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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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【羽無し】と再会

 生まれて初めて纏った煌びやかな衣装は、まるで誂えたかのように私にぴったりだった。三つ年の差はあっても、年下の従姉妹と背丈や体型はさほど変わらないことに、今さらながら気づかされる。

 朱麗が地味だと嫌った刺繍も、いつだって煌びやかな彼女と違って存在自体に華がない私には、よく似合っていると思う。


「……髪の毛も、何とかなさい。もう少し、ちゃんと編むくらいはできるでしょう」


 邪魔にならないように、簡素にまとめただけの髪型では、お客様の前に立つには不敬にあたるらしい。

 眉をひそめる叔母を横目に、できるだけ手早く、それでいて解れがないように丁寧に髪を編んでまとめていく。


「化粧は……まあ、良いでしょう。飾り花すら、髪につけていないのだから。……それじゃあ、付いて来なさい。靴は、朱麗にあげるつもりだった新しいものがあるから、それに履き替えて」


 装飾重視な分、裾が長く動きづらい衣装に苦戦しながら、叔母の後を追う。

 衣装と真逆で、与えられた靴は驚く程柔らかくて履きやすく、全く靴の重みを感じない。こんな靴を履いているからこそ鳥人の舞は一層優雅になるのだろうな、と内心一人納得した。


 長の家に到着するまで、叔母は終始黙り込んでいた。

 横目で盗み見た、その横顔は不機嫌そうに歪んでいて、叔母が今の状況を歓迎していないことは明らかだった。


「……本当……忌々しい男だわ……」


 舌打ちと共に、不意に吐き出された言葉の意味がわからず戸惑ったが、叔母がそれ以上何かを言うことはなかった。

 だが、その紅の瞳には確かに、私に向けるのと同じ、憎悪の色が宿っているのが見てとれた。


 到着した長の家には、村中の鳥人達が、煌びやかな衣装を纏って集っていた。

 叔母と私が到着したのに気がついた途端、人波が割れて道ができる。

 その場にいる誰もが、私と叔母を見ていた。

 四方から向けられる、様々な負の感情が篭もった視線に戸惑う私を他所に、叔母はさっさと足早に道を進んだ。


「………御所望通り、【羽無し】を連れて参りました」


 叔母が深々と頭を下げて礼を取った相手を見て、息を飲んだ。


 困惑を隠せないでいる鳥人の長を従えるように、その場には二人の青年が佇んでいた。


 一人は、私より二、三歳上に見える、端整な顔立ちの碧髪の青年。

 翼もなく、他に何の種族的な特徴は見られない。

 私と同じ、人族ともとられる外見ながらも、周囲に臆する素振りも見せず堂々とその場に立っていた彼は、私を見てその金色の目を大きく見開いた。


 そして、もう一人は………。


「ーー礼を言う。手数を掛けた」


 ーー昼間、森で会った蒼い剣士が、その場の誰よりも立派な衣装を身に纏って、真っ直ぐこちらを見据えていた。


 ………ああ、そうだ。彼は確かに、鳥人の長の依頼を受けて、渾沌を討伐する為に、森にやって来たと言っていた。

 ならば、長の家に来ている「大事なお客様」が、彼だったのだとしても、何の不思議もない。

 長は、渾沌を完全に仕留める事こそ失敗しても、霊核を傷つけ森から追い出してくれた彼の為に、村中を挙げて感謝の宴を開いたのだろう。

 よくよく考えれば、当然と言えば当然の事実。彼が客人として、ここにいても何もおかしくはない。村から出られることに浮かれ、「母様」を取り戻すことに頭がいっぱいで、その可能性に思い至らなかった私が、愚かだった。


 だけど………分からない。


 何故、彼は私をここに呼んだのかが、理解できない。

 落ち合うのは、明日の昼という約束だったのに。


「……頭を、お下げなさい。【羽無し】」


 そして、叔母は礼を崩さないまま、衝撃の事実を告げた。


「王の、御前よ」


 ……王? 

 この人が、あの「青龍王」?


 国で最も高貴な青龍王自らが、渾沌を討伐する為に、あの森の中にいたというのか。

 供もつけず、たった一人で。


 頭の中が真っ白になった。


 あり得ない。あり得ない。あり得ない。


 ただ、その言葉だけが、頭の中を去来する。

 叫び出さないのが、奇跡だった。

 精神的な衝撃でふらつく体で、無理やり最高敬礼のポーズを取り、頭を下げる。


「……【羽無し】、です。………私を、御所望だと………」


 発した言葉は、震えていた。

 昼間の私の態度が不敬だと、咎める為に彼は私をこの場に呼び出したのだろうか。

 私は龍人族である彼を……あろうことか、蜥蜴人族と勘違いした。それが彼の逆鱗に触れたのだろうか。


 彼に出会って、忘れていた希望と、「母様」を取り戻すことができたのに。

 天国から地獄に突き落とされるように、私は再び全てを失うのだろうか。


「……頭を、上げて欲しい」


 予想とは裏腹に、彼の声は穏やかで優しかった。

 恐る恐る顔を上げて仰ぎ見た、彼の双眸の蒼色は、昼間と何も変わっていない。

  

「明日の昼に、と約束したのに、このような形で呼び出してすまなかった」


 「約束」の言葉に、傍らの叔母が問い詰めるような視線を向けたのが分かったが、当然それに応える余裕はなかった。



「だがどうしても……そなたの舞をもう一度見ておきたかったのだ。もう一度見て、確かめたかった。……すまないが、再びここで披露してはくれないか」


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