながら羽を持っていない。これじゃあ、晒し者ではありませんか!」


 ……私を、庇ってくれている?


 険しい表情で青龍王に進言する彼を、思わずまじまじと見つめてしまう。


「……酷なことを要求していることは、承知している。だが、この場でもう一度確かめるからこそ、意味があるのだ」


 彼に向けられた青龍王の眼差しが、再び私に戻される。

 その眼差しは、相変わらず優しい。


「すまない………そなたを傷つけたいわけではないんだ」


 痛みに耐える顔で、彼は言った。


『お前を……そなたを、侮蔑したかったわけではないんだ。そんな目を……させたかったわけじゃない』


 昼間の彼の姿と、今の姿が脳裏で重なった。

 その途端、覚悟が決まった。


「……承知、しました」


 よく分からないが、これは彼にとって必要なことなのだろう。

 渾沌の変幻であるか確かめるべく、私に舞わせたように。彼にとっては、きっとどうしても譲れない理由があるのだろう。

 ならば……私は彼に従おう。

 拙い舞と歌を、村中の人々に披露し、恥を曝そう。

 彼を、信じてみたいと思うから。

 青龍王としての彼ではなく、森で混血を肯定し、明日私を共に連れて行ってくれると言った彼を、私はまだ信じていたいから。


 用意された壇の上に上がる。

 伴奏をしていたらしい鳥人達が、楽器を片手に戸惑っていたが、私は首を横に振って口を開いた。

 私の拙い舞に、音楽は必要ない。

 ただ、私の歌だけがあれば、それでいい。


 歌う歌は、昼間と同じ。

 初代青龍王と、初代朱雀の愛の歌。

 羽の無い体で、精いっぱい宙に跳ねて、伸びやかに舞う。


 ーー私は、貴方。貴方は、私。


 舞い歌う途中で、真っ直ぐにこちらを見据える青龍王と、目があった。

 その途端、様々な感情の篭もった周囲の視線が、気にならなくなった。

 まるで時間が、昼間のあの時に戻ったようだ。

 ただ一人の観客の為に、舞い歌った、あの森の一時に。


 ーー私の舞は、貴方のもの。


 ーー私の歌も、貴方のもの。


 歌いながら、自分に初代朱雀が乗り移ったかのような錯覚に陥った。

 羽の無い私が抱くには、あまりにも恐れ多く、身の程知らずな妄想。

 けれど、向けられる優しい蒼に、私の知らない感情が引きずり出される。


 ああ、なんて。

 なんて、切ない。


 なんてーー愛おしい、のだろう。



 舞が終わった瞬間、周囲はしんと静まり返っていた。

 静寂の中で、ただ私の荒い息だけが響く。

 周りの反応を確かめる余裕もなく、私はただ、舞の余韻に呆然としていた。


 先程までの、あの感覚は……一体何だったのだろう。

 まるで自分が、自分でなくなったかのようだった。


「見事だった。……昼間よりも、なお」


 王がぱちぱちと手を叩く音が、私を現実に引き戻した。


「……ご満足、頂けましたか」


 慌てて立ち上がって壇を降り、王の前で頭を下げる。

 そんな私を前にーー王は、笑った。




「やはり、そなただ……。間違いない」


 麗しい顔を蕩けんばかりに緩ませる、彼の人の腕の中で、私は固まっていた。

 遠くから村の人々の阿鼻叫喚の声が聞こえてくるが、彼は全く動じる様子もなく、ただ愛おしげに私を見つめていた。


「ようやく見つけた。……私の、朱雀」


 ――いや。

 恐らく、絶対間違いなく、人違いです。


 あまりにも想像を超えた状況に陥ると、存外頭は冷静になるものだ。

 だが、口の方はただぱくぱくと無意味に動くばかりで、口にすべき否定の言葉は音にならない。


 あり得ない。あり得ない。あり得ない。あり得ない。あり得ない。

 彼が王であったという事実よりも、ずっとずっと。


 あり得ないというよりも……あってはいけないことだ。


「ーー恐れながら、何かの間違いです、陛下!」


 青ざめた鳥人の長が、私の言葉を代弁してくれた。


「朱雀は、一族で最も優れた女性が選ばれるもの。それなのに、この娘は他種族との混血で、羽が無い! 鳥人一族の恥です! 朱雀なはずがない!」


 そうだ。羽が無い朱雀なんて聞いたことがない。

 私が、そんなたいそうな存在だなんて、あり得ない。あってはいけない。

 朱雀はもっと、それに相応しい女性が選ばれるべきだ。そう、たとえば朱麗のような。


「ーーほう。そなたは、私の目を疑うのか」


 しかし、そんな長の主張を、青龍王は一蹴した。


「一族の中で、最も優れたものが選ばれるというのは、あくまで四神の一族による主張。次代の青龍王も含め、実際それを選ぶのは、当代の青龍王の役目だ。選定理由は、ただ王のみが知る。王にしか、分からない。ーーそれなのに、そなたは私の選定を否定するのか」



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